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第17話:超絶技巧球技大会2

 宮水沢学園球技大会。

 体育委員会の主導で行われるこの大会は妙なところで無駄に豪華である。


 たとえば――




『さあ開幕しました、第うん十何回目の球技大会! サッカーの実況はあたし、皆のアイドル久遠 九八なのさ』




 1つの競技に必ず1人は実況がいたり、


「カメラが1台。カメラが2台……」


「クラスメイトA、そういうのは気にすんな」


 どこのTVクルーですか? とか聞きたくなるようなカメラマン(実態は放送委員)が試合をつぶさに撮影してくれたり、


「ギャラリー無駄に多いわなぁ」


「クラスメイトQ、そういうのも気にすんな」


 どこの競技場ですか? とか聞きたくなるような観戦席(北京スタジアムもビックリ)が建設されてたり、


 ……無駄に豪華だよな、うん。


 だがしかあぁぁし! そんなことは今さらなのだ! 気にしない、気にしなーい。


 さて現在、お着替えも済ませてセンターに集合。

 我らが6組精鋭と戦うのは2組! 悪いがこの勝負……勝たせてもらうっ!


「もらうぞっ!」


「へっ? な、何?」


 俺の上げた声で2組のヒョロ眼鏡なキャプテンが怖気づく。

 フッ、この程度の言葉で動揺しおって……勝負の行方はもう見えたな。




『解説は毒舌評論でお馴染みの夜帳さんちの姫っち。ゲストは今年も恐怖政治をお送りする魔王陛下、倉里さんちの真桜っち。それじゃ2人ともヨロシクなのさ』


『“姫っち”はやめてくれません? どうしてもそう呼ぶというなら、今日から貴女のあだ名は“ギトギトした黒いの”になりますわよ』


『“真桜っち”に別に異議はないけど、こんな所に私を呼び出して何をしろと?』




「…………」


 うわー……。


「おい東雲、顔色悪いぞ?」


「気にするでない、クラスメイト無印。問題ない……英語で言ったらモーマンタイ!」


「やっぱダメだろ、お前。てか無印言うな」


 無印は無印なんだから仕方ない。

 そんなことより何? あの2人が解説+ゲストなの? とってもやりにくいのは気のせいですかね?




『さてさて、初戦は2組VS6組! 無駄に地味な2組と、無駄にテンション高い6組。お2人とも、どっちが勝つと思うかな?』


『……わたくしの見立てでは五分五分ですわね。たしかに6組は浅井あさい倉須くらす、東雲といった強力な攻撃陣を有していますが、2組のキーパーは弱小サッカー部を全国大会にまで導いた救世主、山本やまもと 馬熊まぐまですわ。攻撃、防御のどちらかに偏っているとはいえ、実力伯仲。白熱した戦いが見られるでしょう』




 うわっ!? 一姫がまともなこと言ってる!

 こ、これは天変地異の前触れかもしれない……!




『うわっ!? 姫っちがまともなこと言ってるのさ! こ、これは富士山噴火の前兆なのさ……!』


『それはどういう意味ですの……“ギトギトした黒いの”?』


『……謝るからその呼び名はやめてほしいのさ』




 まあ、“ギトギトした黒いの”って言葉からは明らかに嫌なもんしか想像できんもんな……。

 あの九八を黙らせるとは……さすが一姫。俺には真似できん。



『もう何人か同じようなことを考えた方がいらっしゃるようですわね。……今度会ったら覚悟なさい、特にY.S』




 Y.S=ヨシヒロ・シノノメ? 俺の思考を読んだのか……一姫、恐るべし。




『え、と真桜っちはどうかな?』


『戦力分析は一姫がやったから今さら、ね。私から言えるのは1つだけよ』


『おおっと、何なのさ?』


『真剣勝負において負けは死を意味するわ』


『ええっと、つまり?』


『死にたくなければ勝て、6組』


『……以上! 放送席から魔王陛下の応援メッセージなのさっ!』




 ……わー、魔王陛下のありがたいお言葉だぞー。

 って、ウワー! もう負けらんねぇよ、てやんでい! ああ負けられねぇ、べらんめえっ!

 やりにくいとか言ってる場合じゃねぇ!


「6組男子諸君――! 我々は存亡の危機に直面している!」


 そう、この試合……否! この戦争は負けられないのだ!


 この戦場に居並ぶ戦友たちの顔を1人ずつ見ていく。居並ぶ顔ぶれを見ていって思うのは……


「ブッサイクだなぁ、お前ら」


「「「「「ケンカ売ってんのか、テメエェッ!!!」」」」」


 ハッ、ついつい本音が。いかんいかん。


「ゴホン――精悍な顔付きだな、お前たち」


「「「「「…………」」」」」


 めちゃくちゃ冷たい視線が突き刺さってくるけど無視無視。


「俺たちは自分たちだけじゃない、試合に参加しない他の6組男子の命をも背負ってんだ……それを、その重みを、忘れるんじゃないぞ!」


「何キロ?」


「え? えーっと……」


 お、重さが何キロかなんて聞かれるとは思っても見なかったな。他の6組男子の命の重みは……


「よ、42.195キロ」


「軽いよ!」「細かいよ!」「マラソンかよ!」「キロメーターかよ!」


 あああああ。ツッコミマシンガンの連射を受けた。でもそんなのカンケーねえ!


「とにかーく! 俺たちは勝たねばならない! それこそが――使命なのだ!」


 そう、使命。命を使うと書いて使命。

 俺たちは生き残るために優勝しなければならないのだ。そのために命を使わねばならないとは、なんとも本末転倒ではありませんかね?

 だが、今さらそんなこと気にしてても仕方ない。仕方ないんですよ、奥さん。


「それじゃあ、サイレンがなったら試合開始ですから」


 人数確認が終わった審判さんが、最終確認のように告げてくる。

 ふむ……サイレンが鳴ったら、


「山奥の閉鎖的な村から脱出するんですね、わかります」


「はいそうです。視界ジャックをうまく使ってくださいね――って違います」


 はっはっはっ。ノリツッコミありがとうよ、審判さん。


 さて、視線を巡らせて巨大なデジタル時計を確認する。残り数十秒で試合開始。

 ボールはこっちが取った。が、逆光で相手側を見るのが困難。視界最悪。

 敵は2組。個人の運動能力はこちらが上。ただし2組キーパー、山本 馬熊だけは別格、要注意。

 さて、そんな2組相手にするためのマーベラスでブリリアントな作戦は――




 ビイイイイイイイイィィィィィィィィィィィ!




「さあ突貫だぜッ! 逝くぞA、無印! ヒャッフウウウウゥゥゥゥゥゥ!」


 作戦など、ないっ! 所詮俺の頭じゃ、ナポレオンが如き軍略を生み出したりはできないんだよ!

 高笑い(?)をして2組の軍勢にプレッシャーを掛けつつ、ドリブル! ドリブル!


「りょーかいっ!」


「分かった。てか無印言うな」


 クラスメイトA、および無印が俺に次いで前に出る。


 左右を走る両者を尻目に、俺は華麗に中央をドリブルで走破する。

 散らばっていた2組ディフェンス陣が走る俺目掛けてワラワラと集まってくるが、


「その程度の腕前でぇっ!」


 右から来たヤツは相手にせず素通り!

 左から来たヤツはスピードをちょい上げて楽々突破!

 正面のヤツにはフェイントかまして、バイバイさよならまた明日!


「俺を捉えられるとでも思ったか、ハッハー!」


 遅い、遅い、遅すぎるわっ! 真桜に比べりゃお前らなんぞミジンコ並じゃ!

 サッカー不得意なんだか、やる気ないんだか知らんが、そんな鈍足で俺からボールを奪おうなどとは夢また夢……61式戦車でサイコガンダムを倒そうとするようなものだぞ。


 そんなこんなでディフェンス陣を突破。

 しかし、ここまでは俺のポンコツ思考回路でも十分にシュミレートできた展開だ。問題はこ・こ・か・ら♪


 ゴールの前に仁王立ちする大柄な男――山本 馬熊。

 サッカー部の救世主とも言うべきこの男を攻略しなければ、俺たちに明日はない……!


「まずは小手調べっ――受けてみれぇっ!」


 左足で宙に浮かせたボールを右足でシュート!

 回転をかけた一撃は空中でカーブを描き、ポストすれすれでゴールに入るという俺の必殺球だ。

 真桜なら簡単に防ぐんだろうが……普通の人間が防御するのは難しい、はずだ。


 はたして、そんな必殺球は――


「フンッ!」


 バシィィィイ!


「んじゃとおおおおぉぉぉっ!?」


 ――片手であっさり捕まえられた。


 いや、待て! 片手って何だ?

 いくらカーブだからって球速そのものはかなりある、ってか回転かかってる分弾かれやすいはずなんだが?

 それを掴むって……サッカー部の救世主、恐るべし!


「受け取れいっ、長坂!」


 山本が野太い声を上げ、手にしたボールをディフェンスの一人に投げ渡す。


 ハッ、ぼーっとしてる場合ではない!

 必殺球を止められたとはいえ、あれは小手調べ。小手調べなんだ。だから大丈夫。勝てる。うん、勝てる。

 ……ほ、ホントに小手調べだったんだからね!


「と、とにかくA! 任せた!」


「合点承知ノ介! 任せときな!」


 まあ、頼もしいお言葉。

 明らかに運動不足そうなヒョロ眼鏡(長坂くん)に放たれたボールを確保すべくダダッ、ダーッシュ!

 クラスメイトAは運動能力が(常識の範囲内で)高い方だから、ヒョロ眼鏡(長坂くん)からボールを取り戻すことくらい、赤子の手を捻るようなものだろう。


 今思ったけど、赤子の手を捻るって苛めだよね。児童虐待だよね。

 『児童相談所ですが……』『違う、俺は虐待なんてしてない! あれは躾だったんだ!』『言い訳は見苦しいですよ』『俺は、俺は悪くないぃっ!』

 ……おお、なんと言うことだ。日本という国はどうなってしまうんだ!?


 ――そんなことを考えていたのがいけなかったんだろうか。


「お、わあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――……!」


 そんな叫び声だけを残して、


「え、A!?」


 クラスメイトAの姿がグランド上からかき消えた。ザ・神隠し!




『おおうっ!? 6組選手、浅井 英太郎の姿が消えたのさ! 姫っち、これはいったいどういうことかな?』


『よくご覧なさい。地面に穴が空いてますわ。浅井はそこに落ちたのでしょう』


『地面の穴に? 彼はNINJAだったのさ? 土遁の術! ジャパンの神秘〜!』


『貴女はどこの国の生まれですの? 叫び声から考えて彼にも想定外の事のようですし……落とし穴、と考えるのが定石ですわ』


『なんとビックリ、落とし穴! いざ、麻酔玉投げ込んで浅井くんを捕獲するのさ。激運、捕獲名人装備で報酬もウハウハなのさ!』


『……何の話ですの?』


『真桜っち、説明したげて』


『たしか今話題のゲーム……モンスターペアレントハンター、だったかしら』


『最近のテレビゲームは珍妙な物を作りますわね……』




 いや違うから。そんなゲームないから。混ざりすぎだから、真桜よ。


 にしても、そうか……母さんのトラップか! 思いっ切り忘れてたな。

 マズイな。唯でさえ2組の守りは固いってのに、トラップまであるとは……おまけにAは消えちゃうし。


 しかし、今はチャンスだ。眼の前に迫ってきたAが消えるのを目の当たりにして、ヒョロ眼鏡(長坂くん)の動きが止まってる。

 いや、というか選手全員の動きが止まっている。ボールを奪い返す絶好の機会!


「――という訳で、ボールは貰ったあっ!」


「あっ!」


 抜き足差し足NINJA☆Dashで近づき、気配を悟られる前にダッシュで奪取!

 ダッシュで奪取……ホーホッホ、こりゃ座布団一枚。


「A亡き今、山本を倒せるのは俺たちしかいない! 逝くぞ無印!」


「だから無印言うな!」


 もうっ、いけずなんだからっ♪


 再びドリブル! ヒョロ眼鏡(長坂くん)の元までボールを取りに行ったせいで、センター付近まで戻るハメになっていた。面倒くさいが再び行くでっ!


「はい突破〜!」


 相変わらずぬるい2組ディフェンスを突き崩し、目指す相手はキーパー山本。

 さっきは俺の必殺球を見事に防いでくれたが……次はない! 無印と俺の絶妙にして精緻なるコンビネイションを見るがいい!


「いっく――」


 ぞー! と続けようとしたとき、足元でカチッという音。

 明らかに不自然で、かつ普段から聞きなれた音が俺の耳に飛び込んだ刹那、俺は即座にダイビング。ボールも放り出してハリウッドダーイブ!


 次の瞬間、ビュンッという風切り音とともに白い塊が俺の頭上を高速で通過。寸前まで俺がいた所に着弾した。


「くっ、今度はトリモチか!」


 当たっていたら確実に動きが取れなくなっているだろう。

 それ以前に、あの勢いの物体に当たれば吹き飛ばされてたな……。


「て、ボールボール!」


 トラップ回避の為に放り出したボールはコロコロ転がってヒョロ眼鏡がゲットした。長坂あああぁぁあぁぁ!


「待ちやが――」


 カチッ。


「とりゃあああああ!」


 前転回避ッ!


 今度は上からタライが降ってきた。

 地面に落ちてガランガランと虚しい音を立てる。


 ええいっ、どういう仕組みだ!? ここは屋外だぞ!

 絶妙のタイミングで邪魔してくるのを体験すると、母さんがトラップを操作してんじゃないかと疑いたくなるぜ、まったく。


 その後もトラップが入り乱れ、混乱の中続いていく試合は次第に泥沼化していくのであった……。母さん少しは自重しろ!








『初戦から白熱してるのさ、男子サッカー! 残り時間も5分を切り、0対0で両者一歩も引かず! まさに一進一退、互角の攻防なのさ!』


『最初の予想とほぼ同じですわね。もっとも浅井は途中退場ですが……』


『MIAってヤツね』




 真桜よ……MIA(戦闘中行方不明)なんて言わないでやってくれ。

 ただ落とし穴にはまって出てこれないだけだから……行方は分かるんだよ。


 ともかく、0対0。どちらも決め手がないまま残り時間は5分を切った。

 ちなみに球技大会では同点の場合、即座にPK戦となる。そうなったらこっちの勝ち目は薄い。


「という訳で無印。何とかしなけりゃ負けるので、何とかしてくれ」


「丸投げかよ。てか無印言うな」


「フッ――何を言おうがお前の名前はクラスメイト無印。それが俺のジャスティス」


「意味わかんねぇよ」


 わからなくて結構。俺だってわからん!


 ボールをトラップしながら無印と会話するが、良案は見つからない。

 2組ディフェンス陣はへろへろと表現するのが相応しいヘタレっぷりだが、いかんせんキーパーの山本 馬熊に隙がなさすぎる。

 おまけにマイマザー☆さゆりんが仕掛けた罠の数々のおかげで身動きが取りづらい。

 時間もないし、次の攻撃が最後になるだろう。


「無印よ、これが最後の攻撃……いわばラストシューティング、だ」


「むしろラストじゃなかったら負け確定なんだけどな。てか無印言うな」


 フッ――その程度、百も承知!

 PK戦になれば各自もう1回攻撃することになるが、まず勝てないだろうからな。


 デジタル時計をチラ見する。残り時間4分弱。お湯を沸かすことから始めれば、ヌードルすら作れない。

 良案は特にないが、山本ヤツの動きは見切った。そして考えるまでもなく、俺たち6組がとれる戦法なぞ1つしかない。


 6組ディフェンス陣、およびキーパーにも目配せする。頼むぞ、みんな!


「行くぞっ――“フォーメーション・デルタ”ッ!!!」


 大声で叫んでドリブル開始。同時に無印も俺の横を走る。

 ディフェンス陣をゴボウ抜き、一気にゴール前まで駆け抜ける!




『6組、ここで勝負に出るようなのさ! 何やら妙な作戦があったのかっ!』


『多分ノリで言ってるだけだと思うけど』


『作戦を立てるなど一番不得意分野に見えますものね』


『見えるじゃなくて、実際義裕はそういうの全然ダメよ。単純だもの』




 うるさい。そうだよ、ノリだよ、悪いかよ!

 言ってみたかっただけだよ! 作戦なんて立てられないよ! 人間だもの。


 作戦がないから――地獄の特訓で編み出した戦法をそのまま使うしかないのだ!


 サッカー部の救世主よ、これから始まる怒涛の連続攻撃……6組男子の血と汗と努力と涙と根性とその他諸々が不気味に入り混じった技術の結晶、その輝きを――防げるものなら防いでみろっ!


「いっけえぇぇぇぇっ、マグ○ム!」


 『マグ○ムトルネードだっ!』と続けたいところだが、それはさすがに我慢して普通にシュート!

 初回と同じ俺の必殺球。カーブボールがゴール目掛けて疾く駆ける!


 しかし、そこはサッカー部の救世主、俺のシュートに機敏に反応、即座に捕球姿勢を取る。

 やはり山本は判断力と瞬発力がとんでもない。単発シュートでは絶対仕留められない。

 だがその行動、俺にとっては当然の如く『想定内です』。


 実はこの必殺シュート……必殺と言っておきながら必殺ではないのだ。


 放たれたシュートは急カーブをし、山本の手から横に数センチずれてポストに衝突。

 強烈な回転がかかったボールはあらぬ方向に跳ねる。が、それすらも『想定内です』。


「無印ぃ!」


「無印言うなっての!」


 そんな事を言いながらもクラスメイト無印がボールをトラップ、近づいてきたヒョロ眼鏡(長坂くん)を軽くあしらってゴールへ向かう。


「よっ、と!」


 無印の放った鋭いシュートが俺のシュートとは逆側に向けて突き進む。

 山本は即座に反応してボールを防ごうとする。が、無印のシュートもポストに命中。弾かれたボールが宙を飛ぶ。


「ほいさっ!」


 そのボールを受け止めるのは俺ではない。無印でも山本でも、ましてやヒョロ眼鏡(長坂くん)でもない。




『おおっとぉ!? 6組ディフェンス陣が上がってきた……っていうか、もうフォワードと変わらんのさ!』


『キーパーまでやって来てますわね。守りを無視して攻めていますか』




 そうボールを取ったのは我がクラスのディフェンス陣が1人――クラスメイトC!


「パァスっ!」


 Cが鋭いパスを放ち、ボールは逆サイドにいるクラスメイトQに渡される。

 ディフェンス陣によるパス回しを見て、若干の余裕をもって体勢を立て直そうとする山本を確認すると、


「無印、ガンバや!」


「東雲! お前のせいで無印呼ばわりが広まってるじゃねえか!」


 そんなのはあらぬ疑いですよ、おまわりさん。


 Qのショートパスが無印の前に転がり、間髪入れずに無印がシュート!

 またもやポストに向かっていくボールだが、山本は律儀にそれを追う。


 横目で時計を確認。残り1分。


「ヌオオオッ!」


 山本が気迫の籠った雄叫びと共にボールを掴もうとするが、やはり届かない。

 ポストに当たってボールが跳ねる。


 山本は判断力と瞬発力がとんでもないが、強迫観念でもあるかのように無理にでもボールを取ろうとする。

 単発シュートなら絶対負けなし。二連撃で来られても持ち前の身体能力で何とかするのだろうが、執拗な超連続攻撃が続けば……どうだ!?


 これが俺たち6組の戦い方――『数の暴力』だ!


「……倉須くんが無印呼ばわりされるのは、愉快な氏名のせいじゃない?」


 本来ならキーパーをやってるはずのクラスメイトBが、こぼれたボールを拾った2組ディフェンスにスライディング。ボールはコロコロ転がっていき――


「その通り! つまり無印が無印なのは生まれた時からの運命だったのだよ! ジャジャジャジャァァァァアン!」


 ――俺の目の前にたどり着く。


 愛と勇気と正義とほんの少しの悪意を込めてぇっ――今度こそ喰らえや、マイオールウェイキリングシュートッ!


 カーブがかかったボールがゴールに向かって吸い込まれるように飛んでいく。


「やらせるかあああぁあああああぁあっ!!!」


 山本が、跳ぶ。大柄の体からは考えられない大ジャンプ。

 だが、それは悪足掻き。今さら跳んでも俺の必殺球は、必殺球は……あれ?


「マ、マズイ!」


 山本の跳躍力を甘く見ていた! ヤツの手は明らかにボールを掴む射程内にある。


 俺は思わず一歩前に足を踏み出し息を飲――


 カチッ。


「ハッ!」


 しゃがみ回避ッ!


 聞きなれたトラップ発動音と同時、真後ろから飛んできた丸太が俺の頭上スレスレを通過する。

 丸太のワナって……どこの不思議のダンジョンだ。


 にしてもこれは『予想外デース』。この土壇場でトラップを発動させてしまうとは……グランドに仕掛けられた罠はほとんど引っ掛かったと思ってたのに。

 俺に避けられた丸太は重力、空気抵抗もなんのその、そのまま等速直線運動で直進だ。


 ……ん? 直進?


「ゴフアアアッ!?」


 跳躍中の山本にクリティカルヒット!

 ボールに集中していた山本は受け身すらとれず吹っ飛ばされる。


 遮る者のいなくなったボールは当然のようにゴールに入った。




『おおっとぉ、ゴール! ゴールなのさ! 試合終了30秒前! 2組の鉄壁が6組に崩されたのさ!』


『実力的には負けてましたわよ?』


『愚問よ一姫、勝てばいいのよ。学生の球技大会でスポーツマンシップに則る人間なんて、まずいないんだから』




 真桜さん、それは色々問題発言です。








 試合、終了!


「いよっしゃあぁあ! 勝ったどー!」


 それにしても母さんのトラップが役に立つとは……世の中何が起こるか分からんもんだね。


「何はともあれ勝ったな」


「努力! 友情! 勝利!」


「勝てて良かたな」


「よかった、よかった」


 みんなも勝利の美酒に酔っている。

 はっはっはっ、お酒は二十歳からだぞー?


 しかし、この試合ってまだ第一試合なんだよね。初戦から全力全開だったけど……この先大丈夫かな。


 優勝への最大の壁はさわやか3組だ。何と言っても最強戦力である陽介がいる。

 あのクサレ風紀委員長は竹槍を使わずとも普通に強い。運動能力が桁違いだ。

 3組と比べてしまえば我らが6組など『戦闘能力たったの5……ゴミめ!』状態だ。


 ……ま、考えてても仕方ないか。先のことは後で考えればいいし。


「という訳で、皆の衆! 次の試合まで時間がある! その間存分に英気を養ってくれ!」


「「「「「おおっ!」」」」」


 ウム、いい返事だ。


 さてさて、俺は次の試合が始まるまで何してましょうかね?






   ◆






 グラウンドの真ん中で、


「なあ……誰か、誰か引き上げてくれよっ!」


 クラスメイトどころか審判からも忘れ去られ、落とし穴に放置されたままのクラスメイトAがいたという。









テストとレポートの波状攻撃を受け、執筆時間がまるでとれない作者です。

第十七話「第一試合なのに全力出しすぎじゃね?」をお送りします。


はい。義裕が珍しく活躍できる話ですね。

前にも書いた気がしますが、義裕は運動はかなりできるほうです。

周りのメンバーが超人過ぎて本人の自覚はほとんどないのですが……。


ちなみに今回、6組クラスメイト(ABCQ無印)が登場しましたが、ただでさえキャラ多いんで名前は省略ですw

設定上本名は存在してますが、公開されることは恐らくないという不憫な奴らです(Aだけフルネーム出ましたけど)。


試験期間が始まったばかりなので、次回更新は未定です。楽しみにしてくれている人(いるか?)には申し訳ない……。

九月には元の更新ペースに戻したいところです。

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