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勇者と魔王はお友達!  作者: さやか
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不安しか残らない

あいつが何やら足早に出て行ったのをみとどけて俺は改めてギルマスをみた。

荒くれ冒険者どもを纏めているとは思えないほどの細い体をした男だ。

初めてみた時とは打って変わって契約書片手にウキウキしている。

「おい。」

「あ、はい!」

いきなり声をかけられて驚いた顔をしてこちらを見た。

ギルマスやってるならそこそこの年齢のはずだがかなり若く見える。

「俺達もダンジョンに行く。」

「え?」

「あのバカが行くなら我々も行くのが当然です。」

ケイが無表情で片眼鏡の位置をくいっと直しながら言う。

「俺も行くぞ!」

「僕も!」

「俺もだ。」

Cランクも名乗りを上げた。

「しかしですね、ダンジョンは未だ不明な事が大きく一度入れば踏破するか死ぬかしないと出てくる事が出来ないんですよ。」

「なんだ、踏破すれば出れるのか。」

「問題ありませんね。」

俺達は軽く言う。

「ファリスさんのお連れとはいえ、ダンジョンはAランク指定の依頼です。

貴方方はランクが足りませんので、ギルドとしても責任が取れません。」

「んー?でもさ、今回は偶々ファリスさんが来たからよかったけど、こなかったらどうなっていたの?」

シャルがにっこり笑いながら言う。

「確かに。そう都合よくAランク冒険者と連絡が取れるとも限らまい。」

アッサムも一緒に追求するがその通りだ。

事は一刻をあらそうなかAランク冒険者が偶然通りかかるのを待つとは思えない。

…と、なれば…

「…確かにAランク冒険者と連絡が取れない、或いは近隣にいなくて到着までに時間がかかる場合は次点の冒険者に依頼することもありますが…」

「なら俺達はBランクだ。あいつにくっついて行くのはなんの問題もあるまい。」

俺は事もなげに言い放つ。

「しかしですな…」

「いーじゃない!ウォーレン様!」

後ろから耳障りな女の声がした。

後ろを振り向けば先程のクソ生意気な受付嬢がいた。

「自己責任ってやつよ!ダンジョンに行くのも死ぬのもぜーんぶ自己責任!」

「エマ!何しに…」

言われた彼女はキラリと光るものを俺達に見せた。

「Aランクタグ!」

「再発行したんだけど。肝心のAランク冒険者は?」

「席を外していますよ。」

「ふーん。…ね、本当にあの人がAランク冒険者なの?」

聞かれてそうだと即答したくない自分がいる。

俺の無言を無視して受付嬢はタグをギルマスに渡す。

「こら!失礼ですよ。」

「だってー、全然見えないんですもの!

どう見てもただの農夫でしょ、あれ。」

「そこには同意致します。」

ケイが一言発する。

「おい、話すな。」

俺は憮然とケイに言う。

「申し訳ありません」

ケイはやや驚いたようだがすぐさま謝罪する。

「うわっ!自分が気に入らない相手はお友達と一緒に無視決め込むってガキかよ!」

「なんだと!?クソアマ!」

「はあー?事実を指摘したんですけどー?

…ってかさ、ダンジョンに入るのは好きにすればいいけど、Aランク冒険者の邪魔だけはしないでよ?

ダンジョンなんて危険なものさっさと排除して欲しいのにあんたらが邪魔したおかげで依頼失敗とかマジ笑えないから!」

「言わせておけば…俺を誰だと…」

「はいはい、Bランク冒険者様でしたねっと…」

そこにドアが開いて渦中の人たるファリスが出てくる。

「なんか騒がしいな。」

「ファリスさん!俺達もダンジョン潜りたいっす!」

「おっ!いいな!みんなで行くか!」

「ファリスさん!?そんな簡単に…!

命がかかる依頼なんですよ!?」

「こいつらなら平気だって。」

ファリスは気楽に言う。

なんだか気分がよくなる。

「うわっ!ニヤケ顔ー。きもーい!」

「んだと?一度マジで締めぞ。」

「いつでも相手になるわよ?」

「なら今から…」

「こら!エマ!!冒険者の喧嘩を止める我々が喧嘩を売ってどうするんですか!」

「あ、すみません。なんかこいつの顔を見てるとすごく苛々して自分が止められないんですよね。」

「奇遇だな、俺もだ。」

「やっぱ一度殺し合いする?」

「そうだな。」

ゆらっと背景に炎を背負って俺達は同時に立ち上がり…

「お前ら馬鹿やるなよ。」

ファリスがため息をつきながら言う。

こいつに馬鹿とか言われるとは一生の不覚だ。

「エマ、いい加減になさい、羨ましいのはわかるけど。」

「なっ!?」

ギルマスに言われてみるみるうちに顔が赤くなっていく。

「羨ましい?」

「っち!」

受付嬢は舌打ちをした。

「先程、もしファリスさんがここにいらっしゃらなかったらどうしていたかと聞かれて、次点の方をと言いましたよね?」

ギルマスが静かに言う。

「その次点が彼女なんですよ。」

「は?」

「何?私じゃ不満?」

威嚇するように言ってくるけどさ…

「お前、怪我で引退したんだろ?

だったら現役の俺達が潜るのが筋だろ。」

「いいこと教えてあげる。

現役バリバリのBランク冒険者と怪我で引退したAランク冒険者、どっちが有能かって言ったら断然後者なのよ。」

…。

「は、まて?今、Aランクって…!?」

俺の惚けた声に彼女は荒んだ目をして首にかかっていたタグを見せつけてきた。

「引退したから裏に抹消刻印があるけど、間違いなく私はAランク冒険者でした!」

俺はそのタグをひったくってまじまじと見る。

タグの表面にはAの文字。

裏面にはこの女の名前であるエマとある。

但し、女も言った通り、抹消刻印が彫り込まれている為タグとしては効力を発揮しない。

待っててもなんの意味もないし、アクセサリーとしては無骨なそれを未だに首にかけているのは…。

「返してよ!」

受付嬢は俺からタグをひったくって首にかけ直す。

「あんたらが来なければ私がダンジョンに潜って踏破してた。

その踏破が認められれば冒険者として最前線復帰もあり得たのよ!」

「自主的に引退した訳じゃねーのかよ。」

「そこのギルマスに強制引退させられたわ。」

くいっと顎でギルマスを指す。

「そろそろ冒険者の癖で私をギルマスと呼ぶのはやめましょうね。」

気を悪くするでもなく、ギルマスは微笑む。

「私はギルマス判断で貴方の怪我では冒険者としてやっていくのは難しいと判断したのです。

それに、一応選択肢は与えましたよね?」

「ランクをCまで落として生涯昇格無しなら冒険者続行可能ってのは選択肢とは言わない!」

バン!と机を叩きながら彼女は言った。

「つまりでかい口叩いているが、現役ランクに直したらCってことかよ?」

「あんた私と現役時代に出会ってなかったことを神に感謝しなさい?

もし出くわしていたら殺してたわ。」

「返り討ちにしてやったわ!」

「はぁん?Bランクが??笑えないジョークね!」

「んだと!?こらぁ!」

「いー加減にしなさい!」

ギルマスが少々声を荒げる。

ったく、この女と話しているとペースが乱されるわ。

「とにかく、次点がお前なのはわかったが現実問題俺達が来たんだ。

お前には出番がない。」

「…ところで、彼らは自己責任ってことでダンジョンに潜るのは許可降りるの?」

「実際にメイン戦力であるファリス自身が許可してるなら、そのパーティメンバーである彼らが潜るのは現場判断だな。」

「つまり黙認ってことね。」

「…何考えてる?」

「彼らが潜れるなら私も潜れるなと。」

『はぁ!?』

ギルマスと俺の声が重なった。

「だって、三番手四番手が潜るのに二番手が潜らないなんておかしな話じゃない。」

「貴女は既に冒険者では…!」

「ついこの間までは現役だったんだもの、殆ど冒険者よ。」

「…つまり、自己責任と。」

「そういうこと。」

俺達が自己責任の名の下にダンジョン攻略に行けるなら自分だって実力があるから許される。

そういう計算の元俺達の攻略を後押ししたのだろう。

このギルマスは次点と言っていたがあのギルドの騒ぎぶりを察するに行かせるつもりはなかったのだろう。

或いは本当に最後の手段か。

「少なくても現役Aランク冒険者がいるんですもの、私が、単独挑戦するより断然ましでしょ?」

「誰がお前となんか潜るかよ!」

「あーら、自分が弱いってバレるのが嫌なのかしら?」

「なんだと!?」

「それともAランク冒険者の私が怖い?」

「元だろ!元!!今は単なる一般人!」

「なんですって?」

「やるか!?」

俺達はメンチを切り合う。

「か、彼女を連れていくのはメンバー間の諍いを生む結果にしかならないような?」

ファリスが言う。

そうだ、こんな女連れてく必要はない。

「ファリスさんって言いましたっけ?」

俺との睨み合いを中断して受付嬢はファリスを見る。

こら、まだ勝負はついてねぇ。

「改めて挨拶させて貰うわ。

私はエマ。半年前に怪我をして今はギルドの受付嬢をしているわ。」

言って手を差し出す。

うわ!無駄に友好的!

「ファリスだ。」

ファリスも握んな!

「私、自分以外のAランク冒険者を見るのって初めてよ!

会えて嬉しいわ。」

「そうか、俺も会えて嬉しい。」

「お前は元な?」

俺は横から茶々を入れるが聞いてない。

「私も今回は参加させて貰うわ。

お仲間は嫌そうだけど、別にいいでしょ?

足手まといにはならない自信があるわ。」

「お…、いや…」

「いいわよね?」

怒気を孕んだ受付嬢の言葉に半ば本能のでこくこくと頷くファリス。

お前弱すぎ!

「俺は認めねぇ!」

「別におまけに認められる必要はないわ。」

「おまけはてめぇだ!」

「どっちがおまけかはっきりさせてやるよ!」

「ダンジョンで白黒つけてやるわ!」

「望むところだ!」

「…あーあ…」

シャルの言葉にケイが横に首を振っていた。


俺があの女の口車に乗って勢いでダンジョン攻略参加を許可した事に気付くのに数分かかった。



そして翌日。

俺は『驚く』という言葉の意味を知った。

それは俺だけでなく、シャルもアッサムも同じような顔をして彼を見ていた。

ジェシーはなんかは酷いもので口を開けて涎まで垂らしていた。

ケイは表情筋が死んでいるから分かりづらいが長い付き合いなので考えている事はよくわかる。

朝食の席に遅れて登場したファリスを見ての反応だ。

伸びたら伸びっぱなしで手入れをしてない金髪を

短く切り揃え、いつもの着た切り雀のペラペラ農業服を厚手のシャツのズボン、ブーツに変えてある。

何より、その皮鎧(レザーアーマー)と腰に差した剣。

「ファリスさん!冒険者に見えるっす!」

「お前、昨日までの俺は冒険者に見えなかったと自白したな!?」

すぐさまジェシーの言葉に返すが見えなかったからな。

と、いうか…

「私、今初めてファリスが冒険者だと認識しました。」

「奇遇だな、俺もだ。」

「お前ら…」

「ってかどうした?その服と姿は?」

「装備はギルドからの貸与品だ。」

そう答えたのはギルマスだ。

「ギルドからの強制依頼だからな。

最大限冒険者に便宜を図るのは当たり前だ。」

「それでも貸与なのが悲しいな。」

「ダンジョンからいい装備が出たら貰うから借りもんで充分だっつーの。」

言いながらファリスは朝食の席につき水を飲み干す。

「その髪は?」

「私が切ったわ!」

そう甲高い声が聞こえた。

振り向くまでもねぇ、受付嬢だ。

こいつもやる気満々なようでレザードレスにブーツと比較的軽装でさらに動きやすいよう所々改造されているのを見るにスピード重視型なのだろう。

「やっぱり冒険者たるもの見栄えも重視しなくちゃ!

元はいいんだし!」

「元?どこが?」

「どっかの赤髪よりもずーっといいでしょ。」

つんとして受付嬢は言う。

か、可愛くねぇ!

何よりこいつより外見下って侮辱だろ!

肝心のファリスは無関心で黙々とパンを齧ってる。

「あと、ダンジョン内での食料と水もギルドからの支給品があるから受け取ってね。

そして、冒険よ!復帰よ!!」

この女、目が血走っているが大丈夫なのだろうか。


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