動物からご飯を奪ってはいけません。
俺達が猥談やらケイフォルの事情などで話に花を咲かせているうちに時間は夕方になり商隊は野営地に到着した。
人間の国では余程辺鄙な場所にあるとかでない限り街から街へは街道が敷かれている。
最もその良し悪しはピンキリで獣道よりはまし程度から石畳できちんと舗装し尚且つ兵士が要所要所で護衛している道もある。
しかし、道はあれども街までは遠い。
朝に出発しても次の街に夜までに着かないのもよくある話だ。
そんな時に備えて道の脇にあるのが野営地。
大抵は木を切り倒して更地になっているだけだがまれに小屋や竃が完備されていたりもする。
で、俺達はよくある更地の野営地にいた。
俺達だけじゃなくてチラホラ他の旅人の姿もある。
「よし、今夜はここで休むぞ!天幕を出して、料理をするぞ!
マリア、火の準備をしろ!」
「はい!」
マリアちゃんは大きな声で返事をするとテキパキと働き始めた。
「おっと、俺も手伝ってこよう!」
俺は荷馬車から降りる。
「あ?面倒くせぇことすんなぁ?」
「あわよくばお近づきになりたいんだよ。」
「つまらない理由ですね。」
なんとでも言いたまえ。
俺は烈冷の使者を無視して彼女に近づく。
しかし彼女の周りには他の冒険者も集まっており彼女を手伝おうとしていた。
他にもいる男商人見習い達には誰も近づかない所を見るに俺と目的は同じようだ。
…ふむ。急がば回れとは誰の言葉だったか?
俺はマリアちゃんではなく男商人見習いの一人に近づく。
一番若くて細い青年というか少年に声をかけた。
「すみませーん!」
「え?」
少年はこちらを振り向く。
くりっとした茶色い瞳が子犬のようだ。
「手伝いましょうかぁ?」
俺は努めて笑顔で彼に声をかける。
ほら、俺、いいやつでしょ?
その事を君の口から彼女に伝えて俺の株を上げてくれたまえ。
そして、今俺は彼女の目にどう映っているのか?
多分、男女分け隔てなく接して手伝ういい人に映っているはず…!
どう?好感度上がらない?
少なくても手伝う気配ゼロのレオナルドよりかは好感度上がらない??
そう思いながらちらっとマリアちゃんを見れば彼女は寄ってくる冒険者一人一人に笑顔で接しつつもチラチラと荷馬車に陣取り欠伸をかみ殺すレオナルドを見ていた…!
「あ、ありがとうございます!では天幕を出すのを手伝ってくれますか?」
「あ?ああ…」
マリアちゃんは俺を見ないでレオナルドを見ている。
他の冒険者は俺より近い所でマリアちゃんと接している。
俺は離れた所で野郎の手伝い…しかも予想したものより重たい力仕事を頼まれる。
荷馬車の1つに山と積まれている天幕を見て俺はため息をついた。
誰だよ、急がば回れなんて格言残したやつ!
急いでいるならやっぱり近道あるのみだろ!!
「ファリスさぁん!」
そこにジェシーが飼い主の元まで走ってくる犬の如く駆け寄ってきた。
「なんだ?」
「大変そうっすね!俺も手伝いますよ!」
言って彼はにかって笑って腕を捲り上げる。
「お前…!いいやつだな!!」
俺は感激する。
ふと、視線を感じて後ろを見るとマリアちゃんがこっちを見た!
やったぁ!…ってあれ?
よくよく彼女の視線を追えば…あ、ジェシーしか見てない。
「どうしました?」
大型犬を彷彿させる表情で聞かれる。
「いや、結局世の中顔なんだなって。」
俺は涙を拭きながら袖を捲り上げる。
「補助魔法いる?」
「アッサムにかけてもらい済みっす!」
「了解。」
言って俺は自身に補助魔法をかける。
俺達二人はサクサク天幕を出して組み立てていく。
補助魔法さえあれば簡単に終わる楽な仕事だ。
終わった頃には焚き火を炊いて料理を商人達とアッサムがしていた。
…ってアッサム!?
何お前マリアちゃんの隣で野菜切ってるの!?
興味ないんじゃなかったの!?
「アッサム…料理好きだから…悪気はないと思うよ?」
ジェシーがアッサムをフォローするが…むぎぎぎ!許せん!!
ハンカチ噛んで悔しがりたい!
なんか二人いい雰囲気だし。
「あ、じゃあアッサムに声かける名目で彼女にも声をかければいいのでは!?」
「お前天才か!?」
と、いうわけで俺はアッサムの所に行く。
「おーいアッサム!!」
俺は爽やかを意識して手をあげる。
何故かひきつるアッサム。
「なにやってんのぉ?」
にこにこにこにこ。
笑顔が素敵ないい男でしょ?
「夕飯の準備だ。」
「夕飯なぁに?」
「今夜は大海蛇の炊き込みご飯と蒲焼、豚汁だ。」
「またでてくるんだ…。いや美味しいんだけどさ。」
まだちょっと抵抗が…。
「アッサムさん達はCランク冒険者で大海蛇を討伐されたと聞きました!
凄いですね!」
マリアちゃんがキラキラとした目でジェシーを見る。
「俺もいたんだよー!」
すかさず話に入ってみる。
「しかも大海蛇が食べれると知ってるなんてアッサムさんさすがですね!」
あれ?俺無視された?
外見スペックは俺とアッサムそんな変わらないと思うんだけどなぁ…。
それでも俺は食い下がろうとした時。
「おーい!」
みると先程の少年商人見習い!
「薪拾いに行ってくれないかなぁ?
量が足りないんだ!」
「お、おう。」
俺は頷いくと少年商人は背負い籠を渡してくるので背負う。
農夫ルックにしっくりきすぎる。
「あっちの森で拾ってくださいね。迷子にならないように!」
見た目に反して少年商人見習いはびしっと俺に命令して行ってしまう。
「…えっと…」
ちらっとマリアちゃんを見てみたが、俺は視界に入っていない。
ジェシーが何か俺に言おうとするとマリアちゃんがジェシーに話しかけてその隙を与えない。
あう…。なんでこんな目に…。
よく見ると周りのFランク冒険者は既に休憩中。
あれ?なんか俺だけ働く流れ??
荷馬車にいるレオナルド達を見ればそんな俺を見て大笑いしていた。
ガッデム!
俺は仕方なく薪拾いに行ったのだった。
いーもん、まだ時間はあるもん。
あわよくば一発狙うんだもん。
俺が薪を背負い籠いっぱいににして戻れば既に皆さん食事の配膳をしていた。
少年商人見習いに籠を渡して俺はジェシー達の元に戻る。
マリアちゃんは少し離れたところで隊長と食事していた。
「お腹すいたー。ご飯は?」
「あ、お疲れ様です!!ここにあります!」
言ってジェシーは取り置いてくれたご飯を手渡してくれる。
おー!肉の種類さえ気にしなければ美味い晩飯だ!
「お前なにやってんの?目的から外れてね?」
レオナルドが蒲焼を齧りながら言う。
言わないでほしい。
「大方雌の気を引くためいい人ぶって失敗したのでしょう。」
冷静な分析をするケイフォル。
黙れ、童貞二人組!
「でもさ、僕あの子嫌い。」
ご飯を食べながらシャルが毒を吐く。
「だって明らかにレオナルド狙いなのにジェシーにも色目を使いつつアッサムをはじめとした他の冒険者を都合よく使ってるんだよ?」
「別に俺は料理がしたかったからそれは構わないが話しかけるファリスさんを無視するのは気に触る。」
アッサムがお茶を飲みながら言う。
いつもなら酒だが、一応仕事中なので俺も含めて飲み物はお茶だ。
「性格ブスなのにいいの?」
「一発やれればどうでもいい。」
「清々しいっすね!」
ジェシーは笑いながら言うが獣人二人組はドン引きしていた。
奴らには女遊びという概念がないのだろうから仕方ない話だが、何いい子ぶってんのと言ってやりたくなるのは俺だけじゃないはずだ。
「….私の番がこのような性格でない事を切に願います。」
「後、こういう男に遊ばれてない事も付け加えて祈っとけ。」
レオナルドがケイフォルに言う。
失礼な奴らだ。
「お前ら、そういう事言ってると…こうだ!」
俺は二人の隙をつき蒲焼を奪い、素早く口に放り込む。
「あ!」
「私の!!」
二人が同時に叫び皿と俺の頬袋を交互に見る。
「てめぇ、いい度胸じゃねぇか。」
ゆらっと立ち上がるレオナルド。
「獣から食べ物を奪う恐ろしさをとくと教えて差し上げましょう。」
片眼鏡の位置を指先で整えケイフォルも立ち上がる。
そして二人同時にアイテムボックスを開いて各々武器を取り出した!
俺は即座に逃げる!
「待てやこらぁぁ!」
「レオ!私が足を打つので叩き潰してください!」
「了解した!てめぇ、Bランク冒険者から飯奪って無事と済むなよ!」
言うが早いか木製の矢が飛んできた!
狙いは寸分違わず俺の足の腱を狙っているが一応手加減する理性はあるらしい。
「あらよっと!」
俺はひらひらと避ける!
しかし。
「あめぇぇ!!」
避けて出来る一瞬の隙をついてバトルアックスが飛んできた!
投げやがりましたよ、あの大物を!!
まあ、周りへの被害を鑑みての緩い投げなので俺は補助魔法をかけた腕で流れを逸らしてレオナルドにお返しする。
「ひゃっはー!」
俺は楽しくて仕方なくなってきた。
いいねぇ、こういうバカな遊び!!
俺はすこぶる上機嫌だが、烈冷の使者はギリギリとした表情を見せていた。
ケイフォルがミスリルの矢を取り出したのを見て揶揄いすぎると明日から辛いなと思い潮時と判断。
「あはは、悪かったって!俺の蒲焼食っていいからさ!
あ、アッサムもまだ肉あるんだろ?
じゃんじゃん焼いてやってよ!」
「あ、それは構わないが…」
アッサムが了承すれば二人は武器を下ろす。
「まあ、まだあるならいいか…。」
「次はありませんからね。次は。」
レオナルドは納得し、ケイフォルは渋々レオナルドに同意する。
「さっすがファリスさん!素晴らしい動きでした!」
さっとお茶を出してきたので受け取り飲む干す。
「動きのキレとかすっげー勉強になります!」
「足元に飛んでくる矢とかどうして見てないのにわかるの?」
「足元に嫌な気配を感じる。」
「抽象的で俺達ではまだ達することのできない域だな。」
アッサムが感心したように言って烈冷の使者に蒲焼をたんまりと渡す。
「獣並みの気配察知能力だな。」
「本当、貴方人間ですか?」
遂に種族を疑われたよ。
「だけど、3人やり過ぎだよ?」
シャルが唇を尖らせて可愛く言う。
しかし、その声には若干の棘が含まれている。
「なんだ?」
この程度のじゃれあいになんの問題が?
「見てわからない?物凄く目立ってたから。」
「え!?遂にマリアちゃんの目に俺が映った!?」
「気にする所はそこなの!?」
シャルが珍しく俺に突っ込みをいれてくる。
しかし、改めてみれば確かに全員口をぽかんと開けて俺達を見ていた。
「あー、周りの事は余り考えてなかったな。」
「私もです。」
烈冷の使者は少し気まずそうに言う。
まあ、Bランク冒険者がマジギレしながCランクのお手伝いさんに攻撃してりゃあ目立つわな。
「ま、やっちまったもんは仕方ねぇよ。
どーせ、明後日にはお別れなんだからさ。」
それより漸くマリアちゃんの目に俺が映ったのだ!
これを気に是非お近づきになりたい!
俺は強く決意を固める。
そんな俺を見て5人は顔を見合わせやれやれといった表情で肩をすくめていたのを上機嫌だった俺は見逃していたのだった。




