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閑話 勇者@王国

 どうも、エルガルド王国にて勇者やらされている八代優一です。


「ここはヒューバート様がよろしいかと。」


「何を言う、アップルトン伯爵。ジャスパー様以外考えられんだろう!」


さて、酒木さんが城を飛び出してそろそろ一ヶ月が経とうとしていますが……王国は未だに大混乱から抜け出していません!


 表面上は落ち着いているんだけど、もう城の中はグダグダの大荒れ。とてもじゃないけど酒木さんを追いかける余裕はどこにもない。


「トレヴァー様こそ相応しい。」


「あれは血が怪しいだろう。エドマンダー様だ。」


荒れてる原因は死んだ公爵の後釜を誰にするかで揉めに揉めているからだ。そしてなぜかオレも会議に出席させられている。


 理由はあの日の夜、あの場に公爵本人だけじゃなくどういう訳か公爵家の跡取りになる長男とバックアップの次男の二人もいたからだ。

 なんとなーくだけど、有紗とカンナに良いところでも見せようとして酒木さんの部屋に来たはいいものの、巻き添え食らっておっ死んだんじゃないかなって思ってる。

 こう、“魔族相手でに一歩も退かない、かっこいい俺の嫁にならないか?”的な。

 あの二人、おっぱいさん(アーミラ)があの時点でまだ奴隷のままだと思っていたんだろうね。ちょっと考えればそんなわけ無いってわかるのに。


 で、揉めてる本当の原因はここから。

 あの変態豚公爵、かなり下半身が軽かったみたいで正室、側室、妾、愛人、そこら辺の町娘と挙句の果に法的にほぼ真っ黒な奴隷とかなり手広く手を出してたみたい。

 当然、することすれば子供が出来るわけで誰を次期公爵にするかで派閥争いが勃発してる。


 本当なら派閥争いなんて起きることなかったんだけどね。

 酒木さんが公爵一派の主要メンバーを抹殺しちゃったから。そんなわけで、誰も彼もが政治に疎そうな若い候補を推薦して、新・公爵派閥として甘い汁を吸おうと躍起になっているわけ。


 オレが会議に呼ばれているのも、オレのうっかり発言からの“勇者のお墨付き”を得ようとしてる連中の根回しなんだろう。

 だんまり決め込んだほうが会議が伸びに伸びて、そのぶん酒木さんが遠くに行けるから良いんだけどね。


「何度言えばいい。フレディ様こそ一番だ!」


ひまー。



■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆




 無意味な会議から開放されたのは日がかなり高くなってからだ。


「ま、参りました!」


今は訓練場で一般兵を相手に体をほぐしてる。


 最初の訓練のときはすごく苦労したけど、今じゃ一対一だと全然訓練にならないや。


 原因はわかってる。この左手に刻まれた紋章だ。剣のデザインを中心に羽のような模様がくっついてる。

 オレも有紗もカンナも、この紋章が変化してから劇的にスペックが向上した。オレはバランス良く、カンナは胆力というか腕力というかより重装甲に、有紗は回復や補助に磨きがかかっている。

 三人してこの現象に“レベルアップ”と、なんともゲームチックな名前をつけてる。酒木さんが聞いたら“ゲームと勘違いして現実感が薄れるからやめろ”って言いそうだけど、他に言いようがない!


 問題は、このレベルアップ現象を酒木さんは多分、知らないってことだ。レベルアップしたのが時期的に酒木さんが城を出た次の日ぐらいだったはず。

 オレ達だっていつも通り訓練をしようとして、周りが急に手を抜いたみたいに弱くなったから驚いたんだもん。それで紋章を見て初めて気づいたんだから。

 逃亡生活で今までの訓練から離れた酒木さんは、自分の力が急上昇したことに気づいてないんじゃないかな?だって力に振り回されるみたいな感覚、全く無いんだからさ。

 賢者だから魔法関係のブーストが……。あの人、使えるものは毒でも使うみたいなスタンスだから無自覚に色々やってそう。

 オンラインゲームでのリソース管理とか化物レベルだったもんな。こっちでも魔力枯渇とか最初の数回しか見てないし……、手遅れ?




 酒木さんが知らないことがまだ有った。


 酒木さん……、有紗とカンナに計画バレました~。てへっ。

 いや〜、女って恐ろしい。カンナは野生の勘で、有紗は理詰めでオレを追求しやがった。

 あ~、浮気ってこうやってバレるのか~って変な境地に至ったよ!


『酒木さんが洗脳される?逆にする方でしょ。優一、あんた怪しいわよ?』


とか、


『優一くん、なんで酒木さんの魔法に耐えられたんですか?知ってないと無理ですよね?』


とか!


 あの追求の嵐から逃れるのは無理!

 そんなわけで、あの二人には大体のことは話してしまってる。


 で、あの二人は今、“私には心強い勇者が居るけれど、私を求めるあなたは何をくれるの?”とあっちこっち引っ掻き回してさらに王国内を混乱させていたりする。

 二人して、『え?その程度?』とか『明言してない』とかやりたい放題。女怖い。


「精が出ますわね、ユウイチ様。」


もう一人、怖い女がいたよ。

 背後からの声に振り向けば金髪碧眼の絵に描いたような美少女が。

 第二王女、アメリア・エルガルドだ。


 13歳にして胸の大きさはカンナに迫る勢いだ。未だ発育中というから、カンナが戦々恐々としてた。


「少しユウイチ様とお話したいことがありますの。“いつもの場所”でお待ちしておりますわ。」


「あ、はい。わかりました。」


無託な笑顔でそう言ってお付きのメイドと去っていった。


 有紗とカンナが好き勝手に“城内混乱作戦”をやって無事でいられるのは彼女が居るからだ。


 うん……アメリアにもバレてるんだよねぇ、魔王が世界統一を成し遂げる作戦、オレと酒木さん命名の“ウヰスキー計画”。


 酒木さんが出ていってから三日目ぐらいだったけ?いきなり彼女の“内緒話ができる場所”に呼び出されたんだよねぇ。


……………………


……………


……


『ユウイチ様は賢者様とこの国を滅ぼすおつもりですか?』


何故バレた。


『ユウイチ様はもう少し、表情を隠す練習をなさったほうがよろしいかと。バレたのがワタクシでなければ今頃大騒ぎですよ?』


眼の前に居るのは純粋培養されたお嬢様のようなアメリアじゃなくて、れっきとした王女の顔をした別人の様なアメリアだ。

 さっきから冷や汗が止まらない。


『何故バレたかとお思いでしょう。まずはそこから説明いたしましょうか。といってもコウジ様の立ち回りがお上手だったので、確証が得られたのはこの間の一件ですが。』


楽しそうに、嗜虐的な目でこっちを見ている。


『何故か公爵が大事に飼っていた奴隷が解放されて、何故かその横にはコウジ様の姿が。そして何故か賢者は勇者にとどめを刺さずにその場を去った。あの方の性格でしたら、脅威になりそうな存在はたとえ同郷の者であっても排除すると思うのですが、違いますか?』


めっちゃあってる。もし俺が救いようのないお人好しなら酒木さんは躊躇いなくオレを排除しただろう。オレの知る“ウヰスキー侯爵”とはそういった人物だ。

 というか公爵の奴隷、バレてたのかよ。


『ああ、勘違いされては困ります。ワタクシ、ユウイチ様たちに“エルガルド王国”を滅ぼしてほしいと思っているのです。今日、お呼びしたのは協力関係を築きたいからでございます。』


なんですと?


『そうですね、いきなりこのようなことを言われても信用できませんよね?端的に言いますと、ワタクシの嫁ぎ先にあまり良い噂がないからです。これが、“国益のため”というのであれば涙をのんで婚姻いたしましょう。ですが……。』


ですが?


『どう調べても、その利益を享受できるのが国のほんの一部なのです。国の礎になるのはやぶさかではありませんが、醜い豚を更に肥えさせる餌にはなりたくありませんの。』


ほうほう。ん?

 酒木さんの予想だとアメリア様とオレをくっつけようとしてるはずだったけど。


『そういう意見も確かにございました。ですが、王家の、それも第二王女が貴族階級でもない者に嫁ぐのは認められないという意見が出まして……。ユウイチ様には同じ王家の血が入っております公爵家から“鎖”となる女性が宛てがわれることになるかと。』


あの豚公爵の遺伝子が入ってる娘なんて絶対嫌だぞ。

 これ、相当なめられてるよね?


『もしかしなくても、下に見られていますわよ?』


ですよねー。

 それで?


『ワタクシからのお願いは2つ。一つは王国の崩壊。もう一つはその際にワタクシの命と安全の保証を。その後はワタクシを傀儡として玉座に据えるもよし。身体をご所望でしたら愛玩奴隷になるべく自ら首輪をお着けいたしましょう。』


ず、随分割り切ってるね……。本当に13歳?


『ユウイチ様、無害で無知のふりをするというのも結構大変なんですよ?』


ア、ハイ。


『このようなお願いをしておきながら申し訳ないのですが、実はワタクシに出来ることはあまり多くはございませんの。せいぜい、お金の融通でしたり誤情報を流したり、あとは皆様のお考えをワタクシの胸に留めておいたり……ですね。取り敢えずはコウジ様が無事に逃げられるよう城内を混乱させましょう。』


ヨロシクオネガイシマス。


……


……………


……………………


 と、こんな感じだった。

 女ってホント怖い。


 話の内容、できれば定期報告であってほしいなぁ。


 ところで、このカオスな状況をどうやって酒木さんに伝えたら良いんだろうね?


 


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