昔話をしたい
昔話をしよう。
と、言ってもそんな大昔の話じゃない。
ほんの4年前の話だ。
ほら、つい最近だろ?
忘れたか?
わしとお前が初めて会った日の話をしようというんだ。
懐かしいだろ?
あの広い謁見の間で出会った日。
あれが正真正銘初対面だったがお互いやるべき事はわかっていたな。
ああ、そう、殺し合いだ。
互いに名乗りは不要。
お前はそこにいてわしがここにいる。
それだけで十分だ。
いや、お前にはお前の言い分があるのだろ?
わしにもあるさ。
だが、どんなに話し合ってもそれは平行線だ。
やるまでもない、試すまでもない事実。
少なくてもわしは過去に戻ってもう一度やり直せると言われても同じ道を歩むと自信を持って言えるぞ。
うん?
お前は違うのか?
そうか、ではわしの片想いだな、はは。
そう、殺し合いだ。
あれは楽しかったな。
お前もそうだろう?
お互い全力だった。
掛け値無し、本気だ。
知略の限りを尽くし、仲間の援護を受けて、持てる力を振るった。
そういえば終わった後はどうなったんだ?
え?
地形が変わった?
まあ、そうだろうな。
寧ろ地形だけで済んでよかったな。
後片付けは大変だろう。
え?
特に何もしてないのか?
やったらやりっぱなしって行儀が悪いぞ?
まあ、別に構わないが。
なんだ、昔話は飽きたか?
お前にとってこの話は楽しい栄光の話だろ?
わしにとっては屈辱の話だ。
そんなつまらない話くらいしかわし達には共通の話題がないのだから仕方あるまい?
ん?
無理に話す必要がないとな。
つれないのぅ。
わしは暇なのだよ。
話の合う者がいないのだ。
わかるだろ。
だってあれからたった四年しか経っていないのだから。
あ、呼ばれた。
すまんがまたかける。
え?
かけるなって?
いや、お主もぶっちゃけ暇だろう?
世の中平和になったのだからな。
ハハハ、ともかくこの会話でそちらとこちらでは時差がない事がわかった。
また、寝る前にかけることにする。
わしは大体夜八時には床につくからまたその時に。
言ってわしは通話ボタンを切った。
「まさか本当に繋がるとはのぅ…」
わしは独り言を呟く。
それと同時に部屋に入ってきた女性。
黒い髪をひとつにくくった可愛らしい人だ。
「あら、まやちゃんここにいたのね?
ほら、今日からママお仕事だから、保育園に行くって言ったわよね?
遊んでないで、お片づけして…そう、さあ、行くわよ。」
「はぁい、ママ!」
わしはにっこり微笑んだ。
わし、瀬戸内摩耶。
年の数は三。
なに、ついこの間まで異世界で魔王やってた者だが今日からしがない保育園児だ。