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勇者と魔王はお友達!  作者: さやか
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出歯亀はしない方がいい

ジェシーを回収して終わりかと思いきや、やたらファリスの野郎を気にしているんで仕方なくファリスとあの女の約束の地へと向かうことになった。

僅かに遅れて歩くジェシーを見れば何やら考えている様子。

何考えてんだか知らないがさっさと歩けっつーの。

十分も歩かず人の気配を察知した。

俺とジェシーは顔を見合わせる。

木陰に重なるような人影が2つ。

そっと気配を消して草むらに隠れて見て見れば…

やはりというか当然というか…

闇夜でも目立つ金色の髪の男と男曰く可愛い女。

しかし、あれだ、あれだけ大口叩いていた割にファリスは及び腰で女の方が縋っている感じだ。

「ファリスさぁん、私の事嫌いですかぁ?」

「いや、嫌いじゃないんだけどね…」

「だったらいいじゃないですかぁ」

「うーん、でもなぁ…」

2人の会話を盗み聞きする俺達。

どーしたファリス、あんなにヤル気満々だったのに何があった。

何か知ってるかとジェシーに聞こうと横を見れば随分とまぁ、不細工な顔をしていたのでやめておく。

その時、遂に焦れたか女がファリスの首に手を回した。

そして、体を密着させる。

「ねぇ…ファリスさん…キスして…」

ひゅー

思わず口笛を吹きそうになる。

雌が雄を口説く姿などそう滅多にお目にかかれない。

雌がここまで言ってその気にならない雄はいないだろう。

このままいけば、交尾まで見れるかもな。

どうする?もう行くか?それとも最後まで見る?

覗きの趣味はないけれど、こいつがどーやって女を抱くのか興味はある。

ので、半分以上残ろうぜと言いたくてジェシーの方を見た…ら、いなかった。

あれ?

「こんのクソアマァァァァ!」

「きゃあああ!?」

「ジェシー!?」

なんだ!?

俺は慌てて前を向く。

そこには荒ぶるジェシーが女に飛び蹴りをかまし、悲鳴をあげる女と驚きの声をあげるファリスがいた。

「なぁぁにが、『キスして…』だよ、巫山戯んな!

ファリスさんはお前みてぇな女なんて相手しないっつーの!!」

女をなぎ倒し頭を踏みつけ朗々と言い放つジェシー。

いや、俺の記憶が正しければめちゃくそヤル気だったと思うぞ?

っつーか、怖い!怖いぞ、ジェシー!!

色んな意味で怖い!!

お前はバカ犬キャラであり決してそんなキャラではなかったはずだ。

「な、なんであんたが!?殺された筈!

まさか、あいつら仕留め損ねた!?」

女が何やら重要な事を口走る。

「ほー、女、話聞かせろや?」

俺はゆっくりと立ち上がる。

女はジェシーに踏みつけられた足から抜けようともがいていたが俺の声にピタっと動きを止める。

「び、び、Bランク!?な、なんで!?

睡眠薬を夕飯に盛ったのに!?」

またもや重要な事を言う。

「ほー、そりゃどーも。だがな生憎俺達は薬の類いは常人の数倍飲まないと効かないんだ。」

「ひっ!?じゃ、じゃあ…!?」

「ケイも動いてるぞ?」

「そんな、商品が!」

「まあ、その辺り詳しく聞かせて貰うぞ。」

俺は女に近づこうと歩く。

「ふ、ファリスさぁぁん、助けてぇぇ」

ジェシーに踏みつけられながらも必死に哀願する女。

俺は動きをひたりと止める。

こいつが女助ける為に動けばジェシーと二人掛かりでも止められるとは思えない。

悔しいがそれくらい実力差ははっきりしている。

俺はファリスを睨んだ。

当のファリスはというとあっけにとられてジェシーを見ていた。

すんげーアホヅラしてんぞ?

「ジェシー」

「ファリスさん!この女は!」

「足、どかせ」

「ファリスさん!!」

「どかせ。」

「……はい……」

ご主人様に怒られて耳を伏せて尻尾を下げてる犬がいる。

ジェシーは足を女からどかした。

「ファリスさぁぁん!私怖いぃ」

反吐が出るほど甘い声でファリスに飛びつき背に隠れる女。

っち!面倒な。

俺はバトルアックスをアイテムボックスから出そうとする。

その動きを無視するようにファリスは背に隠れる女をそっと右手で抱き寄せ…


左手で腹パンした。


「…かはっ…!」

女は地面に蹲り夜に食ったもんを吐き出した。

一応手加減したんだよな?

利き手じゃなかったし。

「お前、今何かすんげー重要な事言わなかった?」

ぞわっ

全身の毛が逆立つような感じがした。

ファリスはしゃがみこんでいて顔が見えない。

「ん?」

ファリスが女の髪をひっ掴み上を向かせる。

「ひっ!?」

女が悲鳴をあげる。

「色々教えてくれるだろう?マリアちゃん♪」

「は、は、はいっっ!」

女はガクガク震えながら言った。

ここでファリスは女の髪から手を放して立ち上がる。

「ジェシー、いやぁ助かったわぁ!」

「へ?」

「お前すげーな、この女がなんかやらかしてるって知ってたんだろ?

で、尻尾掴む為にここまで来たなんて…。

ってか、レオナルドもよく来たな!」

先程までの心が冷えるような気配は何処へやらいつものファリスに戻っている。

なんだったんだ、あの感じ。

冷たいとか凍えるとかそんな言葉じゃ物足りないほどの突き刺すような殺気を超えた殺気を感じたんだけど。

「え、あ、まぁ、俺達は…その、怪しい気配を追っていまして…そしたら冒険者が襲われる所を目撃、撃退後、ファリスさんの所へ来たんです。」

「成る程、そいつらがこの女がそっち側だとゲロったわけね。」

違う。

違うけど否定するのもあれなので黙っておく。

「えっと…」

何やら正直に言おうとしたジェシーを制し俺は口を開いた。

「それより、それどーすんだ。」

「ひっ!?」

女は恐怖で口元をひきつらせる。

「そーだな…正直に話してくれれば何もしないんだけど。」

頬を掻きながらファリスは言うが正直に話さなかった場合が妙に怖いのは俺だけか?

俺が女の立場ならもうゲロってる。

しかし、女は違った。

バカなのか無駄に肝が据わっているのか、はたまたファリスを舐めているのか。

「だ、誰が…!」

必死に強がってはいるが涙目だ。

「んー、あ、そうだ。」

ファリスは何かを思い出したように足元の何かを拾った。

手のひらサイズのそのウニウニ動くそれは…

食人馬(ケルピー)?」

…にしては小さいし、なんか作り物めいてはいるが間違いなくそれは食人馬(ケルピー)の姿をしていた。

「それなんだ?」

俺は引きながらも平静を装い聞いてみる。

「うーん…呪いのアイテムその2?」

2!?

1はあれか?あの薄ぺらい箱か?

「お前どんだけ呪われてんだよ。」

「多分死ぬまで祟られるんじゃないかな?」

疲れたようにファリスは笑う。

つーか、こいつ程の実力者を呪う奴の顔を見てみたいわ。

「で、それをどーすんだ?」

「ああ、これを…」

言ってファリスはそれを女に近づけた。

「ひぃ!」

逃げようとするがファリスが腕を掴んで離さない。

「話すか呪いを受けるかどれがいい?」

「ひぃ!は、話します!話すんでそれ遠ざけて!

なんか虫っぽい!」

呪い云々よりその動きがダメなようだ。

女の感性がよくわからない。

ファリスは大人しくそれを遠ざけるが女の視界には映る位置に置く。

「で?俺の仲間に何した?」

「えっと、今頃は私達の仲間が倒してふん縛っていると思います!」

「いや、ケイがいるし多分立場は逆転してるだろうよ。」

「お前らの仲間って?」

「じ、人身売買組織ですぅ!」

「人身売買?」

ジェシーが言う。

「奴隷商人みたいなもんか?」

俺は何処ぞのオカマを思い浮かべかけて首をふる。

奴隷商人なら生きていなければ意味がないので冒険者を気絶で留めていたのもわかる。

ジェシーや俺達に仕込んだ毒が麻痺や睡眠薬程度であるのも理解出来る話だ。

しかし。

「いえ!私共と奴隷商人とは違いまして…」

「どう違うんだ?」

「私共が提供するのは生肝です。」

「…は?」

俺は間抜けな声をあげた。

生肝って言った?

「ごめん、意味がわからない。」

ジェシーも困惑気味だ。

「わ、私も詳しくは知らないのですが…。

なんでも隊長様は国の至る所にいる金持ち達が生肝を欲している事を察知してそれを体ごと提供しているのです。」

「なんで冒険者を狙う?」

ファリスが低い声で問う。

「生きた状態で肝を…どうも人によってはそれ以外の部位も取っているらしく…その作業に耐えられる者が冒険者しかいないそうで。」

生きた状態で肝を取る?

頭が理解を拒否る。

だから、あの破格な依頼料!

Fランクなら飛びつくが適正ランクは避ける絶妙な依頼料!

顧客は国の至る所にいるのだろう、でなければあり得ないほどの儲けぶりだ。

俺は隊長の衣装とケバケバしい宝石を思い出す。

「成る程な…」

ファリスは立ち上がる。

「とりあえず、シャル達と合流しよう。

そして、隊長の口を割らせる。」

「わっかりましたー!」

バカ犬が尻尾をぶんぶんふってご主人様に追随する。

まあ、俺も異論はない。

「この女は?」

「あ、俺縄持ってます!」

ジェシーがアイテムボックスから荒縄を取り出すと手慣れた様子でふんじばる。

ファリスは気持ち悪い食人馬(ケルピー)をアイテムボックスにしまった。

え?仕舞うの?捨てろよ、そんなばっちぃ!

俺は突っ込むのも怖いのでみなかったことにしてその場を去った。


荷馬車の元に行った時、丁度黒ずくめ共をケイがふん縛っていた。

俺と違って殺しても逃げられてもいないようだ。

怪我もないようで何より。

Cランク共はと探してみれば、ジェシーが走って荷馬車の中に入っていく。

着いていけば中にはシャルとアッサムがふん縛られた冒険者を保護していた。

そういえば盗賊に襲われたあたりから見かけてない奴らがここにはいる。

成る程、危うくこいつらが『商品』になる所だったと。

「あ、ジェシー!そっちは大丈夫だった?」

「おう!あの女ファリスさんにベタベタしやがるから俺が蹴り飛ばしてやった!」

「…いや、追っていた敵にやられなかったか、と聞いたのだが…?」

アッサムが眉をひそめる。

「ああ、それはレオナルドさんが助けてくれて。」

「そうなんですか!うちのバカをありがとうございます!」

「礼を言う」

2人が頭をさげてくる。

ジェシーは何やら不満顔だ。

「そっちは?」

「こっちもケイフォルさんに助けて貰ったんだ!」

「うわ、マジか!」

「ああ、荷馬車の中での戦闘はシャルに不向きだった。」

「ああ…動きを制限されるもんな….」

ジェシーが納得顔だ。

あいつはすばしっこさが売りだもんな。

その点ケイは狭い所こそ本領を発揮する。

避けることのできない一撃をお見舞いしたに違いない。

「レオ!」

ケイが俺に声をかける。

「一体これはどういう事なのでしょうか」

「どうやらこの商隊(キャラバン)自体がこいつら側らしい。」

「!」

「なんだって!?」

俺の言葉に表情を固くする。

「ああ、あの女がゲロった。」

ジェシーが頷く。

「じゃあ蹴り得だったね。」

意味不明な返しをするシャルに苦笑いのジェシー。

「細かい話は商隊長に聞くべきだ。」

俺達は一度荷馬車から降りる。

「ひぃ!お助け!」

降りた先には地べたに這いつくばるケバいおっさん。

どうやらファリスが一足早く動いて捕まえたみたいだ。

「で?生肝がどーのこーのって話します詳しく聞かせて貰おうか?」

「うわぁー!私も詳しくは知らないんですよ!

ただ、私は人づてで最近の金持ちは生肝を欲してて高値で買い取ってくれると教えて貰っただけでして!」

「誰に?」

「な、名前は知らないですー!」

「そんな訳あるか!」

べしっとファリスがケバいおっさんの頭を踏みつける。

「ひぃ!本当です!」

「じゃあそいつはお前になんて名乗ったんだよ?」

「ま…」

ガタガタと青ざめて震える。

「ま?」

「ま…魔王の側近と…」






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