第13話:体育委員長の逆襲!
本日の生徒会活動は大変なごやかに進んでおります。何故ならば――
「はい。他に議題はありませんねー?」
神様、仏様、榛那様がおられるのだ! 控えおろう!
いやー、前回のメンバーに榛那が加わっただけなんだが、それだけでこうも空気が違うなんて!
いかに榛那を除いた生徒会が重い空気を纏っているかが良く分かる。
「「「「「…………」」」」」
榛那以外の生徒会役員から冷たい視線が向けられた。
あれ? なんか俺、針のムシロだよ? また心の中身がだだ漏れですか?
「え、ええっと、ありませんよね?」
「ないわよ」
不安そうに繰り返した榛那に、真桜が簡潔に答える。他のメンバーもコクコクと頷いた。
俺の心は榛那には読めないようだ。よかったよかった。
……あれ? でも、それって以心伝心できないってことでもあるのか? だとしたら、そこまでいいことでもない?
「榛那っ! 俺たちはいつまでも親友だよなっ!?」
「ほへっ!?」
「……気にしなくてもいいわよ。いつもの発作だから」
発作ってどういう意味だい、マイ幼馴染。
「議題がないなら、終わりにしましょう」
「あ、はい。それでは、本日の生徒会活動はこれで終わりです。お疲れさまでし――」
「――お前ら生徒会にモノモオォォォォォス!!!」
榛那が終了を告げる寸前、生徒会室に大声が響き渡る。
こっ、この声は――!?
「たっ、体育委員長! 生きていたのか!?」
思わず叫ぶ。
いや、だってねぇ……てっきり真桜に殺されたものだと。(第5話参照)
「はっはっはっ、あの程度の攻撃でやられるほど、ヤワな筋肉をしてないぞ!」
筋肉が強さの単位なのか。宇宙筋肉とかつけてんのか。
「え、えーと……?」
榛那が状況を理解できず周りの面々の顔を見る。
そういえば前に体育委員長が来たとき、榛那は休んでたね。
そんなわけで、俺が簡潔に説明することにする。シンプルイズベストだ。
「あいつは体育委員長。俺たち生徒会の――敵だ!」
「敵なのっ!?」
「違うわよ。義裕の言葉を真っ正直に信じない。3回に2回は嘘だと思いなさい」
真桜がひどい言い方で否定してくれた。人をオオカミ少年のように言うなよ……。
「ええっと、結局……?」
何か、もう俺が言っても信用がなさそうなので、真桜に任せることにする。
「彼は体育委員長。私たち生徒会の――下僕よ」
「下僕なのっ!?」
「「違う違う違う!」」
あ。俺と体育委員長の声がハモった。……やーな感じー。
「と、ともかく! お前ら生徒会にモノモース!」
やっぱり発音変だぞ、体育委員長。
というか、榛那がまだ状況を認識してないぞ、体育委員長。
「はあ……生徒会と体育委員会で野球勝負、ですか?」
体育委員長の長ったらしーい説明を聞いて、榛那は開口一番そう呟いた。
あ、体育委員長の話は長い上に面白くなかったから半分寝てた。なので、ぶっちゃけ何の話だったのか、俺は全く知らん!
「威張るな」
「にぎいぃぃぃいいい!」
つ、机の下で、足を踏まれた……。しかも椅子の足で!
うううう……こんなことなら、真っ直ぐ前に足をのばしておくべきだった……。
「ええーっと、どうしたの?」
俺が奇声を上げたというのに、声をかけてくれるのは榛那だけ。
他のヤツらは『また何かやらかしたな……』的な視線を向けてくる。少しは心配せえ!
しかし、せっかく榛那が心配してくれているのに、俺は痛みで悶絶中。説明する余裕などない。
「義裕は持病の癪で苦しんでるだけ。いつものことだから気にしなくていいわ」
「はあ……知り合ってから2年近く経つけど、全然知らなかったよ」
嘘だと気付け!
「で、体育委員長。具体的にはどうするつもり?」
ああ……俺置いてけぼりで話が進んでく……。
「日時は球技大会当日! 試合は体育委員会チームVS生徒会チームの一騎打ち! 補欠メンバーはいなくても可! うちが勝ったら予算を100倍に増やせ! ワカッタか!?」
あー、なるほど。予算が足りないから野球勝負なのね。予算300円じゃ自腹切るしかないもんね。
ぶっちゃけ、予算を使い込んだ体育委員会の自業自得な気がするけど。
ところでさ……やっぱり発音変だよ、体育委員長。
ハッ! もしかして帰国子女とか? 意外な過去を持っているのか?
「体育委員長!」
「なんだ! 文句あんのか!?」
凄い剣幕で怒鳴られた。
「なんでいきなりキレてんだよ……」
「キレてないっスよ」
ビミョーに古っ!
「それは置いといて。体育委員長って、帰国子女とかだったりする?」
「俺は生粋の日本国民だ!」
なるほど、じゃあ別に日本語が不自由という訳でも――
「――って、待て! 帰国子女は日本国民でもなれる!」
親の仕事とかで海外行ってて戻ってきたのが帰国子女だよ。日本人でもオールオッケーじゃん。
「ソノトーリ! あっし、生まれも育ちも沖ノ鳥島!」
「ウソつけっ!」
日本で一番南の島は無人島だ!
「出身は北海道」
「沖ノ鳥島は!?」
「かつて全ての大陸はパンゲアと呼ばれる1つの大陸だった……」
「そんな大陸移動の話をしてる訳じゃない!」
「あれから、3億年……人類は素晴らしい筋肉を手に入れた」
「もういい! 俺が悪かったから喋んな!」
発音変なのは単に筋肉好きの変人だからだね。妙なところで博識だし……。
なんか色々疲れたので机に突っ伏す。ひんやり気持いいー。
「え、えーと、皆どうする?」
俺が体育委員長との会話を切り上げたのを見計らって、榛那が生徒会メンバーにそう切り出した。
俺のことを待っててくれたんだね……。ううぅ、ええ子やぁ……榛那はええ子やぁ。
真桜なんて『つまらないコントだったわ』って目で言ってきてるし。
コントじゃねえよっ!
「私は関与しない。現生徒会が決めるべき事案。過去同様の事例はない」
真っ先に口を開いたのは蜜柑先輩。強弱すら付けず、淡々と三言述べる。
突き放したような言い方だけど、この人は一応引退した身だから当然と言えば当然。
自分の経験からアドバイスはくれるけど、さすがにこういうことはなかったらしい。
いかに体育委員長が変わった人間であるかが分かる。こんな変な人間はそこらにいないだろうねぇ。
「…………」
何故か体育委員長の何か言いたげな視線が飛んでくるが、無視しておこう。
「別に問題ないわ。どうせ勝つし」
続いて真桜が体育委員長の案に賛成意見をあげる。
勝負事持ちかけられて断るのは、負けず嫌いの真桜には無理だろう。
だとしても――
「スゲー自信だな」
負けたら3万も出さなきゃいけないのに、ホイホイ受ける神経が凄い。
負けた時のことなど全く考えてないのが何だかなぁ。
「事実を述べただけよ」
まあ、俺も真桜が負けるとは思ってないけどね。
……ただ、俺の記憶が確かなら、真桜って野球やったことないはずだけど。
幼馴染として知る限り、だが。
「僕も特に反対はしません」
「わたしもです」
一年生コンビも異論はないようだ。
この時点で賛成票は過半数越えしてるけど、一応は全員分の意見を聞いて判断するのが榛那流。
残るは一姫だけだね。まっ、あれでお祭り好きだし、賛成だろうけど……。
「わたくしは反対しますわ」
「「ええー」」
一姫から出た予想外の反対意見に、俺と体育委員長の言葉がカブる。
あ、やばっ! これじゃ一姫の気分しだいで、また裏切り者扱いで真桜に追い回される危険が……。
「…………ふん」
あれ? 何も言ってこなかった……?
いつもなら『義裕は体育委員長と仲がよろしいですわね』とか言ってきそうなのに。
スゲー機嫌悪そうな目を向けられたけど。
「とにかく。大事な予算をゲームで決めるなど、わたくしは容認できませんわ」
「うーん、やっぱりそうだよね……」
普通にまともな一姫の意見に榛那が考え込む。
視界の端で体育委員長がおろおろしているのが見えた。この案が通らなかったら来た意味ないしね。
「あっ、そうだ。義裕君の意見はどう?」
「え? 俺?」
ぶっちゃけ生徒会副会長補佐という、生徒会会議に参加するだけで権限も何もあったもんじゃないポストなんだが、それでも訊かれたからには答えるべきか。
そんな穀潰しの意見でも聞いてくれるキミは女神。イエーイ!
「俺は賛成でいいと思うぞ。面白そうだし」
一姫の意見はもっともだが、青春を謳歌する一学生としてはやはり面白い方を選ぶ。
「……よし」
俺の意見を聞いて結論を出したのか、榛那が体育委員長の方を向く。
「体育委員長さん。生徒会と体育委員会の野球勝負を承認します」
「よおおっしゃあああああああああ!!!」
「ただし!」
テンション高く上がった体育委員長の雄叫びを、榛那が珍しく大きな声で遮る。大きな声といっても、そこまで大きくはないが。
「その勝負の結果で修正される予算については、これからの両者の話し合いで決定します」
つまり一姫の意見を一部含んだ形だろう。万が一負けたとしても体育委員会が予算を好き放題しないようにする為の、予防策。
いくらなんでも3万はでかいしな。
「むう……わかった。ただし、その話し合いは会長さんも参加してくれ。絶対に……!」
「は、はい。当然しますけど……?」
「絶対だからな!」
やっぱ前回の経験が痛かったんだろうな……。
真桜より榛那の方が話せると見て、今のセリフを言ったんだろう。
体育委員長はその言葉を最後に生徒会室から出て行った。
「……あ。野球って何人でやるんだっけ?」
ポツリ、と榛那が誰ともなしに呟く。
「もしかして、榛那も野球知らない?」
「うん。家じゃニュースくらいしか見ないから、詳しくは……」
それでよく野球対決を容認するな……。真桜も野球はやったことないし、意外とやばいんじゃ?
「あー、野球経験者は挙手して」
俺も草野球程度しか経験ないし、ちゃんとした経験者がいた方がいいだろう。
野球部所属の体育委員長を筆頭に、体育委員会は当然のように体育会系の生徒ばかりだ。いくら身体能力の高い真桜がいるとはいえ、野球は1人でやるものじゃない。
そんな訳での提案だったのだが……。
「……いないのか」
該当者ゼロ。女子はともかく、男子たる紳はやってくれててもいいじゃない!
というか、それ以前にメンバーが足りない。
俺、真桜、榛那、一姫、紳、風月、蜜柑先輩……これで7人。最低でも、あと2人はいなきゃ野球はできない。今来てない生徒会メンバーはOB、OGを含めて――九八、子鳩、鏡華先輩、光先輩……ダメだ、全員来そうにない。
「メンバーが足りないけど、どうする?」
「あと何人必要なの?」
「最低2人」
あくまでも“最低”だ。ホントならもっと欲しい。
「ところで義裕君。わたしは運動できないから頭数にいれちゃダメだよ?」
「訂正、最低3人」
しまった、うっかり忘れてた。きっとMIBの陰謀だ! バチッっと光って記憶が飛ぶんだ!
榛那はなにやら凄い名前(漢字が何個も並ぶ)の病気で激しい運動ができないのだ。体育の単位はレポートで取っている。
しかし、ただでさえ数が少ないのにさらに減るとは……大丈夫か?
「……鏡華を呼ぶ。あの子は野球もできるはず」
「うーん……鏡華先輩ですか」
蜜柑先輩が提案してくれるが、俺は気が進まない。
鏡華先輩は何故だかゲートボールにハマってしまった元・生徒会長のことだ。
ただ、運動はそこまで得意という感じじゃないし、むしろダメな部類に見える。……ストライクゾーンはかなり狭いけど。
「義裕、贅沢は言ってられないわ。この際人数合わせでもいいのよ」
「それを言っちゃあ、身も蓋もないだろ……」
事実だけど。
「じゃあ、鏡華先輩を入れて……残り2人、誰か当てある?」
榛那が改めて全員に向けて言うが、誰しも無言。
あー、他に生徒会関係者、生徒会関係者……。
「一姫、書記のところの後輩は使えないかしら?」
真桜が思いついたように言う。
一姫のポジションは書記長。生徒会書記のトップであり、当然のことながら下っ端が存在する。九八に対する風月みたいなものだ。
「残念ながら。子鳩は現在、休学中ですわ」
「そうだったわね……」
世の中上手くいかないもんだ。
「うーん……じゃあ、残りのメンバーに関してはまた後日探すことにしようか?」
賛成。どのみち試合の日時すら決まってないし。
「それでは、本日の生徒会活動はこれで終わりです。お疲れさまでした」
「「「「「お疲れさまでした」」」」」
今度は別段邪魔が入るわけでもなく、いたって平穏に終わった。平穏って素晴らしいなぁ、おいっ!
そんな風に幸せを噛みしめる俺に、静かに近寄ってきて真桜は言った。
「メンバーが決まったら特訓しましょうか……地獄の」
どうやら嵐の前の静けさのようだった。
逆襲と言いつつ逆襲できてない話。
黄金週間は引きこもってネットに散らばるコメディを読みふけってきました。
いやいや、面白い作品がいっぱいです。しかし、面白いと感じた作品であればあるほど完結していないという罠。
そして結局「山と谷」がわからないダメ作者。
とりあえず、次で2月に入りましょう。
真桜視点で物語を見てみましょう。
舞台裏の人にも出てきてもらいましょう。