テンプレはさくっと 変態は颯爽と
豪華絢爛という言葉がこれほど似合う場所は無いんじゃないかっていうぐらい装飾と調度品にあふれた部屋、というよりもホールと言うべきか。数段高い位置にある豪華な椅子から俺たち四人+αを見下ろすのはメタボ診断で腹囲が確実に引っかかりそうな、これまた立派なおっさんだ。
ちなみにαは「世界を救ってくれ」宣言をした金髪の女性、それとその護衛だ。
ホールの両脇には身なりのいいその他大勢がぶしつけな視線を俺達に向けている。何人か俺の方を見てるが十中八九、悪口のたぐいだろう。
もはや展開がお約束すぎる上に、高い地位にいる人の話というのは長いうえに装飾過多で聞くに堪えない。なので必要な情報だけピックアップして不要な部分は右から左へサクッと流してしまおう。
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魔王倒して来いの説明になぜ三十分もかかるのか。
まあいい。要するにこのメタボ、ルクーシャス・エルガルド曰く数年前から魔王が世界征服に乗り出して世界の危機にある。
既に獣人の国の領土の大半は失われている。
このままじゃまずいから教会の協力を得ておよそ100年ぶりに勇者召喚を行った。
帰りの切符は魔王が持っている。
国の名前はエルガルド王国。
なんとも泣けてくる話だ。ああ、国王の名前はもっと長かったけど見事なまでに長い装飾ミドルネームだったので割愛だ。案内を務めたのは第一王女のロザンナというみたいだ。
そうそう、召喚された側だけどイケメン少年が八代優一。活発そうなポニーテールの女の子が堀カンナ。ですます調のお嬢様ヘアーが宮村有紗。最後に俺、酒木浩二。
名前だけの自己紹介だけど。
「では皆様、左手の甲を見せていただいてもよろしいですかな?」
そう言って出てきたのはこの国の宮廷魔導士を名乗る老人、コンラッドだ。三十分のうち十分はこいつがよくわからない召喚システムの自論を述べていた。
左手を見るといつの間にか見たこともない模様が浮かんでいる。抽象的過ぎて非常に説明しづらいけど強いて言うなら「バッテン」だろうか。え、却下?
コンラッドがまず八代優一の左手を見る。どことなく剣を連想させるデザインだ。
「勇者の紋章です。」
途端に怒号のような歓声がホールに響き渡る。なるほど、さすがはユウシャ君だ。
次いで堀カンナ。
「聖騎士の紋章です。」
八代優一のときほどじゃないけど歓声が上がる。
さらに宮村有紗。
「聖者の紋章です。」
割りとオーソドックス。
最後に俺。なぜかこの御老体、頑なに俺と目を合わせようとしない。
「賢者の紋章です。」
お、意外だ。てっきり「あなたは関係ありません」かと思っていたらしっかり巻き込まれていた。こいつらが言う紋章とやらもバツ印だし。
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《八代優一 視点》
「さて、そっちの三人は同じ高校でお互いのことを知っているみたいだけどまずは自己紹介と行きましょうか。」
そう話しかけてきたのは酒木さんだ。
ホール……正確には謁見の間での出来事の後、オレたちは城の中に用意された個室に通された。テレビでしか見たことのない一泊で百万単位の金額が飛びそうな豪華な部屋に気圧されていたところ、坂木さんの「ちょっと話し合いでもしよう」という提案に乗って今は全員オレの部屋に集まってる。
「まずは私からしましょう。名前は酒木浩二。年はアラサー。ちょっとデリケートなんで具体的な年齢は伏せさせてください。職業は大学で研究やってます。いや、ましたかな?この場合。」
身長は180センチぐらいだろうか。ちょっと痩せてはいるけど不健康な感じじゃなくて引き締まった感じ。喋り方と声だけ聞けばすごく優しそうな印象だ。
だがぶっちゃけ、めっちゃ怖い。
顔は完全にメガネを掛けたインテリなヤの就く職業の人だ。
帰り道でよく見かけるけど完全にそっちの筋の人かと思ってた。あの顔で大学関係者なのか……。ともあれ黙っていても感じが悪いからオレも自己紹介しておこう。
「えっと、八代優一です。高2で歳は17です。部活とかは特にやってません。なぜか勇者になりました。」
「堀カンナです。優一と同じで高校二年、17歳です。帰宅部です。」
「宮村有紗といいます。優一くんとカンナちゃんとは幼馴染で学年も一緒です。歳は16になります。」
なんか酒木さんが「さすがユウシャくん」って言ったような……なんだ?
身長はオレが175でカンナが168,有紗が155だ。胸の大きさは身長とは逆で有紗>カンナ、具体的な大きさは伏せるけどカンナの大きさは片手に収まる範囲だ。なんで知っているかって?……ちょっとした事故だよ。
「なるほど、三人共付き合いが長いんですね。」
「そうですね。なんだかんだで幼稚園に入る前からです。あと、年下のオレたちに敬語使わなくてもいいですよ。」
「あ、そう?いやぁ、何故か初対面の相手には年下でも敬語を使えって口を酸っぱく言われてるもんで。なんでだろうね。」
絶対その顔のせいです。口が裂けてもいえませんけど。
「じゃあこれからなんだけど正直、情報がなさすぎてどう動いていいのかさっぱりわからない。なので、とりあえずユウシャくんをリーダーにして今後動いていきたいと思う。」
「え、ここは最年長の酒木さんのほうがよろしいのでは?」
有紗の言葉にオレとカンナが頷く。ところでオレの名前は勇者くんは固定なのか?
「残念だけど年功序列って考えはこの国、もしくはこの世界じゃあまり通用しないって思ったほうがいいと思う。特にこの国ではね。」
酒木さんの話をまとめると、エルガルド王国は絶対王政もしくは貴族制を敷いている可能性が高い。そう言ったところでは身分というものは基本的に何事においても優先されるそうだ。たとえ相手が幼い子供でもだ。
すると「勇者」という「身分」は重要性から見てオレたち四人の中で最も高いんじゃないか。ここで「賢者」の酒木さんがリーダーをやると「勇者」を下に見ているとしてそのことを快く思わない連中がほぼ確実に何らかの形で干渉してくる。それを防ぐためにも、
「リーダーはユウシャくんじゃないと。そのリーダーが俺に意見を求めたり相談するのは自由だ。」
「でも、傀儡と思われてしまったら結局は介入されてしまうのではないでしょうか?」
「それは十分考えられるね。でもある程度は対策できる。その対策は君たち二人にもやってもらわないといけない。」
カンナと有紗を指差しながら酒木さんは言った。
「あたしたちもですか?」
「そうだ。なに、そこまで難しいことじゃない。〈公式の場で勇者を差し置いて決定を口にしない〉。これさえ守ればいい。」
なるほど。有紗も分かったみたいだけど、カンナは……だめみたいだ。酒木さんもそれに気づいたみたいでカンナの方を見ながら説明を続ける。
「そうだね。例えば先を急いでいる途中で寄った町の町長に『この町は盗賊に狙われていす。どうか助けてください』と言われたときにユウシャくんは黙って考え込んでいます。さてどうする?」
「優一君の意見を待ちます。」
「え、そこは人として助けるべきでしょ?」
「はいカンナ、アウトー」
「なんで!?」
「いま堀さんがやったことは自分よりも身分が高い「勇者」を差し置いて勝手に物事を決めたことになるね。日本で言うなら「社長」が横にいるのに部下が勝手に契約書にサインするって感じかな。要は正式に何か頼まれたりする場面では相手と直接話さないで、必ず間に「勇者」を挟むってこと。」
「え、でも……。」
「うん、人道的には間違ってる。ついでにいうとこの世界は男女平等じゃなくて男尊女卑かもしれない。女が男に意見したと捉えられてしまう可能性もある。でもそれがこの世界のルールだ。そのルールを無視する行為が積み重なって最終的には自分たちの首を絞めることになるかもしれないって事だけは頭に入れておいてほしい。」
「じゃあ、襲われている人がいても無視しろってことですか?」
「それも場合によりけりだね。明らかに盗賊みたいな連中に襲われてるなら介入した方がいいけど身なりの良い連中ならちょっと様子を見るとかね。」
「う~ん。理解できても納得できない。」
「無理もないよ。君たちはそういう「教育」を受けてきたんだから。今日明日でその考えを捨てるのは難しいだろうね。でもその考えを捨てざるをえない場面がかならず来ることは覚えておいてほしい。」
その後は少し話を続けるも女子二人が頭の中を整理してくると言って退出している。今は酒木さんと二人きりだ。
「さて、ユウシャくん。女の子がいない間にちょっとエグかったり生々しい部分の話し合いをしようか。」
「生々しい部分ですか。話し合うのはいいんですけど、その勇者くんはやめてもらえませんか?」
さっきからすごく気になっていたオレのことを勇者くんと呼ぶことに突っ込むと酒木さんがすごい驚いた顔をしている。
(間違えた?もしかして他の人だった?だとしたら相当恥ずかしいぞ。いや、こっちを正しく認識してない可能性も……。)
なんかすごい勢いで独り言を始めたぞ。ちょっと怖い。
「あのー。」
「うん、そうだな。改めて自己紹介し直そう。
はじめましてU社くん。いやU社くんかな?
ウヰスキー侯爵だ。」
「………………まじか。」
U社はオレのハンドルネームだ。