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賢者の裏切り(裏)

《ヴィルヘルム魔導帝国 元軍人 アーミラ・ヴォルフ》


 賢者様の貸してくださった魔法の腕輪は本当にすごいですね。ズレることなく本当に決まった時間に音がなります。もしこれが軍にあれば多面作戦もわざわざ敵に気づかれやすい鐘や太鼓を鳴らさなくていいですし、将の人柄を読まなくても簡単に進行を合わせられます。

 軍としては喉から手が出るほど欲しいですが、これ一個だけでしょうし貰えないでしょうね。


 さて、今日は作戦決行日です。後もう少しで腕輪が音を発するはず。

 森で別れる前に賢者様に言われてことは城の結界が落ちたら迎えに来いですが、その他にも二点。


・口調は尊大な感じで。

・なるべくキワドイ衣装で。


 口調はなんとなくわかります。ですがキワドイ衣装には未だに納得がいきません。なんでも人間が帝国民に抱いているイメージが“背徳的で退廃的”らしいのですが……私の祖母の時代に一部で流行していた衣装を持ち出されても困ります。

 賢者様の頼みですからやりますけどね。


 もともと着ていた麻のボロ着だけではどうにもならなかったので賢者様からコートを頂いてそれを今日までに改造しました。まともな裁縫道具がないのであまり細かい作業ができず予定よりもかなり危ない服になってしましましたが……。下着もないので激しい動きをするとズレて見えてしまうかもしれません。


『ピピピ!ピピピ!』


 予定の時間になった事を腕輪が教えてくれます。今は城に急行できて、かつ向こうから視認できないギリギリの空を飛んでいます。


さて、合図があるとは言っていましたが一体どんな……。


《ぞわり!》


身の毛もよだつような非常に気持ち悪い魔力が。例えるならガラスに爪を立てて引っ掻いた音のような魔力の波が城から発せられました。

 すると、みるみるうちに城を覆っていた魔力、結界が消えていき同時に部屋の灯りが落ちていきます。灯りが消える現象は城下にも及んでいるようで一国の首都があっという間に闇に包まれてしまいました。

 頼りになるのは星と月の明かりだけです。賢者様、やりすぎなのでは?


 結界が消えてしまえば誰かに見つかっても問題ありません。むしろ見つかって騒ぎになったほうがこちらの思う壺です。

 あえてゆっくりと見せつけるように賢者様のお部屋に向かうといたしましょう。


「お待たせしました。」


「来たか。……すごい格好だな。」


「あ、あまり見ないでください。結構恥ずかしいので。」


「すまん。取り敢えず連中が部屋に入ってきたら最初に会ったときみたいな口調にしてくれ。俺がリードするから適当に合わせてくれたらいい。」


「善処します。」



■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆



「城の結界が落とされたと言うのに随分と余裕なのだな、人間というのは。よほど勇者が頼りになるのか?」


勇者たちがなかなか入ってこないので賢者様と決めておいたセリフ、この一言を言うのがやっとでした。

 視線の先にいるのは一人の男。この国に囚われてからさんざん私の体を嬲った男。

 アルバート公爵。

 刻まれた羞恥と恥辱を糧に膨大な怒りが熱量を持って駆け巡る。私を笑いながら踏みにじったあの男を今この瞬間に殺せばどれだけ胸がすっとするだろう。よく見れば“お仲間”も大半が揃っている。手順なんてどうでもいい。今すぐにでもあの男を


「……アーミラ様に命を救われ忠誠を誓った。ただそれだけですよ。」


賢者様が私の手の甲に……ん?


「やめろ。……汚らわしい。」


「申し訳ありません。では、忠誠を別の形で示させていただきます。」


びっくりした。びっくりした。びっくりした。びっくりした。びっくりした。びっくりした。え、賢者様今さらっととんでもないことしませんでした?びっくりした。びっくりした。とっさに手を振り払ってしまいました。大丈夫だったでしょうか。びっくりした。びっくりした。いま、口調崩れていませんでしたよね?大丈夫でしたよね?

 賢者様が横ですごい魔法使っていますがそれどころじゃありません。

 今のは賢者様の演技。

 今のは賢者様の演技。

 今のは賢者様の演技。


「アーミラ様。どうぞ公爵の首を。あの首を落とすのは貴女が相応しい。」


「そうか、では遠慮なく貰うとしよう。」


公爵の首?正直、すごくどうでも良くなっています。

 そうです、賢者様は異世界の方ですね。異世界には忠誠を示す行為でそのようなものがあるのでしょう。ええ、たぶんそうなんでしょう。知らなかったのでしょう。


 それがこの世界で「愛の告白」という行為を示すことだということを。


「アーミラ様、勇者は私が止めますのでその間に公爵を。」


「任せたぞ。」


また、賢者様が派手な魔法を使っています。話では勇者もグルなので問題はないですね。

 さて、アバババ公爵でしたっけ?さっさと殺してしまいましょう。


 人生何が起こるかわかりませんね。死を覚悟した絶望のどん底にいたと思えば白馬の王子様のような存在に助けられました。その方に生涯尽くすためにお手伝いしていたら演技とは言え「愛の告白」を……。

 虚構のものですが世の女性が一度は夢見るような場面の主役に立てた私は今、最高に幸せです。


 この最高の気分を視界に入るだけで害してくる(ゴミ)はさっさと片付けてしましましょう。


「さて、覚悟は出来ているな?まあ、できていなくても殺すが。」


「ま、まて。話せば分かる。な、何が望みぐぅア!?」


「こんな男に最高の気分をぶち壊されてたまるもんですか。」




さぁ賢者様!魔族と人間の禁じられた愛の逃避行と参りましょう!


 なんちゃって。




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《勇者 八代優一》


数日前。


『計画めっちゃ早めるから公爵の足止めと誘導よろしく。by酒木』


 酒木さんの爆弾発言のおかげでこの数日めちゃくちゃ忙しかった。主にアルバートのおっさんの足止めで。公爵をつけろ?人の幼馴染をエロい目で見るやつなんておっさんで十分だ。

 “魔族の一件で賢者はすごく疲れている”ってことにして代わりにオレを含めた高校生三人組で食事とかそういった接待のようなものを受けていた。酒木さんに要注意人物として聞かされてはいたけど、なんというか本当に人の醜い部分を油で固めたような男だ。


 会話の所々に酒木さんの印象を悪くするような言葉がさり気なく混ざっていたり、これまたさり気なく自分は“勇者の絶対的な味方だ”アピールが入っていたりと気を張っていないとコロッとと騙されそうになってしまうことが多い多い。酒木さんはこのおっさんをどうやってあしらっていたのかすごく興味が湧いたよ。


 一番苦労したのは酒木さんが遭遇した魔族の情報だ。アルバートのおっさんはこの一点だけはどれだけ知らないと言っても引き下がらなかった。実際、ほとんど酒木さんから聞いてないから答えようがない。

 唯一知っている情報も『公爵のペット』だ。この時点で色々察してしまったから深く聞けなかったのもある。




 さて、計画当日だ。酒木さんが城の結界を落としてから行動開始となる。どうやって落とすのか聞いてみたら「電磁パルスみたいな感じ」と答えてくれた。詳しい原理はわからないけど映画ではよく見るシチュエーションだ。なんとなく結果は想像できる。


 予定していた時間になった瞬間、城の結界……どころか城にあった魔道具とかが一切合切ぶっ壊れたみたいだ。照明も消えてメチャクチャ暗い。酒木さん、やりすぎじゃない?

 まあやりすぎだろうがなんだろうが舞台の幕は上がっているから行動しよう。巡回している兵に「賢者の部屋から魔族の気配を勇者パワー的なもので感じた」と嘘デタラメを言って人を集めるように指示する。実際はそんな気配なんか全くわからないけどね!

 人が集まるまでの間にのんびりとオレ、カンナ、有紗は完全武装。頃合いを見計らって酒木さんの部屋の前に集合。二人には「酒木さんなら大丈夫だろうけど念のため」と伝えてある。


 部屋の前には予定通りおっさんとその取り巻きの姿が見える。そりゃ散々、「勇者の影に隠れているだけのやつは信用できない」って煽ったからね!空気読まないっていうか空気無視するっていうのは結構きついね!視線がすごく痛い!


 予定外だったのはおっさんの指示で即突入とならなかったことだ。安全のためとは言ってはいるけど、どうにも時間稼ぎをしているようにみえる。部屋の中で酒木さんと魔族ができれば共倒れ、悪くても片方が死んでて欲しいってところか。

 中で仲良くしている光景見たらこのおっさん死ぬんじゃないか?


 散々待たされて合図とともに入った部屋で一番最初に目に入ったのは角と羽の生えたキワドイ衣装を着た美人な魔族(おっぱい)。酒木さん、ちょっと話が違いません?あ、手の甲にキスした。しかし、大きい。有紗よりも絶対大き……これ以上はいけない。約二名(有紗とカンナ)から殺気が!

 と、ふざけている場合じゃなかった。酒木さんの手をよく見ておかないと。決められたハンドサインの後に魔法が……来る!


 音波攻撃をするとは聞いていたけどここまで酷いとは。耳塞いだ程度じゃ無理だよ。有紗とカンナは……気絶してる。無理もないか。オレだけノイズキャンセリングみたいな魔法使っていたから無事だったけど。それでも聞こえてきて頭が痛い。


「ああ、それですか。そうですね。冥土の土産にお教えしましょう。」


 酒木さん鬼畜っすね……。国宝クラスの杖を使い捨てですか……。

 唖然としてたらおっぱいさん(魔族)がおっさんを殺そうとしてるよ。さすがに動かないとマズイよね。 


「酒木さん。悪いけど、この人は殺させないよ。」


嘘です。ぶっ殺してください。有紗とカンナの貞操のためにも。ついでに色々された恨みも晴らしておいてください。


 さあ!賢者と勇者のガチンコバトル!勝つのはどっちだ!と言いたいところだけど実際には音と光と風だけのただの演出です。八百長です。「これでアナタも明日からヒーローになれる!賢者開発の演出魔法!」ってわけだ。賢者がこんな魔法を開発してるってコンラッドのおじいさんが聞いたら泣くんじゃないかな。


「お待ち下さいアーミラ様!すぐ終わらせますから!」


「そうはさせないよ!酒木さん!」


 これでクライマックすぅ!?ちょ!?酒木さん?もう一回音波攻撃するなんて聞いてな、あやばい。吐く。



 さすが、ウヰスキー侯爵。えげつねー。


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