魔王の死体のお値段
真っ二つにした犬はやはり粘土だった。2つに分けた瞬間動かなくなった。
それを見ていた馬は見ていたはずだが、わしに寄って来た。
…つまりこれはやはり命が宿ったのではなく粘土の塊が動いているに過ぎないということ。
粘土は知性がなく、創造主に懐く。
魔素、魔力は感知出来ず動力源は不明。
「ナニコレ面白い。新しい研究じゃな!」
まずは残した馬を飼う。
そして、もう一度同じものが作れるかの実験!
手始めに犬をもう一度作り直して動くかの確認じゃな!
わしはキラリと笑うがその時わしのスマートフォンがマジカルリリーのテーマソング『リリー危機一髪!』が流れた。
おっともう八時か!
わしはアラームを切って勇者に電話をかける。
コールが二度成り勇者が出た。
「もしもし!」
「もしもーし!」
「どうした、今日はいつもより三秒鳴るのが遅かったぞ。」
「そんなにわしとの会話を楽しみにしていたのか?
ういやつよの。」
くつくつと笑い揶揄ってやる。
しかし、勇者は乗ってこない。
つまらん。
「どーした、勇者。何か嫌な事でもあったか?」
「おー。」
「なんじゃ、話くらい聞くぞ?」
「あー、今俺に一番優しい女の子が魔王ってなんか悲しくなってきたわー。」
「…わし、3つの女子よ?それを女の子のカテゴリーにいれるのか?」
入れていいのか?
「だってさあ、今日つくづく女の子はかっこいい男が好きなんだなって思ってさ。
今、外見に左右されないで普通に話してくれる女の子がお前しかいないんだよ。」
「…そこまでお主悪い外見ではなかろ?」
「外見を褒める奴で魔王の言葉程信用ならないものはねぇ。」
きっぱり言われたが、わし何かしたか?
わしは自分にも他人にも正直よ。
「つまり、お主は今女の子の尻を追いかけ袖にされているってことかのぅ?」
「なんで世界が違う奴にドンピシャで言い当てられてんだ!?俺!!」
「寧ろなんでわからぬとおもったかのぅ?」
「なあ、どうすれば女にモテる?」
「いきなり恋愛相談か?」
まさか三歳児に相談する成人男性がいるとは!
「お前、千年生きてたんだろ!?女なんて右から左にゲットし続けてたんだろ!?
俺にもその技を授けてくれ!」
「わざ?そんなものわしが成人して生殖行為が可能になった日から順番に何処からか女魔族がやってきて身を投げ出してきたからのぅ。」
「まじかよ!羨ましい!!」
「そうか?わしは千年生きて真実欲しいと思った女はアリアナ姫ただ一人よ?」
「…それは聞かなかった事にする。」
なぜじゃ?
「そうだ、アリアナ姫で思いだした。
彼女は今どうしておる?
お主と結婚したと思ったがそうでないならどうなった?
もう何処ぞの王族か貴族の元へと嫁いだかの?」
あの美貌の姫君。
今思い出してもゾクゾクする程の美姫!
おそらく我が城の地下牢から出た後、勇者に嫁がなかったならば引く手数多であっただろう…。
くぅ!姫の花嫁姿見たかったのぅ。
「…まだ独身だ。」
「なんじゃとぅぅぅぅう!!!?」
わしはかつて勇者の言葉にこんなにも驚いた事があっただろうか?
あの!あの麗しの姫君がまだ誰のものでもないだと!?
「し、信じられない…!」
「俺はお前の言葉が信じられないよ。」
吐き捨てるように勇者は言う。
「魔王城から戻った姫はまた元の生活へと逆戻りだ。」
「なんと!…いや、あのように美しい姫なのじゃ、父王たる者の気持ちもわかるといえばわかる。」
アリアナ姫はその美貌故に人間の国の王城の奥深くにある部屋に閉じ込められて暮らしている。
あまりの美しさに彼女を狙う不埒な男からその身を守る為に。
父の無償の愛を歪んだ独占欲を感じる話じゃ。
…もっとも、その美しさを人づてに聞いたわしは一度見てみようと側近に攫わせた。
そして、その美しさに虜になったのじゃ…!
しかし、姫にとって魔王など恐怖の対象でしかなかったのじゃろう。
毎日泣き暮らしわしの言葉など最後まで届くことはなかったのじゃ。
「…思えばわしの初恋はアリアナ姫であり、そして叶うことはなかったのじゃ…。」
「初恋がアリアナ姫だというのは置いておくとして、恋が叶ったことがないなら俺と同じじゃねーか!」
「なんと!お主もか!」
「おう!俺なんか魔王討伐後に付き合った女に全財産持ち逃げされたことがあるからな!」
「そ、それは不憫じゃの…」
わしは引く。
「まあ、それまでも親が病気で金がいるっていってちょいちょい貸していたから、その日を予見できなかった俺も馬鹿だった。」
「絵に描いたような結婚詐欺師だの。」
恋は盲目というか…その詐欺師、魔王たるわしを殺した男を手玉にするとはおそるべし!
「じゃあ、お前に女の口説き方を聞いても無駄か。」
「そうだのぅ。しかし、わしがアリアナ姫に実践したことくらいは教えることが出来るぞ。」
「参考までに教えてくれ。」
「まずは褒める。そしてプレゼントしまくる。」
「意外とまともだ!」
「褒めるというのは人間の女が好むと勉強したのじゃ。
プレゼントは魔族の求愛行動なのじゃ。」
「へぇ。人間も貢物には弱いからやってみるか?
あ、でも今金がねぇな。」
「こら、人間は…というか貨幣制度が成り立つ現在は大抵の種族の女は男の力を貨幣力に置き換えて換算する。
すなわち、金なきものは弱者じゃ。
旅のし過ぎで金を失うなど、女を娶りたいなら愚の骨頂意外の何者でもないわ。」
「うわっ!きっつい!」
「事実じゃ!魔王を倒した魔力も剣術も金の力の前には無力よ!」
「おれ、金には縁がねぇよ。」
「たわけ!そんな訳なかろう!お主わしの討伐で幾ら貰ったのじゃ?
そもそもその金はどうしたのじゃ?」
魔王討伐じゃぞ?さぞや大金を世界は勇者に積んだことだろう。
わしが人間の国の王ならば数十億ゴールド積んでもまだ足りぬと感じるわ。
….はっ!ま、まさか先の結婚詐欺師にふんだくられたか!?
「……知りたいか?」
「そうだな、わしの死体の代金くらい知りたいのぅ。」
ドキドキしてきたわ。
「…………タダ。」
ん?
「すまん、勇者よ、聞き間違えたようじゃ。
もう一度言っておくれ」
「……タダ。無料だ。」
「うそじゃろーーー!?」
本日二度目の絶叫と相成った。
「はっ!?もしや、お主、わしの討伐に金は求めず名誉を欲したのか?
それなら貴族になったのだし、理解が出来る…
いや、それでもタダはなかろう、タダは。
お主の仲間も金は受け取らなかったのか?」
「俺以外は受け取っている。」
「何故じゃ!?お主が一番の功労者じゃろ!?」
「だからだよ。」
「意味がわからぬ!人間とは…他種族とはそういうものなのか!?
一番の功労者を蔑ろにする行為ではないのか!?わしは許せぬぞ!そなたを世界は馬鹿にしすぎている!」
わしを殺した唯一の男が一番損をするなどあり得てはならぬ。
勇者はこのわしを倒した最強の男であり、わしが認めた唯一の存在なのだから!
「まあ、俺にも問題がなかった訳じゃない。
しかし、殺した相手が俺を擁護するとはおかしな話だな。」
「….確かに。しかし、あれから四年経ったのだ。
わしは生まれ変わり新しい人間関係を一から築いていく上で前世では知り得なかった事を学んだし、未だ学んでいる最中。
今世では他者に迷惑をかけず、目立たず、傅かれず普通の人間として生きていくと決めたのじゃ。
お主はどうじゃ?この四年わしを倒す前と変わりはせぬか?」
するとスマートフォンの向こうは少し静かになる。
おそらく考えているのであろう。
「そうだな….。世界情勢は何1つ変わらず…いや、今や人間の国が世界を牛じろうと、躍起になっている辺り今後悪くなっていくのかもしれない。
かつての仲間とは道を分けて俺は一人旅を続けていたが…、今は喧しい仲間と共にいる。
久しぶりに旅が楽しいと思えるようになったな。」
「楽しいは大事なこととわしは今日、賢者に教えて貰ったのじゃ。」
「楽しい事が大事…」
「そう。まずは楽しむ事が大事。失敗してもよいし、途中で終わってしまってもいいそうじゃ。」
「…深いな。」
「じゃろ。」
「…今夜は話し込んだな。今は依頼の遂行中なんだ。
また明日話そう。」
「わかったのじゃ!また明日!」
「おやすみ、魔王。」
「おやすみ、勇者。」
わし達は同時に通話ボタンを押したのじゃった。