悪夢の始まり
エイン砦。エルフ領が保有する砦の中で最も攻略の難しいとされる一つに数えられている。
遥か昔にドワーフの手によって掘られた坑道は、人が登れないほどの急斜面に無数の出入り口を作った。エイン砦はこれを改造したもので、外の斜面に回廊や櫓を建設し外敵に備え、内部の坑道は通路兼生活環境として整えられた。
立地にも恵まれ、木々の少ない岩肌の山は敵に身を隠す術を与えず、唯一人が通れる谷を一望できる。
砦の前で谷が急な弧を描いているのも敵が詰まりやすく一方的な攻撃を仕掛けやすい要因になっている。
いつしかその攻略難度から帝国もエイン砦を諦め、砦から出てきた兵を叩ける様に布陣を変えていった。
命の危険が無い砦ではあるが、それは同時に功績を積むことが出来ないということでもある。ある意味、兵の墓場とも言えなくはない。
帝国を威圧するためだけに兵と予算を無為に消費する砦も、一部のエルフには非常に重要な場所である。
誰かと言われれば、ハイエルフだ。
彼らからすれば、戦場の最も安全な場所でその空気を味わうことが出来て、更には“人をいかにして使うか”を学べるある意味最高の研修機関だ。
「しかしイレネイ様も運が悪いですね。本当ならご結婚されていたはずなのに、タイミング悪くこの戦争ですからね。」
「なに、ユーリヤも理解している。それに、悪いが私は後数ヶ月でこの穴蔵とおさらばだ。残念ながら諸君らはここでお留守番だがな。その獣のように飢えた視線で私の美しい花嫁を汚されたくはないのでね。」
談笑が響くのは薄暗い砦の中ではなく、暖かい日差しが降り注ぐ外に設置されたテーブルセットだ。そこで御茶会をを開いているのはハイエルフのイレネイとその部下のエルフ達だ。
イリネイ・ヴィシュニャコフ、若いながら同年代のハイエルフと比べ頭一つ抜けている有望株だ。
若いとは言ってもハイエルフの寿命は400年近くあるので既に齢100年は超えている。ちなみに、エルフの寿命は200年ほどだ。
エルフ領の至宝と言われるユーリヤ・マメドヴァとの婚約を済ませ、いざ結婚となろうとした時に今回の戦争が勃発した。最も、恋愛結婚ではなく政略的な意味合いの強い結婚だが。
以来、この砦にて指揮という名の研修を行っている。
会社と同じで失敗のリスクが少ない、もしくは損失を最小限に留められる場所で経験を積ませ、徐々にステップアップを図る。“難攻不落のエイン砦を見事に指揮した”という下積み実績は箔をつけるのにうってつけである。
「ははは!そう言われると俄然、この目で見たくなりますな。早いところ人間どもが召喚した勇者に頑張ってもらわねば。」
「ふん、人間が召喚した勇者どもも人間であろうに。まぁ、魔王討伐の劇を演じる重要な道化だ。ミスをしないように我々が助けてやらねばな。」
「所詮、勇者と言われようとも人間は人間ですな。仕方ありません。ユーリヤ様の花嫁姿は諦めて、このくだらない三文芝居を安全なエイン砦から楽しむとしましょう。」
帝国がエルフ領に積極的攻勢にでない理由が統治のリスクだとすればその逆、エルフ領が帝国に攻め入らない理由は何処にあるのだろうか?
その答えは民族性だ。
彼らからすれば下等な他種族が自分たちに尽すのは当然であって、こうやって魔族の侵攻を食い止めているだけでも感謝してほしいというのが本音だ。
勇者がエルフ領を訪れたなら、適当に歓待して程々の強さの武具をさもエルフの秘蔵品のように与えて見送るだけだ。エルフの作る武具は人間が作るそれより遥かに高性能だから始末に負えない。
そしてエルフの本当の戦争は“戦争が終わってから始まる”。
各国との話し合いの場で国境線での侵攻阻止と勇者に“秘蔵の武器”を与えたという実績を盾にパイの角度を広げていく。
どれだけ非難されようとも次に交渉の場が設けられる頃には“経験者”は既に寿命で他界しているから、実質彼らの一人勝ちとも言える。
故に“勇者召喚”を止めない。
「あの、イレネイ様。ご報告が……。」
和やかな御茶会に突如紛れ込んだ雑音にイレネイの顔がゆがむ。
この後は書類仕事と指揮訓練を不快の程に湿度が高く薄暗い砦に戻って行わなければならない。陽のあたる場所で行うこの御茶会の重要性を理解していない不届き者に目を向けるが、その格好を見て今度は怪訝な表情になる。
闖入者の格好はイレネイが定期的に出すように命じた斥候兵とよく似ている。
エイン砦に斥候が必要だとイレネイは思ってはいないが、同世代の者に“怠慢”だと付け入る隙を与えないために確かに出していた。
その事を思い出しイレネイの頭の中はますます混迷していく。
「取り敢えず報告を聞こう。」
そう言って報告を聞こうとしたのだが、今度は斥候のほうが困惑した表情になった
「その……なんと言いますか……。」
「報告があるのか無いのかハッキリさせたまえ!」
「は!500ほどの魔族の集団がこちらに向かっております!」
まごつく斥候を叱責してみれば、その口から出てきたのは俄には信じがたい内容だった。
エイン砦に攻め入ってきたことももちろんだが、兵数わずか500と言うのはどう考えても無理がある。この砦を落とすなら、その三倍から四倍の兵を持ってきてもまだ足りないというのにだ。
(いくら魔族が馬鹿だからとこんな簡単な計算ができないほどでは無いはずだ。)
「内訳は奇妙なゴーレムが50。他は全部歩兵です。」
(いや、本当に計算ができない馬鹿がいたとしたら?確か勇者の1人が魔族に寝返ったという報告が確か上がっていたはず。もし、そいつ率いているなら?)
「それと、率いているのは人間のようです。」
(当たりだ!)
イレネイの頭のなかで勢い良くソロバンが弾かれていく。
簡単に寝返る人間を信用できなかった魔王が“処分”のためにエイン砦攻略を命じたのか、はたまた自身の力を過信してここに自殺しに来たのかそんなことは彼にとってはどうでも良かった。
必要なのは“裏切り者”が挙兵してノコノコとやってきた事実だ。
「その奇妙なゴーレムとやらの報告を詳しくしろ。」
「は!材質は土ですが足が四本になっています。それと盾のようなものも持っています。」
(確かにそれは奇妙、いや珍妙だ。裏切り者の考えなのだろうが大した問題ではないな。)
たかだか500程度の集団ならこの砦で文字通り“殲滅”できるだろう。
後は報告書に相手の人数をほんの少し嵩増しして、“裏切り者”の情報を書き加えてやればいい。
実際に居たかどうかはこの際関係ない。それらしき者と戦い、勝って、死体に関しては損傷が激しくて確認できなかったか逃げ果せたとでも言えばそれでお終いだ。
(これで周りより一歩先にいける。そして未だにユーリヤとの婚姻に異を唱える連中を根こそぎ黙らせることができる。)
「接敵はいつごろになる。」
「は!恐らく四日後になるかと。」
「よし!今日の訓練が終わり次第、砦の設備点検を行え!念入りにだ!」
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四日後の夜、砦で煌々と焚かれる篝火に誘われるようにゴーレムの影が見え始めた。
堅牢なゴーレムを盾に砦に近づいて来ているように見えるが、どうにも様子がおかしい。
「連中、何処にいるんでしょうね?」
「まさか報告にあった50体のゴーレムだけでこの砦が落とすつもりですかな?」
50体のゴーレムの背後に見えていなければいけない物が見えない。
敵の本隊が掲げているはずの松明の灯りがないのだ。
しかしながら、木々がほとんど生えていない岩山で百を超える兵が奇襲をかけることが出来るとは思えない。ここで優柔不断な判断をすれば、出さなくてもいい損耗を出してしまう可能性が高い。
そう考えて、イレネイはこのまま防衛に徹するように指示を出した。
「諸君。水魔法の準備だ。土のゴーレムなぞ水を掛ければそれでお終いだ。」
砦の最も高い位置にある指揮所から全軍に向けて声が響く。
配置についた魔法使いが詠唱の準備を進め、詠唱の朗々たる響きとゴーレムが打ち鳴らす地響きが否応なしに緊張感を高めていく。
事実、土で作られたゴーレムは水あるいは極度の乾燥に非常に弱い。
水分が多くなればその分、自らの形を維持するために余計な負荷がかかって最終的には崩壊する。
乾燥が激しいと、今度は固まってしまって少し動いただけで崩れてしまう。
戦闘では大量の土を乾燥させるのは時間がかかるので水魔法で対処するのが定石だ。
兵を鼓舞する雄叫び怒声もなく、戦場とは思えない。そんな泥のような空気の中、距離を測るために置いた篝火がついにゴーレムの全容を捕らえた。
報告にあった四本足。自らを覆い尽くさんとする大盾。
まるで馬に跨がった騎士のようにも見えるが、欠けているものが1つ。
(首が……無い。まるでデュラハンのようだ。)
篝火の揺らめく炎に照らされるそのシルエットは、さながら霊界からの使者のようにも見える。
あまりにも既知の物からかけ離れた姿を目にした兵達から動揺の声が上がる。
逆にそれがイレネイを冷静にさせた。
「うろたえるな!所詮は土塊の木偶だ!恐れることはない!」
言葉とは不思議なもので意識して声に出したことで、無意識のうちに自分で掛けていた幻想が取り払われた。
四本足の設計は確かに二本足のものより速く動いているが、構造に無理があるのか地響きと共に表面の土が剥がれ落ちていっている。
盾も木と粘土の張りぼてで、なんとも頼りない。
(しかし……おしいな。)
金か知恵か、はたまた両方無かったのか。しっかりと形にすれば色々と“使える”発想だ。
(洗い流せば研究用にあのゴーレムの魔石が手に入る。どこの人間かは知らんが精々感謝するといい。その未熟な技術をこの私がより良いものに変えてやるのだからな。)
戦場の空気に似つかわしくない口許を手で隠しながら攻撃のタイミングを計る。
イレネイの周りに居るエルフは、その笑みを勝利の確信と捉え同じようにほくそ笑んだ。後は彼が最後の仕上げをするのみ、と。
そして遂に……
「目標、先頭集団!放てぇ!」
イレネイの号令とともに射程に入ったゴーレムに向けてありとあらゆる水魔法が放たれる。
初歩的なウォーターボールからウォール、ランスと続々解き放たれた水魔法が篝火の光を反射して幻想的な美しい光景を作り出す。
しかしその幻想的な魔法も獲物に食らいついた瞬間、内包していた暴力的な衝動を開放させる。
ドン!と魔法が着弾する度に肉がぶつかりあったような鈍い音をさせ、ゴーレムの土が弾け飛ぶ。
自らを守るためにと掲げる盾も次々と破片を撒き散らしていく。
容赦なく襲う魔法に、とうとう敵の先頭集団が膝をついた。
(これで後は集団の最後尾を狙えば連中は袋のネズミ……。)
「な、なんだ……あれは?」
一人のエルフが突然、ゴーレムを指差しながら声を上げた。
それは最前列で激しい攻撃を受けて膝を屈した数体のゴーレムだった。
「おい、あれ……。」
「そんなことってあるのか?」
吹き飛ばされた土塊の下に見えるのは鈍く光る骨格。張りぼてだった大盾はいつの間にかこちらの灯りを照らし返している。
「鉄のゴーレム……なのか?」
膝を屈していたはずの首無ゴーレム達はまるで何事もなかったのように立ち上がり、隊列を整え始めた。
「まさか、そこにいいる全部がそうじゃないよな……?」
その言葉がゴーレムに届いたかどうかはわからない。
ただ、イレネイの目にはそこにないはずのゴーレムの顔が確かに笑ったように見えた。
「あ……ありえない。」
確かにゴーレムの素材を鉄に変えれば土塊のゴーレムの比にならない頑丈さを得られる。
土のゴーレムならともかく、アイアンゴーレムとなれば倒すために必要な労力は倍どころではない。
だがゴーレムが動く際には関節を魔法で変形させなければいけない。当然、硬い素材を使えばより多くの魔力が必要になり求められる魔石の品質と大きさも跳ね上がることになる。
(あれだけの数のアイアンゴーレムを作るとなると、魔族共は高品質の魔石をいったいどれだけ無駄に使ったのだ!?)
動きの鈍いゴーレムに高品質の魔石を使うのはある意味贅沢だ。
それを知ってか知らずか、とにかくイレネイの神経を逆撫でるには十分だった。
(私ならあんな“ガラクタ”に貴重な魔石を使わせないというのに!……まて。他の連中がそんな無駄遣いを許すわけがない。)
「騙されるな!アイアンゴーレムは最前列だけだ!総員、火魔法の準備を……。」
イレネイが新たな指示を出そうとしたところで、ゴーレムが動いた。
後方から“何か”が放たれ、高い放物線を描きながら砦に向かってくる。
そして、一瞬の不意を突いて敵の隊列の前半がゴーレムに有るまじき俊敏さを持って砦の前を通過した。
反応できた者は馬よりも早く移動するゴーレムに攻撃を仕掛けるが、それはいたずらに恐怖を助長するだけだった。
「全部、アイアンゴーレムじゃないか……。」
絶望を滲ませた声が誰かの口から漏れた。
攻撃魔法が当たって剥がれた土の下に見えるのは鋼の光沢だ。
攻撃に怯むこともなく、剥がれ落ちる土を気にすることもなく突き進んだゴーレムの群れは最も攻撃の激しい砦の前を何事もなく通過する。そして、砦からの攻撃がギリギリ届く距離で停止し、その場で反転した。
それは、狩るものと狩られる者の立場が逆転した瞬間だった。
後列に位置していたゴーレムも纏っていた土を邪魔だと言わんばかりにふるい落として鋼の地肌を晒している。
砦前の狩場はゴーレムに奪われ、意思のない人形を撤退させる手段をエルフは持ち合わせていない。
どちらかが全滅するまで続く悪夢のような舞台が整った。
幸運か、はたまた不幸か。
イレネイ達がその事に気づくことはできなかった。
ゴーレム達によって打ち上げられた“それ”は放物線の頂点に達し、重力に引かれて落下を始める。
砦に降り注ぐ“それ”は転がり、時に跳ね、意思を持っているかのようにありとあらゆる場所に入り込む。
坑道内部ももちろんのこと。
ある者は不幸にも降り注ぐ物体に当たって負傷し、またある者は飛来物を拾い上げてつぶさに観察する。
それは金属製の球体で、ちょうど人の拳二つ分の大きさ。中は空洞で液体が詰まっているらしく、振るとチャポンと音がする。
イレネイ達がいる場所にも一つ飛来した。
砦を壊すには小さく、人を殺すには軽すぎるそれを「邪魔だ」と呟きながら投げた瞬間、事は起こった。
「があああああぁああ!」
「い、息がっ!目にっ!」
球体から突如、黄緑色の煙が吹き出した。まともに浴びた者は顔を抑えてのたうち回り、吸い込んだ者も首を押さえて喘いでいる。
煙から逃げようにもそこら中に球体が転がっていて、着々と安全地帯を塗りつぶしていっている。
「毒とは卑怯な!」
指揮所に居たエルフの一人が喚き始め、眼下に身を乗り出して命令の声を張り上げる。
「何をしている!とっとと浄化魔法か風魔法で毒をどうにか『ズバァン!』……。」
男は妙な音と共に体を一瞬痙攣させ、完全に沈黙した。
不審に思ったイレネイが男の肩を掴んで引き上げると、そこにあるはずの頭部が綺麗に弾け飛んでいる。
「ーーーーーーーーーっ!」
あまりの事に声にならない叫びをあげ、死体を突き飛ばして尻餅をついた。
(な、なんだ?何をされた?どこから魔法を撃たれた?)
ハイエルフにあるまじき醜態をさらしながらも思考を巡らせる。
人を一人、あれだけ精確に狙える魔法があるのか?あったとしていったい何処から狙うというのか?
思考の海に溺れていて、不意に気づく。
(いつまで私はこのままなのだ?)
ハイエルフである自分が倒れたなら真っ先に助け起こすのが常識なはず。
そう思って周りに目を向ければ、そこは地獄と化していた。
この毒煙の中をどうやって突破したのか、次々に伝令が押し寄せてきている。
イレネイの部下はその対応に追われていた。
肌や粘膜が爛れ、喉と目も焼かれているのかかすれるような声で報告する伝令。
その内容を一言でも多く聞こうと口に耳を寄せる部下。
治療魔法で救おうとしている者も居るが、怪我の範囲が広く効果があるのか怪しい。
呆然とするイレネイの耳に入ってくる断片的な情報はどれも絶望を煮詰めたようなものだった。
浄化魔法が効かない。
詠唱のために口を開けると喉が焼かれる。
坑道内はどこにも逃げ場がない。
上官が倒れて指揮系統が機能していない。
そして、
エイン砦から出れば殺される。
イレネイの視線は自然と頭のないエルフに向いた。
そしてそのままゆっくりと、慎重に砦を見渡した。
未だあちこちからうめき声と悲鳴が上がる中、決死の反撃をする兵がわずかながら居た。悲しいことに、それを尻目に砦の外に新鮮な空気と安全な場所を求めて飛び出した者がかなりの数見えた。
決死の覚悟で飛び降りる者も居れば、あろうことか物資を搬入する通用門を開放して外に出る者も居る。
そのどれもに共通するのが、砦からある程度離れたところで体の何処かを爆散させて倒れていっていることだ。
(降伏を……ゴーレム相手に?誰がゴーレムを止める?緊急時の脱出路は……坑道の奥だ。)
生存につながる僅かな可能性をイレネイは必死に模索するが、
『カラン……』
それを嘲笑うかのように“あの球体”が指揮所に再び降ってきた。
『カラン……』
『カラン……』
『カラン……カラン……』
『カラン……』
『カラン……カラン……カラン……』
それも無数に。
一瞬の静寂の後、吹き出した毒煙で指揮所は絶叫の渦に飲まれてその機能を消失した。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆
朦朧とする意識の中、イレネイはふと人の気配を感じた。
目を開けても明るいことはわかるが、像を結ばない。
「ぐふ……ゔうぅ。」
毒によって焼け爛れた喉は意味をなさない音しか出さなかった。
「意外と生き残っているやつが多いな。どれも瀕死だが。」
聞き覚えのない声に魔族がこの砦を掌握したことをイレネイは理解した。
「しかし、ここ指揮所だよな?ハイエルフが居るとしたらここだと思ったんだが。」
「ゔゔぅぅぅ……。」
(それは私だ!誰かは知らんが“女神の御使い”を救う栄誉を与えてやる!だから助けろ!)
イレネイは敵は必ず自分を捕虜にするはずだと信じていた。しかし……
「聞いてたとおり、どれがハイエルフかさっぱり分からんな。」
悲しいことにエルフとハイエルフを見分けられるのは同じエルフだけだということを、この時までイレネイは知らなかった。
「薬も時間ももったいない。生き残りは全員始末しろ。後で見分けの付く奴に確認させよう。」
そう言ってその人物は去っていった。
後には肉に刃物を突き立てる、ドスッという鈍い音と時折悲鳴が複数響いているだけになった。
(ま、まて!私は使えるぞ!この私を……い、嫌だ!死にたく無い!死にた……「が……あ………」
【エルフ領・エイン砦、ヴィルヘルム魔導帝国の新設部隊“第八大隊”の手により陥落】
エルフ領「国境線に穴が開いた……。」




