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勇者と魔王はお友達!  作者: さやか
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小麦粉も思い込めば薬になる

借りてきたDVDを早速見てみた。

『正義の使者レインボーマン』が正式タイトルで、お人よしで女にだらしないちょっとお間抜けな男が悪の帝王ダーブラの復活を阻止するべく世界中の正義のエネルギー、ジャスティスパワーで変身して仲間と共に戦う…というストーリーだ。

主人公が勇者とダブりすぎて思わず魅入ってしまった。

あやつとは謁見の間でわしが死ぬまでのほんのひと時しか共にいられず交わした言葉は片手で足りる程度ではあったが、それでも充分お人よしで間抜けとわかる人物だったのー。

まず、彼は国に属する戦士ではない。

世界を気ままに旅するしがない冒険者だ。

国に属さぬ彼には魔王を討伐する理由がない。

本来ならば国に属する騎士なり宮廷魔道士なりが軍を組織して対応する案件であり勇者には全く関係ない話だったはずだ。

しかし、彼は魔王討伐の為に僅かな仲間と共に旅に出た。

いくら報酬が莫大であったらからといって危険度天井知らずな魔王討伐を受けるだろうか。

わしなら受けない。

全力でお断りだ。

なのに彼が受けたのはひとえにお人よしだからと推測する。

貴方しか魔王を討伐出来るものがいないのですと泣き落としをされて仕方なく旅に出た…もしくは国を不安に陥れる魔王の脅威に正義感を刺激されたか…何れにせよお人よしだからこそ奴はわしの前に来たのだ。

それは揺るぎない事実であろう。

そして、間抜け。

戦いの最中も仲間を庇って勝手にピンチに陥ること少々。

自分の攻撃呪文であけた穴に足を取られて転倒することもしばしば。

わしの側近であるサキュバスのヘレンに目を奪われて攻撃が直撃すること多々あり。

ヘレンの件で絶対女好きだと判断して城に残っていた女魔族を集合させてみれば狂喜乱舞して仲間に頭を叩かれていたのはいい思い出だ。

そんなアホに殺されたのかわし…

なんか悲しくなってきたからこれ以上は追求しないでおくとして、とにかくレインボーマンは勇者を彷彿とさせる。

今後はこのアニメも見よう。

そして、しっかりと覚えて明日に備えよう。

わしは目をしっかりと広げてアニメを見たのだった。


そして夜8時。

わしは勇者の元にスマートフォンを送還して、電話をかけてみる。

数度のコール後勇者が出た。

「もしもし?」

勇者はどうやらこちらの挨拶を覚えたようだ。

「もしもーし、生きとるかぁ?」

「おう。おかげさまでな。」

勇者が鼻で笑う。

「で、色々聞きてぇんだがいいか?」

「まあ、そうくるだろうなとは思っていたので構わんよ?」

「まず、俺は昨日手元にスマなんとかを持ってなかった。

にも関わらずなんで気づいたらポケットの中にこいつが入ってたんだ?」

「そっちにスマートフォンを送れるのだ、わしの手元に戻す事も容易い。

勇者の手元にスマートフォンがない場合は一度わしの手元に戻して再度其方の元に送還しておるのじゃ。」

「まじかよ、呪われたアイテムよりタチが悪い。」

失礼な事を言う。

「昨日はそれで助かったというのに随分じゃな。」

わしは不機嫌を隠さず言ってみる。

「いや、そいつは助かったし、礼はいうぞ?」

慌てたように勇者は言う。

やはりお人よしだ。

わしは内心ほくそ笑む。

「ただ、魔力操作の理屈だけでも教えてくれ。

これはちょっとありえない話だからな。」

「理解出来るとは思えぬが…まあ、いいぞ。」

わしは騙すことにした。

「他人の魔力を操作してみたいとは魔王だった頃から思っていたのじゃ。」

自分は他人に比べて魔力操作が得意だった。

故に他者の魔力も操作出来るに違いないと奢っていた。

「しかし、結局生前にはかなわなかった。」

そんなわしでも他人の魔力操作は困難極まりなく、幾度となく魔力を暴走させて城の一部をふっとばしていた。

「生まれ変わりこちらでは魔力は極小しか得ることができないのでそちらより危険度は低いと判断して実験を続ける日々。」

いくら魔素が少ないといえども魔力の暴走は多大なる影響を与えその度にもみ消していた。

「しかし、ある日閃いたのじゃ。」

既に発動した魔力を操作するのではなく、発動前の魔力を操作すればよいと。

「それが出来れば発動していないぶん周りへの影響は落ちると判断した。」

と、いうかもみ消しが面倒になり周りへの影響が少なくなる方法を考えていたらこの発想の転換へ繋がったのだ。

「もっとも容易な操作とは何か、を考えた結果が魔力量の増減だったのじゃ!」

わしは堂々と嘘を言う。

そう、嘘八百だ。

言うは易く行うは難いのじゃ。

テレビのボリューム操作のようにうまくはいかなかった。

簡単に魔力の増減というがそもそも魔力とは何かというのがわからない。

魔力って気体?液体??固体???

それすらわからないのに魔力の増減を操るなんて無理じゃねって話なわけだ。

じゃあ、あの数値は何でどうやって勇者の魔力を操ったかというと…

「魔力の持続時間から算出して魔力量を測る」

…なんてね、実はあの数値適当なのよ。

単にこっちのパソコンで数字をちゃりちゃり打っただけぇ。

てへぺろ。

「ほー、そんなことできんだぁ」

予想通り今頃アホヅラして頷いておるのだろう。

言える訳ないのだ。

あれは技術でもなんでもない、心理操作(ハッタリ)だったなんて。

でも、どーーしてもやってみたかったのだ。

人はこうと思い込めば小麦粉さえも薬に変えて体を癒すらしい。

すごいよなぁ、って思っていつか機会があれば検証しようと思っていたのじゃが。

まさに、あれは千載一遇のチャンスだったといえよう。

阿保な勇者は騙しやすそうだし。

なんかすんごく切羽詰まってたみたいだから深く考えなさそうだったし。

なんかそれっぽいパフォーマンスをすれば出来るんじゃないかなぁって思った。

万一失敗しても、別にわしは困らないしの。

それに勇者はわしより強い。

どう考えてもホーンベアの群れなぞにやられはしない。

失敗しても自力でなんとか出来るはずじゃしぃ。

今後もうまく騙して実験しまくろう。

そう考えると今回の成功でわしへの信頼度はあがったはずじゃし、実験しやすくなったかのぅ。

ぐふふふ。

「まあの。数値化が出来れば後は簡単。

雅楽魔法に音を遠くまで飛ばす遠耳、個人にだけ音を聴かせる近耳があったじゃろ。

あれの応用で魔力の増減を操作したのじゃ。」

自分で言ってて意味がわからない。

質量と音量はまったく別物なのにさも同じようにわしは語っている。

「ほー。」

勇者は簡単に信じた。

本当、阿保でおバカさんじゃの。

なーんでわし、こんな奴に殺されたんじゃろ。

情けなくなってきおったわ…。

「のう、そんな話よりそっちの話を聞かせておくれ。

わしを討伐して何を得たのじゃ?」

「あ、あー、…まあ、爵位は貰ったなぁ。」

「ほう!じゃあお主今は貴族か!」

わしは感心した。

ただのしがない平民風情の冒険者が貴族への大躍進!

しかもわしが捉えていたアリアナ姫を助けた者として王家は勇者を優遇しているはず。

爵位も将来の姫の伴侶になることを見越して侯爵くらいは得ているのでは?

いや、もう奥さんになっているのかな。

「そして、美人の奥さんがいて…のう、お主、あまりフラフラしているとアリアナ姫に愛想つかされるぞ。」

わしは釘をさしておく。

確かに正義を貫く旅は大事だが、家庭をおろそかにしてはならぬ。

母上はいつも父上の帰りを首を長くして待っているのを知っているから特にそう思う。

「いや、俺独身だから。」

「なんと!?お主、まだアリアナ姫に手を出してなかったのか!?」

あのサキュバスをみて裸になろうとした奴のことじゃとっくに口説き落としたと思ったのだが。

「本命には奥手?」

「違うわ!!」

「じゃあ、なんで結婚しとらん?」

「…こっちにも色々事情ってもんがある。」

じじょー?

そんなもんがこの勇者にあるのかの??

さては、女好きがバレてとっくの昔に三行半突きつけられたな?

ふふん、わし、結構鋭いのだぞ?

しかし、揶揄いすぎると明日の電話に出てくれない可能性があるからこれ以上の追求はやめておくかの。

わし、優しい!

「と、いうことはお主は貴族でありながら冒険者でもあり、お主の助けを求める者の為に今もなお頑張っておるのじゃな。」

「まあ、頑張ってはいる。お前は?」

「わしか?」

「おう、異世界の話も聞きたい。」

「ほー、お主がわしに興味を持つとはの。」

わしは自然と笑顔になる。

興味を持った対象に同じように興味を持たれるというのは実に嬉しいものなのだな。

「話が合う者がいないんだろ。」

「まあの。魔法の話や前世の話などわかるものはおらぬ。

しかし、孤独ではなくなったの。」

「孤独だったのか?」

「家族以外話す者はいない。そんな生活だった故に話し相手を求めてスマートフォンを異世界に送還したのじゃ。」

こう言うとわしは不幸な少女に聞こえるかもしれぬがわしはとても幸せな第二の人生を歩んでおる。

昔、わしは千年生きて一度も太陽の光を浴びることなく生を終えた。

魔王城は広く、たくさんの仲間や側近がおったが彼らから話しかけられることはなかった。

わしを見れば皆跪き首を垂れる。

わしから話しかければ答えるが彼らはいつだって言葉を選んでおり本音はついぞ聞くことなく終わった。

そして生まれ変わった現在。

スマートフォンを異世界に飛ばす技術がなかった頃は家族しか話し相手がいなかった。

しかし、彼らはわしから話しかけるのを待つでもなく、頭を下げるでもなく、ジョークも言う。

間違いなくわしはこちらの世界のほうが自由で楽しい。

しかし、家族以外とも話してみたい。

魔法の話をしてみたい。

わしの隠した素顔を晒したい。

そんな欲求からスマートフォンを異世界に送ってこうして勇者と話している。


のう、勇者。

其方ならばわしの死後確実に生きているだろうからこそスマートフォンを渡したと言ったが、其方にスマートフォンを渡した理由はそれだけではないぞ?


わしは嬉しかったのだ。


千年あの城にいて初めてわしに話しかけてくれた其方の存在が何より光り輝いておったのじゃよ。


まあ、話しかけられた直後に火炎魔法で吹っ飛ばされて感動もクソもなくなったがの。





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