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勇者と魔王はお友達!  作者: さやか
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本人に聞いてみよう。

「おらっ!討伐してきてやったぞ!」

レオナルドがテーブルに片足ついて中指おったてている。

目の前にはセイニョル。

「あはん☆まずは生還おめでとぅ☆」

対するセイニョルは彼の暴挙に眉ひとつ動かさない。

そう、あの討伐後俺達は戻ってきた。

そして、あの仮設小屋にてセイニョルと再度対峙した訳だ。

「どーいう意味だこらっ!」

「そのままの意味よ☆さあさあ、子猫ちゃん、いらっしゃいな☆」

セイニョルは妖精猫(ケットシー)を呼び寄せる。

「にゃっ!」

「さあ、正直にありのままに討伐の様子を教えてちょうだい☆

その間だけ話す事を許可するわん☆」

セイニョルの言葉に妖精猫(ケットシー)は口を開いた。

「俺、餌にされかけたにゃっ!」

まず最初に告げ口かよ!

「そう…まあ、生きてるんだからいいじゃない☆」

「ひどい!こんな可愛い子猫を餌にするなんて想像でも許されないにゃっ!」

「はいはい、で?」

セイニョルは妖精猫(ケットシー)の訴えを無視する。

うぐっと口を閉ざして俺達を見る。

「こいつは手ーだしてなかったにゃ。」

「へえ?」

セイニョルが俺達を見る。

「Cランクは中々捨て身な戦法を取るし、Bランクは破壊力が高い。

そこの片眼鏡は獣人で空も飛べる。」

「まあ☆」

キラっとセイニョルの目が輝いた。

本能のままに後退するケイフォル。

「ダメだぞ?」

俺が一応止めておく。

黙っていたら黙認したと判断されてケイフォルは奴隷化される。

「えーー?獣人は好事家に高く売れるのにん☆」

「てめぇ…!」

レオナルドが青筋を立てる。

「私は奴隷商人よん☆貴重な種族を見つければ当然商品にするわん☆」

しかしセイニョルはどこ吹く風だ。

獣人が国から出ないのは人間を始めとする多種族に奴隷化されるおそれがあるからでもある。

「そんな話は置いておくとして。

約束の情報聞かせて貰おうか?」

俺は話を促す。

このやり取りをずっと聞いているのは中々疲れるからな。

「そうだったわん☆」

セイニョルは笑う。

「彼らの実力ならまあ、最低ラインは合格とみなしていいかしらん☆

特別に聞くことを許してあげるん☆」

「これでくだらない情報だったら俺のバトルアックスの餌食にしてやるからな?」

レオナルドが忌々しげに言うとどさりとソファに座る。

ケイフォルはその横に従者のごとく立つ。

俺と三馬鹿もソファに座って聞きの態勢となる。

「期待してくれて嬉しいわ☆

すごく大きな情報ですものん☆

子猫ちゃんはあっちに行ってなさいな☆」

セイニョルは猫を追い出すと一呼吸おいて真面目な顔になる。

俺は背筋を伸ばした。

こいつがやばい話をする時は大抵こういう顔をするのだ。

「私が仕入れた情報によると、一部の生き残りの魔族とその魔族に同調する他種族が魔王の側近を名乗る魔族を筆頭として魔王の復活を目論んでいるらしいの。」

『はあ!?』

俺達は同時に声をあげる。

「そんなこと不可能だ。」

俺は冷静に言うが心臓は早鐘のように高鳴る。

わかってる、頭じゃ魔王はすでに異世界に転生済だと。

「不可能かどうかは前例がないからわからないわ。

ただ、奴らは出来ると踏んでいるみたい。

既に魔王の亡骸も手に入れているみたいよ?」

「はっ?死体なんざあの時木っ端微塵になった筈だ。」

俺は事実を指摘する。

あの時、力と力のぶつかり合いで魔王の体は元より魔王城含めたあたり一帯焦土と化した。

「私も事態が事態だから全力で情報を仕入れてはいるの。

でも、情報が錯綜していてまだ実態がつかめていない…。

でもね、方法は不明なれど魔王の亡骸は実在し、魔王復活を目論む輩の手中にある。

これは事実よ。」

ガッ

瞬間、レオナルドがテーブルを飛び越えセイニョルの膝に跨り胸ぐらを掴む。

「てめえ、それが嘘や誤情報だったりしたらこの場でその体切り刻むぞ!」

「伊達や酔狂でこんな事言えるわけないでしょ!」

答えるセイニョルの声は悲鳴であった。

飄々としたセイニョルからは想像もできない声であり、レオナルドは鼻白む。

セイニョルはレオナルドを押しのけ、両手で自身の体を包み込む。

ガタガタと震え顔色が悪い。

「魔王よ?あの魔王の事で冗談なんて言える訳ないでしょう…!」

セイニョルにとって魔王はトラウマだ。

とは言えセイニョル自身は魔王に会った事がない。

ただ、セイニョルはかつて魔王の側近を名乗る魔族に己の故郷を壊滅させられた過去がある。

その後、セイニョルは故郷復興と仇討ちの為現在の職につき力を蓄えた。

そして、知ってしまったのだ。

セイニョルの故郷を壊滅させた魔族は魔王の側近とは名ばかりの下っ端中の下っ端であったことを。

街一つあっさり潰す力を持つ魔族など歯牙にもかけぬ魔王の力とはなんなのか。

それ以上の力を持つ魔族を数多従える魔王とはどれ程恐ろしいものなのか。

セイニョルは魔王に会うことなく心を折られたのだ。

その事実が未だに心に深く棘のように突き刺さっている。

だからこそ、セイニョルは俺が魔王を討ち取った事をとても喜びそして今、復活に怯えている。

「す、すまん…」

レオナルドは謝りソファに戻った。

「だからね、ファリスちゃん、魔王復活を目論む馬鹿どもを止めて欲しいのよ!」

「とは言え、どこの誰かもわからないものを…。」

「私の情報網に引っかかった生き残りの魔族ってのがミソ。

生き残りの魔族なんて極小なんだから、見つけ次第根絶やしにしてしまえばいいのよ。」

「おいおい、生き残りの魔族が全部魔王復活を望んでいるわけではないし、関わっているわけでもないんだろ?」

それはいくらなんでも暴論ではなかろうか。

「関係ないわ。魔族なんてこの世から滅べばいいのよ。

でなければ真の平和は訪れない。

魔王が死んで終わりじゃないってことよ。」

「おいおい…」

「全く関係ない魔族を見せしめに殺すことで魔王復活を目論む奴らを釣り上げるってか?」

レオナルドがニヤリと嗤う。

どうやら彼はその手に賛成なようだ。

「そう、その通りよ。」

セイニョルは頷く。

「魔王復活に手を貸す魔族以外の種族がそれで釣れるかはわかりませんよ。」

ケイフォルが意見する。

「確かに魔族以外の種族が釣れるかは不明。

だけど、魔王復活にはおそらく莫大な魔力が必要…。

どうやら、亡骸を手に入れて禁術死者蘇生の魔法を使っても魔王の魂は体に宿らなかったそうよ。

と、言うことは禁術を使用する以上の魔力が必要になってくる訳だけど、そんなもの魔族くらいしか保有していないわ。

と、いうことは、魔族を絶滅においやればいくら復活を望んでも魔力不足で達成出来ない。

野望は潰えることになるってわけ。」

そりゃ、魂は宿らないだろうよ。

なんせ異世界でまったりと保育園児をやってるんだからな。

「成る程、確かに…」

だけど俺以外の連中はそんなこと知らないので酷く不安げだった。

「しかし、その方法だと頭のイカれた一部を残す事になんぞ?

今回は避けらても今後の火種として燻り続けることになる。」

「そうなんだけどね…。

どこの誰が手を貸しているのかがわかればいいのだけど、情報が手に入らないんじゃ、とりあえず出来る事からなんとかするしかないってもんよ。」

「しかし、魔王復活なんてものに手を貸すなんて正気とは思えませんね。」

「それは人間の感覚に近いかもね。」

「どう言う事だ?」

俺は問いかける。

「四年前、ファ…勇者が魔王討伐に成功した。

このニュースは文字通り世界中に駆け巡り、この世界に生きるものなら誰でも知りうる事となった。

だけど、話はここで終わらない。

話の舞台は政治へと移っていくの。

世界が平和になったんですもの物流も必然増えて多国間での輸出入が盛んに行われるようになる。

そこに必ずかかるのが関税。

この関税を人間の国はかなりの額をふんだくっているわ。」

「なんでまた。」

俺は顔をひきつらせる。

なにやってやがる、馬鹿王様。

「世界を平和にした国への便宜は当然という考えのもとそれがまかり通っているのよ。」

「馬鹿だろ。」

俺は吐き捨てる。

「そうね、しかもそれだけじゃない。

経済も国際法も同盟もなにもかも人間の国は自身に有利になるようこの四年で全て変えてしまったわ。」

「おいおい…」

『…』

烈冷の使者は渋い顔で俺達のやり取りを聞いている。

そうか、こいつら獣人だからもしかしたら何か不利益を被った事があるのかもな。

「全ては世界に平和を齎した国への便宜として。」

「世界を救ったのは人間の国というか勇者なのになっ!」

ジェシーが吐き捨てるように言う。

「勇者は人間ですもの、出身国が大きい顔をするのも当たり前。」

「パーティメンバーには他国の奴らもいたぞ。」

獣人、エルフ、竜人、神人、そして人間の俺。

決して俺一人で世界を救った訳じゃない。

「そうね、だけどやはりそんな彼らを率いる頭一つ飛び抜けた勇者は別格。

どうしても、彼らが、ではなく彼が世界を救ったと思われがちだわ。」

「実際はそんな訳ないけどな。」

「事実はどうでもいいのよ、人間の国は世界中に世界は勇者が救ったと思わせればよかったのだから。」

そして、成功したと。

僅か四年の間に随分ずる賢く立ち回りやがって。

いや、長期間に渡って思い込ませることは難しいからこそ短期で決めたのか。

世界を力で制覇せんとした魔王に対して政治で制服しようとする人間。

ある意味人間の方がタチが悪い。

世界のルールを自分にとって都合よく書き換えるなんて狡いじゃないか。

しかも、勝手に俺を看板にしやがって。

そこが一番腹が立つ。

「…止めてね?」

セイニョルが伺うように言う。

「確かに人間もどうかとは思うけど、魔王が復活したらその比じゃなくなる。」

そう言ってセイニョルは頭を下げた。

「お願い、どうか…もう一度せか…」

「わかった!わかったから!!頭をあげてくれ!」

そしてもう一度世界を救ってくれなんて言わないでくれ!!

俺はファリス、ただのAランク冒険者。

勇者はやめたんだからな。

「もしかして、これに関わっていけば勇者に会えるんじゃ!?」

はっとしたようにジェシーが言う。

その言葉に一気にざわつく。

「ゆ、勇者様に…!?」

「ありえる。まさか彼が無関係ではあるまい。」

乙女チックに頬を染めてシャルが言い、アッサムが腕を組みながら頷く。

「勇者!一度その面拝んでみたかったんだ!」

「ええ、本当、心底見てみたかったんですよ。

…ふふふ…」

何故か敵愾心を彷彿とさせながら烈冷の使者は言う。

「なら!まずは魔族狩りっすね!」

ジェシーが言い、それに皆頷く。

が、俺はどうにもそのやり方が気にくわない。

そういうやり方は恨みつらみを増幅させていくだけだからだ。

「俺はそんなやり方ではやらない。」

俺の言葉に部屋が一気に静まりかえる。

「へぇ?じゃあ、どうやるんだ?」

薄っすらと怒りを纏いレオナルドが言う。

「さあな。まだ方法はわからない。

だが、そういう事をしでかしそうな奴を知ってそうな人物になら心当たりがある。」

「はあ?誰よそれ?」

セイニョルが眉を顰める。

自身の知らない情報網を持っていると不機嫌になる奴なのだ。

「悪いがそれは教えられない。が、すぐに答えはわかる。

そいつが知らなきゃその方法でやるしかないかもな。」



そんな訳で夜八時。

俺達は今夜はセイニョルの好意で仮設小屋に一泊する事になった。

と、言っても雑魚寝になるので俺はこっそり小屋を出て裏手に回る。

手にはスマなんとか。

かつてこんなにも謎の音を待ちわびた事があっただろうか。

そして一秒も遅れずに音が鳴る…と、その瞬間つーわボタンを押してすぐさま出る。

「もーしもーし、ゆう…」

「よう、ちょっと聞きたいんだが、お前復活する気ある?」

「はあ?ある訳なかろう?」

挨拶ガン無視でいきなり本題に入った俺に不機嫌そうな声で魔王は答えたのだった…!

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