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勇者と魔王はお友達!  作者: さやか
29/68

協力って大事だね。

地底湖は確かにあった。

しかし。

「いないじゃねぇか。」

ぶっきらぼうにレオナルドが言う。

まあ、生き物だからな。

常に湖面にいるとは限らない。

「湖底にいるのかな?」

シャルが湖を眺めながら言う。

「釣らなきゃダメってことか。」

ジェシーが言う。

「どうやる?」

「猫を餌に釣るのは?」

「お!いいな!それ!」

「にゃっ!!?」

ジェシーの意見にレオナルドが乗り妖精猫(ケットシー)が慌てたように彼らから距離をとる。

「じゃあ、この猫を仕留めてその生き血で呼び寄せるに賛成な人ー!」

アッサムと俺以外見事に手を挙げた。

俺?今回は見学だから不参加です。

「え?アッサムは反対なの?」

「このくらいの猫の血では足りない。」

「ああ、猫が可哀想だからという理由ではなくて何より。」

「にゃっ!?」

この猫の命は風前の灯火だ。

「だけど確かにな。他の案を考えるか。」

「大きな音を出しておびき寄せるのは?」

「どうやって出す?」

「レオナルドさんがちょっと暴れれば余裕じゃない?」

シャルが可愛らしく小首を傾げる。

確かにこいつのバトルアックスで辺り構わず破壊しまくれば余裕で大きな音が出るだろう。

「それでもいいけど、俺の力で加減を間違えると生き埋めだぞ?」

「それは困るな!」

ちっとも困らなさそうな声でジェシーは言う。

「なら大海蛇(シーサーペント)の好物で釣るのは?」

「好物ってなんだよ。」

「船。」

アッサムが言う。

「おいおい、船なんかないじゃんよ。」

ジェシーが言う。

「まあ、そうだが、時にお二人。

もしや船持ってたりしないか?」

アッサムが問いかけ、この問いに二人は顔を見合わせ…ニヤリと笑う。

「持ってるなぁ。」

「よくわかりましたね?」

「アイテムボックスを持ってるなら乗り物を入れておくのは冒険者のロマンだからな。」

「お前、わかってんじゃねーか!」

レオナルドが嬉しそうに言う。

何もない空間から馬車や飛行艇を出す。

冒険者になってアイテムボックスを持ったら一度はやりたい事だ。

それも人が大勢いるところで。

これをやれば誰が見ても高ランク冒険者だと丸わかりだし、賞賛を一気に浴びることが出来る。

かく言う俺もやったことがある。

「よっしゃ、出すぜぇー!」

レオナルドがアイテムボックスを開いて小ぶりの帆船を出した。

『おー!』

三馬鹿トリオプラス俺は感嘆の声をあげる。

小ぶりながら中々立派でデザイン性に優れている。

でもな、帆船って、風がなきゃ動かないよな。

その事実に彼らは漸く気づいたようだ。

すごく恥ずかしそうな顔をしている。

特に烈冷の使者のその顔はレアだ。

しかし、五人はめげなかった。

「ジェシー!出番だ!」

「おっし、任せろ!」

…何する気だ?

「まー、見ててよ。」

シャルが笑いを噛み殺したような口調でいう。

「多分、ファリスさんも驚くよ?」

「?」

「あいつがただの馬鹿ではない事がわかる。」

アッサムがそう言った直後、ジェシーの雰囲気が変わった。

大きく深呼吸をして…

『ーーー!』

俺と烈冷の使者は言葉を失った。

ジェシーが唄ったのだ。

凛とした美しい唄声。

世界の呼吸を止めてしまえるのではというほど美しい。

元々彼の容姿も整っていた。

その相乗効果もありこの場の生きとし生けるもの全てがジェシーに注目する。


そう、生きとし生けるもの全てが。


ざわりとした感触がする。

「湖…見てください…!」

ジェシーを見るか湖面を見るか一瞬迷う。

しかし、見なくてはならないことはわかりきっていたので俺達は湖面を見た。

そこにはぬらりと光る銀色の鱗。

「…来たな。」

「ジェシー!もう止めていいよ!」

「っち!せっかく興に乗ってきたところなのに!」

普段のジェシーに戻りほっとしたような残念なような。

しかし、唄声がやんだことで俺達は湖面に集中出来る。

まだ、奴は湖の中だ。

「唄声に誘われてやってくるとは、化け物も芸術がわかるんだな!」

「ですがそれが命取り。」

烈冷の使者は武器を手にする。

「俺らとお前らどっちが奴に致命傷を与えられるか勝負しねぇか?」

ジェシーが剣を抜きながら言う。

「はっ!負けが確定した勝負するなんてお前はアホか?」

「とか言って自信がないんでしょ?」

懐から鉄製のナイフを取り出す。

「俺達が勝てばいい加減馬鹿にするのをやめて貰おうか?」

アッサムがシャルのナイフに補助魔法をかけた。

「いいでしょう。格の違いを見せてあげます。」

言ってケイフォルはミスリルの矢を手にする。

「話は纏まった。俺達を馬鹿にしまくったお返したっぷりしてやんよ!」

「吠えたらぁ!」

レオナルドが嗤いながらバトルアックスを湖面に叩きつけた。

盛大な水しぶきがあがり、その音に驚いた大海蛇(シーサーペント)が湖面からその頭を出す。

そこに狙いを定めたケイフォルがミスリルの矢を数本纏めて放つ!

それは寸分違わず眉間を両目を喉を射る。

しかし、丈夫な鱗で覆われている為たとえミスリルの矢といえども致命傷とは程遠い。

水晶よりも硬い両目も傷などほぼついていないだろう。

「次は俺達だ!」

言うが早いかジェシーが飛び出す!

「ジェシー、補助だ!」

アッサムが慣れたように補助魔法をかける。

その助けもあり、ジェシーは湖面を走り、大海蛇(シーサーペント)の元まで辿り着き剣を一閃する。

鱗が数枚飛び散った。

剣は一欠片も欠けたりしていない。

腕が悪ければ欠けるどころか折れるが、彼の腕なら問題はなさそうだ。

なおも斬撃を続けるジェシー!

流石に煩わしくなったかジェシーに大海蛇(シーサーペント)が視線を送り吠えた。

しかし。

ジェシーは臆する事なく猛攻を続ける。

遂にジェシーに長い首を傾け食らいつこうとしてきた。

「待ってたよ。」

ジェシーが嗤った。

ジェシーが大きく引いた…と、同時に大海蛇(シーサーペント)の背後から飛び上がる小さな影。

「頭がガラ空き!」

シャルがナイフを投げつけた!

蛇の弱点である頭頂部に補助魔法で切れ味倍増のナイフが突き刺さる!

ジェシーが囮になって気をひくと共に高い頭を低くさせるとは中々やる!

大海蛇(シーサーペント)もこの弱点もろ喰らいの一撃は効いたらしく頭を上に向ける。

頭上のシャルは動けない。

大海蛇(シーサーペント)の頭突きを体全体でシャルは受けた!

「…おい!」

俺が思わず身を乗り出そうとするのを制したのはアッサム。

高位治癒(ハイ・ヒール)!」

途端シャルは銀色の光に包まれて回復し、湖面に着地し、タイムラグゼロで遊撃に向けて駆け出す。

なんつぅ無茶な事しやがる!

こいつらシャルが怪我すること織り込み済みで作戦立てやがったな!?

俺が言いたい事がわかったのだろう、アッサムがふいっと視線を外した。

俺の隣で猫がビビっている。

そりゃ、ビビるよ。

自分が死ぬ直前の怪我をする事織り込み済みの作戦を平気で遂行するなんて頭がおかしいかさもなきゃ他人には理解出来ないレベルの絆がなけりゃダメだからな!

この作戦に烈冷の使者は奮起する。

「いやぁはっはっはっ!てめぇら面白い事すんじゃねぇーか!」

「実に痛快!我々も負けてられませんね、レオ!」

「そうだな、ケイ!やるぞ!」

「はい!」

言うと同時にケイフォルが服を脱ぎ捨て羽を晒す。

そして、レオナルドを抱き抱え空を舞う。

それに気づいた大海蛇(シーサーペント)は二人を追うべく視線を彷徨わせる。

その視線を頭上で真正面に受けたところでケイフォルはその手を放す。

レオナルドはバトルアックスを構えて自由落下。

「うおりゃああ!」

ずさっ!

眉間を見事バトルアックスで粉砕した!

バトルアックスを引き抜きすぐさま離脱。

その瞬間を逃さずケイフォルがキャッチする。

まさに火力にものを言わせた攻撃だ。

作戦のCランク冒険者と馬鹿力のBランク冒険者。

こりゃ、解決も時間の問題だろうな。

俺はそう楽観視した。

しかし、事態はいつだって悪い方へと転がるもんだ。


湖面が大きく揺らいだのだ。


「なんだ!?」

俺は思わず声をあげる。

湖面を走るジェシーとシャルは即座に退避行動へと移行する。

その途中、湖面が大きく盛り上がる。

それも複数。

レオナルド達に当たりかけたので彼らも一度俺の方へと戻ってきた。

「なんだ!?」

レオナルドが地面に足をつけると同時にバトルアックスを構えて警戒する。

ケイフォルもその後ろで弓矢を構える。

遅れて俺のところへ戻ったジェシーとシャル。

「下を見たが、まだいた!」

「は?」

大海蛇(シーサーペント)は一匹じゃなかった!」

「はあ!?」

ケイフォルが顔を思いっきり歪めた。

「そういえばあのオカマ大海蛇(シーサーペント)がいるとは言っていたが一匹とは言ってなかったな。」

アッサムが納得顔で言う。

いや、納得すんなって!

俺は顔をひきつらせる。

「つまり何か?ホーンベアの群れの次は大海蛇(シーサーペント)の群れ退治か?」

俺は思わず愚痴を言う。

もう、群れの相手は飽きた。

しかも、ホーンベアの時は一撃必殺で魔法が使えたがここではそうもいかない。

5人がかりでなんとか一匹倒せるかってところにまさかまさかのもう二匹登場だ!

家族か?家族なのか??

俺達が相手していたのは後から出てきた奴に比べて小さい。

子供か?子供なのか?あれは!?

「おい、さすがに不味いんじゃないのか?」

レオナルドが顔をひきつらせて言葉を絞り出す。

「だな…」

ジェシーが同意する。

しかし…

「だが行く!それがロマン!!」

「そうそう!出なきゃファリスさんと旅なんて今後無理だもんね!」

「死なない限り俺が治してやるから安心していってこい。」

三人はやはりバカだった。

どー考えても勝ち目はない。

なのに、武器を構えてあっさりと飛び出した!

「あいつらアホか!?アホなのか!?」

「間違いなくアホですね。」

烈冷の使者はさすがに実力差がわかるのか動かない…かと思いきや。

「ここで俺達が動かないなんて事になったらBランク冒険者の名折れだな!」

「ええ!」

「俺達も行くぞ!」

「はい!」

って行くのかーーーい!!

死ぬぞ!死ぬぞぉぉ!

ジェシーとシャルはアッサムの治癒魔法があるからいいがお前ら二人はそうもいかないだろうが!

俺は頭を抱えその横にいる猫にぽんと肩を叩かれる。

慰めてくれるらしい。

「今は勝負だなんて言っていられません!

ここは共同作戦でいきましょう!」

「了解!」

「どういくんだ!?」

「やっぱ子供から仕留めよう!」

「一番傷ついているしね!」

「よし、ケイ!お前のアダマンタイト製の矢をシャルに貸してやれ!」

「高いんですから大事に使ってくださいよ!」

言ってケイフォルはシャルにアダマンタイト製の矢を投げ渡す!

「では、我々は親の気を引いてますので、早めに来てくださいよ!」

「まっかせて!」

シャルが親指を立てて合図を送り二手に分かれる。

ジェシーが最初に見せた斬撃を子供に繰り出す。

親がそれを助けようとジェシーに寄ってくるが、レオナルドをケイフォルが落とし、その勢いを殺さずバトルアックスを振り回して近寄らせない!

ジェシーはそんなやり取りがすぐ近くで行われているにも関わらず視線ひとつ寄こさず子供の喉元を抉り続けていた。

子供が堪らず頭を下にした瞬間。

死角からシャルが飛び出し頭上へと子供の大海蛇(シーサーペント)の首を駆け上がり頭上に乗り上げケイフォルから借りたアダマンタイト製の矢を頭頂部に突き刺した!

鉄製品のナイフでは鱗を弾くのがせいぜいだったが、さすがはアダマンタイト製、鱗を通過し、その下に隠れていた肉も切り裂き、さらに奥にある骨を砕いて脳髄まで矢はめり込んだ!

『うぉぉぉぉぉん!』

断末魔の叫びをあげて大海蛇(シーサーペント)の子供は倒れこみ湖に盛大な飛沫をあげて二度と起き上がることはなかった。

『うぉーーーん!』

それに怒った親二匹。

仇をとろうとジェシーとシャルに猛スピードで迫ってくる。

それを見たケイフォルがジェシーとケイフォルを拾いに翼をはためかせて飛び込む。

邪魔だと牙をケイフォルに向ける一匹にレオナルドの会心の一撃が決まり牙をを叩き折ることに成功する。

その間にケイフォルがジェシーとシャルを拾い高々と舞い上がる。

レオナルドが死んだ子供の大海蛇(シーサーペント)を足場にしてバトルアックスを構えて真正面からぶつかっていく。

迎え撃つのは牙を折られた大海蛇(シーサーペント)

「はあああ!」

気合いを込めてバトルアックスを振るい頸動脈にバトルアックスを食い込ませる!

まだ足りない!

しかし、ここでケイフォルの手から降りたジェシーが剣を構えて大海蛇(シーサーペント)の後ろの湖面に降り立ち真後ろから剣を頸動脈に向かって凪ぐ!

レオナルドのバトルアックスの刃とジェシーの剣の刃がハサミのように働いて大海蛇(シーサーペント)の首を撥ねとばす!

最後に残った一匹にシャルが鉄のナイフをありったけ打ち込んだ!

煌めく銀の光を避けようと身をくねらせる大海蛇(シーサーペント)

ナイフは避け切ったが無理な体勢をとらされて一瞬動きが止まる。

その隙をついてケイフォルが空からアダマンタイト製の弓矢を放った!

矢は見事両目を貫き血の涙を流させる!

そこにレオナルドのバトルアックスが視力を失った大海蛇(シーサーペント)に襲いかかり命を刈り取った。


気づけば湖面は赤く染まり動いているのは俺達だけになった。

荒い息遣いが場を支配する。

そこに

『疲労回復!』

淡い桃色の光が全員を包んだ。

シャルとジェシーは疲れが完全に消えて荒い息も整う。

レオナルドとケイフォルはそこまでいかないが、体が楽になったのか勝利を楽しむ余裕が出たようで少し微笑む。

そして俺を見る。

「どーーーだ!Aランク!これが俺様の実力だぁ!」

レオナルドの勝利宣言に場が沸いたのだった。






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