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召喚ハゲ無双! ~剣と魔法と筋肉美~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ2巻発売中』
第三章 国境の長いトンネルを抜けてもやはりハゲであった。

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42/90

ハゲ、突然の別離……

前回までのあらすじ!


小娘と元娼婦が温泉でハゲのことをぼろくそになじったぞ!

 温泉から上がり、借りた部屋に戻ると、そこでは筋骨隆々とした逞しき肉体のハゲが、力なく四つん這いとなって肩を震わせながら大粒の涙をこぼしていた。

 部屋に用意されているランプすらつけず、暗闇のなかで大男は噎び泣く。


「すまない……っ、すまない……っ」


 何かに謝りながら、ひたすら――。

 シャーリーはアイリアと一度視線を見合わせてから、甚五郎におずおずと声をかけた。


「ジンサマ……? どうかされたのですか……?」

「く……っ」


 甚五郎はその声にびくりと肩を震わすと、大急ぎで涙を拭って振り返る。そうして照れ臭そうに頬を指先で掻いて、弱々しい声で呟いた。


「……フ、みっともないところを見せてしまったな」

「誰に謝っていたの?」


 アイリアの問いにこたえるため、甚五郎は木の床に横たわっていた、小さな塊をそっと優しく両手ですくい上げる。


 それはもう動かなくなった、黒々とした毛束だった――。


 シャーリーとアイリアの瞳から光が消滅し、生ゴミかそれ以下の物体でも見るかのような視線が注がれる。

 だが甚五郎はそのような彼女らの心情に一向に気づく様子もなく、再びあふれ出した涙を閉じ込めるかのように堅く瞳を閉ざし、毛束を握りしめて悲しげに叫んだ。


「私は愚か者だ! あまりの付け心地にうっかり自毛と思い込み、武器商の少年からもらった付け髪を温泉につけてしまったのだ。……私は……ッ、なんという(むご)いことをしてしまったのか……ッ!」


 粘着力を失った付け髭ならぬ付け髪は、もはや甚五郎の後頭部に戻ることはない。


「旅立って……ッ、しまった……ッ! 私が殺してしまったのだ……ッ! ふぐぅっ」


 アイリアがため息をついて甚五郎の横を通り過ぎる。


「キティ、毛布を出すから手伝って」

「あ、は~い」

「どうして私はこれほどまでにうかつなのだ……ッ」


 甚五郎が拳で床を叩く。どん、と重い音がして、丸太作りの部屋がわずかに揺れた。


「ちょっと! ジンさんはとんでもなく馬鹿力なんだから、ちゃんと手加減しなきゃ床が抜けるでしょ! ――あ、キティ、そっち持って引っ張って」

「わたくし、もっとジンサマの近くに並べて欲しいです」

「あたしも同じ部屋にいるんですけど? 何か始めるつもり? あたしも臨戦態勢を維持しておいたほうがいい?」

「私はッ、愚か者だッ!」

「え? え? 臨戦態勢ってどうやるんですか?」

「教えな~い。さっき意地悪言われたしー。べー!」

「アイリアさんずるい!」


 小娘が元娼婦を追い回す横で、ハゲが再び泣き崩れる。

 こうして夜は更けていった。


  彡 ⌒ ミ

⊂(#・ω・)  

 /   ノ∪

 し -J |l| |

         人ペシッ!!

      彡彡ミ


 翌朝、甚五郎は朝食を終えるなり、海岸際にある小さな丘に毛束を埋葬した。そうして震える肩で、丸く、すべすべした石に両手を合わせる。

 シャーリーが笑いをこらえながら、そっと大きな肩に手をかけた。


「ン、ぷくっ、んう。……ジンサマ、ぷふぅ、擬毛に手を出すのは、この子で最後にしましょう。これ以上の悲劇は、わたくしもう耐えられません……ぷふッ!」


 腹筋が、とは付け加えない。この小娘はそこまで愚かではない。


「そう……だな……。……このような悲劇は……もう……」


 海辺の風に長い黒髪を流し、片手でそれを押さえたアイリアが呟く。


「この子も幸せだったと思うわ。ジンさんのような人と巡り会えて、その後頭部に寄生までさせてもらえて」

「そうだろうか。私は――」


 アイリアの指が、険しい表情をした甚五郎の唇にあてられる。


「ここに埋葬すれば、この子を栄養にして春には植物が芽吹き、やがて綺麗な花を咲かせる。その花を見て人々は感動をおぼえ、やがて世界は優しさに満ちてゆくの。泣き言を言って立ち止まってるほうがみっともないわ。――ジンさんはどっち? 立ち止まる? 歩き続ける?」


 差し出されたアイリアの手を握り、甚五郎がゆっくりと立ち上がった。

 甚五郎はその手を引き寄せ、アイリアの身体を包み込むように抱きしめる。


「決まっている。すまない、アイリア。ありがとう」


 甚五郎に抱きしめられたアイリアが、甚五郎の肩越しに優越感に満ちた視線を立ち尽くすシャーリーへと投げかける。ニヤリ、と禍々しい笑みを浮かべながら。


 シャーリーがガギィと奥歯を噛みしめて、額に縦皺を刻んだ。

 甚五郎がすぅっとアイリアから身体を離し、今度はシャーリーのほうを振り返って小さな身体をぎゅっと抱きしめる。


「ずいぶんと心配をかけたな、シャーリー。もう大丈夫だ」


 シャーリーが頬を真っ赤に染めて、甚五郎の横から顔だけを出して、アイリアを挑発するように舌を出した。

 アイリアの右眉が、ぴくりと跳ね上がる。


「ふふふ……ッ!」

「ほほほ……ッ!」


 仔猫のオーラと女豹のオーラがぶつかり合い、凄まじいせめぎ合いを展開するなか、甚五郎は堂々と中央に立ち、朗々とした声で告げる。


「よし、悲しむのは終わりだ。クヨクヨしていたら、毛束も安心して逝けぬだろう」

「そうですね。それでは武器屋さんに向かいましょうか。……あと、海と……」

「業物があればいいんだけどね~」


 甚五郎を先頭にして丘を下り、シャーリーとアイリアが肩を並べて歩く。

 海岸沿いを南門(サウスゲート)へと向かう途中、屋台の寄って昼食を買うと、その足で砂浜へと向かった。


 晴れ渡る空の下、砂浜に腰を下ろして巨大な串焼きの魚にかぶりつく。

 パリっと焼けた皮を歯で食い破った直後、炭と煙の香りが鼻から抜け、まだ熱い脂がじゅわりと口内に広がった。


「むむっ!?」


 口内に収まり切らぬ脂が飛び出そうになって、甚五郎はあわてて口を押さえる。味つけは塩のみだが、皮は香ばしく身はとろけるようで抜群にうまい。

 甚五郎が一口嚥下して、にんまりと頬を緩めた。


「やはり鯖だったか。フ、もはや懐かしき味だ」


 丸々としていて肉付きがよく、食べ応えも抜群だ。

 シャーリーが上品に小さく一口だけ囓って、口もとを手で隠しながら呟いた。シャーリーが噛み切った部分からは、串を伝って脂が垂れている。


「サバ? ニホンではそう呼ばれていたのですか?」

「ここでは違うのか?」

「これはですね、シャバという大衆魚です。いっぱい獲れて安くておいしいから、結構人気なんですよ。わたくしも大好きですっ」


 そう言うと、シャーリーは自らのシャバの身を手でほぐして、ナハハハハァ~ンという小麦を練って焼いたナンのような食べ物でくるみ、甚五郎へと差し出した。


「はい、どうぞ、ジンサマ。こうすると脂が落ちなくて食べやすいんですよ」

「うむ。いただこう。だが、シャーリーの分はどうするのだ?」

「では、わたくしは代わりにジンサマのシャバをいただきますね」


 そそくさと串を取り替えようとするシャーリーに、アイリアが自らのシャバを食べながら、冷えた視線を向けた。


「……間接チ~ッスがしたいならそう言えばいいのに」

「ほあっ!? あわわわ……ちょちょっと、アアアイリアさんったら変な言いがかりはやめやめててくださいよっ」


 あわてて甚五郎の串を取り上げて、シャーリーがシャバの身へと貪りつく。

 一心不乱に食べ続けてシャバが骨と頭部のみとなると、シャーリーはふいに立ち上がった。


「さて、と」


 その瞳は、まるで幼女のようにきらきらと輝いている。


「わたくし、手が生臭くなってしまったのでちょっと海で洗ってきますねっ。おふたりはゆっくり食べていてくださいっ」


 言うや否や足甲と外衣をその場で脱ぎ捨て、砂浜を走り出す。

 それを見送って、アイリアが苦笑混じりに呟いた。


「……よ~っぽど楽しみにしてたのね。海に足を浸けて遊びたいなら、そう言えばいいのに。子供のくせに、ほんと素直じゃないんだから」

「そうでもない。あれだけわかりやすい思春期の娘もそうはいるまいよ」

「あははっ、そうかも」


 甚五郎が破顔して、シャバサンドを口に運ぶ。


「む、確かに食べやすいな」

「いいな。あたしもそれしよーっと」


 シャーリーが海辺で波と戯れているのを眺めながら、じっくりと味わう。噛み口から脂とともに流れ出ようとするうま味は、すべてナハハハハァ~ンに吸われて留まる。個別に食べるよりは腹も膨れて一石二鳥だ。

 欲を言えば米が欲しいところだが。


「ふふ、キティったら楽しそうね」

「アイリアは行かんのか?」


 少し首を傾けて、アイリアが微笑む。


「……水は苦手なの。砂漠育ちで泳げないから。ジンさん、行ってあげたら? きっと喜ぶわよ」

「そうか。そうだな」


 甚五郎がシャバサンドを口にねじ込んで立ち上がり、尻についた砂を払った。しかしその手が、突然ぴたりと停止する。


「む……あれは……?」

「ジンさん?」

「いかん!」


 言うや否や甚五郎はスーツのジャケットを脱ぎ捨てた。

 唖然とするアイリアの前でベルトを外してズボンに指をかけ、一気にずり下げる。次にずらしすぎたボクサータイプのおパンティーのみを引き上げ、革靴と靴下を同時に脱ぎ捨てた。


「ちょっと、どうしたのよ?」


 そうしてハゲは陽光を頭皮で煌びやかに反射させながら、砂浜を蹴って駆け出すのだった。


……一瞬、お尻が見えました(照)

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