頑張っても金にはならない
「ひゃっほーーい!」
俺は浮かれて空を飛んでいた。
Bランク冒険者を助けてこいって言われた時は面倒クセェとしか思わなかったが、あいつらが金を持ってると聞いて俄然やる気が湧いて来た!
生きてたら先程の非礼も含めて謝礼をたんまりせしめてやる!
死んでたら身包みはいで祝杯だ!!
どっちに転んでも俺得でしかないなんて最高じゃないか!!
俺はBランク冒険者からせしめた金で高級娼婦を何晩買おうかと皮算用を初めている。
あー、考えただけで涎が出ちゃうわぁ!
しかし、涎をまじで垂れ流すより早く視界にホーンベアの残党の群れを発見する。
ホーンベアは俺には全く気づいてない。
上になど気を止める余裕がないようだ。
よーーーく目を凝らしてみれば群れのど真ん中で二人程無双している奴らがいる。
「…生きてたかぁ。」
俺はがっくりする。
死んでた方が身入りがいいので当然の反応といえよう。
しかし生きてるのだから、助けなくてはならない。
と、なるとここから攻撃魔法でどかんと一発というわけにはいかない。
俺は仕方なく下降する。
下降すると奴らの戦いぶりが嫌でも目にはいる。
「へぇ。」
言うだけあって中々のもんだ。
赤髪野郎は超でかいバトルアックスを軽々と振り回しホーンベアを叩き潰していく。
ケイとか呼ばれていた片眼鏡野郎は弓矢でホーンベアの眉間を確実に貫き一撃必殺で死体を積み上げていく。
だが、その表情に余裕はなく焦りしかない。
そうか、奴らはホーンベアが集落を蹂躙していると思っているんだな。
実際は俺が片付けたから焦らなくてもこのままいけばお前らの勝ち…いや、その前に体力が尽きるか。
結局は数の暴力でこいつらはほっとけば死ぬ。
一瞬ほっとこうかと思った。
本気で。
しかし、残念ながら片眼鏡が上を見上げた。
あ。
見つかった。
残念、このまま見捨てて身包み剥ごう作戦決行ならず。
一方、片眼鏡はそのお堅い顔を驚きの色に変えていく。
「な、なんで!?」
「どうした!?」
赤髪は未だ俺に気づいていないようでケイに問いかける。
「上!」
言われて赤髪も上を見て…口元が引きつった。
「よ。」
俺は軽く挨拶してみる。
「なんでいんだよ、てめぇ!」
大声で叫んでくる。煩くてかなわない。
仕方なく俺はさらに下降して彼らの側に降り立つ。
降り立った瞬間容赦なく風刃をホーンベアにお見舞いして挨拶がわりに首を跳ね飛ばしてやる。
「氷剣」
さらに手元に魔法で氷の剣を生み出して構える。
俺はこう見えて剣も得意よ?
「そりゃ、暇だからだ。」
「はあ!?」
「集落は?」
「集落に向かって来たホーンベアの群れは壊滅した。」
俺は事もなげに言いながら向かって来たホーンベアの首をまた跳ね飛ばす。
さらに踏み込み別のホーンベアの心臓を貫き、引き抜いた剣を横に凪いで別のホーンベアの胴体を真っ二つにする。
その様子に奮起したか赤髪が先程よりも勢いよくホーンベアどもを叩き潰していくし、片眼鏡も雨あられと矢を放ちホーンベアを討ち取っていく。
「壊滅!?あの時みた星の光…!」
「あれはなんだったんだ!?」
星の光?
ああ、ここからでも見えたのか。
星の光とは顔に似合わず詩人のような例えをする。
「あれは火炎矢だよ。」
魔王に挨拶がわりに叩き込んでやった魔法の基本系だ。
魔王にはこれの修正版を叩き込んでやった。
それを覚えていて聞いてくるとはどうやら余程気に入ったみたいだったな。
「な、訳あるか!!」
赤髪が怒髪天をつく勢いで突っ込んでくる。
その怒りは手近なホーンベアが受付たようでぐしゃりと音をたてて地面にめり込んだ。
こわっ!
「そうです、私どもは魔法は使えませんがそれでも冒険者の端くれ、最低限の知識があります。
あれは火炎の矢などという生易しいものではありません」
片眼鏡が矢を数本纏めて放ち数頭同時にホーンベアを仕留めながら言う。
的を見ずに討取るってすげぇ。
しかし、そんな訳ないと言われても事実それは火炎の矢なのだから困ったものだ。
説明しようもないし、これは一発ぶち込んだ方がいいかな。
「じゃあ、おんなじのぶち込んでやるよ!」
『!?』
「巻き込まれたくなければ下がりなぁ!」
俺は手元の氷の剣を取り消してから二人に下がる時間をやる為敢えて詠唱破棄はせず呪文を唱える。
「…確かに火炎の矢…魔法修正もしていない…」
片眼鏡は最低限とか言ってたけどそれ以上に知識がありそうだな。
そう思いつつ呪文は完成し、二人が下がったのを確認して解き放つ。
「火炎の矢」
『!』
瞬間二人は驚きを通り越して呆然とした。
「…そんな…あ、…ありえませ…」
「いや、実際こーなるから。」
カタカタ震える片眼鏡の言葉に俺は肩を竦める。
俺は呪文を解き放った先を見た。
うん、何もなくなったな。
そう、解き放った火炎の矢は無数にいたホーンベアを森の一部ごと消し炭にしてしまったのだ。
普通の魔法使いが放った火炎の矢ではそうならない。
せいぜい太めの木を一本炭に変える程度だ。
「ちょっと待ってください。…この威力の魔法を行使したということは集落は…!」
「まさか、てめぇ集落ごとぶち壊しやがったか!?」
我に返った赤髪が俺の胸ぐらを掴んでくる。
助けたのにこの態度。
俺みたいに温厚な人間じゃなければとっくの昔に魔法の餌食だよ?
「ちょっとやめてよ。」
俺はその手を外そうとして…できなかった。
すごい馬鹿力で俺を捉えて離さない。
そういやこいつあのでかいバトルアックスをぶんぶん振り回してたな。
見た目通りの重さなら俺の体重に匹敵する筈だから馬鹿力なのも納得だ。
補助魔法をかけてこいつの手を払う事も可能だが俺がそれやるとこいつ吹っ飛ぶからな。
しかし、横にいる片眼鏡も敵意むき出しだ。
マジ勘弁してくれ。
「てめえ、どうなんだ!何か言ってみろ!」
「あの集落は無人ではなかったはずです。
老人、それに子供も…貴方鬼ですか!?」
人の話もろくに聞かずに鬼扱いされた。
ひでぇ。
「ちょっと人の話聞けや!」
俺はきっと赤髪を睨む。
「!」
赤髪はすぐさま手を離しざっと大きく下がる。
どーみても戦闘態勢です。
「いや、武器構えないで。
それに、集落の人たちもちゃんと無事だから。」
「…は?」
「ってか集落自体傷ついてないから」
「いや、ありえないだろ」
「ありえませんね。」
「ちゃんと結界張ったから。」
『…』
二人は顔を見合わせる。
「ってかホーンベアは討伐したし、一度戻らね?
戻って確かめればいーだろ?」
俺の言葉に渋々奴らは頷いた。
あーあ、こいつら絶対助けてやったのに感謝してねぇ。
ってことは謝礼も期待できそうもない。
結局はただ働きかと思うと俺はため息をつく。
そしてこっそり肩を落としたのだった。