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プロローグ

 いつも通りの時間にいつも通りの道順で家に帰る。大学での講義の終了時間と近くの高校の下校時間が同じなためか見かける顔もいつも通り。


 信号待ち間、目の前で会話している爽やかなイケメン男子高校生と美人女子高生二人の三人セットも俺の中ではいつも通り。おのれ勝ち組。



「うー、眠い。今日こそ早く寝る。」


「優一、また夜更かししてオンラインゲームしてたの?」


「全てはウヰスキー侯爵が悪い。」


「なんですかそれ?敵キャラ?」


「いや、同じチーム内の変態。」


「変態って、迷惑プレイヤー?」


「いや、いい意味で変態。というかいろいろおかしい。初期コストの一番低い召喚ユニットで無双したりとか意味が分からない。おかげでクリアできなかったエリアが攻略できたのはいいけど終わったの午前三時だぞ。……しかもその後に飯テロするし。」


「ゲームなのに飯テロですか?」


「チームで使ってるSNSがあるんだよ。そこにしょっちゅう料理してるところをネット配信……だいたい小腹の空く深夜に。」


「うわぁ。」


「腹の立つことにそれがまためっちゃうまそうでさ。昨日はチーズハムカツ作ってた。」



他愛もない三人の会話もいつも通り。ちなみにこの三人、常に一緒みたいだ。朝起きる時間と彼らが俺の家の前を通る時間がちょうど一緒だから知っているだけで別にストーカーじゃない。通学路上に俺の家があるだけだ。


 信号が変わって横断歩道に人が流れ出す。あとはスマホでニュースを読みながら青春している三人の会話をBGMに家に帰るだけ。平凡な人間、酒木浩二の日常はそんな感じだ。



 横断歩道を半分ぐらい渡ったところで急に静かになった。



 うん、これはいつも通りじゃない。



 周囲を見渡せば動いているものがない。これがフラッシュモブみたいなドッキリなら笑えるけど、飛んでいる鳥と舞い上がったコンビニの袋を空中に留める術を俺は知らない。あるなら「ドッキリ大成功」の後にぜひとも教えてほしい。


 そのままぐるっと360度見渡して元の進行方向に視線を戻すと青春三人組と目が合った。前を歩いていた彼らと目が合うはずがない。どうやら彼らも動けるみたいだ。


 どうしたものかと悩んでいると周囲の景色がゆっくりと縦に伸び始めた。いや、縦というよりは「上」か?

 足元を見ると俺を含む四人を中心に円形の足場が形成されているようにも見える。イメージとしては薄いゴムシートに細い棒を当てて引き延ばしていく感じか。シートが周りで棒の中に俺たちが居て引き延ばされた景色を見ている。

 周りが動いているのに足場は動かないからちょっと酔いそうだ。


 ゴムシートが永遠に伸びないのと同じで「アスファルト」と言われなければわからないほど引き延ばされた足元が急に真っ黒になった。次の瞬間、引き延ばされた風景を上に置き去りにして周りは完全に黒一色になった。

 見上げれば今開いた「穴」が急速に遠ざかっていくのが見えた。


 周囲に光源がないのにお互いが見えているのがなんとも不気味だ。真っ黒の背景にゲームのキャラだけが浮かんでいるみたいな。


 さて、「上」から落ちたなら「下」があるはずだ。案の定、下を見つめていると小さな光点が勢い良く近づいてくるのが見える。

 その光点に突っ込んだら今度はさっきとは逆だ。引き延ばされた景色がゆっくりと戻っていく。最後に音が聞こえてきてすべては元通りだ。



 ただ一点、さっきまでいた横断歩道じゃなくて祭壇みたいな場所だということを除いてだが。

 足元には不思議な文様の描かれた床。材質はおそらく大理石。大量の蝋燭が壁に掛けられていて暗くはないものの全てが見えるほど明るくもない。

 部屋の形はドーム型で俺たちがいるところは一段高くなっている。降りるための階段もあってその先には出口と思しき両開きの豪華な扉が一つ。


 そして、階段を下りた先に跪いている団体様が。正直、見たくない。


 集団の先頭で跪いている女性が顔を上げる。ぱっちりとした蒼い目、緩いウェーブのかかった金髪、絵に描いたように整った顔つき。


「女神に遣わされた勇者様、どうかこの世界をお救いください。」



 嫌な予感しかしない。



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