第12話:女神の如き我が親友
放課後。5時限目の地獄特訓によるダメージ、いやダミッジ(ネイティブ的な発音)が色濃く残る中、真桜と共に生徒会室に向かう。
保健室の出来事+その後の教室での出来事が、俺の精神にも深いダミッジを残してる……。
だからフラフラ歩きもしょうがないのだ。
「フラフラしないでしっかり歩きなさい」
隣りを歩く真桜から厳しいコメント。
でも真桜さん、6組男子は放課後になったのに大半は保健室のベッドの上だよ? それを考慮したら俺のフラフラ歩きは勲章ものだと思う。具体的に言えば二階級特進。
「というわけで、二階級特進をお願いします」
「殉職したみたいね」
……そうか、俺はもう死んでいたのか。
「もはやこの世に未練はない。さらばだ、真桜……強く生きろ!」
「煩悩まみれの義裕に未練がない訳ない」
「シット!」
仮に俺が幽霊になっても、感動のラストシーンはなさそうだ。成仏できねぇ……。
「馬鹿なこと言ってないで、行くわよ」
「へいへーい」
ズンズン進む真桜にフラフラと付いて行く。真桜は歩幅が狭いから、フラフラ歩きでも置いて行かれることはない。
それを指摘したら殺されるだろうがな。
生徒会室の真ん前に異常なまでの人ごみができていた。
普段この辺は鍵の掛かった空き教室ばかりで人がおらず、非常に閑散としている。
が、何故か今は人だかりが。一般ピーポーが来ても面白味がある場所とは言えないのに。
……なんだ、この盛況具合は?
「何事かしら?」
真桜も首を傾げてる。
部活の予算申請の時はこんな感じだったけど、今日は何かの申請とかが必要な日でもないしなぁ……?
「ええいっ、退け! 退かぬか、下郎共!」
……どっかで聞いたような声。
「ん……陽介ね」
「邪魔をするな、だと!? それは俺の台詞だ!」
「ああ、なるほど」
確かにこの声は陽介。竹槍を振り回すトンデモ風紀委員長の声だ。
「ということは、この人ごみは……」
生徒会室前の人ごみは野郎共ばかり。それを考えれば理由はおのずと知れる。
人ごみの中心にあるのは2つの人影。
「ああっ、いい加減にせんか! ――分かった! 我が愛槍のサビにしてくれるっ!」
「よ、陽介くん! それはダメだよ! 人殺しは犯罪なんだよ!」
「止めないでください、榛那様! こやつらを生かしておいては、榛那様の御身に危険がっ!」
「だ、大丈夫だよ。ねえ、皆さん?」
「「「「「うんうん、そうだよ〜。大丈夫だよ〜」」」」」
「ねっ」
「駄目ですっ! 明らかに胡散臭いではありませんか!」
その言葉には俺も同意する。
我らが宮水沢学園にはアイドルが2人いる。
一方は歌って踊れて金儲けもできるアイドル、“十七時の歌姫”こと久遠 九八。
そしてもう一方は――
「そんなことないよ。みんな、いい人だもん」
人ごみの中心にいるマイ親友にして癒し系生徒会長、“六ッ月の女神”こと月宮 榛那。
白いリボンを2つ結んだショートヘア。控えめな笑みが奥ゆかしき日本女性を連想させ、儚い感じのする美少女フェイスをさらに美しく見せる。
背は俺より頭ひとつ小さく、150センチに微妙に届かないくらい。
スカートとニーソックスの間の絶対領域が目に眩しい。すごいな、絶対領域!
そして優しい。俺にも(これ重要)優しいのだ!
「あ、義裕くんに真桜さん。こんにちわ」
人ごみの只中にいながらも、こっちを向いて、にっこり。
うわあぁぁ……かあいいなぁ、榛那。
真桜の名前が出た途端、人ごみが引いていくのはご愛嬌。
確かに真桜はこういう人ごみが嫌いだけど、いきなり蹴散らしたりはしないんだから、そんな慌てんでも……。
「ちっ……命拾いしたわね」
前言を撤回する。
真桜に恐れをなした人ごみが消え、残るは榛那と陽介のみになる。
陽介が難しい顔で真桜を睨む。たぶん自分で人ごみを蹴散らしたかったんだろう。迷惑な……。
「ぬぅ、魔王陛下か。ここは礼を言っておこう」
「必要ないわ。どうしてもと言うなら、菓子折り持って生徒会室に来なさい」
「誰が持ってくるか!」
持ってきてくれるとみんな喜ぶんだがなぁ。
「ともかく! 榛那様を頼むぞ。妙なことをさせたら承知せんからな」
そう言って陽介は、赤く染まった竹槍を持って去っていく。……誰を殺った?
陽介は榛那の従者みたいなものなのだ。住み込み奉公人紛いをやっている。
なんでも雛森家と月宮家の100年来の約束だとか何だか。歴史がある家ってスゲーな。
「妙なことって、具体的にどういうことかしら?」
「陽介くんはわたしが何かやるとすぐに、妙なことはしないでください、って言うんだよ。自分の方が妙なことするのに……」
うーん、どっちも知ってる俺としては、どちらも同じくらい妙なことをすると思うけど。
「この前も、猫さん拾ってきたら――」
『榛那様! なにを拾ってきているのですか!』
『ダンボールに入ってたの。飼ってもいいよね?』
『返してきます! 場所は何処ですか?』
『だ、ダメだよ! まだ子猫なんだよ!? 死んじゃうよ!』
『大丈夫です! 猫ですから!』
『理由になってないよ!?』
『昔、ライ○ンキングという映画を見まして……』
『関係ないよ! 猫さんはライオンじゃないよ!』
『関係あります! 猫はライオンに近い生き物です。ライオンにできて猫にできない訳がありません!』
『ええっ!?』
『それを証明して見せます。1年で、この猫が見事にシマウマを狩る場面をご覧に入れましょう!』
『無茶だよ! 何する気なの!?』
『ふふっ……行くぞっ、今は脆弱な子猫よ! 1年でシマウマを狩ってみせるぞ!』
『ああっ!? 猫さん、返して!』
『お前の名は今日からライオン丸だ! これより修行を開始する!』
『猫さーん!』
「――ってことがあって」
「…………」
マズイ。突っ込み所が多すぎて、どこからツッコミを入れるべきか分からない……!
捨て猫律儀に拾ってくんの、とか。ライ○ンキングってそういう話だっけ、とか。
そんなこんなで苦悩する俺を尻目に真桜が突っ込んだ。
「ライオン丸は伏字を入れなくいいの?」
「って、そこに突っ込むのかよ!?」
いいんだよ! そんな古い作品のこと、みんな知らないんだから!
「そもそも陽介はライオン丸が何か分かっているのかしら?」
「いや……分かってるんじゃないか」
放送されてたのは70年代とはいえ知ってる人は知ってるし、現に俺も真桜も知ってる。何故知っているかはヒミツなり。
「となると、さしずめ私はゴー○ンかしら」
いや、確かにアレは大魔王だけど……。てか、今さら伏字? 遅くない?
まあ、そんな古い作品の話なんか置いといて、
「結局、その猫どうなったんだ?」
はい、こっちの方が重要だね。ホントにシマウマを狩る為に修行してるのか、ライオン丸(仮)は?
「修行の為の体作りだ、って家にいるよ。急に体を動かすとダメになるから、特に厳しいことはやってないみたい」
「……それって」
フツーに飼ってるだけじゃない? 普通に飼ってるだけだよね。
「なんだかんだで甘いのよね、陽介は」
真桜がボソリと言った言葉に俺も賛成。
もっとも、関係がある当人は?マークを浮かべているけど。
「……? どうしたの?」
「いや、なんでもない」
「えー? なにかあるような顔してるよ? 教えてよ」
むーっ、と上目遣いで顔を近づけてくる榛那。
ぬあああぁっ、かわいい! 可愛すぎるっ! あまりのかわいさに萌え死ぬぅ……!
「はいはい。いつまでも突っ立ってないで、中に入りましょ」
パンパンと手を叩きながら、真桜が間に入ってくる。こっ、これはまさか――
「嫉妬か! ついに真桜もデレ期に突入なのか!」
「他の人が来る前に、ファイルの整理とかするつもりでしょ?」
うん、別にデレに入った訳じゃないのは分かってるんだ……でも何か反応をちょうだい! じゃないと俺が恥ずいから!
「恥ずかしさで悶え死ぬがいい」
「恐っ!」
恐怖で恥ずかしさも吹き飛んだよ……。
「はいはい、仕事しよう。そうしよう!」
このままの状態はあまりにもアレなので、強引に話を榛那に振る。助けてください、我が女神!
「む。そうだね! お仕事しないとね!」
頑張るぞー、と言いながら右手を上げる。
だから、何でキミの行動はすべて愛らしいの? ヴェリヴェリキュートだぜ!
榛那は生徒会室のドアを勢いよく開いて中に――
「みゃっ!?」
中に入る前に蹴躓いて転んだ。
「な、なんてことだ……!」
まさか、ドジっ娘属性まで持っていたとは! 榛那、恐ろしい子……!
「どうでもいいから、早く助けるの手伝いなさいよ」
「どうでもよくない! この情報が一般の榛那ファンに漏れたら――」
「いいから早くしろ。さもなくば選べ」
「なにを!?」
「全身を針で貫かれるか、杭に突き刺さるか、車輪で轢かれるか、煙で燻されるか、首に――」
「榛那、大丈夫か! 怪我はないか!?」
そんな中世の処刑みたいなモノを受けたくはない。
13話目完成! うーん、ノリが悪い。
先日「山と谷がない。話が進んでない」という感想を頂きまして、自分でもあー、と思ったわけですよ。
話が進んでないというのは解決策も思いつくのですが、山と谷に関してはいまいちピンと来ないのです……。
というわけで、しばらくコメディ小説を読み漁って修行してきます。
次回更新は未定です。レベルアップして戻ってきたいと思っています。
レベルアップ、できてるといいなぁ……。