帝都到着
本日、二話更新
また随分と懐かしい夢を見たもんだ。
馬車で揺られている間に寝入ってしまったみたいだ。馬車と言っても幌馬車だけど。
あれは確か、高校に入って部活勧誘期間がそろそろ終わろうかって頃だったか。当時はまだメガネを掛けてなかったから、人相の悪さが目立って誰からも話しかけられなかったな。
ボッチではない。断じて、ボッチではない。
あの時、科学部に入部して先輩たちの影響を受けたのが研究職の道に進む決定打になったと言って過言じゃないだろう。
うん……実にすごい人たちだった。
スポーツ漫画みたいに優秀な人材が集まった厨二病の様な“奇跡の世代”じゃなくてトラブルメーカーな方で。
突然、部長が甘いものが食べたいと言い出してスチール缶とモーター、アルコールランプだけで作れる簡単なわたあめ製造機を作る羽目に。途中でモーターと缶を繋いでいたシャフトが外れてアルコールランプに直撃。衝撃でアルコールランプが倒れて理科室でボヤ騒ぎになった。
放課後にお腹が空いたからと部費から解剖目的という名目で魚を買ってきて理科室でぷちBBQ。調味料は実験用の塩化ナトリウム。
生焼けの部分があったのか、次の日は全員なかよく腹痛に。
文化祭で“電気分解パン”なるものを作るためにコンセントから直接、電極に接続。手違いで校舎全体のブレーカーが落ちることに。
夏休み前にカビの実験をして、カビが培養された状態のシャーレを一つ処分し忘れ。
休み明けに更に増殖したカビによって警察と消防が来るほどの異臭騒ぎに。
………禄なことやってないな!ほんと!
まぁ、そんなバカやってた先輩たちはもういないんだけどね。
卒業旅行で船舶事故に巻き込まれて行方不明に。先輩たちを含めて多くの乗客に関して何も見つからないまま捜査は打ち切られた。
さすがに10年も前のことだ。精神的に乗り越えてるつもりなんだけど。
しかし、なんでまたこんなタイミングで。
獅子王とやりあった後、砦に一泊してすぐさま帝都に向けて移動することになった。
理由はなんとなくわかるから特に不満はない。
移動も全て馬車で、朝に出発して夜には宿場町に着くようになっている。
そう、宿だ。屋根のある生活。温かい寝床。ビバ・文明だ。
今思うとエルガルド王国を出てからかなり原始的な生活をしていたな。ひたすら野宿に野営の繰り返しだった。
予定している日程は10日ほどで今朝、帝都に向かう最後の宿場町を出たところだ。
連日の移動で歩きとはまた違う疲労が溜まっていたのか、だいぶ寝入っていたみたいだ。かなり日が高い。
昨日か一昨日辺りから道がかなり綺麗になってきて揺れが少なくなってきたのもあるだろう。
今、馬車にいるのはアーミラ、タマモ、マサムネ。ルーカス大佐は別の箱馬車に乗っている。
最初は大佐と同じ箱馬車に乗っていたんだけど、狭い馬車の中で、体のでかい鬼と、二人きりというのは中々辛いものがある。
そんなわけでアーミラ達が乗っている馬車に俺が逃げ込んだ。
他の妖狐も馬車に分散している。砦に置いていくわけにも行かないからね。
ああ、一人忘れてた。追加でタマモの父、ボンテン。獣人軍に一人だけいた妖狐だ。
今は親子仲良く“奴隷の首輪”を着けている。
特に目立った戦闘もすることなく、あっさりと降伏するし「信用出来ないなら首輪で縛ってもらって構わない」と自ら首輪を付けたりとえらく物分りが良いというか。
正直なところあまり信用できていない。
妻の仇を取るために戦争に参加したとは聞いたけど、どうにもしっくりこない。
疑えばキリがないっていうのは分かるけれども、どうにも引っかかるものがある。
さて、ヴィルヘルム魔導帝国だけれども獣人の国と違って、かなり涼しい。いや、ぶっちゃけ肌寒く感じる。
建物も石材と木材を使ったログハウス調のものが多い。
宿の食事も根菜類が中心で塩漬け肉みたいな保存が効くものが大半を占めていた。もしかしたら冬は結構厳しいのかもしれない。
町中も寒々しいというか、建物の色彩が乏しかったのが印象に残る。
良く言えば素朴、悪く言えば貧乏くさい。
この様子じゃ帝都も発展はしていても辛気臭い感じがする。
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途中から舗装された道に入って馬車のスピードを上げることが出来たからか夕暮れ前には帝都に到着したんだが………。
前言撤回。ものすごく美しい都だ。
全体が赤レンガで統一されていて壁などに使われている白い漆喰がよく映えている。
道も中央にそびえる城から、まっすぐ放射状に伸びていて綺麗に整備されており利便性が伺える。
そして遠目に見える中央の城は見事しか言えない。白亜の宮殿とはまさにああいうものを言うのだろう。左右対称の構造で複数の尖塔が見える。ただ、よく見れば芸術的なだけでなく戦闘時にはしっかりと役割を果たせる機能美を備えている。
王国は成金趣味というかなんというか、とにかく派手でごてごてした印象だったからなぁ。悪趣味とまでは言わないけど、どことなく建物が忙しかった。
そんなこんなで特に目立ったトラブルもなく帝都の宿に泊まることになった。
そこそこ高級な宿みたいで、なんと風呂付きだ。……いや、嬉しいんだけど夏でも冬でもさっさとシャワーで済ましていた身としては有り難みが薄いというかなんというか。ゆっくりお湯に浸かる時間があったら寝る時間を確保したい方だったからなぁ。
そんな話は横に置いて、今後の話だ。
まず、大佐やアーミラが城の主要関係者に話を通す。その後、俺からも話を聞くことになるけれども、音信不通期間が長かったのと俺が“賢者”という関係から情報と意思の統一のために時間がかかるだろうと。
その間に俺の方も服を新調したりと準備をするようになっている。
いつまでも借り物の服じゃマズイし、お偉いさんと会うための服が一着もないのはこれからのことを考えるとよろしくない。
お金に関しては王国で支給されてた分と、壊した“あの杖”に装飾として無意味にくっ付いていた宝石を引き剥がした分があるので、それを使うつもりだ。
足りなかった時は大佐のツケで。……ちゃんと許可は貰った。上限は決めてないけどね。
既製品なんて無いから完全一点物のフルオーダーメイドだよ。恐ろしくてお金の計算なんて出来るわけがない。
取り敢えず、紹介された店で急ぎで二着を注文した。一着は超特急で。
恐らくだけれど謁見だとかそういうものの前に一度、登城して政治の中枢に近い人物との話し合いがあるはずだ。三千を超える兵が失われる危機を回避した身としてはそれなりの要求はしたいし、当然向こうもされると思っている。
そういうときは、大々的な発表をする前に意見のすり合わせをするもんだ。
これを怠ると双方が大恥をかいて非常にみっともないことになる。……マジで!
まぁ、意見のすり合わせでもあって好条件を引き出す絶好の場に、明らかに借りてきた衣装で行くのは、第一印象から“下に見てください”と言っているようなもので、あまりよろしくない。
1960年アメリカ大統領選挙で初めて大統領候補者同士がテレビ討論することになった。
この時の候補者がリチャード・ニクソンとジョン・F・ケネディだ。
テレビ討論前の世論調査ではニクソンが優勢で、ケネディの知名度は大幅に劣っていた。
だがテレビ討論後の世論調査は“討論はケネディが優勢”となったのだ。
理由は単純で、ケネディはテレビにカッコよく映るために俳優のアドバイスでスーツの色に拘りメイクまでして登場した。一方、ニクソンは“討論の内容こそ重要”とメイクなどを断った。
テレビを見ていた有権者の目には、しっかりとしたケネディと、どこと無くくたびれたニクソンと映り、さらには撮影用の照明の熱で何度も汗を拭くニクソンは追い詰められていると感じたそうだ。
何が言いたいかというと、最初の話し合いでは第一印象が重要になってくるというわけだ。
それに見合う服となると、当然金額も跳ね上がり……。
「賢者殿!いったい何を買われたのだ!!」
スリアワセ、ダイジ。
システムを理解しないまま「なろう勝手にランキング」のタグを導入してみました。
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何かカウントされるみたいです。何かが。
これを書いている間に5000PVを突破しました。これからも頑張りますので応援よろしくお願いします。
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