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勇者と魔王はお友達!  作者: さやか
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偽物と言いたい気持ちも理解出来るから困るんです

Aランク冒険者の戦い様が見れるなんて一生に一度あるかないかの幸運じゃねーか!!

いけすかないギルマスがファリスさんに縋り付いて助けを求める様を見てその幸運に一も二もなく飛びついた。

シャルもアッサムも同じように思ったんだろう。

なんの迷いもなく俺に追随してくれた。

そして、今俺達はファリスさんとギルマスの後に続いて走っていた。

村にも及ばない集落だからあっという間に西の端にたどり着く。

そこには既に十数人の冒険者がいた。

CランクとDランクが大半だが奥にいるあの赤髪とその仲間と思しき連れは胸元に輝くタグがBランクと示している。

こんな田舎に珍しいな。

だが、赤髪野郎はつまらなさそうな顔をしていた。

連れの片眼鏡野郎も同じく、だ。

なーんか雰囲気悪くね?

「マスター!」

俺より頭一つ分背が高くて細い男がギルマスに駆け寄ってくる。

「来てくれたぞ!」

「助かります!」

「こいつは副ギルドマスターのジョイだ。」

ギルマスが俺達に紹介してくれる。

「ジョイです。よろしく」

「ファリスだ。よろしくな。」

「それで状況は!?」

挨拶もそこそこに本題に入る。

「ホーンベアの群れは今だ絶大な勢力を維持したまま集落に向かってます!

住人達は数名の冒険者を護衛につけてカルドアの街に向かって貰ってます!」

「ご苦労!」

「じゃあ、俺は森に向かえばいいんだな?」

「なあ、あんた本当にAランク冒険者?」

ファリスさんの質問に被せるように聞いて来たのはこの場にいる唯一のBランク赤髪冒険者だ。

中々の男前でイラッとくる。

「本当、そうは見えませんね?」

連れは片眼鏡を片手で弄りながら言う。

その片眼鏡がすんげぇ知的にこの男を魅せる。

顔立ちも悪くねぇからこの二人がいるだけで絵になるわぁ。

…って見惚れている場合じゃねぇし!

こいつらファリスさんに失礼じゃね!?

挨拶も自己紹介もなくいきなりな態度だ!

確かにファリスさんは髪もボサボサだし、着てる服に至っては農夫ルックで防具ひとつ剣一本持ってねぇ。

…あ、疑う理由が正当すぎてグゥの根もでねぇ。

「ああ、一応、な。」

「へえ?じゃあ、ギルドタグ見せてみろよ。」

「失くした。」

『はあ!?』

この場に居合わせた全員が見事に声を合わせた。

いやいや、ありえないでしょ!?

冒険者の命ともいうべきタグ、しかもAランクのタグなら高値で売買されるってぇのに、事もあろうか失くしたって!!

しかも、本人ちっとも気にしてない!!

「え、ちょっと。な、失くしたって貴方…!」

「俺とギルドのマスターであるあんたとは面通しが終わった後だしタグの再発行なんて簡単だろ?」

「え、あ、まあ、確かにファリスさんのタグはこの私が確認済なんで再発行は出来ますが…」

普通失くすか?とその顔が雄弁に物語っている。

「なら問題ないな。で、もう行ってもいいか?」

急いでんだろ?と肩を竦めるファリスさん。

「おい!あんた本当にAランク冒険者なんだろうな!?」

「タグがねぇから証明出来ねぇがな!」

「み、認めねぇ!こんな、冒険者の命ともいえるタグをあっさり失くしたあげくちっとも堪えてないこんな奴がAランクだなんて!」

「冒険者の風上にも置けないゲス野郎ですね。」

片眼鏡が冷たい視線をファリスさんにむける。

絶対0度で場が凍る。

「あー、はいはい。じゃ、俺行くわ!」

我らがファリスさんはそんな二人を意に返さずギルマスに軽く挨拶をして森に行こうとする。

「おい!ちょっと待てよ!お前みてえな冒険者崩れより俺の方が強い!

ここは俺達が熊どもを仕留めてやる!」

「そうですね。我々の方がギルドの役にたつでしょう。」

「確かにあんたら烈冷の使者は強い。

しかし、事は想像以上に悪い。

ギルドマスターたる私が彼のランクは保証しよう。

ここは彼に任せるべきだ。」

「はあ?タグ失くすようなアホに任せられるか!

おいケイ!!行くぞ!」

「はい!」

ケイと呼ばれた片眼鏡は赤髪に追随してファリスさんを置き去りにして森に向かおうとする。

「おい!ちょっと待て!!死ぬ気か!?」

「はっ!こいつに任せる方が自殺行為だね!」

「右に同じく。」

歩みを止めることなく彼らは行ってしまった。

「…あの方々が烈冷の使者…」

誰かが頬を赤く染めて彼らの背を見つめている。

「なあ、シャル、あいつら有名なのか?」

「あー、なんか僕達と同じくらいにカルドアの街に来たBランクの冒険者らしいよ。

試験に受かればAランクって聞いたなぁ。」

さすがシャル。情報通だ。

俺があの烈冷の使者についてシャルに聞いてる間も周りはひそひそなにやら話していた。

「あの嘘くさい冒険者に任せるよりは…」

「てか、本物なのか?タグを拾っただけの偽物じゃね?」

これだけの人数でやるとひそひそ声も普通の話し声とさして変わらない大きさになる。

「どうやは俺はお役目ごめんかな?」

しかしファリスさんは気にも止めずギルマスに聞く。

「いやいや!烈冷の使者達が死んでしまいます!

どうか、どうか!!助けてください!!」

「いやいや、烈冷の使者達に任せておけば安泰だって!!」

「そうだよ!そいつより断然強そうだし!」

「だな!ここにいる全員こいつが偽物のAランク冒険者だって気づいてるから!」

「おーい、偽物さーん、ギルマス騙せても現役は騙せませんよー!」

周りの冒険者達が一斉にファリスさんを貶め始めた。

「おい!お前ら…!」

「まあ、まあ。」

俺が思わずこいつらに食ってかかろうとすると、それをあっさり止めにはいる。

本当に全く気にした様子がない。

こんな状況で傷つかないはずないのに。

Aランクになるにはどれだけの時間がかかるのだろう。

どれだけ血のにじむような努力が必要なのだろう。

彼が冒険者を軽んじてないことはそのランクが俺達を助けた実力が示している。

高々タグをひとつ失くしただけじゃねぇか。

売った訳じゃねぇのに。

「あ…」

ここで俺は一つの可能性に気づいてしまった。

…まさか、あの時森で落とした?

ありえる。

寧ろそうとしか考えられない。

シャルとアッサムもその可能性に気づいたようで顔色が頗る悪い。

「まあ、どうやらお役目御免なようだし?

俺はタグを再発行したら街を出るよ。」

「そんな!」

ギルマスは悲痛な声をあげる。

「貴方方!Aランク冒険者に失礼ですよ!」

ジョイが必死に彼らを止める。

しかし、煽られた彼らは止まらない。

「お?バレたから逃げるってかぁ!?」

「再発行なんてすんなよ。偽物!」

「ここで手を出さないなんてお前冒険者以前に男かぁ?」

揶揄いは大きくなる一方だがファリスさんはそれに応えることなく森とは逆方向へ行ってしまった。

俺達も慌ててついていく。

「おーやだやだ!偽物についていくバカもいんぜー!」

後ろから不愉快な笑い声が聞こえるが無視だ無視だ!

追いかけようとするギルマスと副マスを足止めまでしているようだ。

「ファリスさん!あんな奴ら気にする必要なんかないっすよ!」

「ん?最初から気にしてないけど?」

いつもの調子で彼は言う。

「それより、集落民はカルドアに向かったって言ってたよな?」

「え?あ、ああ。」

俺は頷く。

「俺は彼らを追いかけるよ。」

彼は事もなげに言った。

俺ははっと息をのんだ。

やはり、彼は冒険者なのだ。

あいつらとは違う。

彼はあれだけバカにされたというのに、Aランク冒険者として出来ることをしようとしているのだ。

即ち、集落民の護衛。

「い、一生ついていきます!兄貴!!」

「はっ!?」

素っ頓狂な声を出していますが、俺は…いや俺達はちゃんと分かってますから!




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