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第7話:歌姫から焼き芋買う

 夕暮れ小道を真桜と下校。

 朝はハイペースで駆け抜けたが、帰りは通常歩行。徒歩30分の旅である。


「♪〜」


 真桜はどうやら上機嫌。お世辞なしにはウマイと言えない鼻歌歌っちゃってるよ。

 後ろをトボトボ付いていく俺にはその表情は見えないけど、それなりにいい顔をしてるのだろう。間違っても俺を殺りに来るような怖い顔ではないはずだ。


「♪♪〜」


 いやあ、平和だねぇ。

 この平和がいつまでも続けばいい。そう願わずにはいられません。


 平和はこんなに尊いモノなのに、人はどうして過ちを繰り返すのか? それは人がこの上なく――


『いいぃぃぃぃしやあぁぁぁぁっきいもっ! やっきいもぉおぉぉぉおおぉ!』


 焼き芋好きだからだ!


「って違うわ!」


 変なコト言わせんな! このビューティフルヴォイス!


 住宅街のど真ん中に止まっている焼き芋の屋台。

 拡声器を使ってこちらに呼びかけてくる……否、怒鳴りかけてくる少女(頭に美がつく)


 声は綺麗なのになんて迷惑な……。ハッ、まさかこれは俺に対する洗脳攻撃か!?


「くっ――来るなら来い、毒電波ッ!」


『焼っきたてえぇ! ほっかほかあぁぁぁぁ! おいしぃぃぃい! やあっきいもだよぉぉぉおおぉぉぉぉ!』


 無視かよ! 反応しろよ!


 てかスピーカー越しならそんなに大声出さんでもいいだろ。

 騒音公害だぞ、引越しおばさんだぞ! そーれ、ひーこっし! ひーこっし!


『買わんかねぇ? 買わないのかねぇ! 真桜っちにヨシヒロおぉぉぉぉっ!』


「名指しすんなあぁ!」


「3つ下さい」


「真桜もフツーに受け答えしないで!」


 大声で名前呼ばれてんだから少しは動揺しようよ。


『まいどありぃぃぃ、真桜っち!』


「名前を呼ぶならマイク切りなさい、九八(このは)


 俺の願いが少しは届いたか、マイクに関してツッコミを入れながら真桜が焼き芋売りの名前を呼ぶ。


 久遠(くおん) 九八(このは)。それがこの焼き芋売りの名前。

 宮水沢学園高等部2年1組所属にして生徒会会計長……つまり、風月の上司だ。

 “十七時の歌姫”の異名を持つほどのキレイな声なのだが、焼き芋の売り文句を述べていると途端に平民レベルな雰囲気。

 歌姫呼ばわりはダテじゃなく、見た目は黒髪のポニーテールが映える凛とした美少女。

 口を開けばマシンガントークだが、ある種のカリスマで学園のアイドル的存在と化している。


 しかし、人間的にどうかという問題もある。それがマネージャンキー(命名、俺)。まあ、要するに『お金大好き!』な人だ。

 九八曰く、『特に買いたい物がある訳じゃないけど、とりあえずお金が欲しくなるのさ』ということらしい。やっかいな……。

 なので生徒会会計課の長であるにも関わらず活動をサボタージュし、こうしてバイトやら何やらをやりまくっている。まあ、みんな分かってるから気にしてないけど。


『おっけえっ! 了解了解りょうかいなのさ!』


 マイク切ってねえ……。


「おいおいっ、3つでヨロですかぁ?」


「ヨロよ」


 日本語崩壊フィールドが辺りに展開されているようだ。何語しゃべってんだよ、お前ら!

 きっとそのうち、俺の言葉もこいつらに侵食されるんだゼッ!


「オッケー! 焼き芋3つ、出発シンコー! 計681円になるのさっ!」


「待て待て待て! 何だその半端な金額は!?」


 どういう価格設定だ。


「小学校の算数もできないのかい、ヨシヒロ。1つ227円だからに決まってるのさ!」


「そうじゃねぇ! 何でそんな半端なんだよっ!?」


「あー、最近の原油高でさー」


 イモ関係あんの!?


「せっかく軒並み価格上がってるんだし、ここは焼き芋もビミョーに上げよっかなーって」


「不当に上げんなァッ!」


 詐欺だろ! それサギだろっ!? 


「……(サギ)は実はコウノトリの仲間なのよ」


 そんなムダ知識はいらねえっ!


「ともかく、お会計いいかしら」


「はいはいっ、681円ちょうど! お預かりいたす!」


 そこは普通『お預かりいたします』だよね。


「焼き芋3つ、ドゾー!」


「ドモー」


「だから何語やねん!」


「んー……ドラヴィダ語……?」


 何語だよ。適当に言うなよ……。








「ところで真桜、なんで3つなんだ?」


 真桜の家、倉里家の住人は現在真桜と蒼兄しかいない。

 真桜の父さんは単身赴任でニューヨークに行っている。母さんは日本にいるらしいけど、お仕事を頑張ってるそうな。


 そんな訳で3つという数字は妙なのだ。1つは真桜、もう1つは蒼兄。じゃあ残り1つは?


「決まってるでしょ。私、お兄ちゃん、それと――」


 真桜が焼き芋の入った袋を俺に向ける。

 えっ、俺にくれるの? あの真桜が? 毒でも入ってるんじゃ?


「紗百合さん」


「俺はっ!?」


 毒入りと疑った俺が言えることじゃないが、母さんに渡すのに俺にはないのかっ!? ないのかっ、真桜おぉ!


「あははは、泣くな泣くな! むしろ啼くのさ!」


「お前は慰めたいのか、それとも煽りたいのか、どっちだ!」


 この歌姫は計り知れん。


「ままっ、ほらほら焼き芋でもドゾ」


 そう言って九八が焼き芋を差し出してくる。

 むう……問題発言があったとはいえ、こうやってすぐにお詫びの品を差し出してくるとは、なんという優しさ。


「278円でーすっ!」


「金取んのかよっ! てか値段上がってる!?」


 さっき227円だったよな!?


「なに言ってんのさヨシヒロ、物価というものは刻々と移り変わっていくのさ」


「そういう問題か!?」


「そういう問題さ!」


「そういう問題よ」


 真桜まで同意しないでくれ。俺が間違ってるみたいじゃないか……。


「この場において少数派のヨシヒロが間違いなのさ。民主主義的考えで」


「そ、そんな馬鹿な……」


「あなたが馬鹿なのは今に始まったことじゃないわ」


 そんなことはない。俺は馬鹿じゃない。ちょっと抜けてるお茶目さんなだけよ?


「キモ……」


「ヨシヒロ、キモイのさ」


「うっせえ! 黙れやあ!」


 つーか思考を読むな!


「値札ないのか? どっかに貼ってあるだろ、普通」


 正規の値段を探すべく、九八の焼き芋屋台を調べてみる。

 おっ、俺らから見て真反対に札発見。なになに……


「焼き芋1つ、時価」


「そだよー、時価なのさ」


「…………」


 こんな、こんなっ……


「こんな使い古されたネタをっ!」


「喜んでくれてあたしも嬉しいのさ」


「喜んでねえぇぇぇぇ!」


「まあまあ、その大声に免じて1つ298円で売ってしんぜよー」


 高くなってるよ!








 結局、287円で焼き芋を買った。うまいなぁ、焼き芋。


 帰宅後、真桜からもらった焼き芋をほおばる母さんに、九八とのやり取りを話すと、


「ヒロくんはダメだねー」


「何故にっ!?」


「物価は刻々と移り変わる。コレ常識よー?」


 あんたも敵か、マイマザアァァァァ!









なんとか第7話を投稿。一日一話ペースは限界のようです……。


勤労アイドル、九八登場の巻。


“九八”と書いて“コノハ”です。自分で書いててスゲー名前です。

生徒会をサボるダメな子ですが、キャラとしては使いやすいので結構出番があるかもしれません。


ついでに、今回でやっと一日が終わりました。長いなぁ……。

そのうちに一話で一日が過ぎていくようにして、現実の季節に追いつきたいです。

……それでも追いつけそうにないのが恐いですが。

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