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賢者の金策

「つまり妖狐が勝手に働き始めて給金が発生した。今はまだ大丈夫だけど既に赤字になっていて将来的に貯蓄がなくなると。」


「左様でございます。」


殆ど使っていない屋敷の執務室でモーリッツから話を聞く。妖狐の話が出た辺りでマサムネ……は諸事情でいないから変わりにタマモを呼び出している。


 払う必要があったのかと考えもしたが、皇帝直属部隊の長が不正雇用を働くというのは外聞的にも良くはないか。


 眼の前ではタマモとその世話係のモミジがお互い抱き合ってガタガタ震えている。


 いやいや、既にあっちこっち派遣したり軍でも一部雇用している状態だ。“勝手に働いた”って理由だけで罰していたら死なば諸共と何をしてくるかわかったもんじゃない。


 しかし、そんな給金が飛ぶほどの妖狐が屋敷に居ただろうか?


「そ、その……心配して様子を見に来た人たちがこっちの暮らしぶりを目の当たりにしてそのまま……。ご、ごめんなさい!」


使った割には妙に妖狐が減っていないと感じてはいたが、そういうことか。

 魔物がはびこる中、狩りに行かなくても食べれられるならこっちのほうが良いよな。


 このまま追い返してしまえば話は早いが、個人的に自由に動かせる駒が彼らしか居ない。送り返してまた呼び出すというのも変な話だ。

 生活に馴染ませるという点でもこっちに居てくれたほうが良い。


 そうなると今以上の金銭が必要になってくる。が、既に各地の情報網構築のためにかなりお金を回しているから懐に余裕はない。

 賃上げを要求?今でも結構な額をもらっているのに?それを足りなくなるたびに繰り返す?ちょっと無理があるな。

 自力でどうにかしなければならないわけだが……、


「職業軍人が副業で稼いで良いものなのか?」


「指揮官クラスですと副業を持っている方はかなり居られるので問題ないかと。確かルーカス大佐もお持ちのはずです。」


背後に控えていたアーミラが疑問に答えてくれた。

 軍人が副業って機密とかそういったものは大丈夫なのだろうか。


「一番多いのが不動産関係です。あとは後継者の居ない事業に名義を貸したりだとか。大佐も跡継ぎが居ない親類の酒造業を引き取っています。実質的な運営は奥方がやっているとか。」


大佐、お酒作っていたのか。名前はもちろん鬼ごろ……いやまて、奥方?


「大佐って結婚してたの!?」


「お子さん、6人程いらっしゃいますよ。」


子供まで居たのか……。

 武人然とした印象だったから何というか意外だ。そんな雰囲気全く無かったし。

 ……前線基地からこっちに帰ってきてほとんど休んでいないような。長めの休暇を今度言い渡しておこう。こっちから言わないと自分から休み取らないような気がしてきた。


 大佐が副業やっているなら俺が持ってもあまり文句は言われなさそうだ。まさかとは思うが……アーミラも何か事業をやっているとか?


「私は寮住まいの上に独身でしたから。副業が必要な出費はほとんどありませんでした。それに小隊長クラスですと中々そんなことをする暇もありませんし……仮に事業をやっていましても私は一度死んだことになっていますので。」


自嘲気味にそう言う姿はちょっと痛々しい。心なしか背中の羽も少し垂れている。


 モーリッツ達の視線が妙に痛い。うん、ちょっと考えが足りなかった。




■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆





 街中をぶらついて稼ぎのヒントになりそうなものはないかと探してみるが……これがなかなか難しい。

 というのも過去何度か行われた勇者召喚によって地球の技術が出回っているのだ。

 娯楽の定番であるカードやボードゲームはもちろん、手押しポンプに活版印刷と初期投資が少なく始められるものは王国でも見ることができた。植物性の紙も市場に結構出回っている。

 農業でも輪栽式は既に取り入れられているとのことだ。


 手軽に始められるものが非常に少ない。あっても需要が見込めるかどうかかなり怪しい。

 条件も厳しい。魔石の製造は公にできていないので魔道具もダメだ。


 複雑なものならいくらでも浮かび上がる。

 書類の殆どが手書きなのでタイプライターとか。確か初期のものにインクリボンを使わないタイプがあったはずだ。精度と部品点数を考えると現状では量産に全く向いてないが。




 しかし、こうやって見渡すと帝国はチグハグな感じがすごい。一部分だけが妙に先進的というか、時代を先取りしている。


 例えば軍だ。

 王国では税の優遇を条件に農民を徴兵する制度が取られていた。短期的に動員数を増やすのには有効な手段ではある。ついでに必要なときにだけ集めればいいので維持費を抑えることができる。

 ただし戦闘が長期化すると農繁期に影響する。税は優遇されるのであって0にはならない。自分たちが食べていくための農作物も作付けしないとならないため士気に関わってくる。

 徴兵された農民だけでなく国も打撃を受けやすい。作物を税として回収すると優遇した分は確実に減少する。作付けに影響した場合は次の税も減少し、徴兵された農民が死亡すれば更にマイナスだ。


 これに対して帝国は完全な兵農分離が行われている。軍の維持費は馬鹿にならないが、農作業への影響は皆無と言っていい。


 兵站も略奪や徴収が基本的な考えの中、軍の中に専門部隊があって管理は徹底されている。まるで兵站が途絶えることが何を意味するのか知っているかのように。


 どこまでも優れているかと思えばそうでもなく、科学技術や生産性は他国とあまり変わりがない。

 単位の設定も曖昧で規格化されたものはなく、“何故こんな事が起きるのか?”という疑問解消は魔力絡みのアプローチしか行われていない。

 そんな中で街中に地球の技術を、それも当たり前のように生活に溶け込んでいる姿を見ると違和感を通り越して不気味に思えてくる。

 まるでその部分だけを綺麗に抜き取られたかのような、あるいは搾取されたような。






■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆





 屋敷に戻って果実酒で軽く喉を潤す。生水より遥かに安全で価格も安く度数もそこまで高くないから完全に水の代用品だ。

 ぶどうに似た果物を使っているから、最初こそ味に微妙な違いがあって違和感を感じていたが最近は慣れてきた。見た目は梅、味はぶどう、香りは苺と口にした瞬間に感じた記憶との齟齬はなかなかに新鮮だった。


 帝国で酒といえば果実酒と麦酒、あとは“どぶろく”のようなものだ。

 どぶろくに近いものは大佐の酒造が作っている。原料が米ではなく麦だそうだ。現代日本でどぶろくなんて早々お目にかかれないからどんな味か実は全く知らない。

 麦でもいいから今度飲んでみたいな。


 麦酒はビールと違って自然発酵で生じる炭酸しか含まれていないのでかなり微炭酸だ。炭酸ガスのボンベがないから当然といえば当然だが。苦味のもととなるホップも入っていないから色々と刺激が足りない。おまけに生温いし。

 ただ味はすごくフルーティーだ。飲み屋によって使用している香料が違うのでお気に入りの“一杯”を探すというのも楽しみの一つである。


 ただ、蒸留酒だけはいただけない。実に不味い。

 熟成という概念がないのか、基本的に既に出来上がった酒からアルコールだけを抽出して瓶に詰めたようなものが大半だ。稀に瓶の中で熟成させる泡盛のような古酒には出会うけれども、高い割には香りも良くなくただ強い酒精を味わうためだけの代物だ。

 今なら喜んで有名メーカーから出ている黄色いラベルの貼られた亀甲模様の瓶のウィスキーを定価の10倍で買うだろう。それほど不味く、美味しい蒸留酒に飢えている。

 今思うとあれも値段とか考えれば良くできていたんじゃなかろうか。


 この世界での蒸留酒の使い方だが、そのまま飲むことはほとんどない。たまにドワーフ(酒飲み種族)が酒飲み対決で使っているぐらいで割って飲むのが主流だ。

 

 樽の中で香りを移したり、長期間置くことでアルコールをエステル化させてバニラやナッツのようなフレーバーを出すことはない。

 よく「ウィスキーを飲んでもフレーバーが良くわからない」という人がいるが、そんな人はウィスキーをグラスにほんの数滴垂らして乾かしてみると良い。グラスの底に残った香りがそのウィスキーが一番強く醸し出すものだ。その香りを嗅いだ後に改めてウィスキーを飲めば分からなかった物が見えるはずだ。

 あとはトワイスアップにロック、ストレートと自分にあった飲み方を見つければいい。



 うん、無性に飲みたくなった。碌なアイディアも浮かばなかったことだし作ろう。ついでに売れば金になるかもしれない。


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