夢現
第三章的サムシングのはじまりはじまり。
「ぐぬぬぬぬぬっ!」
「カナぁ、もう無理だよぉ。」
「まだよリノ!まだ手があるはずよ!」
「どう見ても無理だよぉ。」
セミロングの女の子とおっとりとした雰囲気の女性がゲーム盤を前にやいのやいの言っている。
盤上の状況を見て唸っているのが部長の白柳香菜先輩で、無謀な行動を起こそうとしている部長を止めてるのが五十里屋理乃先輩だ。
国家運営を模したボードゲームで彼女たちの国はかなり不利な状況に陥っている。
理乃先輩の国に至っては国土の三分の一が既に失われている状況だ。部長の支援がなければもう滅んでいたんじゃなかろうか。
その二人の国に攻め入っているのが、
「降参したらどうです?今なら肉焼き亭の食べ放題“梅”コースで手を打ちますよ?もちろん酒木くんの分もですけど。」
黒縁メガネを掛けた黒瀬 秀和先輩と、
「すみません先輩。ゴチになります。」
俺だ。
「秀和くん。因みにだけど、降参しないでこのまま負けたら?」
「問答無用で竹コースです。」
「ひーー!カナ!降参しよう!被害半分で済むよ!」
このゲーム、同盟を結ぶことができて部長と五十里屋先輩、俺と副部長の間でそれぞれ結ばれている。
そんな中で、
「ダメよ!今月もうお金ないんだから!……っというかトモアキ!あんたどっちの味方よ!」
「オレはお金の味方だよ。商売してくれるならどことでも付き合うよ。」
古河 友昭先輩だけが中立を宣言して貿易で成り立っている。
「そもそも腹黒コンビに正面から喧嘩売るほうがどうかしてるよ。」
「ははは。古川くんも僕に焼肉奢ってくれるみたいですね。」
「腹黒なのは黒瀬先輩だけです。俺は違います。」
「「「「え?」」」」
なぜそこでハモるのだろうか。
「ヒデカズに交渉とか丸投げ状態にして一大軍事国家作り上げた子が不思議な事言ってるわよ。」
「ええ。その分こっちはリソースを統治に注ぎ込めましたけど、軍事力は酒木くん頼みです。これに裏切られたら僕の国終わっちゃいますね。」
それをすると古河先輩の信用を失い資源の輸入ができなくなって俺も詰むな。
「弱い戦闘ユニットしか作ってないと思ってたら急に強くなるんだもんねぇ。完全に油断してたよ。」
弱いユニットも数を揃えてアップグレードすれば十分に戦える。生産コストが低いから量産しやすいし時間もかからない。
生産された大量のユニットは女性コンビへの包囲網をジワジワと狭めている。
「……ねぇコウジ?こっちに付かない?今付いてくれたら……。」
香菜先輩が少しシナを作りながら微笑んでくる。
「くれたら?」
「リノがすごいことしてくれるわよ?」
「カナぁ!?」
「香菜先輩…………。」
少し魅力的な香菜先輩の誘いに、
「竹コースゴチになります。」
俺は無慈悲な侵攻開始を突きつけた。
「いやああぁぁ!」
肉の魅力には勝てない!




