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まるで関係のないプロローグ



「――これは、とある少女の過去の情景。その断片」








 鈍色の空。舞い落ちるは白。

 窓の外に見える景色は銀世界。


 季節は――冬。


 少女は一人、ベッドの上で外界を眺めていた。


 風邪。それが少女が外に出れない現在の理由。

 しかし、たとえそれが治っても彼女が外に出ることはないだろう。


 彼女の体は外界に出ることを可能とする程の強さを持っていないのだから。


 こうやって、窓から覗くことしかできないのだから。


「何見てるの?」


 唐突に、声が掛かる。

 少女は視線をずらし、声の主を視界に収める。

 少女と同じくらいの年頃の少年。いまや数少ない少女の話し相手である兄だ。


「何だと思う?」


「世界」


「……そうだね」


 兄の答えは突飛な答えだったが、あながち間違っているという訳ではない。

 少女は見ることのない景色すら見ようとしていた。


「それはともかく、ただいま」


「うん。おかえりなさい、お兄ちゃん。今日は学校どうだった?」


 少女は訊く。自分がいることができない、本来なら日常となるはずの場所の出来事を。

 兄は彼女より一つ年上なので得られる話は彼女の居場所の話ではないが、それでも。


「ん。今日はね――」


 兄も自分の話が少女の本当に求めるものではないと分かってはいるが、話す。

 自分がしてあげられることが、それだけしかないと分かっているから。

 他愛無い、どこにでもあるだろう、日常の、日常でしかない話を、ただ語る。




 ――不意に、


「いってきまーす!」


 そんな声が聞こえてきた。


 窓の外を覗けば、一人の少年が雪の降り積もる道路を走っていく様が見えた。


義裕(よしひろ)だね」


 兄が彼の名前を言葉にする。


 隣家に住む、少女と同い年の少年だ。少女も小学校に上がる前までは、毎日顔を合わせて彼と遊んだ。

 あれから三年経った今は、遊ぶどころか顔を合わせることすらない。


「元気そうだね」


 彼との付き合いがなくなった少女にはもう、それくらいしか言うことがない。


 ……いや、もう一つ言える事があった。


「もし、わたしが、わたしの体が弱くなかったら……また、みんなで遊べるかな?」


 呟いた声が世界に溶けた。


「ん。そうだね」


 傍らの兄はその世界を肯定した。








 『もしも〜だったら』――全ての人が一生に一度は思うであろう、その言葉。


 それは可能性を論じる言葉。

 自らの望み通りにならなかった出来事を叶えるため。あるいは自らの知的好奇心を満たすために、人は“IF”を求め、思考の中でそれを完成させる。


 完成した“IF”はそのままでは机上の空論、名も無き空想、どこまでも空乏、いつまでも空虚。


 しかし言葉に出した瞬間、それは世界に溶け、一つの可能性(ノゾミ)を固定する。

 固定された可能性(ノゾミ)は世界の中で成長し、やがては世界を飲み込む結果(セカイ)となる。

 夢見た可能性(ノゾミ)に、どこまでもどこまでも忠実な結果(セカイ)


 言うなれば異世界、別世界、平行世界、パラレルワールド。


 誰の願いだって叶っている。

 だけど皆気付かないだけ。

 だってそれはもう一人の自分が叶えているから。

 叶っていても、願った自分は気付かない。気付けない。








「それでは覗いてみましょうか。少女が望んだ、可能性(ユメ)結果(セカイ)を――」





初っ端から“微ファンタジー”。

サブタイトル通り本編を楽しむには“まるで関係のない”お話。

いつかこの一連の話を続けたり、終わらせたりするときに使われるかもしれない。


けど、やっぱり普段は使われない設定なので読み流してください。

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