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召喚ハゲ無双! ~剣と魔法と筋肉美~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ2巻発売中』
第五章 ハゲは曙。やうやう薄くなりゆく、生え際すこし明りて、斑が目立ちたる頭髪も細くぶち切れる。

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70/90

ハゲ、捕まる

前回までのあらすじ!


ハゲが信号魔人をからかって遊んだぞ!

 空気は冷たく、じめじめと湿っていた。

 二体の魔人と三人の人間、そして幼子の歩く足音だけが石の廊下に響いている。


 魔人砦地下牢――。

 先を歩く黒魔人と、殺気を放ちながら背後を歩く信号軍団の赤魔人に視線をやって、甚五郎は大あくびをした。

 赤魔人があからさまに舌打ちをする。


「……おいこら大男。運がよかったなッ。てめえらに人質としての価値がなきゃ、あの場でぶっ殺してやれたのによッ」


 甚五郎は眠そうな瞳で赤魔人を振り返り、鼻で笑った。だが言葉はない。

 赤魔人がまたしても舌打ちをした。赤の額に血管がいくつも浮いている。


 人質としての価値などシャーリー以外にはない。そもそもこの羽毛田甚五郎という男は、彼の国(シャナウェル)ではお尋ね者になっているのだから。

 もっとも、自らが不利になるような情報をわざわざ敵に与えてやるほどは、この男は愚かではない。

 黒魔人が不穏な空気を感じ取ったのか、赤魔人をたしなめる。


「やーめーろーよー、レディルガンドォ~。ゲオルパレスから返事がくるまでは手ぇ出すんじゃねえよ。俺様の責任問題になっちゃうでしょうがぁ」

「……っせえな。わ~ってますよクソ上官殿!」


 レディルガンドと呼ばれた赤魔人が吐き捨てた。

 どうやら立場は黒魔人が上らしい。

 黒魔人がぶつくさ文句を言いながら、鉄でできた扉を開けた。


「はい、どーぞ。ここ入って。みんな仲良く一緒ね。喧嘩すんじゃねえぞ。あと、交尾おっ始めるのも禁止な。それとあたりめえだが脱獄は厳禁だ。他の魔人どもはみんな殺気立ってる。命の保証ができねえ」

「うむ。気をつけよう」


 甚五郎とその肩に座るルーを先頭にして、シャーリーとアイリアが地下牢に続いた。


 何もない。

 敷居の向こうにくみ取り式の便所と、あとは……暖炉か。薪は部屋の隅に堆く積まれている。


「今使者をゲオルパレスに送った。返事が来んのぁ丸一日ほどだと思うから、おとなしくしといてくれよ」

「ああ。部屋の提供に感謝するぞ、黒魔人よ」

「ブリィフィだ」


 甚五郎は思う。汚え響きだ、と。


「大鉄扉の件、すまなかったな。黒ブリーフ」

「ブリィフィだ。反省しろボケ」


 ブリィフィとレディルガンドが背中を向けて、石廊を戻り始めた。


「ぬ? 鍵はかけんのか?」


 レディルガンドは甚五郎の質問を無視して歩き去ってしまったが、ブリィフィが振り返って心底面倒臭そうな表情をした。


「それ、あんたに対して意味あんの? 大鉄扉を素手でぶっ壊すような変態でしょうよ」


 甚五郎が苦笑いを浮かべる。


「ないな」

「でっしょー? こっちもシャナウェルと緊張状態が続いてっから、これ以上砦を破壊されるわけにゃいかんのよねぇ」


 黒魔人の視線が、訝しげに細められた。


「正直なところよぉ、シャナウェルがあんたのような男を抱えてたんなら、勇者デレクですら挑もうとはしなかったこの魔人砦が、今日まで無事だったはずがないんだけどねぇ?」


 鋭い。知恵の回る魔人だ。


「……あんた、本当にシャナウェルの王国騎士か……?」


 もしもここで甚五郎がシャナウェルの人間ではないことが明るみに出てしまえば、一〇〇の魔人を相手に立ち回らねばならなくなる。

 しかし。

 甚五郎がこたえあぐねていると、シャーリーが高圧的な態度で銀髪を流しながら、黒魔人に言ってのけた。


「ジンサマは王国騎士ではありません。わたくし専用の護衛です。王といえど、この人に命じることはできませんよ」


 ブリィフィが肩をすくめた。


「……納得ぅ。ああ、今晩はもう遅えから飯抜きだ。明日の朝食からちゃんと運ばせっから、文句言わずに食えよ」


 去っていく黒魔人を見送って、甚五郎が牢内に胡座をかいた。

 すぐさま肩から膝の上にルーが移動し、右隣にはシャーリーが、左隣にアイリアが腰を下ろす。

 アイリアが甚五郎の左肩にもたれかかって声をひそめた。


「ジンさん、これからどうするの?」

「どうもせんさ。魔人王の返事に期待するだけだ。もっとも、悪い返事は来んだろう。魔人王にとっては、ここで我々を殺すメリットは何ひとつないからな。……安心しろ。万が一のことがあろうとも、三人のことは私が必ず守る」


 甚五郎の右腕に銀髪を預けて、シャーリーがため息をつく。


「いっぱい嘘をついてしまいました」

「ふははっ、すまんな。だが助かったぞ、シャーリー。なかなかの機転だった」

「……ジンサマ? わたくしはそこまで鈍くはありませんよ。最初からこうなることを想定して言わせるように仕向けたのでしょう?」


 甚五郎が口もとを微かに弛めた。だが、言葉はない。

 ルーが甚五郎の膝上でごそごそと動いている。


「こうしてると、あったかいなー」


 めくれ上がった毛布のローブを大きな手で引き下げて、甚五郎がルーの背中に手を置いた。


「眠ってもいいぞ、ルー。今日は少し疲れたであろう」


 ここのところ、まともな宿で眠った記憶がない。ましてや昨日はイエティとの死闘、雪の降る山での野宿、今日は一日歩き通しで魔人砦だ。

 だが、ルーは視線を上げる。どこか不安そうな瞳で。


「だいじょぶだー。ルーはどこまでも、みんなについてくからなー」

「ルーさん? 眠っている間に置いていったりはしませんよ」

「そうそう、子供はもう寝なさい。よ~く寝ないと育たないわよ」


 ルーの視線がシャーリーの胸部へと向けられた。


「?」

「シャーリーねーさんみたいに?」


 ……ガギィ、ギリリリリリィ……ッ!!

 歯の軋む音が魔人砦地下牢獄に鳴り響く。



三三ヽ( ´・ω・)ノ    ピュ~ 彡⌒ ミ



 まどろみの中、寝息が聞こえていた。

 割れた腹筋の上で眠る幼い寝息と、右腕にしがみついて額を逞しき肩にあてたまま眠る少女の寝息、そして隣でローブにくるまった女の寝息だ。


 夢と現実の隙間に留まるのは、危険の多いこの世界に来てからのクセだ。街中以外では深くは眠れない。眠れば、危険は彼女らを襲うかもしれないから。


「……か……さん……、……かーさん…………」


 覚醒。コンマ一秒もなく。まどろみの時間はあまり経っていない。

 涙。腹の上に落ちて。

 ルーの閉ざされた瞼の隙間から、涙がいくつもこぼれ落ちていた。やがて幼女は眠ったまま嗚咽し始める。


「……っ……とーさん……、……なん……で……」


 甚五郎は金色のふわ毛を大きな手でそっと撫でる。


 すまない。我々は仲間になることはできても、親の代わりにはなれない。


 そうしてしばらく。嗚咽は収まり、再びルーは寝息を立て始めた。頬を伝う涙を指先で拭って、甚五郎は気がつく。

 左右の寝息がすっかり消えていることに。


「……起こしてしまったか」

「ルー?」


 アイリアが声をひそめながら尋ねてきた。


「ああ。毎晩こうして泣いている」

「毎晩? ごめん、ジンさん。気づかなかった」


 甚五郎がうなずく。


「廃宿や野宿では泣き声が吸収されるからな。だが石の牢屋は響く。すまないな、起こしてしまって」

「ジンサマが謝ることではありませんよ」


 半身を起こしたシャーリーが、ルーのずれた毛布のローブをそっと引き下げた。はみ出していた幼い足が優しく隠される。


 海に出た両親とやらが、どこかで運良く生き延びていてくれればいいのだが。

 廃宿付近の海を見ていれば、それがとても望めることではないことくらいは海の素人でもわかる。だが。


「こんなに幼いのに。ひとつくらい、奇跡が起こってくれたらって思ってしまいます……」


 シャーリーが甚五郎の気持ちを代弁するかのように、静かに囁いた。


「そうね……」

「さあ、ふたりとももう寝なさい。体力を温存せねばならん」


 アイリアがうなずくと、シャーリーが寝転んだまま外衣を引きずって、甚五郎の右腕に身を寄せた。


「……ジンサマ、腕にしがみついて眠ってもよろしいでしょうか? 少し寒くて」

「ああ、かまわんぞ」

「ありがとうございます」


 シャーリーが甚五郎の右腕へとしがみつき、外衣を甚五郎にもかかるようにふわりとかけた。


「ふふ、暖かいです」


 幸せそうに瞳を細めて、甚五郎の耳もとで囁く。

 腕に感じる胸当てや具足を外したシャーリーの身体は、ひどく細く、そして頼りない少女のものだ。


「うむ」


 シャーリーが優越感に満ちた笑みを浮かべて、アイリアに視線を送った。

 アイリアは片肘をついた体勢で尋ねる。


「……。ジンさん、あたしもいい?」

「うぬ!? そ、それは……だめだ」


 シャーリーの優越感に満ちた笑みがさらに大きくなった。

 だがアイリアはどこ吹く風で、口もとに笑みさえ浮かべている。


「どうして?」

「と、とにかく、貴女はだめだ」

「……反応しちゃうから? だったらここには、お子様が、ふ・た・り、もいることだし、寒いのくらいは我慢するけど」

「……む、ぐぅ……」


 甚五郎が固く瞳を閉じて、眠ったふりをした。

 アイリアが憐憫の笑みをシャーリーに向けるのと、シャーリーのご満悦が一瞬にして白目に変化したのは同時だった。


 薄目を開けながらルーは思う。

 お、お、おとなのおんなは、だいたんだなー……。


幼女の教育に悪いでしょうが……。

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