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召喚ハゲ無双! ~剣と魔法と筋肉美~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ2巻発売中』
第四章 親譲りの遺伝子で子供の時からハゲかけている。

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62/90

ハゲ、ハゲましておめでとうございます ~第四部完~

前回までのあらすじ!


みんなが忘れていた甚五郎の紳士っぷりが幼女に炸裂したぞ!

 廃宿を発ってから、五日が経過していた。

 徒歩ではわずかばかりの距離しか進めていないにもかかわらず、気候は日に日に変動していった。

 吹雪いているのだ。素肌に突き刺さるような寒さは、勢いを増すばかりで。


 足下に積もった雪に分厚さを感じ、甚五郎は舌打ちをした。


「まずいな……」


 これ以上積もれば、革靴での移動が難しくなる。

 アイリアはすでにサンダルを、底の広いブーツのようなものに履き替えていた。しかし寒さによる体力低下はこたえるらしく、ローブにくるまってフードを目深にまで下ろしている。

 旅慣れているのだと、今さらながらに思い知らされる。


 若干、いつもより顔色を青白くした甚五郎は、風に暴れるネクタイをパンツのベルトに挟み込み、振り向きながら上に視線を向けた。


「ルー、平気か?」

「おー。じんごろーがあったかいからなー」


 肩車。ルーはじんごろーの肩の上に座っていた。

 シャーリーが毛布で簡単なローブを作り、ボロ布のような服の上からまとわせてはいるものの、子供の体力では相当きついはずだ。それでも元気でいてくれるのは、魔人の血が半分混ざっているからだろうか。


「ならばいい。風が強い。飛ばされぬよう、しっかり私の額に手を回しておくのだぞ」

「……じんごろーのひたいは、どこからかなー?」


 びくん、とアイリアの全身が震えた。


「ぷふっ」


 甚五郎が白目を剥きそうになりながらも笑顔で返す。

 だがその顔色は、いっそう血の気を失って青白く染まり、視線は左右に泳いでいた。


「ふ……はは……っ、な、なに何を言っているのだ……? そそのようなものは、ええっと――」


 しばし黙考するハゲ。しばらくして、その瞳がくわっと見開かれた。


「――! 髪が生えていない部分はすべて額に決まっている」

「おお、ひろいなー! こうだいな、さばくみたいだなー!」


 ルーが無邪気にじんごろーの頭皮をぺたぺたと叩いた。

 甚五郎の瞳から黒の部分が失われた瞬間、アイリアが噴き出す。


「プブフォォォ~~~ッ!! ファ、ファァァ~~~~~ッ!? ……ンフン! ん、んんぅ。けほ、けほん。うん」


 咳をして誤魔化し、アイリアが表情をキリッと引き締めた。


「まったく、すごい風ね。雪煙で何も見えない。ジンさん、シャーリーが偵察から戻ってきたら、海沿いから少し離れましょう。風に耐えられないわ」

「フ、フフ、そうだ……な……」


 突如、前触れもなく海からの突風が吹き荒ぶ。


「きゃ……」


 それはアイリアが小さな悲鳴を上げて顔を覆い、側方へとよろけた瞬間であり、同時に甚五郎が両足に力を入れてこらえた直後のことだった。

 小さく軽いルーの身体が、甚五郎の肩から浮いた。


「わ、わー!」

「ぬ!」


 甚五郎がとっさにルーの両足をつかもうと手を上げる。

 吹っ飛びそうになったルーが、両手で甚五郎の左右の残り少ない長き友ら(頭髪)をわしづかみにした。


「わ~~~~!」

「――ぬあぁぁッ!?」


 ルーによって甚五郎の頭皮が引っ張られ、顔面が薄気味悪く伸びる。

 どくん、と心臓が大きく鳴った。


 直後に響く、絶望の悲鳴――!

 無数の生命が無惨に引き抜かれ、引き千切られ、数多の仲間たちと引き裂かれた瞬間の、泣き叫ぶ声が――!


 たすけて、たすけて、甚五郎さん。ぼくたち、まだ巣立ちしたくないよー。

 ぶつり、ぶつん、ぶちぶちぶちぶちちちちぃぃぃ。


「あ、ああぁぁぁ~~~~~~~~~~~っ!?」


 それすら嘲笑うがごとく、轟々と突風は吹き荒ぶ。

 やがて風がやんだ頃には、甚五郎の悲鳴は、生命力の失われた弱々しき声へと変化していた。


「あ……、あ……」


 膝をつく。

 あれほどまでに頑強だった漢が、凍った大地に両膝をついたのだ。まるで大自然に屈服したかのように。

 否。この漢は、このハゲは、自然になど屈服しない。それどころか、素肌にネクタイとジャケットのみという、猛吹雪すら嘲笑うかのような服装をしている。


 だが、絶望。横髪のおよそ三分の一を失った、絶望――。


 遅れて丸太のような両手が落ち、がっくりと首が下がった。

 ルーの両手の指の隙間から、三桁に届きそうなほどの数の友が、風にのって旅立って行った……。


「じ、じんごろー?」

「……」


 ルーの呼びかけにも反応はない。四つん這いとなって、ただただ涙と涎と鼻水をぼたぼたと垂らしているだけだ。

 アイリアが屈んで甚五郎を覗き込む。


「あー、こりゃだめね。気絶してるわ」


_人人人人人人人人人人_

>   なんやー!!!  <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^^Y^ ̄

     彡 ⌒ ミ

     (`・ω・´)     キキーッ!

     O┬O )

     ◎┴し'-◎ ≡


 偵察から戻ったシャーリーの眼前に広がる光景は、まったくもって意味不明のものだった。

 海沿いの海岸で、土下座体勢で動かなくなった甚五郎を中心にして、アイリアとルーが寄り添って暖を取っているのだ。

 シャーリーが外衣と長い銀髪をはためかせ、端正に整った眉をひそめて呟く。


「何やってんですか……」

「あら、お帰り」


 シャーリーの足下に渦巻いていた緑の風が一瞬して弾け、彼女の細い身体の周囲へと巻き付いてゆく。


 風の精霊シルフによって、シャーリーは守られている。つまり、どれほどの寒風が吹き荒ぼうとも、シャーリーには関係がないのだ。

 もっとも、気温まで防げるわけではないから、外衣はいつも以上に身体に巻き付けてはいるけれど。


「シャーリーねーさん。じんごろー、うごかなくなった。ルーがしっぱいした……」


 シャーリーが歩み寄り、甚五郎の顔の前へとしゃがみ込む。

 その悲劇的な姿に、シャーリーが目を大きく見開いて口を両手で塞ぐ。


「――ッ!? こ、こんな、こんなことって……」


 甚五郎の横髪が、ごっそりと失われている。強引に引かれたらしく、千切れているものもあるが、根こそぎ逝っているもののほうが遙かに多い。

 つまり、もう生えてこないということだ。


 なんてこと……。


 次の瞬間。


「ハプ!? ぷ、ぷぷ、ブフォォ~~~ッ!! あは、あははははっ! な、何があったんでぷふぅかぁっはっはっはっ! やだもージンサマジンサマジンサマったらぁ~! あっははははは!」


 シャーリーが腹を抱えて大爆笑した。

 雪上を転げ回り、両足をばたばたと上下させ、雪煙を上げながら。

 アイリアが自分のことは棚上げにして、じっとりとした視線でシャーリーを睨む。


「あんた、ジンさんが気絶してるからって大笑いしてるけど、油断すると起きるわよ、この人。あとパンツ見えてる」

「ン、ぷふ、そ、それもそうですね」


 立ち上がり、シャーリーは外衣とハレンチメイルのスカートに付着した雪をぱたぱたと払った。

 アイリアが座ったまま自らの膝に顎をあて、げんなりした口調で嘆いた。


「というより、起きればいいんだけど、もし起きてくれなかったら、あたしたちもここで野宿よ。いくらシルフに守られてても、夜通し精霊召喚しっぱなしってわけにもいかないでしょ」

「あ~……」


 なるほど、と理解する。

 アイリアとルーは何も甚五郎で暖を取っていたのではなく、離れるわけにはいかなかったのだ。いくら甚五郎とはいえ、吹雪の中、ほとんど裸のお乳首様丸出し状態でひとり眠っていては、さすがに死んでしまうだろう。毛皮のあるオーガでさえ冬眠する地域なのだから、頭髪さえろくにない頭では――。


「はぷぅ!? ぷす、ぷくぅ!」


 自身の想像力のたくましさに、思わず噴き出す。


「ちょっと、何笑ってんのよ。魔物の襲撃どころじゃないピンチなんだからね」

「あ、はひ、ふふ。そ、そうですね、うん。ぷすくふぅ! ばふんっ!」


 咳払いをして、呼吸を整える。


「ン、んんぅ! ……ふぅ。えっとですね、偵察の際、この少し先に小さな小屋を見つけました。乾いた炭や薪がまだ残されていたので、おそらくデレクとメルが使った跡だと思います」

「あら、残してくれたんだ。律儀ね。場所は? 遠いの?」


 シャーリーが苦い笑みを浮かべる。


「少し。でも、わたくしだけだとシルフの力を使ってもジンサマは運べませんが、アイリアさんとルーさんが手伝ってくれれば、引きずることくらいはできるはずです」

「……ひきずるのかー……」


 ルーがぽつりと呟く。


「……シャーリーねーさん、むごいなー……」


 アイリアが立ち上がった。


「ま、仕方ないわね。ここじゃ四人でくっついて眠っても、夜はこえられそうにないし」

「死んじゃいます。さすがに」

「ゆきにうまるなー」


 ルーが立ち上がり、甚五郎の頭に回った。


「あ、ルーさん、頭は持つところがないので、足を引いてください」

「あっても引っ張ったら抜けちゃうでしょ、この人。筋肉に全振りして毛根力ゼロなんだから」


 辛辣なる言葉に、ルー以外のふたりが同時に噴出、爆笑した。

 ルーは瞳を細めて思う。このような女性にはなるまい、と。


 アイリアが右足を、シャーリーとルーが左足をつかみ、シルフの風で甚五郎の巨体を包み込むとほんのわずかに甚五郎が地面から浮いた。

 正確には接地面が減っただけであって浮かんでいるわけではないが、これなら引きずることくらいはできそうだ。

 三人はうなずき合うと、甚五郎の下半身を引っぱって歩き出す。


「まったく、ジンサマったら。世話のかかる旦那様です」

「え、この人、あたしの主人なんだけど?」

「もー、そーゆーのはいいから、しっかりひっぱってー!」


 だが、悲劇はそこに潜んでいた。

 そう、あるいはルーがあのまま甚五郎の頭部をつかんでいたなら――。


 微かな接地面。つまりは後頭部を雪の大地で擦っていることに気づかぬままに、一行は小屋を目指して進む。


 ぞり、ぞり、ぞり、ぞり……。


 毛根死滅の面積まで、残り一割。

 残り、一割――。


ここへ来てまさかの自滅!!!


次回最終章突入!

果たして毛髪は生えるのか、絶えるのか!


※2016/4/07追記

第五章が最終章の予定でしたが、思った以上に長くなったので分割しました。

お恥ずかしい限りでございます。orz

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