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ヘッドハンティング

 数日後、謁見の間でありがたいお言葉と報酬をいただき、任命パーティーを楽しみました。以上!



 謁見の間で決闘騒ぎなんて物語じゃ王道だろうけど、実際に起きようものなら自国の管理能力を疑われて大顰蹙(ひんしゅく)よ。

 せいぜいパーティ会場で追加の人員をおねだりしたぐらいだ。

 まぁ、「忙しいから自分で選べ」って丸投げされたんだけど。


 謁見とパーティーは大佐マネーで注文した上下黒の詰め襟に黒のマントで挑んだ。黒髪、黒目に全身真っ黒でちょっとやりすぎかとは思ったけど、意外と好評だった。



 そんなことはどうでもいい。

 ようやく計画の足場、といってもその基礎、が出来上がったんだ。これからが本番だ。


 帝都内に屋敷、帝都の外に老朽化から使われなくなった予備の練兵場を貰い受けた。屋敷は程々の広さでいい感じだ。あまり広くても管理が面倒なので丁度いい。練兵場も老朽化とは言うけれど、設備とかに関してで建物自体はかなり頑丈だ。

 取り敢えず、屋敷にタマモたちを適当に詰め込んで、貰った兵は完全に大佐に丸投げだ。


 で、今は屋敷の自室に居るわけなんだけれど……なぜアーミラさんがここに居るんですかね?それもメイド服で。


「本日付でコウジ様の秘書に異動となりました。今後とも宜しくお願いします。」


……あ、はい。


 “非道な王国より救出された女性兵”ってタイトルで軍の広告塔になると思ってたんだけどなぁ。そういうのが必要ないぐらい、士気が高いってことなんだろうか。


 まぁいいや。取り敢えず、秘書ゲット。



■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆




「さっそく来たネ。待ってたヨ。」



 やって来たのはアラクネのメティヒルデが管理する国の研究所だ。

 ここで俺が欲しい人材が居ればかなり楽ができる。


 ………決して、断じて、研究魂が疼いたわけではない。……うん、ないよ?ほんとよ?


「極秘研究やってるノ、連れて行かれると困るかラ、ここから好きなのいいヨ。」


 そう言って通されたのは第三研究室と書かれた場所だった。

 第三……。


「腐っても国の研究ネ。バカは入れないから安心ヨ。」


 その言葉を信じるとしよう。


 研究所の中は鉱物、薬品、魔法陣と多種多様な研究が行われている。

 ちょっと大学で所属していた研究室に似た空気が漂っているな。……ここまでファンタジーな空気じゃないけど。




 フロンティア研究。


 全く同じ名前もあれば、違う名称で機能は同じ研究室も存在する。人によっては聞いたことある名前だろう。

 学問、学部、文系、理系の垣根を取り払った最も理想的な研究を目的に設立された。

 研究者からすればテーマに縛られない理想郷のような存在だ。


 最も俺の大学の場合、設立に至った経緯は実にシビアだったりするわけだけど。

 例えば骨のタンパク質に関する研究を生化学の研究室が、骨のタンパク質の“代謝異常”の研究を病理学が行うとしよう。

 大学からすれば、似たような内容だから合同研究にして研究予算を一円でも安く抑えたいわけだ。研究室同士が物凄く仲がいいのなら問題は起きないんだけど、そうじゃない場合はしょっちゅう揉める。

 「使う予定の検体をあっちの連中が全部使った。もう一つ買うから予算をくれ」とか、「研究に使う大型の実験装置が向こうにしか無いけどなかなか使わせてもらえない。自分たちの分を買うから予算をくれ」とか。

 結局、最初からバラバラに研究させていたときと同じかそれ以上の予算を持っていかれてしまう。

 そこで、“もうお前ら面倒だから最初から全部一緒にするぞ。いいな?”で誕生したのが俺が所属していたフロンティア研究室だったりする。


閑話休題。



「この子どウ?第三の中で有望株ヨ?」


紹介されたのは小綺麗な青年の……牙があるから吸血鬼か?

 研究内容は魔法陣の魔力耐用量上昇と伝導率の効率化。

 有能そうではあるけど、なんか違うな。期待には答えてくれるかも知れないけれど俺の求める人材じゃない。

 机周りには研究中の魔法陣らしきものが転がってはいるけれど、妙にこざっぱりしているというか、なんとういか。


 ……いや、この研究室全体が綺麗なのか。


 だからこそ、ある一角が非常によく目立つ。そして、凄くウズウズする。


「あ、そっちハ!?」


メティヒルデが制止の声をかけるけど、お構いなしにその場所に向かう。


 研究所の隅っこに出来上がっていた異様な光景。

 床は実験の過程で出た削りカスやら丸められた紙といったゴミが散乱している。

 壁には明らかに素人が作った見た目の悪い棚が設置され、なぜ耐えられているのか分からないぐらいに物が詰め込まれていた。

 そして、机は作業スペースのみ残して資料や道具で埋もれている。


 ぶっちゃけ、かなり汚い。


 そんな場所の主は、無精髭に肥満体質、服のあちこちが汚れまくっている。俺たちが近づいて来ても、ひたすら自分の作業に没頭している。


 牙に耳が見えるから狼男なんだろうか………狼男って太るのか?マッチョなイメージなんだけど。


 メティヒルデがものすごく頭の痛そうな顔をしているけれど、見ないふりをして彼の研究成果を勝手に見る。


 大きさはバラバラだけれど、どれも共通して円筒状の構造をしている。中空構造で中には軸のようなものが一本、どこにも触れることなく浮いている。

 軽く魔力を流してみると軸が力強く回り始めた。


「見ての通リ、ただ回るだケ。この男ハ、頭はいいけド、この研究しかしてなイ。もっといいノ、紹介する……」


「なぁ、これどれだけの出力を叩き出せる?」


「うひゃ!?」


話しかけられたことで、ようやく自分の研究スペースに闖入者が居ることに気づいたようだ。


「ななななんですかな?め、メティヒルデ様、この男は何ですかな?ボクに何のようですかな!?」


この中で知っている顔のメティヒルデに助けを求めているけれど、話しかけているのは俺だ。


「これ、どれぐらいの力がある。」


俺が手にしている物を見て男が表情を変えた。


「F型Mark.Ⅷですな。F型は回転数を重視しているのでパワーはあまりありませんぞ。パワーでしたらこっちのG型ですな。回転数はF型の半分以下ですがパワーは段違いですぞ。欠点は少々うるさいことですな。」


男が手にしたG型と呼ばれるものはF型に比べて取り付けられているパーツが多い。説明通り、ギューンと独特な音を響かせている。うるさいといえばうるさいが、地球の“モーター”に比べればかなり静かだ。


「今はどんな研究を?」


「パワーと回転数のデーターはある程度、取れているので今は制御ですな。決まった回数だけ回転させたいのですが、少しでも出力にムラがあると制御を外れてしまうのですぞ。」


「魔力を一時的に蓄えられる機構を取り付けろ。そこから必要分だけ取り出せば使用者の魔力に左右されない“キレイな出力”が得られるはずだ。それと、制御を魔力を流す時間でやろうとするな。一定の波形で処理しろ。」


コンデンサー(蓄電器)とパルス波形についてざっくりと説明したら、ガッっと肩を掴まれた。


「そ、それですぞ!それでいけますぞ!」


そのまま魔石だの聞いたこともない金属の名称を唱えながら実験に戻ってしまった。


「彼を貰う。雑用係も何人かつけてくれ。」


「ナ!?正気ネ!?回るだけヨ!?」


回転エネルギーを馬鹿にしちゃいけない。

 江戸時代、からくり儀右衛門として有名な田中久重はゼンマイという回転機構と歯車だけで万年時計と数々のからくり人形を作り上げた。

 現存するからくり人形で有名なのは弓曳童子(ゆみひきどうじ)と文字書き人形がある。

 弓曳童子は文字通り弓を引いて放つんだけど、台座にセットされた矢を自ら手にとって番えて放ち、また次の矢をとるという複雑な動きをする。

 文字書き人形に至っては「寿」「松」「竹」「梅」の四文字を紙に書き上げる。


 江戸時代だけじゃなく、現代でも回転エネルギーはあちこちに使われている。

 電車、航空機、船舶、工場、ありとあらゆる物にだ。


 そんな、万能エネルギーを研究している人物を手放す理由があるか。いやない。


 予想以上の収穫だ。


 研究員、ゲット。



 しまった、名前聞き忘れた。


■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆




「む、賢者にアーミラか。」


研究所を後にして軍司令部の前に差し掛かったところでナルシスト(ベンノ)と出くわした。相も変わらず神経質そうな顔だ。


 司令部から出てきたところなんだろうけど……何故か私服だ。


「戻られていたのですか、ベンノ中尉。」


「ちょうど賢者のパーティーの日にね。あとアーミラ、僕はもう中尉ではない。」


「失礼しました。」


そういえば、ベンノって種族は何になるんだろうか。子鬼みたいに小さくもなくオーガみたいに大きくもない。羽が生えているわけでもなく牙も見えない。ヒト……でも無さそうなんだよな。


「な、何をジロジロ見ているのかね。」


「いや、お前って何なのかなって。ヒトじゃないよな?」


質問した途端、物凄い嫌そうな表情をしてきた。


「……チッ。僕はダンピールだ。ヒトでもなく吸血鬼でもない半端者だ。満足かい?」


コンプレックスだったのか。それは悪いことをした。


「悪かった。純粋な好奇心だ。」


ふんっと鼻息荒くそっぽを向かれてしまった。


「ところでベンノはなぜ司令部に?」


確かに疑問だ。元前線基地組、現新賢者部隊(名前はまだ決まってない)は今は休暇中のはずだ。

 俺が嫌いで転属願いでも出しに来たのかと思ったけれど、そもそも第七(輜重隊)は俺の部隊に配属されていない。

 兵站を維持する部隊が私物化されるのが好ましくないという理由でだ。まぁ、発言力の差で流れる物資に差が出るとなったら現場も上もたまった物じゃないから納得できる。


「軍を辞めることにした。さっき書類を出してきたところだ。」


………。


「「は?」」


アーミラと俺の声が見事にハモった。

 ナルシストでプライドの塊みたいなこの男が軍を辞めた?


「仕事はどうするのですか?」


「実家のツテを頼るつもりだ。非常に情けない話だがね。」


……………。


「そう……ですか。」


…………。


「運が良ければお互いまた会うこともあるだろう。その時は夕食を奢らせてくれ。」


……。


「ええ、機会があれば。」


…。

 ベンノが俺に向かって手を差し出してきた。


「賢者、僕はお前が大っ嫌いだ。だけどお前の力の凄さは認めている。だがら、絶対にアーミラを死なせるような………」


「うん、よし!ベンノ、お前採用な。」


ベンノの言葉を遮って握手する。


「「は?」」


今度はベンノとアーミラの声がハモった。


「まて、どういう意味だい!?僕は軍を辞めたと言ったはずだぞ!?」


「アーミラ、こいつって物資管理の腕はいいんだろ?」


「ぼ、僕をこいつ呼ばわり!?」


「ええ、出世欲が強すぎると言われていましたが能力は高いです。」


「アーミラ、君は僕を貶したいのか持ち上げたいのかハッキリさせたまえ!」


相変わらず神経質だな。しかし、これは結構いい買い物だ。


「本当はアーミラを物資管理の人員に宛てたかったんだけど、俺の秘書になってしまったんでね。人員の候補を一から探さないといけなかったんだ。」


そこでベンノだ。大佐も“性格に難はあるが仕事は出来る”って言っていた。アーミラの代わりにこいつを採用すれば時間を短縮できる。

 人を引き抜くっていうのは簡単に見えて難しい。上の命令で行けっていうのは簡単ではあるけれど、行かされる側の心情を無視した行為は内部に不満の火を燻らせることになる。特に引き抜かれる部署は人手が足りなくなるわけだから、優秀であればあるほど不満の種は大きい。

 つまりはそれなりに根回しが必要になるわけだ。


 だけど、ベンノは違う。軍を辞めるということは“どの部署にも所属していない”ってことだ。


「だが、書類はもう出してしまったぞ!?」


「書類って受理されるまで時間がかかるんじゃないの?」


「た、確かにそうだが。」


「なら問題ない。俺の直属の上司(・・・・・)はその辺りの権限に非常に強いんだ。」


「お、おい。冗談だよな?」


怯えるベンノの肩をポンッと笑顔で叩く。


「喜べ、ベンノ。君は今日から皇帝直属部隊に配属だ。」


物資管理要員、ゲット。

 


使用しているノートPCのHDDが不吉な音を奏で始めました。

本格的にダメになる前に交換しようと思っているので作業次第では来週の更新ができないかもしれません。


決して、スーファミミニが発売されるからではないです。

ええ、決して。HDMIのポートが埋まっていることに嘆いたりもしてませんよ?


評価、感想、報告はいつでも受け付けています。


よろしければページ下部に設置しました”なろう勝手にランキング”をクリックお願いします。

ワンクリックで投票できる優れものです。(少しシステムを理解した)


2017/10/6追記

私の環境だとランキングタグがエラー吐く。

なぜぇ?

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