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勇者と魔王はお友達!  作者: さやか
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目標は目立たずに生きる事!

「おはようございます、瀬戸内さん。」

「おはようございます、今日からよろしくお願いします。」

言って母上はわしを前に押し出した。

ふむ?

保育園なるものがイマイチ理解できてなかったがなるほど、子供を集めた育児施設か。

似たり寄ったりの年頃の小童がうじゃっといる。

…あ、そうか、わしもその仲間か。

ついつい忘れがちだがわしはみっつの子供なのだ。

意識して子供らしく振舞わねばすぐに浮く。

前の世界、前の生ではそれがわからなかった。

今生では同じ轍は踏まぬ。

今生の目標は目立たずに平凡に生きる、それだ。

ここで子供らしさを学び人間に混ざる努力をせねば。

「まやちゃん挨拶は?」

言われてわしは頷く。

任せろ、挨拶くらい余裕じゃ。

わしは一歩前にでた。

目の前にはまだ若い女性。

母上より若いように見受けられる。

その女性の手を取り甲に唇をおとす。

「お初にお目にかかります、私、瀬戸内摩耶と申します。

以後、お見知り置き願います、美しい人。」

しーーーーーん

場が静まる。

どやっ

わしは胸を張る。

どうだ、完璧だろ?

「ままままやちゃん!?」

母上が上ずった声をあげる。

「ず、随分個性的な挨拶をするんですね…」

やはり上ずった声をあげるうら若き乙女。

「すげー、すげー、今のかっちょいー」

「なぁ、もっかいやってくれよぅ」

「俺にも俺にもやって!」

…さすがにわかった。

この反応、どうやらわしは間違えたようだ。

では何が違ったのか?

…はっ!

漸くわしは間違いに気づいた!

初歩中の初歩だ!

くっ!もう一度チャンスを!

いや、勝手にもう一度やる!

「た、大変失礼しました、改めて挨拶いたします。

私、瀬戸内家長女、名を摩耶と申します。

以後お見知り置き願いますわ。」

今度はスカートの裾をちょいとあげ優雅に腰をおとすような礼をする。

…ふう、前世男だったからつい男の挨拶をしてしまったがそうだな正しくはこうだったな。

次回からは気をつける故に許せ母上。

しかし。

「こ、こちらこそよろしく…ね?」

何故か乙女は上ずった声を変えない。

それどころか集まってきた子供に女の子が加わる。

「素敵!お姫様みたい!」

「えっとぉ、こう?こう?」

「おみしりおきおー」

わしの真似が始まる。

「…?」

どうやらこれも違ったようだが…何がいけなかったのだろうか。

母上を見るが逃げるように去ってしまった。



とりあえずクラスなるところに案内される。

わしは途中入園というものらしくわし以外は前からここに通っているらしい。

つまりここにいるもの達を小童と思ってはいけないということだ。

わしは後から来た者故、礼を欠ぬよう注意せねばなるまいな。

「みなさん、今日から新しいお友達がタンポポ組に来ましたよ。

瀬戸内摩耶ちゃんといいます。

みんな、仲良くしましょうねー」

乙女がわしを皆に紹介してくれる。

「瀬戸内摩耶と申します。若輩者故に間違いを犯す事も多々あるかと思いますが助けてくれると嬉しいです。

今後もよろしくお願いします。」

可能な限り下手にでた。

間違ってない…うん、乙女の顔で間違っている事がわかった。

挨拶一つでこの有様とは情けない。

しかし、誰にでも間違える時は間違えるのだ。

これから彼らから子供らしさを学べばいい。

「じ、じゃあ、これからお散歩に行きましょうね。

準備しましょー!」

乙女が気を持ち直して散歩を提案してくる。

うむ、今日はいい天気だ。

しかし、だ。

「乙女よ。」

「…出来れば先生って呼んでほしいかな?」

その言葉に眼を見張る。

「それは申し訳ありません!

まさか、その若さで人に物を教える叡智をそなえていらっしゃるとは…!

人を見た目で判断するとは、自分の愚かさを呪うばかりです!」

「いや、そこまで凄いものではないからね?」

お、落ち着いてとわしを宥める天才の称号を与えてもおかしくない乙女…改め先生。

「で、どうしたのかな?」

「そ、そうです、先生、後一時間もしないうちに雨が降ります故散歩は不適切かと思い進言致します!」

「雨?」

先生が空を見上げる。

透き通るほどに美しい青空が広がっていた。

雨雲どころか普通の白雲すらない。

「えー?どうして??」

「雨なんて降らないよ?」

「散歩いきたぁい!」

小童どもが口々に言う…っと違う違う。

彼らは先人。

礼を尽くす礼を尽くす…。

小童という言い方もよくないな。

子息令嬢達と言わなければな。

「まやちゃん、雨は降らないわよ?

大丈夫、みんなでお手て繋いで仲良く行くからね。」

「いいえ、風の中に…」

雨の匂いがするのです…

と、言うより早く、わしの肩を叩く者がいて振り向く。

そこには小さな…いや、わしと同じくらいの背丈の三つ編みが可愛い令嬢がいた。

「まやちゃん、散歩に行くって決まったの。

我儘言っちゃダメだよ。」

我儘?

いや、雨が降るからな…

「散歩が嫌だからって嘘はダメだよ。」

嘘?

いや、間違いない。

今から一時間後、正確には53分23秒後に雨が降る。

「ほら、準備して。」

周りを見ると皆帽子を被り靴を履いていた。

どうやらここの子息令嬢達と先生は空気の中の水気にはあまり敏感ではないようだ。

仕方ない、人間は集団行動を是とする習性があると聞くからここは素直に従うのが目立たない最良策だろう。

わしは帽子を被り靴を履いた。

そしてわしに声をかけてくれた令嬢と手を繋ぐ。

見ると皆二人一組になり手を繋いでいた。

「何故手を繋ぐのだ?」

「車とか危ないでしょ?」

そんな事もわからないのと言わんばかりだが、それと手を繋ぐ意味が繋がらない。

「車が突っ込んで来たら逆に逃げ切れない要因にならないか?」

「…?車は突っ込んでこないよ?」

「….なら安全ではないか。手を繋ぐ意味がない。」

「勝手に道に飛び出さないようにする為だよ。」

「…?飛び出す阿保がいるのか?」

「…貴方、ムカつくって言われない?」

「いや、初めて言われた。」

故にムカつくの意味がわからないがどうやら令嬢の逆鱗に触れてしまったようだ。

…人間とは難しい。

こんな手繋ぎで何が守れるというのか?

その気になればあっさり振りほどいて世界の果てまで走り抜ける事が出来るのに。

以降、無言で道を進み公園に着いた。

中々広い公園だ。

かつてわしの城にあった使用人専用のバルコニーくらいか。

それでもこの小さき体には十分よ。

「それでは、先生が、いいよっていうまで遊んでてねぇ。この公園から出てはダメですよ!」

「はぁい!」

言うが早いか子息令嬢達は散り散りになる。

しかしのぅ、わしは確かにみっつの子供ではあるがその前は千年生きた泣く子も黙る魔王様だったのだ。

今更ブランコ、シーソー、滑り台など…



「ま、摩耶ちゃん!危ないからそれ以上漕いじゃ

ダメ!」

先生の絶叫で我にかえった。

小童…じゃない、子息令嬢達が口をあんぐりとあけている。

わし?

ついつい童心にかえって…その…高々とブランコを漕いでいた。

勢いよく漕ぎすぎたせいで大車輪してるがな。

先生の叫びに我はブランコを止める。

ちょっと子供のようで恥ずかしい。

…ってわしは今は子供なのだ。

恥ずかしがる必要はないな。

「ま、摩耶ちゃん、そんなにブランコを漕いじゃダメよ、危ないからね…」

カタカタ震えながら先生は言うが子息達は大興奮。

俺も俺もとブランコの取り合いが始まった。

「お前すげぇな!」

短く刈られた髪に悪戯好きそうな顔した子息がそこにいた。

「俺は牧瀬稔。宜しくな!」

このクラスに来て初めて名乗りをあげてくれた。

嬉しくてわしは柄にもなく笑顔になる。

途端に子息の顔が赤くなる。

風邪か?

あと、十数分もしないで雨が降るぞ。

「うむ、こちらこそ。」

わしは手を出した。

ぽかんとした顔をされたがその手を握り返してくれた。

いい奴だ。

「しかし、あれどうやるんだ。」

「あれ?」

「ブランコ!普通あんな風に漕げないからな?」

「そうなのか?」

わしは改めてブランコを見る。

確かに誰も漕げてない。

おかしいなぁ、物理的には人間にも可能だろ?

「オリンピックの選手みたいだった!」

「おりんぴっく?」

「知らないのか?世界中の人達が集まってやるスポーツ大会だよ。」

「なんと!そんな凄いものがあるのか!」

自国だけでもたかがスポーツの為に選手を集めて行うのも難しいだろうに世界中だと?

凄すぎだろ!

ワクワクしてしまうな!!

「お前なら出れるんじゃね?」

「で、出れるのか…!?」

「大人になればな!」

「大人…。」

そういえば、人間って何年生きるのだ。

百年?二百年?もっと長く生きるのかの?

「出れるわけないじゃない!」

わしの思考を破るが如くあの令嬢の声がする。

三つ編みがゆらりと揺れる。

つり目がさらに釣りあがっている。

「なんでそんな事言うんだよ!」

「だってこんな危ない事平気でするのよ!?

そんなダメ人間オリンピックになんて出れる訳ないじゃない!」

「だ…!」

わしは雷に打たれたような衝撃を受けた。

わかっていた、挨拶もできないわしはまさにダメ人間。

前世ではなんとか魔王としての適正があったからよかったもののこちらの世界ではそう都合よくいくわけない。

そういえば、こちらの世界の魔王は何処にいらっしゃるのだろうか。

できれば一度お会いしたいのだが…気軽には会えぬだろうな…。

いずれ調べてみるか…。

いや、その前にダメ人間を脱却せねば!

これではいずれお会いするこの世界の魔王に笑われてしまう。

それはかつてわしが生きていた世界が笑われるも同義語。

わしはあの世界…トゥアーリア代表として恥ずべき行いは出来ぬ身よ!

その為には…

わしは令嬢を見る。

「な、なによ!」

一歩後ずさるので一歩前に進む。

「ちょ、ちょっと私を誰だと思ってるの!?

私は朱雀甘利!朱雀財閥の血筋なんだからね!?」

朱雀財閥とか知らぬ。

知らぬが、この令嬢についていけばきっとダメ人間を脱却できるに違いない。

人間として生きる術を学び目指せ目立たない平凡な人生を、だ!

わしは片膝をつく。

そして、彼女の手を取り額にあてる。

「私は朱雀様に忠誠を誓い、あなたの言葉に従い生きていきます。

この哀れな物の道理を知らぬ私に進むべき道を指し示してください。」


「….は?」

彼女の声と同時に雨が降った。




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