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召喚ハゲ無双! ~剣と魔法と筋肉美~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ2巻発売中』
第六章 無毛強者のハゲの聲、諸行無常の嘆きあり。(最終章)

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80/90

ハゲ、進撃の頭皮

前回までのあらすじ!


ハゲ無双オールスターズのチームワークは抜群だった!

不安しかない!

 吹雪の中を進軍する王国騎士らの中腹に、その一団はあった。

 シャナウェル軍およそ五〇〇〇の軍勢にあって、わずか二〇〇名からなる一団。冒険者ギルドの王都シャナウェル本部より選出されし戦士たちだ。

 その先頭に立ち、あまりに巨大な竜殺しの大剣を背中に担いでいた赤髪の中年男ガラインは、苦い表情で左右にそそり立つ氷の岩壁を見上げていた。


 魔人砦から逃走した魔人らを取り逃さぬよう、それまで幅広になって神軍していた五〇〇〇のシャナウェル軍は、今この渓谷を通るために横列を狭めている。

 横列おおよそ十名、縦列五〇〇といったところか。

 おまけに、吹雪で視界は不良。待ち伏せにはうってつけだ。

 竜狩りガラインは凍った息を吐きながら身を震わせ、ローブの合わせ目を引き寄せた。


「……危ねえなあ」


 数で遙かに劣る魔人がシャナウェル軍を迎え撃つとするなら、こういった地形が最適だ。それに、こうも風が強くては弓を放ったところで狙いは定まらない。

 魔人砦を陥落させて勢いづく王国騎士どもは気づいていなさそうだが、崖上配置の兵に岩石でも落とされた日には目もあてられない。


 視線は高く。

 けれども――。

 ガラインの視線の遙か下。想定外のところから、その声は上がった。


 悲鳴だ。最初は小さく。遙か前方。むろん、雪煙で霞んで見えない。

 だが、近づく。徐々に。確実に。雪煙の向こう側、何かが次々と宙を舞って。


「なん――だあ?」


 背中の竜殺しに手を伸ばし、迷うことなく、ずるり、と幅広の大剣を引き抜いた。

 刀身は身の丈ほど。魔法の力は宿っていない、正真正銘、ただの重量級武器だ。けれどもガラインは、この大剣で何度も竜や魔人を討ってきた。


 雪煙の中、吹っ飛んでいるものの正体は、もはや確かめるまでもなく。

 王国騎士だ。

 何者かが王国騎士を中央突破してくる。真正面から、つかみ、投げ、叩きつけ、吹っ飛ばし、古竜のごとき力強い咆吼を上げながら。


 ぞくり――。

 肌が粟立った。

 ガラインが立ち止まり、後列へと合図を送る。


「ギルド所属は今すぐに散開! ――おれが中央で惹きつける! おまえたちは四方から標的を攻撃しろ!」


 吹雪と舞い上がる雪煙と、雪をも溶かし付ける熱。

 姿は未だ見えない。だが、王国騎士らが悲鳴を上げて岩壁に叩きつけられ、無惨に転がってゆくのだけはわかる。


 丸めた紙くずじゃねえんだ。そんな簡単に人間を投げるなよ、魔人ども。

 肉体に熱が迸る。強敵だ。


 冒険者ギルドの一団は軍勢のおよそ中程。つまりは、ここに至るまでに、その何者からはすでに二〇〇〇近くの王国騎士らを薙ぎ払ってきたということだ。


 何体いやがる? 魔人どもめ!


 渇いた唇を舐める。

 いくら魔人であろうとも、数体ではここまでの突破は不可能だ。少なくとも二桁の魔人が徒党を組んでいると見て間違いはない。

 おもしれえ。


 だが、この違和感。

 雪煙から時折覗く影は、それほど多いようには見えない。


「どういうことだ……?」


 悲鳴、近づく。

 たとえ一体だとしても、猛進する古竜であるならば、たとえば人間体に化けていようとも同時に二桁の人間を跳ね飛ばすことは造作もない。


「おい、冗談じゃねえぞ……」


 だが、羽音はない。姿もない。

 竜の巨体であれば、とうの昔に視界にも入っているはずだ。雪原に溶け込む体色を持つ、伝説の銀竜でもない限りは。


 まだ、見えない。ただただ、武装して鎧をまとった王国騎士らがでたらめに空を舞うだけで。

 雪煙と蒸気が凄まじい速度で近づく――!

 まだ、見えない。まだか。どうなっている。


 王国騎士が空から吹っ飛んできて、勢いよく足もとに叩きつけられた。ガラインは低い跳躍でそれを回避すると、竜狩りの大剣を両手で強く握り、腰から上を限界まで右に回転させ、引き絞る。

 だめだ。もう考えるな。気を抜けば死ぬ。


「ぎゃあああっ!」

「ひぃぃぃ!」

「やめ――ッ」

「ぐがあ!?」


 次々と、王国騎士らが吹っ飛ぶ。左、右、前方、上空、上空、岩壁。

 後悔した。こんなものを惹きつけるつもりだったなどと、バカげている。無謀具合は古竜をたったひとりで狩りに行くようなものだ。


 だが、今さら! もはや避ける暇もない!

 そいつが雪煙の中から頭部を出す。


「かはぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」


 口から大量の蒸気を噴き上げ、血走った瞳をぎょろりと動かし、無数に血管を浮き上がらせたハゲ頭を――。


「……ひっ!?」


 息を呑んだ。

 こんなみっともない声をもらしたのは、ガキの頃、野良犬に追い回され、尻を囓られて以来だ。


 そいつが雪煙の中から丸太のような腕を伸ばす。もはや気持ちの悪いと形容されてもなんら不思議のないほどに筋肉を発達させた手を。王国騎士の頭部を、容赦なくつかんでいた手を。


 大柄な己をも遙かに上回る体躯。魔人をも凌駕するほどに発達した筋肉。猛吹雪の中で雪をも溶かし付ける体熱、凄まじいまでの攻撃性を宿した狂気の瞳。

 圧倒的存在感と、百戦錬磨の騎士や冒険者をも怯ませる気迫、威圧。

 悪鬼のごとき笑み。地獄の底から響く嘲笑。


「ぐふ、ぐふぅはははははははははっ!!」


 怖い。

 怖いという感情を思い出した。古竜ですらも恐れずに立ち向かう男が。


 大柄なはずのガラインの全身が、そいつの影に呑まれた。

 ああ、だめだ。

 心が、折れる音を、聞いた……。

 死――……。


「~~ッ!!」


 それでも。

 それでもとっさに反応できたのは、奇跡。何度も死線をくぐり抜けてきたゆえの、条件反射に過ぎない。


 放った。渾身の力を込めて。

 ガラインは竜狩りの大剣を放ったのだ。

 ゴォと竜狩りの大剣が横薙ぎに走る。何度も何度も古竜の頭を叩き潰してきた幅広肉厚の刀身が、怪物のようなハゲ頭へと。

 が――。


「小癪ッ!」


 そいつは言葉を口にした。

 無造作につかんでいた王国騎士ふたりをその場に落とすと同時に、ガラインが渾身の力を込めて薙ぎ払った凄まじい重量を持つ大剣を、己の左膝と左肘で挟み込むようにして受け止めてしまった。


 ぴきり。幅広の大剣、竜狩りの大剣に亀裂が走った。

 あ……。

 諦観の念。ガラインの全身から、液体という液体が同時に漏れ出す。

 その胸部へと向けて、雪煙から現れた大男は開いた掌を突き出した。


「羽毛田式殺人術のひとつ、昇天張り(エクスタシースパ)――……む?」


 だが、止まる。

 掌が止まった。ガラインの胸当ての表層で。

 ガラインが背後に数歩よろけて、尻餅をつく。


「は……は……、……ふ……っ」

「むう? 貴様、どこかで見た顔だな……」


 びゅうと風が吹き抜け、雪煙を払った。

 そいつは完全にハゲ上がった頭を近づけ、瞳を覗き込んできた。

 悪鬼の嘲笑が、人懐こい笑みへと変化する。


「……ガライン殿か? 冒険者ギルド王都本部の……」

「あ……ぁ……っ……え!? ――じ、甚五郎ッ!?」


 間違いない。横髪と後ろ髪が失われ、筋肉もあの頃よりも異様に発達しているが、この顔には覚えがある。

 シャーリーがシャナウェルの冒険者ギルドに連れてきた、あの怪力男だ。オーガを素手で絞め殺し、報奨金の金貨袋を丸々ひとつギルドに投げ捨てていった、頭髪なきお尋ね者。シャナウェルの近衛騎士をも震え上がらせた、持たざる者。

 羽毛田甚五郎。


「ジンサマ、止まらないで! ……て、ガラインさん?」

「な――っ!? シャーリー、おまえもいたのか!」

「くっ、シルフ!」


 シャーリーが触媒レイピアを天高く掲げた瞬間、その足もとから湧き出た緑の上昇気流が雪を巻き上げ、猛吹雪の中、でたらめに放たれた矢を積もった雪とともに一気に舞上げた。


「ど、どういうことだ? なぜあんたが魔人の側にいる?」


 王国騎士の槍をレイピアで華麗に受け流し、その鎧の中心部に掌を置いて風精の力で大きく吹っ飛ばしたシャーリーが、荒い息を整えながら早口で呟いた。


「事情を詳しく説明している暇はありません。ですが、これはこの大陸にとってとても重要なことです。わたくしたちはこれより父を――シャナウェル王を、王座より引きずり下ろしに向かいます。シャナウェル王は本陣にいますか?」

「は……? あ……? い、いるにはいるが……」


 甚五郎とシャーリーが目を見合わせてうなずき合った。

 ガラインがあわてて尋ねる。


「ま、待て、おまえら、人類を魔人王に下らせるつもりなのか!?」

「フ、そうではない。魔人王に侵略の意志なきことは、港湾都市ウィルテラの勇者デレク・アーカイムが証明している。つまりこれから始まろうとしている人魔戦争は、シャナウェル王の征服欲を満たすための愚かなる遊びに過ぎん」

「デ、デレク・アーカイム……だとぉ……?」


 個としては、この大陸で最も強き力を持つと言われる魔法剣士の名だ。

 シャーリーが緑の風を巻き起こしながら呟く。


「そのようなくだらないことで、両種族血を流す必要はありません。ゆえにわたくしたちは、これからシャナウェル王を討ちに行きます」


 甚五郎とシャーリーが、腰砕けとなってしゃがみ込んでいるガラインの横を力強く通り過ぎる。

 二種類の、雪を踏みしめる音が響いた。


「ガライン殿。死にたくなくば、これ以上はゲオルパレスには近づくな。いいな? 人魔戦争は我々が必ず阻止してみせる。開戦などさせはせん」

「犠牲を出すことは、わたくしたちの本意ではありません。ギルドの仲間にもお伝えください。それでは――」


 ガラインは呆然とした顔で、通り過ぎた甚五郎とシャーリーの背中に視線を向けた。

 甚五郎のジャケットと、シャーリーの長い銀髪が吹雪にはためいている。ふたりの足取りに迷いはなかった。


 真偽は定かではないが、概ねの事情は理解した。

 理解はしたが――。

 ガラインはさらに混乱していた。


 あいつら、たったのふたりでここまで二〇〇〇もの王国騎士を薙ぎ払ってきたってこと……?


その容姿、もはや人間離れ。



※『燃えよドラゴン侍! ~病弱侍だけど魔王扱いされるんだが~』という一人の侍と一体の竜の連載物語も同時進行しております。

よろしければこちらのほうも覗いていただけると嬉しいです。

http://ncode.syosetu.com/n2275de/

(ハゲと世界観を同じくする、まったく別の物語です)

人斬り侍とドラゴン嬢がイチャイチャしながら異世界を旅する物語です。

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