とある紙の上での会話
「なぁユウシャくん。ルーズリーフもってる?」
「ありますよ。下校中だったからカバンごと召喚されましたから。」
「よかった。メモ帳と手帳ぐらいしか書くものがなくてね。ノートPCがあるけど今はまだバッテリーを使いたくないから。」
「そうか、充電する方法がないんだ。スマホの電源切っておこう。で、ルーズリーフ何枚要ります?というか何に使うんですか?」
「紙と鉛筆を使ったちょっとしたゲームだよ。軽い気分転換にね。」
「?」
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《ここからは紙の上で会話しましょうか》
【え?というかなんで敬語なんですか?】
《癖みたいなものです。チャットでもそうだったでしょ?》
【あ~そういえば。じゃあオレは敬語なしで】
【それでなんで紙に?】
《盗聴を警戒してです。無いとは言い切れませんから》
【まさかー】
【なにか根拠が?】
《明確な根拠はありませんけど違和感ならかなりあります》
《魔王に攻められて後がないと言っていた割には随分と余裕があるように見えません?この国》
【確かに。悲壮感というかそういうのは感じない】
《謁見の間での勇者に対する反応もアイドルかソシャゲでレアキャラ引いたみたいな感じでしたよ》
【オレはSSRか!?】
《ぶっちゃけ私はこの国を全く信用していません》
【でもまだ初日】
《疑ってかかってそれでも何も出なかったときは信用しましょう》
《正直、戦争に至った経緯も怪しいと思っていますから》
【でも下手に動きすぎるとヤバイんじゃ?】
《そうなんですよね。衣食住も身分保障も何から何までもこの国に握られているのが現状です》
【もう言うとおりに魔王を倒して帰るのが一番安全なんじゃ】
《まぁそう考えちゃいますよね。隠してもあとが厄介なので先に言いますけど》
《帰還方法はたぶん存在しませんよ》
…………
……
…
【え?】
《おかしいと思いません?自分たちでは呼び出したけど送り返せませんなんて?》
【え、でも魔王が送り返す呪文を知ってるって】
《もし私が魔王で送還呪文を知っているなら城のウェルカムマットに仕込んで勇者みたいな危ない存在はとっとと送り返しますよ》
【じゃあオレたちが魔王を倒す理由は】
《無いに等しいですね》
《いや、この世界で生きるための手段といったほうがいいでしょう》
【手段?】
《そうです。魔王を倒すことを放棄した瞬間に私たちはこの世界での居場所を失います》
【侯爵、それ結局のところ解決策がないってことじゃ】
《勝っても政治的に利用される未来が見えますしね》
【いろいろと詰んでる…】
《全く手詰まりというわけでもないんですけどね》
【マジ!?】
《ただかなり危ないです。ぶっちゃけ失敗した時の危険度で言うなら討伐放棄のときより遥かに危険です》
《ただ成功すれば帰還方法もわかる「かも」しれません》
【「かも」なんだ。それでも0じゃない】
《ゲームの時から思ってましたけどユウシャくんのそういうところは非常に好感が持てますね。正直、謎の正義感で動き回る超お人好しな狂信的主人公気質な人じゃなくてよかったと心から思ってます》
【それ、褒め言葉だよね?】
《もちろんですよ?》
【じゃあいいや。で、作戦は?】
《もろもろざっくり省いて結論だけ言うと「魔王に勝利」してもらいます》
《その後でゆっくり帰る方法を探しましょう。そのほうが邪魔も入りにくいでしょうし》
【予想斜め上だった!?】
《最初のハードルは魔王がこの提案に乗ってくれるかどうかですね》
【初っ端からかなり難易度が高いような】
《でもそれをクリアすると後はかなり楽なんですよね。なにせ一番のネックである勇者は敵になりえないわけですから》
【とんでもない八百長だ】
《ベストは私が魔王のところに行くことですね》
【侯爵だけ?そこはやっぱ全員で】
《U社くん、もし魔王のところに行って知識ブーストで無双しようとか考えてるならやめた方がいいです》
《高校、それも卒業してない程度の知識じゃとても無理でしょう。大学で専門分野を学んだ人間でもできるかどうか不安なんですから》
【いや、そんなことは】
《うん、不安的中ですね。「剣と魔法」な世界に来て浮かれてるんじゃないかと思ってたけど案の定》
《銃でも作ってみたかったですか?》
【そりゃ定番だし】
《U社くんが作ろうとしたのは種子島ですよね?銃身の作り方は?黒色火薬は?それができたとして種子島は数を揃えないと意味がありません。どうやって量産を?》
【それは、こう、魔法とか使って】
《本来の作り方を知らないのにどうやって魔法で再現するんですか。それは地球の知識を馬鹿にしすぎです》
《あと、君の知ってるそういった小説やアニメを書いたのはそのあたりをしっかりと調べた大人です》
【フィクションはやっぱフィクションってことか】
《落ち込まないでください。なにも「私だけ」の理由はそれだけじゃありませんから》
【というと?】
《扱いにくい「大人」である私が居なくなってコントロールしやすそうなU社くんたち「子供」だけが残る》
《この国にとっては最高のシチュエーションだと思いません?》
《実際はそういった「歴史」を学んでいるコントロールしにくい「子供」ですけど》
【侯爵、怖っ!!】
【この国、一番召喚しちゃいけない人召喚したんじゃないか……】
《かもしれませんね。正直、結構怒ってますから》
【異世界召喚って響きはいいけど実際は拉致だもんね。転生なら話は違うかもしれないけど】
《完全に違法ですからね、これ》
【なるほど、侯爵の目標がなんとなくわかった】
【ベストは全員帰還だけど、絶対目標はこの世界の異世界召喚の破壊でしょ?】
【帰れる帰れないにかかわらずオレたちが最後の「勇者」なわけだ】
《おや、分かっちゃいましたか》
【「えげつない」で有名なウヰスキー侯爵様の作戦だもの】
【帰れない可能性を最初に言ったのもオレにその辺の覚悟を植え付けるためと逃げ道を塞ぐ意図があったでしょ?】
《否定しませんよ。たとえ怒られてもね》
【そこは信用されてると思って怒らないでおく】
《ありがとうございます》
【しかしこれは確かに盗聴されたら終わりだ】
《さすがに「日本語」が読めるとは思っていませんけど念のためもうひと押しやっておきましょうか》
【まだやるんだ】
《ええ。とりあえずゲームは君が勝ったことに》
【そういやそんな設定だったな】
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「お、君の勝ちみたいだね。」
「あ、ほんとだ。どうします?もう一戦します?」
「いや、やめておこう。息抜きのつもりが熱中しすぎたみたいだ。」
「ほんとだ。召喚された時間とこっちの時間がだいたい一緒だからもうそろそろ夕食の時間か。」
「そうだね。しかしこれはお金になるかもね。」
「お金って……このゲームがですか?」
「この世界に存在しないかもしれない娯楽だよ?十分商品になりえるさ。」
「なるほど。そうなると一度処分したほうが良さそうですね。」
「ちょうど暖炉が有るしここで燃やしてしまおう。確かおみやげで貰ったライターがカバンに。」
「魔法一つで再生されたりして……なんちゃって。」
「……ありえるな。」
「おっと冗談のつもりが。」
「そこのバルコニーで燃やして灰は適当に撒いてしまおう。それで復元されたらそれまでってことで。」
「そこまでやります?」
「ユウシャくん、お金はいくらあっても困らないんだよ?」
「……そうですね、やっちゃいましょう。」