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召喚ハゲ無双! ~剣と魔法と筋肉美~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ2巻発売中』
第四章 親譲りの遺伝子で子供の時からハゲかけている。

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60/90

ハゲ、小さな想い

前回までのあらすじ!


ハゲとロン毛が殴り合った後には友情が生まれたぞ!

 翌朝、目を覚ますと、腹の上で眠っていたはずのルーの姿がなかった。

 ハゲ上がった頭を指先で掻いて、甚五郎は廃宿の荒れた室内を見回す。


 壊れかけのベッドには、いつもならば真っ先に目を覚まして朝食を作ってくれているアイリアだけがひとり、寝息を立てていた。

 シャーリーの姿はない。


 窓から外を眺めると、陽はすでに高く上がっていた。どうやら、もう昼近くになっているらしい。


「む……」


 珍しく身体が気怠い。

 昨日はこの世界で最強と名高い勇者デレクと戦ったのだ。無理もない。


 聞いた話では死霊に取り憑かれて意識を失っていた間、アイリアがデレクの攻撃をたったひとりで凌いでくれていただとか。

 力を隠し持っていたことには驚かされたが、正直、ここまでとは思ってもみなかった。それでもデレクの相手は並大抵のものではなかっただろう。これでアイリアが死んでいたら、後悔してもしきれないところだった。


 甚五郎は立ち上がって首を鳴らし、ベッドでローブにくるまって眠っているアイリアに自らのジャケットをそっとかけた。

 朝はやはり冷える。


「……すまなかったな、アイリア。貴女には相当な無理をさせてしまった」


 囁くように告げて、甚五郎はお乳首様丸出しのままドアを開けた。

 キッチンスペースからは楽しげな声が漏れている。シャーリーとルーのものだ。どうやらルーはシャーリーを手伝っているらしい。


「シャーリー、ルー、おはよう」

「おお、じんごろー。もうおはやくないぞー。おねぼうさんめ」


 ルーが左手にパンを持ったまま、こちらを振り向いた。


「フ、面目ない」

「ルーはてっきり、アイリアねーさんとおっぱじめたのかとおもったなー」


 やはりルーはおかしい。


 甚五郎が絶句すると同時、シャーリーがその手の中で出来上がったばかりのサンドウィッチをくしゃりと握りつぶす。


「そ、そんなわけないじゃないですか。ね、ジンサマ?」


 振り向いたシャーリーの瞳に、ネクタイすら外した半裸の甚五郎の姿が映った。寝起きで髪型は艶っぽく乱れている。


「……」

「……」


 数秒の沈黙の後、シャーリーが安堵の息をついた。


「ほらぁ、いつも通りのジンサマじゃないですか~っ。ルーさんったらっ」

「ふはは、まったくだ」


 ルーがぽかんと口を開けて呟く。


「お、おお。じんごろーはいつも、そんなかっこをしてるのかー……。ルーのようなよーじょには、しげきてきだなー……」

「おっと、これは失礼した。紳士たる私としたことが、淑女の前でこのように破廉恥なる格好をさらしてしまうだなどと」


 ポケットから素早くネクタイを取り出し、丸太のごとく太く逞しき首へと素早く巻き付けてゆく。

 むろん、ネクタイの左右にちらりするお乳首様は隠れない。


「ふんふ、ふんふ、ふ~ん♪」


 野太い声での不気味な鼻唄が響く。

 甚五郎は頭部の左右に残る長き友(頭髪)を、壊れ物でも扱うかのようにそっと背後へと流した。


 手触りは悪くない。シャナウェルを脱出する際にメルに灼かれてチリってしまった横髪も、短くはあってもストレートに戻りつつある。

 後頭部の円形脱毛は、やはり毛根まで持って行かれていたけれど。


「よし、これでよかろう」


 シャーリーが身体をくねらせながら、黄色い歓声を上げた。


「今日もステキです、ジンサマ!」

「フ、よさないか。照れるではないか」


 ルーが困惑したように額に縦皺を刻んだことに、ふたりは気づかない。


「ルーは何をしているのだ?」

「……お、おお。ルーは、シャーリーねーさんのおてつだいだ。じんごろーたちのおべんと、つくってる」

「朝食もですよ。メニュー同じになっちゃいますけど」

「私は別にかまわんぞ。シャーリーの作る食事はうまいからな」


 少し意地の悪い表情で、シャーリーが問い返した。


「アイリアさんのよりもですか?」

「む? どちらも同じくらいうまいぞ」


 シャーリーが力の抜けた笑みを浮かべる。

 その様子を見ていたルーが、思い出したように左手に持ったパンの上に葉野菜を一枚置いた。


「ルーもがんばるからな」


 野菜の上に、先日ヘドロがリキドウザン先生対策にぶん投げたミノタウロス肉を回収して塩漬けにしたものを重ねる。

 もちろん、ナマではなく焼いたものだ。


「……んしょ……」


 ずいぶんと厚切りだ。よく見れば野菜も肉も、大きさがそろっていない。

 テーブルの上にあるバスケットの中にはすでに完成したサンドウィッチがいくつか収められているが、半分くらいは形が(いびつ)だった。肉の厚さも野菜の大きさもそろっていないし、挟むパンもずれている。


 シャーリーが少し困ったように微笑む。察した甚五郎が小さくうなずいた。


 どうやらルーが作ったものだけが、歪になっているようだ。だが、だからといってルーをここから追い出してしまうほど、シャーリーは子供ではない。

 ソースはない。ミノタウロス肉が塩漬けだからだ。肉の分厚さの違いは、残念ながら味にも直結するだろう。


 けれども。小さな手で懸命にサンドウィッチを作るその姿は、とても尊く。


「もーちょっと、まっててな。ルーがみんなの、つくるからな」

「ああ、頼むぞ」


 ルーがくしゃっと笑った。

 しかし甚五郎は気づく。その笑顔が、どこかかげっていることに。

 親もとを離れる決意によるものか、それとも――。


「ふむ……」

「どうかしましたか?」

「いや。なんでもないぞ、シャーリー。ところで水はあるか?」

「あ、はい。死霊の樹林から廃宿の裏を通って小川が流れてましたので」


 甚五郎が苦い表情をした。


「飲んでも平気なのか? またおかしくなってしまわないか?」


 万に一つ、またおかしくなって暴走したら、今度はヘドロもデレクもいない。アイリアは疲労状態で満足に動けないだろうし、己を止めてくれるものはいない。

 シャーリーが首を振る。銀色の長い髪がふわりと揺れた。


「大丈夫です。念のために死霊の影響がないか、シルフを召喚して調べてもらいました。そういったものの影響があると、シルフは水に入ることさえ嫌がるのですが、楽しそうにウンディーネと――あ、水の精霊です。ウンディーネと戯れていましたから」


 シャーリーには精霊が見えている。彼女と相性のよい風の精霊シルフが問題ないと言うのであれば、安心してもいいだろう。


「そうか。ならば顔を洗ってこよう。洗濯物があれば、ついでに洗ってくるが――」


 シャーリーが胸を張った。


「あ、ジンサマのその戦闘服(スーツ)以外はもう済ませましたから平気です」

「そうか。すまなかったな。私のおパンティーまで洗わせてしまうとは」


 シャーリーの鼻の穴がふっくらと膨らんだ。


「いえいえ! むしろ役得ですので! ……それに、昨日はあまり役に立てませんでしたし、これくらいはさせてください」

「そのようなことはない。十分に救われた。アイリアが言っていたのだ。シャーリーの最初の素早い突撃がなければ、デレクと私の間に身を入れることさえできなかったかもしれない、とな」

「あ……そ、そう言っていただけると……」


 シャーリーが赤面して、はにかむ。


「ふたりには感謝している。――では、顔を洗ってくる」

「はい! 行ってらっしゃいませ、ジンサマ!」

「だいじょーぶか、じんごろー?」


 ルーがあわてたように声をかけてきた。


「む? 何がだ?」

「ルーがついてかんでもへーきか? まよわんか?」


 じっと見つめていると、ルーが視線を逸らした。

 その言葉は嘘だ――。

 しかし甚五郎はルーの言葉については何も言わず、ぽんとルーの頭に手を置くと、笑顔で呟いた。


「すぐに戻る。腹が減っているからな。ルーのサンドウィッチ、楽しみにしているぞ」

「あ……、うんー、わかった。ルー、いっぱいつくってまってるなー?」


 ルーが満面の笑みを浮かべた。だがその直前、ほんの一瞬だけ表情がかげったのをハゲは見逃さない。

 甚五郎はその場では何も言わずキッチンスペースを後にした。


「ふむ……」


 寝室に使った部屋の前と通ったとき、ぼさぼさの黒髪を艶っぽく掻き上げながら寝ぼけ眼で部屋を出てきたアイリアと鉢合わせた。

 その肩には、甚五郎のスーツのジャケットがかかっている。


「ふあ……。おはよう、ジンさん」

「うむ。おはよう、アイリア。身体は平気か?」


 アイリアが気怠そうな吐息をもらした。

 仕草がいちいち色っぽいと思ってしまう。


「ん……。ごめんなさい、正直ちょっときついかも……。本気で暴れたのって、冒険者やってた頃以来だったから……。歩くくらいなら平気だけど、今日はなるべくなら戦いたくないわ」

「そうか。急ぐ旅ゆえ出発はするつもりだが、戦闘は私がなんとかしよう」

「ごめんね、ジンさん。今日はその言葉に甘えさせてもらうわ」

「まだ時間があるから、もう少し寝ているか?」

「ううん。睡眠はもう十分よ」


 アイリアが細い肩をすくめる。するりと落ちたジャケットを優雅な仕草で片手でつかむと、甚五郎に差し出した。


「ありがと。あなたに抱かれてるみたいで暖かかった」

「うむ。それはよかった」

「……ふふ、流すのがうまいわね。そんなふうに手玉に取ってばかりだったら、いつか女に刺されるわよ」

「フ、せいぜい気をつけるさ」


 ハゲの分際で気障な言葉を呟く甚五郎に、アイリアは幸せそうに少し笑った。

 甚五郎がジャケットを受け取って羽織る。いつものジャケットからは、少しだけ良い匂いがした。


「アイリア、少し外で話せないか?」

「ふたりで?」

「ああ」


 アイリアが目を丸くして訝しげな表情をする。


「……告白ならもちろんオッケーよ?」


 ふいを衝かれた甚五郎が、苦笑いを浮かべた。


「すまない。ルーのことなのだ」


みなさんお忘れでしょうが、このハゲは格好いいハゲなのだ!


※仕事多忙につき、12月末くらいまで更新速度ゆっくりめです。

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