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召喚ハゲ無双! ~剣と魔法と筋肉美~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ2巻発売中』
第四章 親譲りの遺伝子で子供の時からハゲかけている。

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57/90

ハゲ、金髪ロン毛……堕つ……

前回までのあらすじ!


ハゲ無双オールスターズが集合したけど仲間意識はゼロだ!

仮面ライダーのようにはいかない!

 しばしお付き合い願いたい。

 これは、デレク・アーカイムという稀代の勇者が経験した、人生初の挫折の瞬間の物語である。


 王都シャナウェルから港湾街ウィルテラへと移住した没落貴族アーカイム家に生を受けたデレクは、座学、剣術、魔法学はむろんのこと、容姿までもが幼少期より秀でていた。


 その類い希なる才能がシャナウェル王の目に止まったのは、当時まだ港湾機能すらろくに備わっておらず、シャナウェルの支配する地方都市に過ぎなかったウィルテラが、盗賊団による侵略と略奪の危機にさらされたときのことだ。


 若干十五歳のデレクは、アーカイム家に伝わる魔法剣を携え、三十余名もの盗賊を相手に一歩も退かず、ウィルテラの民を守るためにたったひとりで大立ち回りを演じた。


 彼はただひとつのかすり傷すら負うことなく、輝く光の中で華麗に舞い、すべての盗賊を無力化した後、生かしたまま捕らえるといった離れ業を披露する。

 一騎当千。その戦いを見ていた誰もが、そう感じただろう。


 当時、王都シャナウェルの重税に喘ぎ不満を募らせていたウィルテラの住民らは、若く美しき勇の突然の出現に歓喜し、彼を祭り上げてシャナウェルからの独立を唱え始めた。

 没落貴族アーカイム家に勇者あり。

 その声は次第に大きなものとなり、数ヶ月後には街中に響いていた。


 だがデレクはすぐにはウィルテラを独立させず、十年の計画を立案する。

 彼が最初に行ったことは、表向きはシャナウェルのためと称して王の目を欺き、ウィルテラに新たな秩序をもたらすため、ウィルテラ評議会を創設したことだった。


 評議会はデレクの指示するとおり、王都シャナウェルではなく、船を使った海向こうの大陸との取引を開始した。武器、食料はもちろんのこと、教育や人材まで、ありとあらゆる文化を採り入れていった。


 結果、港湾街ウィルテラはわずか五年で多大な経済成長を成し遂げ、港湾都市ウィルテラへと変貌する。


 しかしデレクの誤算はここにあった。

 力と財力を得た評議会はデレクの制止を聞かず、シャナウェルからの独立を宣言したのだ。デレクにしてみれば、それは寝耳に水の話だった。


 まだ早い。とてもではないが、ウィルテラにはシャナウェルに抗する力はない。五年を費やしてきた計画だったが、残り五年は足りなかった。


 怒り狂ったシャナウェル王は、ウィルテラの定めた国境付近に兵力を集中させ、要求をひとつ、港湾都市ウィルテラへと突きつけた。


 この都市を育てたものを差し出せ。さすればウィルテラの存続をゆるそう。拒否すればこの街は生けるものなき焦土と化すであろう。


 シャナウェル王は怒り狂ってなどいなかった。狡猾なる人間の王は、数十年先を見据えて港湾都市ウィルテラではなく、その頭脳と力となっていた若者を要求したのだ。

 独立など好きにさせればいい。頭脳と力さえあれば、いつでも取り返せるのだから。


 かくしてデレク・アーカイムは、一家を没落させたシャナウェル王のもとに下ることとなった。


 おまえの頭脳と力は、これからはシャナウェルのために使え。


 ウィルテラとアーカイム家を人質に取られたも同然のデレクには、もはや選択の余地など存在しなかった。

 だが狡猾なる王は、デレクを完全なる傀儡(かいらい)とすべく、さらなる要求を突きつける。


 王の隠し子である第三王女シャルロットと、婚姻を結ばせたのだ。


 そうしてデレクは気が乗らないまま、政治利用されるだけの、塔に囚われていた姫シャルロットと出逢うこととなる。


 少女は幼いが、美しかった。

 その瞳には一片の穢れもなく、輝く銀色の髪は、自らの金色の髪と対となるかのように、塔の屋上に流れる風に揺れていた。


 胸が高鳴った。世界が開けた気がした。このような気持ちになれたことなど、これまでに一度たりともなかった。

 この少女とともに生きることで、ウィルテラの民をも守れるならばと、否、この少女が欲しくなった。惚れてしまった。

 ゆえにデレクは、その手を取った――取ろうとした。


 どうか、この哀れなる騎士である私とともに生きてはもらえないだろうか。

 少女はデレクの手を払い除けて、心底嫌そうに顔を歪める。


「え、やだ。きもいです……」


 対面一言。それが少女の口から発せられた言葉だった。

 老若男女問わずからひたすら賞賛を受けるだけの人生で、これまで罵声などもらったこともなかったデレク・アーカイムは、この日、生涯初めて白目を剥いた。

 挫折という言葉の意味を知った瞬間であった。


 当時のデレク・アーカイム、二十歳。シャルロット・リーン、九歳。

 空は高く、よく晴れた日の出来事だった。


   +   +

+    +  

  /⌒ ヽ  +

 ( ´・ω・) 

 (    )

  u―u'      


 話を五年後である現在に戻そう。

 廃宿に五人の人間と、一体の魔人が集う。

 常識からかけ離れた体躯を持つ巨大な狼は、廃宿横で足を丸めて身を置き、角と髪の両方を併せ持つ幼女はその毛皮にくるまって静かに眠っている。

 甚五郎とデレクが気を失ったのは午前だったが、時刻はすでに日没となっていた。


「死霊だと?」

「そうだ。死霊だ」


 シャーリーに包帯を巻かれながら甚五郎が表情を歪めると、廃宿の壁にもたれて両腕を組んでいた赤髪の女騎士メル・ヤルハナがうなずいた。


「この林は、死霊の樹林と呼ばれている。激しい負の感情を露わにすれば、死霊どもは寄って(たか)ってその者に取り憑き、その感情のみを増幅させる。なれの果てが、死するまで見境なく戦い続ける狂戦士(バーサーカー)や、身を滅ぼすまで愛欲に溺れる淫魔(キュバス)と呼ばれるものだ。そうなってしまえば人間の魂など欠片も残らん」


 ベッドに腰を下ろしたまま、甚五郎が右の掌で顔を静かに覆った。


「なんたる不覚。私としたことが、そのような形なき存在ごときに躍らされるとは」

「それはおれも同じだ。勇者などと呼ばれていても、まだまだ力も知識も足りていない。……すまない、シャルロット。みっともないところを見せてしまった」


 デレクがさらさらと流れる金髪を揺らしてシャーリーに頭を下げると、シャーリーは露骨に嫌そうに表情を歪めてベッドに座る甚五郎の背後に隠れた。


「……別に。わたくしに謝られても困ります」


 甚五郎もデレクも傷口こそまだ残っているものの、動かなかったはずの右腕がすでに動いている。

 うっわぁ~、引くわ~……つくづく人間離れしてるな~……などと考えながら、アイリアが口を開けた。


「ジンさんたちは、どんな感情を増幅させられたの?」


 甚五郎とデレクが一瞬視線を合わせる。


「闘争本能だ。血湧き肉躍る感覚に翻弄された」

「あれは歓喜にも近いものだったよ、魔人狩り殿」

「はぁ~……これだから男ってのは……」


 アイリアが額に手をあてて暗く染まり始めた空を仰ぐ。

 デレクがあわてて言葉を続けた。


「それは貴女にも感じたことだ。魔人狩りの異称はだてではない。貴女は恐ろしい女性だ」

「あんたみたいな怪物に言われても困るだけよ。そんなことより、あんたたち、これからどうするつもりなの?」


 全員が言葉を呑み、互いの顔を見回す。

 真っ先にメルが呟いた。


「わたしはシャルロット姫を王都に連れ帰るつもりだ」

「お断りします! わたくしはどこまでもジンサマについていきます!」


 眉をひそめてデレクが尋ねる。


「シャルロット。どういうことだ? 貴女は誘拐されたのではないのか?」

「ちーがーいーまーす!」


 シャーリーがイ~ッと口を歪めてから、得意げに胸を張った。


「わたくしはもう心も体もジンサマに捧げましたから!」


 デレク、メル、そして当の本人である甚五郎が、そろって雷でも喰らったかのような衝撃に白目を剥いた。


「な、なん――?」

「き、貴様、じ、じ、甚五郎……様、な、なんということを……」


 デレクとメルが同時に何かを言いかけて言葉を呑んだ。

 シャーリーが瞳を固く閉ざし、拳を握りしめて叫ぶ。


「だからデレクとの婚約は解消させていただきます! お父様が何をおっしゃろうとも、わたくしは従いませんからっ! もう何もかもが手遅れなんです! 処女は散りました!」


 甚五郎がもう一段階、雷に撃たれたような表情をする。


「な、なぬ!? 婚約者!? デレクがか!?」

「今はもう他人です、ジンサマ」

「では、デレクの言っていた個人的な用件とは、ぶん殴った王国騎士の仇ではなく、シャーリーに関することだったのか?」


 甚五郎の質問を無視して、二発目の言葉の雷を受けたデレクが、両手を広げて大声で尋ねた。


「え……ッ!? 他人って!? ちょ、ちょっと待ってくれ! シャルロット、前々から尋ねたかったのだが、キミはおれのどこが気に入らないんだ?」


 端整な顔立ちに、細身でありながらも恵まれた身体能力を誇る肉体、そして騎士としてはもちろんのこと、魔法使いとしての素養まであり、魔法剣を握ればおそらく人類では最強。それでいて王からの信頼も厚く、まっすぐな正義を志す前途有望な若者だ。

 およそ弱点らしきものは存在しない。甚五郎の年齢容姿とは比べようもないほどに優れていると言っても過言ではない。

 少なくとも、メルやアイリアの視線からすれば、の話だが。


 シャーリーが生ゴミかそれ以下のものでも睥睨するかのような視線で、甚五郎の背中に隠れながらデレクを指さす。


「顔」

「なぁぁ~~ッ!?」


 三発目の雷がデレクに降り注ぐ。勇者の両足は、もはやがくがくと震えている。


「と言いますか、むしろ全般的に生理的に受け付けません。魔法だって、超レアな光の精霊とか気取りすぎ。デレク自身が思っているほど格好良くなんてないですからねっ。あと言動も自信過剰すぎ。婚約者なんて言われたら、ごめんなさい。正直鳥肌が立ちます」


 ぷいっとそっぽを向いて、シャーリーが容赦のない言葉を紡ぐ。

 繰り返しになるが、シャーリーは偏愛主義である。そして空気など読まない。

 笑いをこらえて背後を向き、アイリアが廃屋の壁をどんどんと叩いた。


「……はぷっ!? ぷくっ、ふぁ……はふぁ……ぶふぉ~ッ……ふぁ……ッ、ひぃぃぃぃ……ひふ!? ……ひ、ひ、ふー……ふ~……」


 勇者デレク、人生二度目の挫折を味わう。

誰か彼女を止めてさしあげろッッッ!!!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 顔……顔ですか、ええ、造形には表情筋の影響がありますれば、少なからず内面が表れるところではあるでしょう……骨格を言われれば酷な話ではありますが、シャーリーはきっと……きっとその、「自信過剰」…
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