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召喚ハゲ無双! ~剣と魔法と筋肉美~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ2巻発売中』
第三章 国境の長いトンネルを抜けてもやはりハゲであった。

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ハゲ、武器職人の挽歌

前回までのあらすじ!


ハゲが未来を語ったぞ!

でも、毛が生えるとは限らない!

 ウィルテラ評議会に武具を収めてから一ヶ月。ようやく商品が再びそろってきたばかりだというのに、どうにも珍妙な客が来やがった。

 第一印象はそんなものだった。


 カウンターで腕組みをして、白髪ねじり鉢巻の男はしゃくれた顎をさらに突き出した。


「うちはよ、冷やかしぁお断りだぜッ! へッ!」


 魔人種と見紛うほどの体躯の大男は頭頂部だけがハゲていて、サイドとバックには毛髪が残っ――いや、バックには巨大な円形脱毛があり、サイドもよく見れば片側だけが陰毛のように縮れてしまっている。


 珍妙だ。どうにも珍妙だ。

 服装も見たことのないもので、上衣はともかくとして、あの首から垂れ下がっている細長え布きれはなんだ。防御力はなさそうだし、お乳首様を隠すほどの面積もなく、さりとて洒落た飾りというには味気ない。


 武器屋のオヤジは考える。

 はは~ん、こいつはド変態だな。きっと隣の黒髪おっぱいちゃんにあれを引かせて、夜な夜な散歩をさせているに違えねえ。

 よくねえ。ああ、よくねえな。少なくとも、そこのお上品なナリした銀髪の嬢ちゃんに見せるにゃあ、ちょいと刺激の強すぎるプレイよ。


「……ったく、最近の若えやつらは見下げ果てたもんだぜ! 情緒ってぇもんがねえやな!」

「ん?」


 このハゲ、すっとぼけてやがらぁ。ちょいとからかってやるか。


「ヘッ、なんでもねえよッ! とっとと選んでくんなッ! あんたが欲しいのは、おおかたここらへんだろうがよ? おう?」


 武器屋のオヤジが壁に貼り付けて並べた五種類の鞭を指さした。痛みの少ない先のばらけたバラ鞭から、騎獣の尻を叩くためのもの、不人気であまり売れない種類ではあるが、モンスターを狩る殺傷力のあるものもあるし、対人用のものもある。


 大男は眉をひそめて鞭を見上げている。

 ハゲめ。怪訝そうなつらぁしやがって。こちとらてめえの性癖なんざ、全部まるっとお見通しってもんよォ。


 四十年も武器屋をやっていれば、客の欲しいものなど一目見るだけでわかると、この武器屋のオヤジは信じていた。

 武器屋のオヤジが掌で自らの鼻を擦り上げる。


「ヘッ!」


 しかし隣の女。実にいい女だ。まるで女神じゃねえか。

 手入れの行き届いた艶のある長い黒髪に、両の掌で包もうとしても確実に溢れ出るであろう大きな胸、そこから流れるように細い腰部へと続く肉体のライン、それでいて臀部はふくよかだ。

 あの前開きのスカートなど、ほんとにたまら――いや、けしからん。まったくもってけしからん。てやんでえ。


 あれか。その長えスカートは、どうぞ中に入って悪戯をしてもいいわよ~って誘っていやがるんだろう。わかってるねえ。ああ、わかってる。ミニスカートなんざに興奮するのぁ、そいつがガキの証よ。

 く、鼻血が出そうだぜ……。


「……ジンサマ。この方、アイリアさんの足ばかり見てますよ」

「む?」


 おおっといけねえ。おれとしたことが商売を忘れるところだったぜ。


「さあ旦那。選んでくれ。おすすめはバラ鞭だ。迫力のある派手な音ぁ出るが、痛みはほとんどねえ優れものよ」

「ふ~む」


 ジンサマと呼ばれた大男が眉をひそめ、カウンターに立った。

 武器屋のオヤジが甚五郎の影にすっぽり呑み込まれる。


「オヤジ殿に問いたい。あなたの店では痛みがないものを武器として売っているのか? なんのためだ?」


 おおう、すげえ威圧感だ。

 密集したはち切れんばかりの筋肉が体熱を放ち、髪型の珍妙さも相まって思わず一歩退いてしまいそうになる――が、オヤジはぐっとこらえた。

 四十年、武器屋を続けてきた矜持だ。


「おいおい、あんた。そんな年端もいかねえ嬢ちゃんの前でおれにそいつを言わせる気かい? 人が悪いぜ? ヘッ!」

「む? よくはわからんが、言いづらければ別にかまわんぞ。少々興味がわいただけだ。すまんな、忘れてくれ」


 少々だとぉ? てめえのつるっつるの頭ン中ぁよぉ、そっちのことでいっぱいいっぱいだろうがッ! おれにゃあ、お見通しよ!


「あ、刺突剣もあるんですね」

「おうよ。ゆっくり見てってくんな、騎士の嬢ちゃん」


 よく見りゃ、銀色の髪をした小娘も相当な上玉だ。性的な魅力こそ黒髪に劣ってはいるものの、こりゃどこぞの姫さんと言われても信じてしまいそうになる、お上品で清浄な空気をまとっていやがるように見える。

 あと数年も経ちゃあ、さぞや清楚でいい女になるだろう。

 たまんねえなオイ!


 銀髪の小娘が鞭とは反対側の壁の棚に並べられた刺突剣へと歩み寄る。外衣(マント)が揺れて、白銀の胸当てがちらりと目に入った。


 な――ッ!?

 胸当ての下には何もつけていないだと!? ヘソが丸出しじゃねえかよ!


 武器屋のオヤジが甚五郎を睨み上げた。

 こンの野郎、こんな年端もいかねえ小娘にまで。


「――!」


 まさか! この天使のような女の子を若え頃から調教して、てめえ好みの女に仕上げようってぇ魂胆か!

 こ、こいつ……性獣じゃねえか……。


「……つくづく見下げ果てた野郎よ……」

「む?」

「ヘッ、どうやらこの店にゃ、あんたに売るもんはねえようだ」


 甚五郎が事も無げに呟く。


「そうか。武器なぞいらん」

「そうだろうともそうだろうとも。うちの武器は一級品よォ。騎士だろうが戦士だろうが誰でも欲しが――あぁンッ!?」

「いや、私に武器は必要ないと言ったのだが」


 わけがわかんねえ。何しに来たの?


「だったらとっとと(けえ)ってくんな。冷やかしはお断りだって最初に言ったはずだぜ。そちらさんを見てると、ムラム――あ、いや、ムカムカしてくらァ」


 大男と天使と女神が困ったように顔を見合わせてから、女神だけがカウンターの前に立った。

 年甲斐もなく、胸が高鳴る。

 口ではなんだかんだ言っても嬉しいものだ。


「な、なんでえ?」


 告白か? 女房に先立たれて二十年。ガキにも逃げられたおれに、ついに春が来るのか。いいぜ。助けを求められりゃあ、おれはそこの大男とも勇敢に戦って、あんたを解放してやる。

 へヘッ、安心しな。その後もちゃんと生涯面倒見てやるってもんよォ。


 女が黒髪を揺らして微かな笑顔を浮かべ、唇に指先をあてた。


「客はジンさんじゃないの。あたしよ。陳列品はもういいわ。噂通り、どれも斬れ味の鋭そうな良い武器ばかりだったけれど、あれじゃだめなの。魔法のかかった短剣や短刀をありったけここに広げてくださらない?」

「は……あ?」


 女の細腕を見つめて、オヤジが眉をひそめた。

 どう見ても武器を振るう女の手ではない。騎士や戦士の中にも女はたまに混ざっているが、どいつもこいつも男顔負けの筋張った肩と腕をしている。

 むろん、中には肉体のまだ出来上がっていない年齢の騎士もいるけれど。そこの騎士姿をした銀髪のお嬢のように。


 オヤジの目つきが一瞬で変化した。

 助平丸出しだった先ほどから一転して、熟練の武器屋の表情へと。


「ヘッ! ナマ言ってんじゃねえよ。魔法剣はあんたらみてえな変態集団に買える値段じゃねえ。それに、もし金があったとしても悪いこたぁ言わねえ、やめときな。素人が扱いを間違えりゃあ、ケガをするだけじゃ済まねえぜ」

「ああ、そうそう。忘れていたわ」


 女が胸元から服の中に手を入れて、大きな胸の間からするっと一枚の紙を取り出した。


「はい、これ。紹介状。息子さんからよ」

「な、なぬ――ッ!?」


 オヤジが震える手で紙を受け取って、書き殴られた文字に視線を落とす。


「あ? へ? お……ぇ?」


 紙と女――アイリア・メイゼスを数回交互に見つめ、上擦った声を絞り出す。


「あ、あんた、ま、魔人狩り……?」

「そう呼ばれていた頃もあったわねえ」


 ごくり、とオヤジの喉が大きく動いた。


「し、信じられねえな。死んだって噂もあるぜ」

「アイリア・メイゼス。十七歳で冒険者ギルドのシャナウェル王国ロックシティ支部に登録。三年間で狩った魔人の数は四十八体、二十歳の頃に魔人の国ゲオルパレスで賞金首を狩ったあとに姿をくらます。未だに報奨金を受け取っていないことから死亡したと言われているけど、生きていれば今年で二十三歳。生年月日は――」

「もういい、もういい。おれも四十年を武器屋としてやってきた男よ。一目見りゃあ、そいつがどういうやつかくれえは、すぐにわからぁ」


 甚五郎がなんとも言えない味のある表情をして、それを見たシャーリーが少し笑ったが、ふたりは口を挟まなかった。


「そうか。あんた、生きてたのか。だったらちょうどいいものがある。魔法の短剣なんかよりも、あんたにぴったりのやつだ」

「なんだかよくわかんないけど、属性は問わないわ。地火風水、なんでもいいわよ」


 そう言ってオヤジは一度店の奥へと入っていくと、二振りの短刀を布の上にのせてすぐに戻ってきた。

 アイリアの口がぽかんと開く。


「あら、懐かしい」

「やはりホンモノか。どうりで売り払っても、すぐに返品されてきやがるわけだ」


 アイリアが手を伸ばすと、オヤジがあわてて二振りの短刀を布でくるんだ。アイリアと視線を合わせてため息をついた後、ゆっくりと布を開く。


 あらためて、アイリアが片方の短刀を手に取った。

 左手で鞘をつかみ、右手で引き抜く。金属のこすれる音がした後、鈍く輝くどす黒い刀身が、その反った姿を現した。


「持っていきな。あんたの妖刀だ。冗談じゃねえぜ、まったく。薄気味悪ィ……」

「……久しぶり……」


 アイリアが無言でじっと刃を見つめてしばらく。突然半眼となって舌を出し、恍惚の表情でべろりと刀身を舐め上げた。

 丁寧に、まるで滴る血を優しくすくい取るように。


「……あぁ……」


 ぬめった舌が刀身にまとわりつき、アイリアが邪悪な笑みをオヤジへと向けた。



もはや清々しいまでのむっつり助平である。

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