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召喚ハゲ無双! ~剣と魔法と筋肉美~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ2巻発売中』
第二章 髪の少ない生涯を送って来ました。

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32/90

ハゲ、力尽きる……

前回までのあらすじ!


王国騎士団を相手に力を振り絞るハゲ!

だが、毛根どころかハゲ本体までもが逝きそうになるのだった!

 街道、森方面の遙か遠く。走る音が近づいてくる。

 意識を繋ぐため、咆吼を上げた甚五郎の目に、金色の体毛を持つ巨大な獣が映った。


 遙か前方、埋め尽くされていた王国騎士らの最後尾から悲鳴が上がった。

 巨大な金狼は跳躍する。吹っ飛ばされ、宙を舞った王国騎士よりも高く。

 頭上を跳び越えて、騎士らを踏みつぶすように着地し、距離を取ろうと逃げ惑う騎士にはかまわず、金狼リキドウザン先生が主のもとへと走り出す。


 だが、遠い。両者の間には、百を超える数の王国騎士がいる。

 黒騎士が叫んだ。


「後列のみ反転! 包囲を敷いて魔獣を迎え討て!」


 王国騎士らはすぐに隊列を整え、対甚五郎側と対金狼側に戦場を分けた。

 金色の背部へと突き出されたロングスピアを、金狼の背に潜んでいた褐色肌の女が短剣で弾き上げる。


「ジンさぁぁ~~~~~~~~~んッ!」


 金狼へと向けて弓隊が一斉掃射を開始した。

 金狼はステップでそれを大きく躱して距離を取る。甚五郎との距離が広く開いた。


 レイピアを振りながら、シャーリーは歯がみする。

 届かない。

 あそこまで行ければ、リキドウザン先生ならばこの人を咥えて逃げ出すことだってできるというのに。


 もはや甚五郎からは咆吼すら消えていた。

 ただ激しく肩で息をしながら、緩慢な動作で王国騎士を投げ飛ばしているだけだ。傷口も先ほどまでとは比べようもないほどに増えている。

 意識を途絶えさせてはいけない。声、声をかけなければ。


「ジンサマ、もう少しです! アイリアさんが助けに来てくれましたよ!」


 シャーリーは甚五郎に放たれた槍をレイピアでたたき落とし、緑の風を巻き付けた足で王国騎士の腹を蹴った。

 甚五郎ほどの威力はなくとも、風の力で大きく吹っ飛ばして時間を稼ぐことはできる。ダメージは見込めないけれど。


「……ああ……」


 返事はそれだけだった。

 進むことができなくなっている。甚五郎の周囲には、すでに血だまりと呼べるほどの赤い水たまりができていた。

 ずるりと血だまりのなかを引きずって、甚五郎が一歩だけ前へと進む。すぐさま迫り来た槍の穂先を手でつかみ、強引に前へと押し出す。

 前へ、ただ前へ。


 だめだ、こんな速度では。

 シャーリーが背後からの剣を弾き、掌に巻き付けた緑の風で王国騎士の胸部を押す。王国騎士はふわりと浮かび上がると背中から街道に落ち、呻き声を上げた。


 傍目にもわかる。徐々にではあるが、甚五郎から力が抜けていっている。

 その瞬間、戦場に下品な声がこだました。


「ぎゃーーーーっはっはっは! ざまーねーなコラァ! ジンゴロコラァ! けどなあ、てめえの髪を引き千切りィ、ぶっ殺すのはこの俺様って相場が決まってんだコラァ!」


 街道から一直線に走り込んできた緑の魔人が、金狼リキドウザン先生に目を奪われていた王国騎士らの一団の横をすり抜け、甚五郎たちを包囲していた騎士へと殴り込む。


「オラァ! 魔人様のお通りだァ! ヒャハー!」


 突然の闖入者、それも種族単位で敵対している魔人の姿に、王国騎士らが騒然となった。

 ある者は逃げだし、ある者は甚五郎たちそっちのけで、魔人に刃を向ける。

 だが、魔人は角を失った脳天だけを両腕の鱗でカバーしながら、残りの斬撃など強固な皮膚任せで防ぎ、次々と王国騎士らを殴り飛ばしてゆく。


「ヒアァァァ! 脆い脆い脆いぞコラァ! 人間コラァ! 俺様をぶっ殺したきゃよォ、魔法剣か魔法騎士かジンゴロでも持ってくるんだなコラァ!」


 表情豊かに周囲の騎士らを挑発し、鎧の上から王国騎士をガンガン殴りつけて魔人がけたたましく嗤った。


「ヒャッハー! このままシャナウェルの街に乱入してやろうかコラァ!?」


 刃を通さぬ皮膚に戦慄し、逃亡する騎士の数が増えてゆく。

 魔人の一撃は肉を粉砕し、骨を砕くのだ。金属の鎧に守られていたとしてもいずれは破壊され、そして殺される。

 ヒトの身で魔人と戦うには、本来であればそれなりの準備が必要なのだ。


「オラァ! 死ねコラ人間コラァ!」


 王国騎士がまるで人形のように、次々と宙を舞って地面に叩き付けられてゆく。

 甚五郎とシャーリーがようやく魔人の戦う場所に辿り着いたとき、魔人は微かに照れ臭そうな笑みを浮かべて、頬の小傷から出た黒い血液を親指で弾いた。


「へ、勘違いすんなよ、このツルッパゲェ。俺様は、あのかわいい凶暴なやつから助けてもらった借りを返しただけだ。それによォ、てめえはこの俺様のライバルよォ。こんなくっだらねえところでよォ、勝手にくたばられちゃあ困るってもんよォ」


 シャーリーが目を見開き、泣きそうな表情で口を開く。


「あ、ありが――へ?」


 だが、そのシャーリーを追い越して跳躍した甚五郎の拳が、魔人の顔面中央へと突き刺さっていた。


「四の五のやかましいわッ!」

「ンがぺっ!?」


 まるで岩をも粉砕するかのような重く激しい音が鳴り響き、強固な皮膚で守られているはずの顔面を潰された魔人が後頭部を街道にめり込ませた。

 街道が激しく震動し、大地には四方八方に亀裂が走る。


「黙って聞いていれば貴様ァ……、誰の頭が死した氷の大地のごとくトゥルントゥルンに滑っているだと? この薄汚い手を持つエロティクスハゲ魔人が。何度も言わせるんじゃあない。私は薄毛だと言ったはずだぞ!」


 甚五郎が目を見開き、憤怒の表情で吐き捨てる。

 ご丁寧にも、手にした金貨袋で釘を打つように魔人の下半身を打ち、さらに街道へとめり込ませながら。


「そりゃあ! そりゃあ! ふはははっ、そりゃあ!」


 打ち込まれるたびに、魔人の尻が、びくんびくんと震えている。

 なぜか理由もわからないのに、シャーリーは全身から汗がにじみ出るのを感じていた。

 ああ、もう、ほんとにこの人……。


「ジンさん!」


 戦場が静まった瞬間、甚五郎とシャーリーの真横に、リキドウザン先生が音もなくふわりと着地した。


「キティ!」

「アイリアさん!」


 アイリアがシャーリーへと手を伸ばす。

 その手をつかむと、シャーリーは金色の背に引き上げられた。

 リキドウザン先生は甚五郎の身体をぱくりと咥えると、ひょいひょいと矢を躱しながら街道を走り出す。


 街道に上半身を埋め込まれた魔人が大あわてで肉体を地面から抜いて、大声で叫んだ。


「おい、ちょっと待て! てめえら、俺様も連れてけッ! お~~~~~~いっ!?」

「あはっ! …………悪いわね。これ、三人乗りなのよ」


 アイリアが振り返り、冷笑を浮かべる。どうやら未だ、娼館街での出来事を根に持っていたようだ。

 緑の魔人を呑み込むように、王国騎士らの影が落ちた。


「ま、魔人だ。だ、だが、弱っている今なら、魔法剣がなくても……」

「殺せ! 早く、早く殺すんだ! とりかえしのつかないことになるぞ!」


 一斉に武器を持ち上げた王国騎士らに魔人が大あわてで逃げ出す。


「おわ~~~~ッ!!」


 魔人の悲鳴を置き去りにして、緑の風に包まれたリキドウザン先生は森の大樹を枝を蹴り、大きく跳躍したのだった。

 シャーリーが気づいたときには、すでに甚五郎の瞼は閉ざされていた。



   彡⌒ ミ∩      _ ∩ ,∵; .

  (     )/    ⊂/   ノ ).'' ;

 ⊂    ノ    /   /ノV

  (   ノ    し' ̄∪

    (ノ

 

  ━━       ━━



 目を覚ます。

 瞼を揺らし、持ち上げることがひどく億劫であることに気づき、甚五郎は目を開けることをあきらめた。

 ここはどこだ? 私たちは捕まったのか?

 途中から記憶がない。最後の記憶は、シャーリーの助けを求める叫びだ。

 ああ、身体中が痛む。

 周囲が騒がしい。シャーリーやアイリアの声が聞こえているのに、何を言っているのか聞き取れない。

 ああ……すまない。……ひどく眠いのだ……。

 視線は闇を彷徨い、男は再びまどろみのなかへと落ちてゆく……。


  

          ,~、

  n 彡 ⌒ ミ  ノ_ζ

 (ヨ(`・ω・´) 彡  K.O!

   Y. . つ

  |  (

.   レω、」



 意識の霧が晴れてゆく。今度は目が開いた。

 煤けた天井だ。壁もひび割れていて、風が吹くたびに窓枠が揺れている。このような建物は、あの煌びやかな王都には存在していないだろう。

 視線をゆっくりと回す。


 ふと、女の後ろ姿が目に入った。

 鼻唄を歌いながら、タライのようなもので布を絞っている。

 その後ろ姿は、緩やかな、けれども激しい曲線を描いていて、艶のある長い黒髪がうなじで一本に縛られ、背中に垂れ下がっている。


「……アイ……リア……?」

「――!」


 女が勢いよく振り返った。


「ジンさん! よかった、目を覚ましたのね! 丸三日、眠っていたのよ!?」

「こ……こは……?」


 これはいったい誰の声だ。まるで吐息のように弱々しく掠れていて、喉を震わせることもできない。

 アイリアが駆け寄ってきて、端正に整った顔で甚五郎を覗き込む。


「娼館街よ。ロックシティまでは王国騎士の手が伸びてきたらしいけど、ここはそもそも街としての機能がないから、地図には記されていないのよ。王族がこんな風俗街を知っているわけないし、ここなら安全よ」

「……そう……か……。……シャー……リーは……?」

「ロックシティまで買い出しに行ってもらっているわ。そんな格好をした病人の世話が、バージンのお姫様にできるわけないでしょ?」


 ふん、と鼻息を荒くして、アイリアが両手を腰にあてる。

 己が素肌に包帯を巻かれているだけの姿であることに今さらながらに気づき、甚五郎は苦笑いを浮かべた。

 三日となると、情けない話、下の世話までさせていたということだ。


「……すま……な……い……」


 アイリアが甚五郎の頬を指先でつんと突いた。


「バカね。こっちは役得だったくらいよ。……あン、もちろん体力を奪うようなことはしていないから安心してね? 拭かせてはもらったけど」

「ふは……――ッ」


 思わず笑ってしまい、激痛に顔をしかめる。


「ぐ……く……っ」

「あははっ、ごめんね。ジンさん、水、飲める?」


 うなずくと、アイリアはすぐにグラスに水を注いで持ってきた。手で受け取ろうとして、激痛に顔をしかめる。

 アイリアは何も言わず、背中に手を入れて身体で押し上げるようにして上体を支え、起こしてくれた。そうして水のグラスを唇まで持ってくる。

 甚五郎が少し口を開けると、アイリアがゆっくりと流し込んでくれた。


 ほんの少し甘くて、ほんの少し塩味がする。それから少しだけ果物の風味がした。

 どうやら体内で吸収しやすいよう、砂糖や塩で調整してくれているようだ。


「……り……がとう……」


 だが、依然として身体がひどく重い。


「あら……ジンさん……?」


 それが最後に聞いた言葉だった。

 一瞬の後、甚五郎は再び眠りに落ちていた。

 女は男の身体を大切に胸で抱え、頭髪のおよそ八割を失った頭部をそっと枕に置くと、頬に軽いキスをした。


「おやすみなさい……」


意識がなくても魔人(笑)は犬神家状態にする!

それが羽毛田甚五郎だ!

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