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召喚ハゲ無双! ~剣と魔法と筋肉美~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ2巻発売中』
第五章 ハゲは曙。やうやう薄くなりゆく、生え際すこし明りて、斑が目立ちたる頭髪も細くぶち切れる。

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68/90

ハゲ、突撃魔人の晩ご飯

前回までのあらすじ!


魔人砦を公衆便所と言い放ったハゲの渾身のボケが、華麗にスルーされたぞ!

 天然の要塞、魔人砦――。


 絶壁と形容するに相違ない切り立った岩肌は年中雪と氷に覆われていて、崖や岩肌を得意とする草食の獣ですら近寄らない。

 その足もとに存在する大鉄扉(だいてっぴ)から見上げれば、山間の谷間にあってさえ絶望的なまでの高さがあった。


 たとえ軍であったとしても、この砦を破るにあたっては相当な人手と攻城装備、そして犠牲が必要となるだろう。なにせ大鉄扉をこじ開けるまでの間、魔人たちは崖上から好き放題攻撃ができるのだから。

 彼らの怪力で岩石などを落とされては、鎧を着込んだ騎士とてひとたまりもない。


 大鉄扉の前に見張りの魔人がいないのは、この魔人砦を不遜な方法で越えようとするものが、これまでいなかったからだろう。


 だが、この一行は――。

 シャーリーが白い息で呟いた。


「シャナウェルの侵攻を阻止してきた砦なだけありますね」

「うむ」


 甚五郎が振り返り、ルーを背に乗せて最後尾を歩いていた金狼に語りかけた。


「リキドウザン先生はここまでだ」

 ――ウォウ!?

「残念だけど、先生を連れてはゲオルパレスに入れないのよ」


 フードを目深にまで被ったアイリアが、甚五郎の言葉を継いだ。

 言葉の意味を理解しているのか、金狼の尾がくるりと丸くなり、落ち込む姿を見せるように頭がわずかに下がった。ご丁寧に耳までパタリと倒れている。

 その頭部を伝ってルーが雪の地面へと転がり下りてきた。


「ありがとなー、リキドーザンせんせー」


 雪の地面にぽてっと尻をついたルーに、リキドウザン先生が頬を寄せる。いつになく情けない鳴き声で、金狼は鼻先を使ってルーを立ち上がらせた。


 ――クゥン……。


 アイリアが細い腰に片手をあてて、明るい声で言い放つ。


「そう落ち込みなさんなって。また戻ってくるわよ。あんたには大金の詰まった金貨袋を預けてあるんだから、勝手にいなくならないでよ~?」

「ふははっ、その通りだ」


 甚五郎が金色のモサモサした毛を片手で掻いて、最後にその眉間を軽く叩いた。


 ――ウォゥ~。


 頭を垂れていた金色が顔を上げ、尾を左右に振る。

 シャーリーが両腕を広げ、その首に抱きついた。金色の毛皮に顔を埋めたまま、首を左右に振って囁く。


「リキドウザン先生、ここまでありがとうございました。必ずまたお会いしましょう。あなたの助けがなくなるのは少し不安だけど、わたくしがその分強くなりますから」


 そうしてしばらく。

 シャーリーが離れたのを見計らって、甚五郎は金狼の尻を叩いた。


「では、な」


 金狼は少し躊躇った後、樹林へと走り出す。何度か立ち止まり、振り返りながら。

 シャーリーが沈んだ声でぽつりと呟く。


「ねえ、ジンサマ……。リキドウザン先生は大丈夫でしょうか……。もう仲間の狼たちも絶滅していないのに……」


 甚五郎がシャーリーとルーの肩に手を置いて、力強く言い放った。


「心配あるまい。イエティ程度にやられるやつじゃあないし、我々が無事にゲオルパレスから戻ってくればよいだけの話だ」

「そうそ。今回は戦いに行くわけじゃあないし、きっと平気よ」

「……そっか。そうですね」


 甚五郎とアイリアが視線を合わせてうなずき合う。


「では、行くか」


 そうしてあらためて大鉄扉へと向き直る。


「インタ~フォ~ンはないのか」


 ひとり呟き、甚五郎が右腕を高く持ち上げる。そうして拳を握り込み、大鉄扉へと二度振り下ろした。

 まるで攻城兵器を突き立てたかのような重い音が、ずどん、ずどん、と二度響く。

 そうして朗々とした紳士的な野太い声で、甚五郎が正々堂々と叫んだ。


「もしも~し、入ってますかーっ!?」


 対照的に、アイリアが静かに冷たく囁く。


「……まじめにやりなさい」

「う、うむ」


 もう一度拳を握りしめ、今度は四度、大鉄扉を叩いた。


「頼もうッ!!」


 シャナウェルの城門にも匹敵するほどの大鉄扉が揺れて、巨大な蝶番が軋む。

 しばらく待っていると、大鉄扉の直上から氷の塊がばらばらと降ってきた。


「えっこらしょっと。入ってまーすよーっと」


 間延びした声がして、大鉄扉上にあったらしい覗き窓からどす黒い肌をした二つ角の魔人が、ひょいと顔を覗かせた。


「あれま、人間かよ。――え? 人間? 人間がノックして大鉄扉が揺れたの? ったくよぅ、大鉄扉の建て付けが悪くなってんじゃねーの……」


 何やらぶつくさと文句を言っている。

 だが然もありなん。大鉄扉の大きさたるや、攻城兵器でもなければ魔人ですら揺らすことさえ難しいほどなのだから。


「頼もう!」

「断る。んじゃなー」


 ぱたん、と音がして覗き窓が閉じられた。

 びゅうと風が吹いた。

 甚五郎の頭皮に血管が浮いた。


「魔人にはまともなやつはいないのか?」

「ジンさんもだいぶまともじゃないとは思うけど」


 アイリアがため息をついて続けた。


「でもまあ、魔人は概ねあんな感じよ。人間を下に見てるから、口調にかかわらず大体のやつが傲慢な態度を取ってくるわね」

「ジンサマ、深呼吸。深呼吸してください。喧嘩売っちゃだめですからね?」

「うむ。大丈夫だ。私とてもうよい大人なのだからな。そして紳士でもある」


 もう一度拳を持ち上げて、四度ノックをする。

 ぱたん、と覗き窓が開いた。黒い魔人が再び顔を出す。

 どうやら食事中だったらしく、骨付き肉を口に含んでいた。


「なに?」

「食事中に失礼した。我々はアヤシいものではなく、この砦を通りた――」

「あ、それ無理」


 ぱたん。

 びきびきびき、と音を立てて甚五郎の筋肉が肥大化した。頭皮に克明に浮いた血管が、びくんびくんと脈打っている。

 もう一度拳を持ち上げ、四度ノックをする。

 ぱたん。開いた。黒魔人が顔を出す。


「我々はただ――」

「アポイントメェ~ンはある?」

「あ、いや、それは――」


 ぱたん。閉ざされた。

 甚五郎の眼球が血走ってゆく。


「ヒッヒ、フフフゥゥ~~~ン……」

「落ち着きましょう!? 一旦落ち着きましょう、ジンサマ!! ほら、深呼吸!」


 ノックをする。先ほどまでよりも、気持ち強く。

 窓が開く。


「少し話を聞――」

「うるさい」


 閉ざされる。

 傍目で見ていたアイリアが諦観のため息をついた。

 すでに甚五郎の全身からは、真っ白な湯気が立ち上ってしまっている。

 ノック。

 窓が開く。


「おい、貴さ――ッ」

「うわっ、怖っ!? 顔怖っ!」


 閉ざされる。

 アイリアが二度目のため息をついた直後だった。

 これまで拳を握りしめ、上から振り下ろすように叩いていたノックが、弓でも引き絞るかのように背後まで引かれたのは。

 ぴくり、ぴくりと頬が引き攣っている。


 アイリアが首を左右に振ってから両手で耳を塞ぐと、それを見たシャーリーとルーもまた同時に耳を塞いだ。


「――羽毛田式お宅訪問術のひとつ、対人関係粉砕ノック……」


 ぼそり呟いた直後。


「ふぬがァ~~~~ッ!!」


 気合い一発、甚五郎の拳骨が大鉄扉の左扉へと突き刺さる。

 ずしん!

 打ち鳴らされた金属音と同時に大地に震動が走り、絶壁の砦に降り積もっていた雪がそこかしこへと落ちてきた。


 大鉄扉、へこむ――。

 受けた拳の跡を中心として、クレーター状に。

 大鉄扉上方の窓が勢いよく開き、黒い魔人が目を見開いた表情で顔を出した。


「おい! てめ、今何を――!」


 すぅぅと息を吸い、もう一度拳骨を引き絞る。


「げ、拳骨……?」

「何をだと? もちろんノックだ。そして紳士たるものノックの基本は四回」


 そうして黒い魔人を見上げ、凄惨な顔つきで甚五郎が悪鬼羅刹のごとく邪悪な微笑みを浮かべた。


「もっとも、扉がそれまで保てばの話だがなァァ?」


 甚五郎がべろぉ~り、と舌で唇を舐めとった瞬間、黒魔人が初めて感情を露わに叫んだ。


「待て待て待て待て! 大鉄扉が壊れるだろ! 話は聞く! だからやめ――」

「オゥルアアァァァ!」


 雪の大地を大きく踏み込み、腰の回転からの力を腕へ伝達、上腕二頭筋から拳へ。放たれる二撃目。

 ずん――っ!

 大鉄扉がその身を横に折り曲げると同時に、巨大な蝶番が吹っ飛んだ。街道とゲオルパレスを遮る大鉄扉に隙間が生じた。

 ねじ曲がった大鉄扉の左扉は、もはやかろうじて立っているだけに過ぎない。


 大鉄扉の向こう側では、魔人たちが慌てふためいて集まり始めていた。隙間からこちらを覗く邪悪な筋肉ハゲ人間の狂った瞳を見て、一斉に戦闘態勢を取っている。


「ふはは! おるわおるわ! 首を洗って待っていろ貴様ら。平和的話し合いのため、すぐにでもこの羽毛田甚五郎がそちらに行ってやるからなァ?」

「ちょ、やめ――!?」


 足を開いて右拳を引き絞り、奇声とともに拳を放つ。


「平和万歳ィィンガラッシャッシャアアァァッ!!」


 めり込んだ右拳が、大鉄扉の左扉をついに跳ね飛ばす。

 重い金属音を響かせた左扉は、大鉄扉の背後に控えていた魔人数体を巻き込んで砦の壁面へと叩きつけられ、大地に倒れ伏した。


 血走った瞳で邪悪な笑みを浮かべたハゲが、大鉄扉の守りし魔人砦へと、革靴で一歩踏み込む。


「ぐははははっ! ……おっと、忘れておったわ」


 残る右扉へと、ノックの四度目をこつんとあてる。


「ごめんくださぁ~~~~い」

「てめ、人間……ッ、なんてことしてくれてやがる……ッ!」


 数十体もの魔人たちが、一斉に殺気立った。

 当初よりこの展開を予想していたアイリアは、両目を手で覆って空へひとり呟いた。


「……なるよね~……」


その正義、もはや悪!

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