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召喚ハゲ無双! ~剣と魔法と筋肉美~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ2巻発売中』
第二章 髪の少ない生涯を送って来ました。

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24/90

ハゲ、擬毛との出逢い

前回までのあらすじ!


噛めば噛むほどに臭いため池味の出汁が出るハゲ魔人を、金狼は散々囓ってもてあそぶのだった!

 堀で囲われたその都市は、砂で煤けた娼館街や砂漠の街ロックシティとは違い、白く、高く、広く。そして太陽の光を浴びて、荘厳華麗に輝いていた。


 王都シャナウェル。


 深き森の最北端、小高い丘から見る景観だけでも、その異質さがわかる。

 都市中央に位置する美しい王城は、森の丘からですら見上げる必要があるほどに高く、そして見るからに強固だ。


 シャーリーは森の木に手を置いて、王城に視線を向けたまま静かにため息をつく。


 ああ、嫌だな、と。


 その隣では、尻尾を振っている金狼の顔を両手でつかみ、甚五郎が視線と視線を合わせながら言い聞かせるように呟いていた。


「いいか? リキドウザン先生。貴様は王都に入ってくるんじゃあないぞ? そこらで狩りでもして、腹でも膨らませておけ。遅くとも数日以内には戻るから、良い子にしているのだぞ?」

 ――ウォゥ~……。


 金狼が尻尾の動きを止め、しょぼくれた声で鳴いた。


「ふはは、そう言うな。リキドウザン先生の図体はでかすぎるのだ。狼としてはあり得ん色をしているし、どこからどう見ても魔物にしか見えん」

「言い過ぎですよ、ジンサマ。ジンサマだって人間にしては大きいし、あり得ない髪型をなさっているじゃないですか」


 非難がましい視線を向けて呟くと、甚五郎が大地に片膝をついた。


「ごふッ!? かは……っ!? ふ、ふふふ……こ、この髪型は、いつか長き友(頭髪)らがバカンスから戻ったときに、迷うことなく道しるべとなるよう珍しいものに――」

「狼さんには帰巣本能がありますが、ジンサマの長き友(頭髪)にはないのです?」

「ふぐぅ……っ」


 アイリアがシャーリーの口を、背後から両手で押さえる。


「こらこら、やめなさいって。ジンさんにあたったって、リキドウザン先生を連れては王都に入れないんだからね」


 アイリアが琥珀色の視線を彷徨わせ、大きな胸で両腕を組んだ。


「それよりキティ、何をそんなに苛立ってるの?」

「わ、わたくしは別に苛立ってなんて……いません……」


 アイリアは何か含むような視線を向けたものの、それ以上は何も言わなかった。


「では、行きましょうか。ジンサマ、アイリアさん」

「うむ」


 甚五郎が立ち上がり、リキドウザン先生をその場に残して街道方面へと歩き出す。数歩進んで振り返り、お座りをしていた金狼へと釘を刺す。


「いいか、リキドウザン先生。決して他の人には姿を見せるんじゃあないぞ? 貴様の図体と見てくれでは合同討伐隊を組まれたとて不思議ではないからな」

 ――ウォゥ~……。


 リキドウザン先生が大きな肩を落とし、すごすごと森の奥へと引っ込んでゆく。


「あらま。ほんとに言葉がわかるのかしら」

「うむ。私のいた日本という国では、長く生きた動物は物の怪というものに進化するという伝承が各地にある。あやつが魔獣ではないというのであれば、そういった類のものかもしれんな」

「へえ~……」


 森から出て、人や馬車の行き交う街道を歩く。

 本来であればもっと早くに街道に出られたのだが、リキドウザン先生を衆目から隠すために、わざと王都近郊に至るまで森の中を進んできたのだ。

 アイリアが歩きながら両手を広げて、少し上体を揺らした。


「あはっ、歩きやすい」

「ここまで砂漠や森ばかり突き進んできたからな。ちゃんと踏み固められた砂の道はロックシティ以来か」


 シャーリーが微笑みながら口を開く。


「王都内はもっと固くて歩きやすいですよ。平らに切りそろえられた石畳ですから」

「へ~え!」


 アイリアが目を輝かせた。


「アイリアさんは王都シャナウェルは初めてなのですか?」

「うん、そうよ。あたしは冒険者ギルドのロックシティ支部所属だったからね。王都側の仕事は本部があるから、ほとんど用なしだったのよね」

「そ、ですか……」


 シャーリーが言葉に詰まったように呟く。銀色の長い髪に手を入れて、少し迷いながら苦笑いで顔を上げた。


「王都シャナウェルには、あまり過度な期待はしないほうが良いかもしれません。ロックシティほど住み良くはないですから」

「へ? どして?」


 シャーリーが下唇を噛んだ。


「……あ、いえ、なんとなくそんな気がしただけです」

「ふ~ん?」


 アイリアが一瞬だけ甚五郎に視線を向けたが、甚五郎は眉をひそめただけだった。

 どうやらまだ、アイリアは甚五郎に何も話していないらしい。リーン家のことを。


 シャーリーは外衣のフードを目深に被って足を速めた。そのままシャナウェルを囲う堀にかけられた跳ね橋を渡ってゆく。


「とりあえず冒険者ギルドに行きましょうっ。ジンサマの報奨金を受け取らないと、もう宿さえ取れませんからねっ」

「うむ。それ以前にロックシティでの借りをシャーリーに返さねばならん」

「あははっ、そんなのいいですよっ」


 跳ね橋には守衛の詰め所のようなものがあり、槍を持った王国騎士が左右にひとりずつ立っている。


「そうはいかんさ。我々は大人だからな」

「そうそ。子供は黙ってなさいっての。と言っても、返すのあたしじゃないけど。キティからの借金が、ジンさんからの借金にかわるだけだもんね。ん~……。ジンさん、カラダをもてあます夜があったら、いつでも言ってくださいね? 返金ではなく、ほんとにただのお礼だとしても大丈夫ですから」


 アイリアが甚五郎の腕に両手を絡め、大きな胸を押しつけた。甚五郎は顔色ひとつ変えず、しかし少しだけ困ったように微笑む。


「ふははっ、それこそ気に病む必要はないぞ。アイリアには何度も助けられている。借りがあるのは私のほうだ」

「そ、そうですよ! アイリアさんがいてくれたおかげで、わたくしたちはすごく助かってますもん! ……カ……カラダで返す必要なんて……ないです……ッ」


 王国騎士たちは視線を動かすものの、誰かを止めたりする気配はない。商人も旅人も、ほとんどが素通りだ。

 真っ赤になったシャーリーに、アイリアが突然抱きついた。


「あぁんもう、妬いてるキティったら超絶かわいいんだからっ!」

「ひゃあ!?」


 逃げるシャーリーを執拗に追いかけて、アイリアが頬ずりをする。


「ふはははっ。そこらへんにしておけ、ふたりとも。堀に落ちるぞ」

「は~い」

「もう! ジンサマに叱られちゃったじゃないですかっ!」


 王国騎士たちが甚五郎やシャーリーたちにも視線を向けた。


「おい、そこのおまえ」

「ん? 私のことかね?」


 兜に包まれた視線が、わずかに持ち上げられる。陽光を反射し、ぎらぎらと輝く頭皮へと。


 シャーリーの身体に緊張が走る――!


 こんなところでもめ事など起こされては、王都に入ることができなくなってしまう! お願いだから、頭皮のことには触れないで!

 しかし。


「その頭、痛々しいな。大丈夫か?」


 アイリアが息を呑んだ直後、甚五郎の額に青筋が浮かんだ。

 めきり、とスーツのジャケットの下で筋肉が肥大化する。


「なんだと? 私の頭皮がひび割れた大地のごとく生命力無き惨めな状態になっているだと? ……貴様、もう一度……言ってみろ……」

「何を言っている。包帯から血が滲んでいるぞ。魔獣とでも戦ったのか? 旅ならばあまり街道から外れて歩かないことだ。気をつけるんだぞ」


 毒気を抜かれたかのように、甚五郎の額から青筋が消滅した。


「うむ。忠告痛み入る」


 甚五郎がすぅっと頭を下げると、王国騎士は静かにうなずいた。


「通っていいぞ。呼び止めてすまなかったな」


 シャーリーとアイリアが、無意識に止めていた息を大きく吐いた。

 結局何事もなく跳ね橋を無事に渡りきることができた。

 甚五郎がぽつりと呟く。


「王国騎士はいけ好かんやつらだと思っていたが、なかなかどうして……好青年ではないか」

「王国騎士たちは良くも悪くも中立なのです。王の命令には逆らえないだけで、傍若無人に振る舞っているわけではありませんから。ただ、王国騎士のなかでも王直属の近衛騎士たちは――」


 シャーリーが唇を尖らせて言葉を切った。

 言葉を待つ甚五郎の横で、アイリアが感嘆の声をあげた。


「うっわ~、綺麗な街並みねえ。王都シャナウェルってこんなだったんだ」


 アイリアが両手を広げて瞳を輝かせた。

 白を基調とした街並み。

 整備された街並みに規則正しく並ぶ建造物は規格統一されていて、景観を崩すものはない。メインストリートはもちろんのこと、路地に至るまですべて石畳で覆われている。

 そういった無機質さを中和するかのように一定間隔で植樹があり、大きな通りに至ってはその中央を砂利の敷き詰められた透明の小川がさらさらと流れていた。


「ほう、これは確かに大したものだ」


 石畳のメインストリートのずっと先には、王城が見えている。

 行き交う人々の衣装も華やかだ。

 ロックシティでよく見た砂漠の地域特有のものはもちろん、様々な民族衣装がある。アオザイやディアンドル、それに、着物に似たものまでもがある。

 あちらの世界の文化がこちらの世界に流れ込んでいるとしか思えない出来だ。

 当然のように、着こなす人種も様々だ。


「こっちですよ、おふたりとも。(いち)を抜けていけばギルドまではすぐです」


 シャーリーが先導し、甚五郎とアイリアが後に続く。

 いくつかの路地を曲がると、露店ではなく、付近一帯の建物が様々な店となっている通りに辿り着いた。


「おお、良い匂いがするな」

「はい。食べ物だけではなく、武器や様々な民族衣装、それに……」


 シャーリーの視線が甚五郎の頭部へと向けられた。そうして、恐る恐る躊躇いがちに言葉を発する。


「あの、ジ、ジンサマにはもちろん完璧に全くもってこれっぽっちも必要ないとは思いますが、…………カ、カツラ……なんかも売っています……よ?」


 ぎらり、と甚五郎の眼光が、頭皮よりも妖しく輝くのだった。


じゃあ、いったいそれは誰にとって必要なものなの!?


※金狼の名前は仮です。良いものを思いついたら変更するかもしれません。

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