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基地の現状

 おはようございます。昨夜、疲れているところにお酒を飲んで訳のわからないことを口走った駄賢者、酒木浩二です。あの後、大佐が気前よく個室を貸してくれました。

 なんで俺はあんな妄想みたいな推理をドヤ顔でまくし立てていたんだ。いっそ記憶がなくなるまで飲めばよかった。……それはそれで駄目か。


 ここに来るまで昼は可能な限り寝て夜間に移動するという昼夜逆転生活を送ってきていたから予想よりも疲労が蓄積していたみたいだ。安心して寝られたのもあって今の時間はだいたい昼頃、日もかなり高いところにあり湿度も相まって今日も不快指数の上昇に貢献してくれている。生活リズムが完全に狂ってしまった。


 とりあえず寝起き早々、汗塗れで気持ち悪いから水を浴びて着替えよう。


「おはようございます、コウジ様。」


扉を開けたら何故か軍服をきっちり着た巨乳の女性が立っていた。というかアーミラだ。昨日の食事の時までは大きめのシャツというかなりラフな格好だったがつり目なのもあって軍服がよく似合っている。

 

 軍服は上下うぐいす色でグルジアの民族衣装、チョハみたいな外見だ。長袖だから見た目暑苦しい。


「暑くないのか?それは。」


「結構生地が薄いので見た目よりは快適ですよ。」


そう言って袖の部分をこっちに差し出してきた。触ってみれば確かに、思ったよりも薄くて通気性もいい。

 手を離したら一歩下がってその場で一回転。


「どうでしょう?久々に着てみたので変なところはないでしょうか?」


「初めて見たからどこが変かはわかんないよ。まぁ似合ってるな。」


「そうですか。ありがとうございます。」


花が咲いたような笑顔とはこういうのを言うだろうか。ちょっと見惚れてしまった。

 思えば彼女自身、まともな服を着るのは相当久しぶりなはずだ。俺と出会ったときはボロボロの麻の服というよりも布を被っただけの様相だった。ここに来るまでの間も俺が貸したシャツを着ていただけだったし。……城から逃げるときは俺の注文だった。すまん、アーミラ。


 因みに背中の羽の部分は大きく開いていてきれいな背中と肩甲骨が見えている。ちょっと扇情的だ。



■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆


 アーミラに頼んで顔と寝汗を洗える井戸まで案内してもらった。外に出ると湿度の高い独特の熱気がより一層強く感じられる。


 ここに着いたときは暗がりでわからなかった。基地のあちこちに不格好な畑が見られる。育てているのは芋の類だろうか。味よりも収穫量を重視しているんだろう。

 そこらにいる兵士も見た目はシャキッとしているがどことなく精気が抜けてるようにも見てとれ、身につけている装備も修繕を繰り返した跡が見て取れてかなりくたびれている。

 外から見れば堅牢な様相だった基地も一歩踏み入れば思ったよりもボロボロだ。


 冷たい井戸水を頭から浴びて体にまとわりついていた不快感を一気に流し去る。体を拭くための手ぬぐいをアーミラから受け取って今後の予定を考える。


 アーミラの飛行能力と俺の索敵魔法を組み合わせればここから帝国領まで飛行することは恐らく不可能ではない。不可能ではないけど現実的ではない。

 アーミラがこの基地を見捨てることができるとは思わないし、ここをこのまま放置して帝国領に行っても俺の心象が良くない。結局、この基地をどうにかしないと帝国領にはいけない。

 じゃあどうするか?

 ここから一番近い帝国軍の駐屯地に救援を要請する?たぶん無理だ。長いこと連絡が途絶していることを考えると帝国は既に救援と言う手段を試みたはず。それができていないことを考えると獣人の国の戦術が帝国軍の戦力の分断を主軸にしていて、それがきっちりハマっている考えられる。

 最前線の部隊を基地ごと森という檻に囲んでしまえば圧されていた戦線を一気に後方まで押し戻すことができる。帝国の前線基地は放置しておけばいずれ破錠するのが目に見えているからわざわざ戦力を割く必要がない。昨夜、俺が仕留めた連中も直接この基地を襲うのが目的ではなく監視と嫌がらせが本命なのだろう。基地の機能を殺すことに成功している今、獣人の国は戦力の大半を心置きなく帝国側に配置できる。

 最悪の場合、帝国は既にこの基地を見捨てている可能性もある。この基地を救うために森に塞がれた道をまた切り開きながら敵の襲撃をいなすのは容易じゃない。人的資源を無駄に浪費するリスクが非常に高くなるだけだ。


 しかし、そうなると分からないことが一つ出てくる。獣人の国はこの基地の“なに”を恐れたのか。

 敵陣真っ只中でこれだけの規模の砦を構築する能力があるから残っている兵が弱いということは無いだろう。だが、盤面をひっくり返すような強さがあるようには見えない。

 これだけ大規模なことをやっておいて檻に入れる存在を逃しているだけだとしたら相当にマヌケな話だ。となるとその“なにか”は“物”、具体的には兵器か何かか?


「あの、コウジ様?聞いてますか?」


「え?何を?」


ん?なんで俺、部屋に戻ってるんだ?しかも帝国の軍服に着替えてるし。いつ着替えたよ?


「やはり聞いていませんでしたね。先程からずっと生返事でしたし。」


「すまん。ところでこの服は……。」


「私が着せました。この暑さですから風邪を召すことはないでしょうが人目がありますから。あと大佐の計らいで暫定的に少佐の権限をコウジ様に付与するそうです。」


少佐相当権限はトラブル防止の為かな。いやそんなことより。


「アーミラ、服を着せてくれてありがとう。でも、できればその前に意識を引き戻してほしいかな。」


「……かしこまりました。」


ちらっと“役得が”とか聞こえた気がしたけどワタシはナニモキイテマセン。


「あ、大佐からもう一つありました。“昼食をご一緒したい”だそうです。」


それはこちらからもお願いしたい。



■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆


「おお!予想通り似合っておるな!」


「寝床と食事に、更に服まで。ありがとうございます、大佐。」


幹部向けの食堂に案内され先に座っていたルーカス大佐がにこやかに声をかけてきた。昨夜は比較的ラフな格好だったけど軍服を着ているとまた迫力が違うな。


「なに、気にするな。ところで本当に森を燃やすのか?」


「いえ、まだそうと決めたわけでは。」


この基地にある脅威次第じゃ燃やす必要もなくなるからね。


「“まだ”か。何か気がかりがあるとみえる。こちらも正直、案が出尽くしている。可能な限り協力しよう。食べながらでも構わんか?」


「ええ、もちろん。ご配慮感謝します。」


言葉に気をつきをつけないと変な言質を取られそうで怖いな。この辺は地球よりも厄介かも。


 大佐の合図で運ばれてきた昼食は何かのステーキと芋、そして新鮮な果物だ。パンのような穀物類はなくステーキの味付けも塩は感じてもかなり薄く香辛料は全くかかっていない。ソースでどうにかしようと工夫している感じが伝わる。

 主食は芋で大丈夫だろうけど塩がヤバそうだな。


「よく工夫されていますね。」


「気づいたか。」


「ええ、塩の在庫が少ないのでは?」


「うむ。正直、よくここまで持っている。狩った動物の血の一滴も無駄にできん。」


魔法で血液から塩でも精製しているんだろうか。まさかそのまま飲んでないよね?

 想像しかけたことを頭から追い出して食事を続ける。


「ところで、この基地に秘密兵器みたいなものってあります?」


その言葉を俺が口にするとルーカス大佐がアーミラを鋭く睨んだ。アーミラは小刻みに首を横に振って“自分ではない”と言っている。


「はぁ。どうやって知ったか分からんがアレは儂の一存で動かせるものではない。」


「そういうことを言っている場合ではないと思いますよ?」。


ここにきて保身で使わないとかそんな馬鹿なこと言わないよな。


「本国からの許可がないというのもあるが、それ以前の問題だ。」


「具体的には?」


「使える者が限られておる。」


大佐以上の権限がないと動かせないとかか?


「こういうことだ。今現在、この基地に運び込まれている対・獣人の国用の兵器は魔力が空の状態。起動には膨大な魔力が必要で、本来なら十分な量を供給できる魔力結晶か人物がここに送られる予定だった。あとは分かるだろう?」


…………。意外となんとかなるんじゃね?


グルジア民族衣装・チョハ……スタジオ・ジブリ作「風の谷のナウシカ」のナウシカ達が着ている民族衣装を想像してもらえれば一番近いと思います。

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