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第14話:地獄の特訓・準備編


 野球。英語で言えばベースボール。

 中学1年の時にスペルはバセバ11(baseball)だと覚えた人も多いだろう。


「そう?」


「……そうやって覚えない?」


「少なくとも私は違うけど」


 …………俺だけ? いやいやいや、そんなことは……。


 と、ともかく、野球だ! 英語で言えばベースボール!


 球技大会にて行われる体育委員会とのバトルに勝たなければ、生徒会は予算を増額させなければならない。

 しかぁし! 予算とは年度始めに生徒会を中心に公平に決められるもの。今さらポンポン増やしたら他の委員会に示しがつかない!

 ……まあ、俺は賞品が豪華になるなら予算が増えてもいいと思うけど。


 という訳で、我らが生徒会は試合に備え、野球部の練習場所を一時的に借りて練習をしているのである。


「ぶっちゃけた話、野球っぽいことをやったことがあるのは義裕だけよ。指導しなさい」


「ちっちっちっ、甘いぜ真桜。よい選手がよい監督になるとは言わないだろ?」


 野球経験=指導力という訳でもないのだよ。


「そうですわね。よい選手でもない義裕が、よい監督になれる訳ないですわ」


 ……かと言って、そういう言い方はどうなの? 夜帳さんちの一姫ちゃん。


 まあ、それは置いておくとしても。


「人、足りなくね?」


 ここで、練習に集まった我らが生徒会メンバーを紹介しよう。


「どこかから拉致してきなさい」


 1・今日も非常識な魔王陛下、倉里 真桜。


「人に求める前に自分は努力しましたの?」


「してねぇよ! 悪いかっ!?」


 2・今日もキツイよ毒舌お嬢、夜帳 一姫。


「そこでキレるのはどうかと……」


 3・今日もクールだメガネ君、宮水沢 紳。


「きっと、お昼に牛乳を飲まなかったですよ」


「飲む学生の方が少ないわっ!」


 4・今日もずれてるぞ後輩、高瀬 風月。


「……私は飲んだ」


 5・今日もマイペースですね先輩、間宮 蜜柑。


「ああ……もう、俺のカルシウム不足ってことでいいよ……」


 6・今日も何か疲れる俺、東雲 義裕。


「え、えと、その……牛乳、買ってくる?」


「いや、別にいいよ……」


 番外・今日も優しいよ女神、月宮 榛那。


 本日はここ、グランドで、以上の提供でお送りします。








「――って、だからホントに人足りないって」


 守備に、ピッチャー、キャッチャー、ファースト、セカンド、サード、ショート、ライト、レフト、センター……の9ポジション。

 対してこちらの人員は6人。

 普通に守りきれねえぇぇ……。


「蜜柑先輩、鏡華先輩は呼べなかったんですか?」


 前回呼んでくるって言ってたよね。でも、それらしき影はない。


「今、忙しいらしい。野球をやると言ったら幾つか便利な道具を渡された」


 ……それは先輩の後ろにある、妙にレトロなテープレコーダーと黒くてデカい棺桶ですか?


「再生」


 カチッ――


『おっハロー、生徒会諸君! みんなの鏡華ちゃん、本日はテープレコーダーで登場だっ』


 スピーカーからテンション高め、幼い感じのキンキン声が響く。

 この声の主こそお祭り好きな前生徒会長。この人は本当にこう、無駄の多い演出が好きだな……。


『なんでも、野球勝負だって? 風のウワサで聞いたけど、何やら面白そうなことしてるじゃない』


「風のウワサも何も、私が言った」


 ネタばらしされまくりだよ、先輩。


『やー、いいなー野球! あたしもやりたいなー!』


 絶賛メンバー募集中ですよ。


『でも……あたしにはできないっ! だって、だって、あたしには……』


「何でいきなり演技入るんだ……」


『じゃあ素で言うけど、ちょっと面白そうな技術を見つけてね。それで手が離せないの』


「…………」


 これ、ホントにテープレコーダーか? 通信機とかいうオチじゃないのか?


『まっ、てな訳で鏡華ちゃんは野球に参加してあげられません。ゴメンちょ!』


 テープレコーダー叩き壊したくなるな。


『代わりといっちゃあなんだけど、バッティング練習でもするときは棺桶のヤツ使ってよ。使用方法は付属の説明書を見てね』


 ピッチングマシーンをなんで棺桶に入れるんだ……。

 まあ、そんなもん寄こしてくれたのは素直にありがたい。


『ではではぁ、シーユーアゲイン! また逢う日まで! なお、このテープは機密保持のために核爆発するっ!』


「なんでやねえぇぇぇぇん!!!」


『あはははは、いいツッコミあんがとー。では、ホントにサラバっ!』


「停止」


 ガチッ――


「……蜜柑先輩」


「なに?」


「これはホントにテープレコーダーですか?」


 俺のツッコミに思いっきり反応してくれましたが。


「私が東雲に言えることは1つだけ」


 先輩が鋭い瞳をこっちに向ける。

 思わず背筋を伸ばして聞いてしまう。何を言ってくれるんだ?


「――真実は、いつも1つ」


 先生、意味が分からんとです。








「で、ホントにどうすんだ? 道具はあれど、人はおらず……」


 守備できなきゃ負けるよ? 普通に。


「やれやれ、義裕の頭は飾り物なのかしら?」


 どういう意味だ、真桜? この状況を打開するアイディアがどこにある!?


「ここは発想の逆転よ」


「発想の逆転? ……そ、そうかっ!」


 真桜の言葉に俺の灰色の脳細胞が閃きを生み出す。

 効果音は、ズガガアァァン! 背景には稲妻が駆け抜ける!


「そして骸骨に……」


「ならねえよっ!」


 人の考えを読みつつ、妙な事を刷り込むな! ったく、とんだ魔王だぜ……。


「似合いそうなのに」


「似合わねえよっ!」


 残念そうな目を向けるなよ! そんなレトロなギャグ、誰がするか――って、


「しまったああぁぁぁぁぁ! アホな会話してたら何考えてたか忘れちまったあぁぁぁ!」


「貴方の頭は空っぽですの?」


「それはボケが始まってるですね」


「DHAを取ればいい」


 黙れ、そこの同輩と後輩と先輩。


「なんといっても通販化粧品ナンバー1」


「それはDHAじゃない!」


 DHAはドコサヘキサエン酸の略だ。

 『何処さ、ヘキサエンさん?』と覚えれば完璧。


「誰よ?」


「……きっとヨーロッパの人」


 どこかにきっと、そういう名前の人もいるはず。


 ……なんでこんな話になったんだっけ。


「メンバーが足りなくて野球ができない。なら、発想の逆転よ」


 ああ、そうだった。発想の逆転をしてたんだ。


「発想の逆転、その1――」


 真桜が人差し指を立てる。


「義裕が空いているポジションを全てフォローする」


「なるほど」


「その手があったですか」


「ねえよっ!」


 なんで俺だけ? そして賛同するなよ、生徒会!


「発想の逆転、その2――」


 真桜が中指も立てる。

 まだ続くのか……。てか、別に逆転してないよね、発想。


「義裕がキャッチャーになる」


 ふむ。それなら別に異論は――


「そして私がピッチャーになる」


「異議ありっ!!!」


「異議は認めないわ」


「待った!!!」


「待ちたくない」


 横暴だ……。


「とにかく、打たれなければいいのよ。そして私なら打たせないわ」


 真桜が本気で投げれば、たしかにバッターは打てないだろう。

 ただし、ピッチャーも無事にはすまない。受け止めて吹き飛ばされることも考えられる。


「俺を……殺す気か、ジェフ!」


「誰よ?」


「……きっとアメリカの人」


 どこかにきっと、そういう名前の人もいるはず。


 ……なんでこんな話になったんだっけ。


「という訳で、義裕が星になるわ。賛成の人は挙手」


 バッ!


「一斉に手を挙げるなああああぁぁぁぁっ!」


 ええいっ! チームワークがあるのは結構だが、俺を追い詰めるのに使うでない!


 四面楚歌な俺。

 くっ、味方は……誰か味方はいないのかっ!?


「あのー、真桜さん。義裕くんがケガをするよう案には賛成できません」


 Yahooooo! 榛那、やはりキミは女神!

 他のメンバーは全員真桜に付いたというのに、たった1人で異議を申し立ててくれた。


「榛那っ! 俺は一生お前に付いてくぜ!」


「えっ? あ、うん、ありがとう」


「望みとあらば味噌汁だって作っちゃる!」


「え、えーっと……」


 困惑顔の榛那。その顔は――さては俺が味噌汁なんて作れないと思ってるな?


「侮ってもらっちゃあ困るぜい、おぜうちゃん」


「お、おぜうちゃん……?」


 この東雲 義裕、普段はいろんな意味でダメ人間に見えるかもしれないが――


「こう見えてもあっしは掃除洗濯炊事に育児……何をやらせても天下一品ですぜ!」


「世界の七不思議のひとつですわね」


 ちゃちゃ入れんな!


「と、とりあえず、みんながケガをしないような案に賛成したいです」


 ギャース! 俺のセリフが流された!

 は、榛那まで俺をスルーするのか? いや、そんなことはないはず! ここはポジティブシンキングだ!


 そう! 榛那は、俺がこの程度のスルーで前言撤回するような男じゃないか試しているんだな!?

 まったく……こーのっ、お茶目さんっ☆


「ハッ――!」


「げばあぁっ!?」


 真桜の裏拳が俺の腹にクリティカルヒット。な、何故いきなり……。


「顔がキモイ」


「お前はそれだけで人殴るんか!?」


「殴るに決まってるじゃない」


「…………」


 そうだよな。いまさらの質問だった……。


「先輩方、結局どうするんですか?」


 紳が会話を軌道修正してくれる。

 さすがメガネ。クールキャラが似合うぜ、あんちくしょう!


「そうね……ここは折衷案にするわ」


「折衷案?」


 2つの発想を組み合わせるということか。

 つまり――真桜がピッチャー、俺がキャッチャーをやって空いているポジションをフォロー……って、


「ムリムリ絶対ムリ!」


「安心しなさい。義裕の負担が増えることはないわよ」


 その言葉で安心できないのが魔王陛下クオリティだよ!?


「さしあたって、私が空いているポジション全てをフォローするわ」


「なるほど」


「その手があったですか」


「……あったんだなぁ」


 まあ、真桜ならポジション次第でできるな。

 俺の負担もないし、問題ナッシン、グ〜。


「ちなみにどのポジション?」


 空いてるポジションは3つ。つまり、真桜は合計4つのポジションを守ることになるが……。


「ピッチャー、センター、ライト、レフト」


「どんだけ無謀な試みだよ、ソレは!?」


 外野全部で、しかもピッチャーって……投げて即座に瞬間移動かよ。


「そして義裕はキャッチャー」


「なあああああっ! その案も生きてんの!?」


「はあ?」


 当然でしょ、的な視線を返してくれた。うひゃーん!








 ――という訳で、


「義裕は大砲すら受け止められるように特訓よ」


「どんだけー!」


「冗談よ。一般人が受け止められる程度に加減はするわ。榛那に怒られるし」


 榛那のお陰で命拾い。

 女神様のお力をもってしても、魔王の侵攻を止めることはできないのだ……。

 てか、今の状況は第二案との違いがほとんどないのは気のせいですかね?


「とにかく義裕はひたすら受ける練習。他のメンバーはキャッチボールとバッティングでもしましょう」


 いくら生徒会メンバーが高スペックとはいえ、ロクな練習もしないで試合前日。

 ホントに大丈夫か、これは……。


 まあ、今さらどうにもならんな。


「そいじゃ、鏡華先輩のピッチングマシーンを使いますか」


 真桜もバットを振ったことはないはずだ。

 不良が持っていたバットを奪って逆に相手を殴り倒したことはあるが、一般的な用途で使ったことはないだろう。

 どんなに強力な打撃も、当たらなければ意味はない。とりあえず全員球を打てるようにしないと。


「……にしても」


 俺は鏡華先輩からの餞別に視線を向ける。

 うーん……なぜ棺桶?


 棺桶の全長は2メートルほど。成人男性が余裕で入れそうだ。

 色は上から下まで真っ黒クロスケ。タコ墨イカ墨被ったみたいに黒一色。

 何故か真ん中あたりに銀のネームプレート。『RX-78』と書かれている。


「ガ○ダムかよっ!」


 燃え上がれぇ! 燃え上がれぇ! 燃え上がれぇ!

 ……なんか、この歌詞だけだと危ない人の言葉だよな。


「まさかガ○ダムまで作り出すとは……鏡華先輩、恐るべし!」


「そんな訳ないでしょ。あれは20メートル近くあるのよ?」


「……そうだな」


 ツッコミ所、そこ? と言ってやりたい。

 それにしても、詳しいな、真桜。どうしてそんな無駄知識を……って、俺のせいか。

 ん? となると、真桜が魔王陛下なんて呼ばれるようになったのも俺のせい? 今の悲惨な状況は自らが作り出したというのか……なんたることよ。


「とりあえず出してみたら?」


「りょーかい」


 えーっと、どうやって外すんだ、この蓋?

 ……お、スライド式か。棺桶の蓋ってそういう仕組みだったのか? いや、あの人の自作だろう、これも。


「まあ、いいや。よい、せっ!」


 カシャ――


 こ、これは……!?


「……コレ、仕舞っていい?」


 むしろ、仕舞わせてほしい。嫌な予感しかしない。


 棺桶の中に入っていたもの、それは――


「なんですの、これ? 人型ロボット?」


「他の何に見える?」


「コスプレした人間ですかね?」


 風月は黙っとれ。


 中に入っていたのは、ピッチングマシーンと呼ぶには無理があるシロモノだった。


 全長1.8メートルの大男。

 筋骨隆々な金属質の外骨格に身を包んだ、ロ○コップとロック○ンを足して2で割ったような外観。つまり右手にバスター、顔に何か仮面っぽいバイザー。


「便宜上、こいつのことをロボマンと呼ぼう」


「その壊滅的なネーミングセンスはどうにかなりませんの?」


 悪かったな。


「ところで、説明書は?」


「……入ってた」


 紳の問いかけに、蜜柑先輩が棺桶から分厚いプリントの束を取り出してみせる。


「『よくわかる説明書』」


 まんまだ。


「起動方法……『鼻を押して3分で動き出します』」


「なんで鼻!?」


「きっと昔の漫画を読んだのよ。○ーマンとか」


 真桜が正解っぽいことを言ってくれた。たしかに……あの人ならやりかねん。

 だからといって本当に鼻に付けるなよ、スイッチ。間抜けにもほどがあるよ。


「じゃ、押すわよ」


「え? ホントに使うの!?」


「使えるものは何でも使えってお兄ちゃんが言ってた」


 時たま凄いこと言うよな、蒼兄……。


「それじゃ、スイッチオン!」


 ドグオォン――!


 大気と大地が震えるような重低音が響き渡った。


「な、なにを……」


「スイッチ押しただけだけど?」


 違う! 俺が言いたいのはそういうことじゃない!


「何故、拳を握って叩きつけるんだ!?」


 何と言いますか真桜さん、何かの緊急用ボタンを押すかのように、拳を叩きつけてスイッチ入れました。

 まあ、ただのスイッチならいざ知らず、このロボマンのスイッチは鼻です。鼻に向って拳を叩きつけました。

 いや、ロボだし電源入ってないしで何も感じないかもしれないけど、見てるこっちが痛々しい。確実に鼻折れたよ、今。


「そうね……気分かしら?」


 気分次第で鼻を折るって、ホント根っからの魔王だよ、お前は……。


「動き出すまで3分あるし、準備運動しましょうか」


 ロボマンが復讐のために動きだしたりしないだろうな、おい。


「深呼吸〜」


「そして早いよっ!」









特訓まで終わらせるつもりだったのに、準備だけで異様に長くなってしまった……。


次回、『ロボマンが大活躍の巻』こうご期待(嘘

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