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召喚ハゲ無双! ~剣と魔法と筋肉美~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ2巻発売中』
第三章 国境の長いトンネルを抜けてもやはりハゲであった。

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44/90

ハゲ、発毛への道しるべ

前回までのあらすじ!


ハゲがサメに水中戦を挑んだぞ!

海水のなかで残り少ない髪がクラゲのように揺らめいた!

 己の身長をも遙かに凌駕するサメの死骸を右腕一本で引きずって砂浜へと上がると、いつの間にか砂浜には人々がぽつぽつと集まっていた。


「うぬ?」


 誰もがみな、甚五郎の引きずる巨大なサメに視線を向け、顔を引きつらせている。

 甚五郎が歩を進めると、自然と人々は彼に場を譲るように下がった。


「そぉい!」


 サメを砂浜へと投げ出す。ぶわりとその巨躯が浮かび上がり、港湾都市ウィルテラの人々が一斉に距離を取った。


「うおおおっ!?」

「どわっ!」


 ずん、と重い音が響いて、血まみれの巨大サメの死骸が転がる。


「お、おお……すげぇ……。マジかよ……」


 頭に手ぬぐいを巻いた若い男がぽつりと漏らした。

 甚五郎が周囲を見回し、白い歯を剥いてにっこりと笑顔を浮かべる。


「私に何か用かね? この魚を食べたいのであらば、焼いた後にお分けし――」

「あ、あの、ジンサマ」


 シャーリーが甚五郎のボクサータイプのおパンティーの裾を引いて、眼球だけを動かしていったんその中を軽く覗き込んでから、ほっこりした表情であらためて視線を上げてきた。


「む?」

「……それ、手配魔獣だったそうです」

「ふむ? 何を言っているのだ、シャーリー。これは我らの晩ご飯だぞ」


 アイリアが甚五郎のネクタイをちょいちょいと引いて呟く。


「だめだめ。この魚は丸焼きにしたくらいじゃ肉が臭くて食べられないから。あとこいつ、アホほど人間食べてるらしいから間接的な共食いになるわよ。おすすめできないわ」


 甚五郎が口もとを押さえて真剣な表情で尋ねた。


「な――っ!? か、髪ごとか……?」

「そう。髪ごとってか、丸呑みだそうよ。お腹かっ捌いたら、髪の毛が出てくるかもね」


 そこは重要な部分じゃないから、とでも言いたげな表情でアイリアが呟く。

 甚五郎が残念そうに長い息を吐いた。


「むぅ。今宵は海の恵みに感謝を捧げようと思ったが、こやつも地上の恵みをアホほど喰らっておったとはな。私の長き友(頭髪)も、もう少しで奪われるところであった。まったく、とんでもないやつだ、このハゲ魚め」


 沈黙が訪れ、波の音だけが砂浜に響く。

 やがて甚五郎は気を取り直して表情を引き締め、あらためて尋ねた。


「で、これは何の騒ぎだ?」


 シャーリーが再び同じ言葉を呟く。


「や、だからこれ、手配魔獣でして……。わたくしたちが手配魔獣の出没する砂浜で遊びだしたから、港湾都市の方々が心配して注意しに来てくださったのですが、そのときにはもうジンサマがあのお魚とイチャイチャなさっていたので……」


 アイリアが海風に髪をなびかせ、柔らかな表情で口を開けた。


「地元の漁業連が大あわてで集まって、船を出そうとしていたのよ。何せ相手は海の怪物。いつ出てくるかもしれないやつだから。ジンさんが戦っているうちは砂浜からあまり距離のないところにいるでしょうし、援護しようって話になっていたのよ」

「ところが港に通達して船を用意している最中に、ジンサマがこれを引きずって上がって来られたから、みなさま唖然としちゃいまして……」

「おお、そうであったか」


 甚五郎が周囲に集った人々に、海水で輝きを増した頭部をすぅっと下げた。全員の視線がその頭部に注がれるが、幸いにして揶揄するものはいなかった。


「かたじけない。感謝する」


 手ぬぐい男が辿々しく言葉を発する。


「あ、ああ。いや、あんた。あの魚と水中戦を繰り広げたのに、ほんとになんともないのか……?」

「うぬ?」


 甚五郎が右腕の切り傷を見せて、ニカっと笑う。血は未だ止まっておらず、たらりと流れ続けている。


「これこの通り、小傷に過ぎん。問題ないぞ。ふははははっ!」

「も、問題ないって、塞がってねえじゃねえかよ。見せてみろ。漁業連には医療術師もいるから治療くらいはさせられる。やつを退治してくれた礼だ」


 甚五郎が己の腕の傷を覗き込み、小さく首を傾げた。本来であれば縫わねばならない規模の傷ではあるが、この程度であれば。


「フ、この程度の傷など――フンッ!!」


 甚五郎が気合いの声とともに筋肉を引き締める。

 めきり、と血管を浮き上がらせて盛り上がった筋肉が、傷口を圧迫して一瞬にして筋肉の隙間へと埋め込んでしまった。


「――ッ!?」


 その光景に鳥肌を立てたアイリアは、額から一筋の汗を垂らす。

 これはまた気持ちの悪いものを見てしまった、と。


「……あん、ステキです、ジンサマ……」

「えっ!?」


 頬を赤く染め、ぼそりと呟いた銀髪の小娘に目を見開き、アイリアが叫ぶ。


「引くんだけど!? ねえっ、あたしがおかしいの!?」


 手ぬぐい男が頬を引きつらせながら呟いた。


「あ、あんた、魔人族じゃないよな?」

「ふはは、何を言っている! これこの見た目どおり人間だぞ。ふはははははっ!」


 つるっぱげの頭を指さして、甚五郎が豪快に笑い飛ばす。


「……や、見た目からしてもう微妙なんだが……角はねえな。ま、まあいいや。とにかくこいつは手配魔獣だ。漁師や商人はもちろん、退治に来た傭兵団だって船ごと沈められて散々だったからな。ウィルテラ評議会に申請すりゃ、金貨三千枚は堅いぜ」


 甚五郎が心底面倒臭そうに顔を歪めた。


「そのようなものは重いからいらん」

「……は?」


 どよどよと、ウィルテラの民の間でざわめきが広がった。

 シャーリーとアイリアだけは予想していたらしく、肩をすくめて笑い合っただけだったけれど。

 甚五郎がよい笑顔を浮かべ、海風に揺れるネクタイを押さえるように、発達した大胸筋で両腕を組んだ。


「そうだな。ウィルテラの国防にでも遣うがいいと評議会に伝えろ。シャナウェルは軍備の増強を図っているゆえ、抑止力の強化をおすすめしよう」


 手ぬぐい男が困惑した様子で尋ねる。


「な……っ!? あ、あんた、いったい何者だ?」

「フ、私の名は羽毛田甚五郎。旅のものだ。――それでいいな、シャーリー、アイリア?」

「はい。わたくしはジンサマに従います」

「ジンさんのお好きにどうぞ。あたしたち、必要な分は持ってるから」


 ふたりの女性のこたえに甚五郎は満足げにうなずいて、手ぬぐい男へと向き直る。

 その視線が、彼の頭部を隠している手ぬぐいへと向けられた。


「というわけだ。タオルくん」

「へ? いや、おれの名前はテヌグイだ。タオルなんておかしな名前じゃねえよ、ハゲタさん」

「ぬぐっ!? かはっ!」


 甚五郎が跳ね回る心臓付近を押さえて片膝をつく。頭部全体から汗を染み出させ、涙を滲ませながら弱々しい声を絞り出した。


「わ、私のファーストネームは甚五郎だ……」

「お、おお。なんか……すまん……」


 テヌグイの視線は、片膝をついた甚五郎の頭部へと的確に注がれていた。


「今私たちは、とある不治の病を治すため、エリクサーなる毛生え薬を探して旅をしているのだ。何か情報があれば、どうかお教え願いたい」

「や、それ、毛生え薬じゃねえし……。ま、いいや」


 テヌグイが漁業連を振り返って、大声で尋ねる。


「おい、誰かエリクサーの情報持ってるやつはいねえか?」


 しばらく待っても、名乗り出るものはいない。やがてテヌグイがため息混じりに呟いた。


「すまねえな、ジンゴロウさん。やっぱ魔人の王が持ってると言われる一本以外は、新しい情報はなさそうだぜ」


 甚五郎の瞳が、かっと大きく見開かれた。

 鎧の筋肉が音を立ててさらに膨張し、急激に体温が上昇したためか、その口から白き湯気が溢れ出る。


「なん……だと……っ?」

「ひ、ひぇ……。って、あんた知らなかったのか!?」


 甚五郎が立ち上がり、テヌグイの両肩を大きな手でがっしりとつかんだ。その表情たるや、まるで神仏に出逢った信徒のごとく。


「詳しく!」

「お、おうふ……。そ、そうか。さっきシャナウェルの状況を教えてくれたってことは、シャナウェル方面から来たんだな。あそこは魔人族との交友が一切ねえからなあ。ここらじゃ常識だぜ」


 シャーリーもアイリアも一切口を挟まず、ただ黙ってテヌグイの次の言葉を待った。


「詳しくは知らねえが、魔人の王はそいつで一度甦っているんだとさ。けど、奪うのはあきらめたほうがいい。やつは人間にどうこうできる代物じゃねえ。なにせ、古竜(エンシェントドラゴン)すら素手で屈服させる怪力の持ち主だ。おかしなことは考えないほうがいい」

「フ、問題ない。ただほんの少し、頭皮――あ、いやややや、掌を湿らせる程度、分けてもらうだけだからな。何も強奪しようというわけではない。あくまでも平和的に頼み込んでみるつもりだ」


 テヌグイがあきれたように表情を歪める。


「あのな。ウィルテラ統治領にいるからわかんねえかもしんねえけど、魔人族と人間族は一応対立してるんだからな? 魔人の統治領域に入ったら、問答無用で駆逐されてもおかしくねえぞ。実際、シャナウェルでは魔人族に対してそういう扱いをしてるだろ」


 シャーリーがわずかにうつむくと、その肩にアイリアが軽く手をのせた。


「テヌグイって言ったっけ。ジンさんに説得は時間の無駄よ。ん~、そうね。なんだったら、ついでに魔人の王と和睦交渉の足がかりを作ってきてあげるわ。幸い、ここにはシャルロット・シャナウェル王女もいることだしね」


 どよめきが広がる。ウィルテラの民たちの訝しげな視線が、シャーリーに向けられた。なにせ、敵性国家の王女だ。ろくにお供もつけず、このようなところにいるわけがない。

 だが、この男。このハゲ。

 そのあまりに異様な存在感に、民たちは迷うのだ。冗談かどうかの判断ができない。


「ア、アイリアさん! わ、わたくしにそのような権限は――」


 シャーリーの言葉を遮って、甚五郎がにんまりと笑った。


「おお! それはいい。是非ともそうしようではないか、シャーリー。今のシャナウェルのあり方は魔人族以上に気に入らん。……ああ、気に入らんな」


 アイリアがシャーリーの肩に自らの肩を軽くぶつけた。


「キティ、ジンさんに従うんでしょ」

「で、でも、できることとできないことが――」


 あわてて首を振ったシャーリーに、甚五郎が優しく囁きかける。


「シャーリー。できるできないではない。やるのだ、我々が。人と魔人を敵にしても、この大陸に平和をもたらす。この素晴らしき多国籍港湾都市ウィルテラのようにだ」


 甚五郎が片目を閉じて微笑み、大言壮語を吐く。


「――そうなった世界を、見てみたくはないか?」


 しばらくぽかんと口を開けて甚五郎を見上げていたシャーリーだったが、あきらめたようにため息をついたあと、微笑みながら静かにうなずいた。


「もう! 仕方ないですね、ジンサマは! ……やれるだけやってみます」

「うむ! というわけだ。情報提供に感謝するぞ、テヌグイ殿」

「は……あ……。あんた、ほんとに何者なんだ……? シャナウェルの近衛騎士か?」


 甚五郎がにんまりと笑った。


「ふはは、言ったであろう。私は遙か遠くの世界より、この地に迷いこんだだけの、ただの旅人だ。さて、そろそろ旅に戻るとするか。……む、おおっと。いつまでもおパンティーのままでは逮捕されてしまうな。ああ!」


 己のおパンティーに手をあてて、甚五郎がテヌグイに視線を向けた。


「テヌグイ殿。すまんが先ほどの討伐報奨金とやらの代わりに、私に合うおパンティーを一枚手に入れてきてはくれぬだろうか」


 波打ち際に爽やかなる風が吹く。

 テヌグイは思った。

 このハゲ、本当にやりかねん……と。


半裸のサービスシーンはここまでだぞv

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