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召喚ハゲ無双! ~剣と魔法と筋肉美~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ2巻発売中』
第四章 親譲りの遺伝子で子供の時からハゲかけている。

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59/90

ハゲ、解散!

前回までのあらすじ!


魔人ヘドロはいいやつだ! 臭いけど!

 ヘドロが甚五郎に背中を向け、舌打ちをする。


「……ま、その気の毒な毛根みたくよォ、せいぜい簡単にゃくたばらねえことを祈ってるぜ。てめえをぶっ殺すのはおれ様だからよォ、オウ?」

「貴様ッ」

「へっ、怖え怖え。とぅるっとぅるの頭皮に血管が浮いてるぜ! けけ、あばよ! 良い夢みろよォ!」


 捨て台詞だけを残し、その場にいた全員が見送る中、ヘドロは窓枠から外の月夜へと勢いよく跳躍して姿をくらませた。


「……ッ、誰の頭皮が欠陥品だと……ッ! 助けられたから見逃してやったが、やはり容赦なく埋めてしまえばよかったわ……ッ!」


 室内に空々しい沈黙が訪れて、しばらく。


「じんごろー」


 ルーが眠そうに目を擦りながら室内へと入ってきた。とたんに殺気立っていた甚五郎の表情が、柔和なものへと変化する。


「どうした、ルー?」

「んう。さっきな? とつぜんリキドウザンせんせーが、わんわんーって、しっぽふりながらどっかいった」


 アイリアが額に手をあててため息をつくと同時、シャーリーが瞳を閉じて天を仰ぐ。


「……ヘドロさん……」

「あ~、もう捕まったかしら……今頃ガジガジにされてそうね……」


 甚五郎が渋く野太い声で、ルーを優しく手招きする。


「おいで、ルー」


 ルーはとことこ歩くと、ベッドに座った甚五郎の膝によじ登って小動物のようにくるりと身体を丸めた。


「んしょ。じんごろーは、あったかいなー」


 その様子に瞳を細めたアイリアとは対照的に、血走った眼を限界まで見開いたシャーリーの奥歯がガギリィと鳴り響く。

 この小娘にとっては、あどけない幼女ですら嫉妬の対象なのだ。


 だが、そんな様子などには目もくれず、甚五郎はルーの柔らかにウェーブした金色の癖毛を掌で愛しげに撫でた。


「心配はいらんぞ。そもそもやつは、我々の飼い犬ではないからな」


 ルーが気持ち良さそうに瞳を細め、蕩けた表情で呟く。


「ほー……そーなのかー……。……なんか……にもつ……はこんでるから……、……ルーはてっきり……」


 荷物とは、おそらく金貨袋のことだろう。


「リキドウザン先生は仲間だ。ゆえに私は、可能な限りやつの行動を縛るつもりはない。気が向いたり、我々が危機に陥ったときにはまた戻ってくるさ」

「……ほぉ~……」


 そのまま静かに寝入る。

 甚五郎は羽織っていたスーツのジャケットを脱いで、膝の上で眠っているルーの身体にそっとかけた。

 開きっぱなしの窓から吹き込む潮風が甚五郎のネクタイを激しく揺らし、お乳首様がちらりする。


 それまで血走った眼を限界まで見開きルーを威嚇していたシャーリーが、頬をほのかに染めて視線を逸らした。

 その視線の先――。

 ルーの眠りを配慮してか、勇者デレクは声をひそめて静かに口を開く。


「弱ったな。みんな勘違いをしている」

「ん? なんのことだ?」


 デレクが輝く金色の頭部を片手で掻いて、ため息混じりに呟いた。


「さっきの魔人ハゲロ? ゲロスか? ドゲス?」

「ヘドロさんのことですか?」


 シャーリーのツッコミに、デレクがうなずいた。


「それだ。ヘドロとかいう魔人は、おれが魔人王を狙っていると言っていたが、それは間違いだ。魔人王を討つかどうかは、おれが決める」


 赤髪の騎士メルの鋭い視線がデレクを射貫く。


「どういうことだ、勇者殿!? シャナウェル王の命令は――」

「言葉通りだよ、近衛騎士副隊長メル・ヤルハナ。シャナウェル王の命に従うか従わないかは、魔人王を自分で見定めてから決めるつもりだ」


 メルが舌打ちをして吐き捨てた。


「やれやれ。シャルロット姫に続き、こちらも反逆の意志ありか。まったく、騎士の風上にもおけん! 恥を知れ、勇者殿!」

「反逆という言葉は適切ではないよ、メル。おれはもともとシャナウェル王に仕えていたわけじゃあない。剣は持っても騎士でもないしな」

「詭弁だな」

「詭弁だって? はは、おれはシャナウェル王にウィルテラの民を人質に取られて、従わされているだけだ。忠誠を誓ったつもりもない」


 デレクとメルがにらみ合う。


「だが安心しろ。人類にとって魔人王が本当に脅威であるならば、そのときは命に代えても討ってやる」


 甚五郎が大きくうなずいた。


「正義のためか」

「そうだ。あんたもそうなのだろう?」


 デレクの言葉に、身体中を熱き血潮が駆け巡る。

 まさか同じ志を持つ漢と、この広い大陸で偶然にも巡り会うとは。

 膨張し、熱を発しかけた筋肉をいさめ、甚五郎は穏やかに静かなる言葉を呟く。


「……フ、必要とあらばな。だが、私は魔人王のことを知らない」

「おれもだ。だから見極めに行く。やることはあんたもおれも変わらない」

「いや、それに加えて私は、魔人王の持つエリクサーをどうしても手に入れなければならないのだ」

「エリクサー? そんなものをどうするんだ?」


 甚五郎がうつむき、痛恨の表情で悲しげに吐き捨てた。


「……夜に散っていった、友がいる……。……私はもう一度逢わねばならんのだッ」


 シャーリーとアイリアが同時に白目を剥いた。だが、事情を知らないデレクは眉をひそめ、囁くように尋ねた。


「いいやつだったか?」

「ああ……。いいやつだった……。世界は残酷だ。いいやつから死んでゆく」

「そうか、わかった。あんたが金や悪事にエリクサーを利用しようとしているならもう一度剣を交えるつもりだったけど、そうじゃないなら、おれもおぼえておこう。協力するぜ、甚五郎」


 甚五郎の瞳が潤む。


「デレク……すまん」

「はは、気にするな。年齢もタイプも違うが、あんたとは不思議と気が合いそうだからな」


 甚五郎が微笑みを浮かべて、小さくうなずいた。


「私もだ。……デレク、我々とともに来るか?」


 瞬間、シャーリーの体毛が逆立った。


「えっ!? 絶対イヤ――」

「それはだめよ、ジンさん」


 だが、言葉はアイリアから吐き出されたものだった。


「一緒には行けないわ。デレクの本心はどうあれ、ヘドロやメルがそうだったように魔人側からも人間側からも、勇者デレクは魔人王を討つ存在だと大陸中に認識されてる。あたしたちが一緒にいると、あたしたちまでその認識に巻き込まれてしまうわ」


 アイリアが壁際から歩き、ベッドに座る甚五郎の横に腰を下ろした。

 甚五郎、ルー、シャーリー、アイリアの重みを受けた朽ちかけのベッドが、ぎしりと悲鳴を上げる。


「いざ対面して剣を抜いてから、違います、なんて言っても無駄。勇者デレクと行動をともにすれば、自動的に魔人王に敵とみなされて、話し合いでエリクサーを分けてもらうなんて選択肢はなくなるわよ」

「むう……」

「そう! そうですよ、ジンサマ! あとこの人、爽やかキモいです! 初対面のときから幼かったわたくしのことを全身くまなくなめまわすように、じろじろイヤらしい目で見てきていました!」


 デレクが大口を開けて、白目を剥く。


「シャ、シャルロット……、それは誤解だ……」


 まったくもって誤解ではなかったが。そういう目で見ていたが。

 デレクがあわてて話題を変えるべく口を開けた。


「ま、まあ、それはともかく。甚五郎、ありがたい申し出だが、ともに行動をするのはおれにとっても本意じゃないんだ」

「ふむ?」

「その……」


 デレクの視線が甚五郎の背後、逞しき肩越しにこちらを睨みつけている銀色の髪の少女へと向けられる。


「あんたはシャルロットを連れている。だから、あまり危険には巻き込みたくない」


 甚五郎が静かにうなずく。


「シャーリーを案じてのことか」

「ああ。それに、シャルロットは先ほど……貞操を捧げたと言ったが、どうやらあんたは分別の付かない大人じゃなさそうだ」


 デレクが困ったような表情で、シャーリーを見つめる。


「そうだろ、シャルロット」

「デレク……」


 シャーリーの瞳が見開かれた。


「……あなたがそれを言いますか。心底気持ち悪いですよ……?」

「やめて!? 勇者でも傷つくからね!?」


 イーッと歯を見せて、シャーリーが甚五郎の背中に顔を引っ込めた。デレクがため息をついて、苦笑いを甚五郎に向けた。


「甚五郎、あんたは強いし、どこか不思議と信用できる気がするんだ。だからシャルロットのことをしばらく頼みたい」


 甚五郎が二カッと笑った。


「言われるまでもないことだ」

「……そうだったな。あんたはそういう人だ」

「私も不思議とな、おまえは信用できる漢だと思っている」


 どちらからともなく右手を差し出す。

 それは、ハゲとロン毛史上初の、歴史的瞬間だった。

 固く強い握手が交わされる。


「死ぬんじゃあないぞ、デレクよ」

「ああ。あんたもな、甚五郎」


 別れの言葉はない。

 けれどデレクは後ろ手を振りながら颯爽と群青色の外衣をなびかせ、廃宿からひとり、魔人の国ゲオルパレスへと向けて旅立った。

 それを見送る一行の前で、メル・ヤルハナがうんざりしたように呟く。


「やれやれ……。わたしの仕事を増やしてくれるとは、困った勇者殿だ」


 そうしてメルは、デレクを追うように歩き出した。アイリアが意外そうに首を傾げる。


「あら? シャーリーのことはあきらめたの?」

「騎士の任務だ。勇者デレクには反逆の意志がある。彼が魔人王の討伐を選ばぬとあらば、わたしはシャナウェル王国騎士の誇りにかけて勇者デレクを斬らねばならない。しばらくは勇者殿に付き合うさ」


 メルが立ち止まり、シャーリーに視線を巡らせる。


「……それに、ここに残ったところで時間の無駄だ。シャルロット姫は説得に応じそうにない」

「当然ですっ。おトイレにいる虫みたいに気持ち悪い人同士、仲良く旅立ってくださいっ」

「……ああ、そうそう。シャルロット姫」


 シャーリーが心底面倒臭そうに眉根を寄せた。


「なんでしょう?」


 メルの表情が歪み、涙が滲み出てきた。両腕を脇で曲げて、まるで恋する乙女のようにメルが叫ぶ。


「き、き、騎士だって、傷つくんだからねっ!!」


 そうして涙を振り払いながら、内股で走り去って行った。

なんだこいつら……。



※また少し仕事が詰まってきたので、12月末くらいまで更新速度がやや低下してしまいそうです。

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