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ボクが魔王を目指すただ一つの理由  作者: 日向タカト
第一話「勇者の息子と魔王の娘」
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第三章「2人の歩みが重なる時」

 朝、まだホームルームの時間まで余裕がある。

 ジェイドが教室に着くのはいつも朝の早い時間だ。

 授業が始まる前に一日の科目の予習を軽くやるためだ。ジェイドとしても早い時間に来ている自覚はあるが、自分よりも早く来ている生徒がいる。

「おはよう、シャス」

「……」

 ジェイドの声を無視して、シャスはノートにペンを走らせている。クラレス学院に入ってから四日が経過するが、お茶会以来シャスはこの調子だ。

 朝だけじゃない、昼も、夕方も、ジェイドの声が聞こえないのか、何も反応を示さない。入学式以来、シャスを見てきてわかったのは、クラスではほとんど話さない。最低限の会話はするが、誰かと積極的に話しているところをみたことがない。

 ――そういう意味だと、ヴァンちゃんだけが特別なのかな。

 ヴァンの前で見せたシャスの態度は、このクラスの中では見ることができないものだ。ヴァンの話だと、二人の関係も十年になるという。

 彼女は昔から人とはあまり関わらないできたのだろうか?

 どうなのだろう。

 自分が、シャスについて知っていることは少ない。

 新入生代表、魔王の娘、そのぐらいだ。

 あとはほとんど知らない。

「はぁー」

 思わず溜息が洩れた。

 シャスの態度は今更だし、今はやることをやろう。

 机からノートと教科書を取り出して、今日の授業範囲に手を付ける。まだどの教科も始まったばかりであるため基礎中心だ。しかし今後応用が増えるだろうから今基礎を固めることが重要だ。

 六十六の席があり、生徒は二人。

 お互い毎朝早くからいるが、雑談をするわけではない。

 ただ、自分の習慣をこなしている。ジェイドが勉強に励んでいるように、ラルドルはこの時間に肉体の修練をおこなっている。実際ラルドルは太陽が昇るのと同時に活動し始めており、基礎トレーニングに加えて、竜人族の武術の型をこなしているため朝から汗だくになっている。本人曰く、運動して汗を流さないと一日が始まった気がしないらしい。

 そう考えると、自分がやってることも、ラルドルがやってることも、そしてシャスがやってることも、これまでの蓄積であり、もしかしたらそれぞれなりの魔王になるための在り方なのかもしれない。

 二十分が経過した頃には、バラバラとクラスメイトたちも登校してきた。ほとんどは雑談に夢中だ。徐々に教室内の空気が賑やかになってきて、ジェイドの集中力が切れた。

「ふー、このぐらいにしておくかー」

 グッと伸びをしていると、

「おはよー、ジェイドちーん」

 カルファが後ろから顔を覗き込んで元気よく挨拶してきた。

「おはよう、カルファ。元気だねー」

 身体を起こすと、カルファは横にまわって、ジェイドのノートをみた。

「うーん、寝不足だけどねー。お、ジェイドちんはまた朝から勉強……?」

「まあね」

「いつもやっててえらいねー」

 なでなで、とカルファは手を伸ばして、ジェイドの頭を撫でた。

「……あのさ、カルファ、恥ずかしいからやめてくれないかな」

「そう? ジェイドちんいつも何時にきてるの?」

「うーん、三、四十分前かなー。シャスもきてるよ?」

「あ、シャスちんもいるんだ。じゃあ、朝二人で話したりしてるの?」

「それが……まったく」

「ふーん」

 カルファと二人で、いまだにノートにペンを走らせているシャスに視線を向ける。賑わうクラスの中で、シャスの席だけ隔離されているようだった。

「あ、じゃあ、シャスちんと交流深めますか」

「なにする気?」

「まあまあ」

 何かを思いついたカルファは楽しそうに自席へと向かった。

 魔法学、精霊学、歴史学、その他もろもろの授業を次から次へとこなしていけば、あっという間に放課後になった。結局カルファが何を思いついたのかまだわからない。

 クラレス学院の放課後は大きく三つに別れる。一つは図書館へ向かい復習と課題をこなすもの、一つはギルドにいき学院とは異なる活動をするもの、そして、最後は学院街に繰り出すものだ。今日のジェイドは学院街へいくことを考えていた。雑貨を見に行きたいのと、いくつかの参考書が欲しいためだ。

「そういえば、カルファどうするつもりだろう」

 カルファを探せば、シャスと何かを話していた。会話の内容はわからないが、カルファの話にシャスが困り、それを顧みずにカルファが押し切ろうとしているようだった。

 何度かシャスが、こちらの方をみて、シャスが何かをカルファに告げると、

「あはは、いーよー、いーよー」

 カルファが笑いながら了承してさらに何かを提案しているようだった。そんな問答が三分ほど続いたかと思ったら、

「ジェイドちーん、ちょっとー。ラルドルもー」

「なんだよ……」

「なんじゃ」

 カルファに呼ばれてシャスの席に集まった。

「これから御飯食べにいこう。シャスちんと一緒に。カルファは時間大丈夫だし、ジェイドちんもいいよね? ラルドルはどうせ予定ないだろうし問題ないでしょ?」

「まあいいけど……」

「儂が予定ないとは心外だが、いいじゃろう」

「じゃあ、決まりね。シャスちんも説得したし、悪魔の鍋でいいかな。というわけで早く帰る準備してして」

 カルファが手を叩いて急かす。ジェイドもラルドルもそれに従って手早く準備するために席に戻った。


 学院街の賑わいは相変わらずだった。クラレス学院の生徒は全校で約二百人弱、それに教師などの関係者を含めても三百人には満たない。学院街の住人はその三倍以上になる。さらには島外から学院街に買い付けに来ている商人たちもいる。

 学院街で学生がもっとも利用するのが雑貨屋や食堂などだ。その中でもよく使われるのは悪魔の鍋だろう。一品一品の金額は安いのに、ボリュームは多いというのは学生の身にはありがたい食堂だ。

 悪魔の頭蓋をモチーフにした看板をくぐり、中に入ると賑わいに満ちていた。ジェイドたちは一角の四人掛けの席を陣取っていた。テーブルにところ狭しと並べられた料理を食べながら、

「シャスちんって普段ご飯どうしてるの?」

「私は寮食ですね。あとはたまにヴァンちゃんに連れられて食べにいきます」

「ほえー、寮食っておいしくないよね。まあ安いからあんまり文句は言えないけどー」

「そうですか、私は結構好きですよ」

 カルファとシャスはたわいもない雑談に興じていた。問題はジェイドとラルドルの男性陣だった。

 ラルドルが小声で、

「なんで儂までこの場にいるんじゃ?」

 今更の質問をした。カルファが考えそうなことはわかる。

「カルファは僕に気を遣ったか、シャスの心配をしたんじゃないかな。ほら、シャスってあんまりクラスで話してないだろ」

「言われてみれば、シャスがクラスで話しているのを見かけたことがないのう」

 それでラルドルは納得したのか、料理に手をつけては口に放り込んでいく。

「なあ、シャス」

「……」

 彼女に声をかけてみたが、一瞬目線があっただけで、すぐに逸らされてしまった。

「ん? シャスちんはジェイドちんのこと嫌い?」

「嫌いというか……」

「うーん。食わず嫌いみたいのだったら、まずは話してみようよ。ジェイドちん悪い人じゃないよ? それに美味しいよ?」

「美味しい? 味はわからないですけど……」

「いいよ、カルファ。僕が気づいてないだけで、シャスに気を悪くさせてしまうようなことをしてしまったのかもしれないし」

 カルファはジェイドの言葉を、手を叩いて遮った。不機嫌そうに頬を膨らませて、

「はいはい、そういうのも含めて話そうよー。だいたいジェイドちんはシャスちんのなにを知ってるの? シャスちんだって、ジェイドちんのなにを知ってるの?」

「いや、僕は……シャスのこと知らないな……」

「私も……ジェイドのことは知らない」

「ほらー。お互いのことよく知りもしないでそういうこといわないの。はい、ラルドル、シャスちんに質問!」

「儂か! ふむ。では、シャスは休みなにをしてるんじゃ?」

「うわー、普通だー。この竜人、なにも面白くないこといったー」

 突然、ラルドルに話を振ったあげくに、難癖つけるとはカルファもひどいことするなとジェイドは思う。しかし、ラルドルとカルファって、どういう関係なのだろうかと疑問が湧いた。カルファはラルドルを呼ぶときだけは呼び捨てだ。中等部時代になにかあったのはだろうが両者ともそのことを話したがらないので聞いたことはないが、今の関係になる出来事があったんだろう。以前に、ギルド関係で手伝ってもらったことがあるといってたけど、その詳細をジェイドはしらない。

 ――機会があったら聞いてみるか。

 カルファとラルドルのことは次の機会にと思い、質問を投げられたシャスに視線を移した。

「休みですか? 休みは……読書が多いですね。ヴァンちゃんからいろんな本を借りて読んでます。あとは……昔からの習慣で武術とか基礎体力訓練をやってます」

「ほう……機会があれば、ぜひ手合わせをお願いしたいのう」

「ラルドルはそればっかりだね。じゃあ、シャスちん、カルファから質問ね。魔王になるのはやっぱりお父さんの影響?」

「……そうですね……」

 シャスは肯定して、少しだけ考えてるようだった。

「昔に、あることがあったの。それからかな、私が魔王を目指すようになったのは」

「なにがあったの?」

「それは教えません。私にとって全てが変わったことがあったんですよ」

 シャスが魔王を目指すきっかけとは何だろう。

 ラルドルからシャスは魔王の娘だと聞いていた。だから、魔王の後継者として、彼女は当然魔王を目指すのかと思っていた。

 でも、今の話を聞いたら、違うんだとわかった。

 彼女は元々魔王になろうなんて思っていなかったんだ。だけど、魔王を目指さないといけない事態が起こった。

 ――それは同族殺しってことと関係があるのかな?

 根拠はないけど、そう思った。

 いまだに同族殺しが、シャスの何を指しているのかわからない。でも、クラスにいる天使族も魔族もこのことについては誰も触れない。

 もしかしたら、カルファもラルドルも、自分と同じでシャスを変えた出来事は同族殺しに関係していると思っているのかもしれない。

 ヴァンとのお茶会で、ジェイドが魔王を目指す理由を話したとき、

 ――歪んではいるが、自分の為である。シャスに見習わせたいよ。

 そういっていたことを思い出した。

 自分の為であることをシャスに見習わせたい。

 それはどういうことだろう。

 ヴァンの言葉どおり受け取ると、シャスが今魔王を目指しているのは自分の為ではなく、誰かの為に目指していることになる。

 ――それは誰のためなんだろう?

 誰かの代わりに夢をみているんだとしたら、それはどんな理由なんだろうか。

「ねえ、ジェイドちん。最後、ジェイドちんから何かある?」

「え……そうだな……シャスは、今、僕たちといて楽しい?」

 正直言えば、何を聞こうかと悩んだ。先ほど浮かんだ疑問を聞こうと思ったが、今はこれを聞くことにした。シャスにとって自分たちといることは楽しいのかどうなのかと。

 シャスは悩むように視線を泳がせて、口元にわずかな笑みを浮かべた。

「……楽しいですよ……今日はありがとう、カルファ、ラルドル……ジェイド……」

「ならいいんだ。なんというか、シャスはいつも黙々と授業を受けて、クラスの誰とも話さず、ヴァンちゃん以外とは笑わずにいるなっと思って。それじゃあ、なんか寂しいよ」

「なに、ジェイドちん、シャスちんを口説いてるの?」

「ち、違うよ……。ただ、毎朝早くからお互いいるのに話したことなかったしさー。僕は嫌われてるのかなって」

「……じゃな……ないですよ」

 シャスが何かを言ったが、店内の賑やかさでよく聞き取れなかった。

「え、なに? ごめん、聞こえなかった」

「なんでもないです!」

 今度は声を張ってシャスが答えてジュースが入ったグラスを煽った。

「ならいいけど……これからよろしくな、シャス」


         ●


 窓から月明かりが入り、館内を照らす。

 無数の書架の間を二つの影が動いている。区切りの書架には『魔導書』と書かれている。

 ここはクラレス学院の図書館西棟の最上階だ。

 白い羽根を揺らし、侍女服姿のライラは新たな本を手に取った。開いて中を簡単に確認していく。儀式についての記載、詠唱による魔法術式の行使方法、同系統の効果をもった儀式も書かれている。

「主、これなんてどうでしょうか? 相手を二十四時間カエルにできますが」

 別の書架付近にいる自分の主に問いかけた。

 彼はこちらを一瞥すると溜息を吐いて、

「カエルにしてどうするつもりだ。蛇女(ラミア)族にでも喰わせるか?」

「一日、カエルの姿なんて想像しただけで、私には恐怖なんですが」

 箸が転がるだけで笑いが止まらなくなる呪いを掛けるもの、一時的に自分の能力を二倍にするが反動で三日動けなくなるもの、その他、提案したがダメだった。

 どれもシャスやジェイドに屈辱を与えたり、自分自身で相手を凌駕できるものだと思うのだが、レイリーは気に入らないらしい。

「お前が恐怖を感じるのと、俺があの二人を与えたい屈辱は違う」

「そうですか、では例えばどのようなものが?」

「そうだな……。泣いて俺に許しを乞うようなものがいいな」

「わかりました、そういうものがないか探してみます」

 ライラは頷いて別の書架の本に手を伸ばした。レイリーの性格を考えれば、一時的にあの二人が泣いて謝ればそれだけで満足するだろう。

 結局のところ、彼は傷ついた自尊心を回復することができれば満足なのだから。そう考えれば、相手に危害を加えることがなくとも、一時的に謝らせることができれば良いのではないか?

 ――対象者を謝らせることができる魔導書があれば?

 魔導書の記載内容は大きく二つに分かれる。一つは著者やその一族が研究してきた魔法とその魔法術式について書かれているもの、もう一つはとある効果、目的に特化したもの。

 ライラとレイリーが探しているのは後者になる。後者は用途が狭く、儀式が必要で手間がかかる。だからこそ目的に合致した物があれば効果は絶大だ。

 しかし、ライラが思いついたような相手に謝罪させるような魔導書があるかは疑問だ。

 それでも手当たり次第に魔導書を探す。

 そして一冊の魔導書にたどり着いた。

 中身を確認する。

「主、これはどうですか?」

 レイリーに声をかけると、彼はライラの元にやってきて、魔導書をひったくった。

 記載されている効果、儀式の段取り、必要な魔法術式を確認していき、

「でかした、ライラ。これでいい」

 機嫌がよくなったのか、彼の尖った耳がピコピコと上下に揺れる。ライラが見つけた魔導書の効果はレイリーを満足させた。

 ライラもざっと目を通したが、儀式に必要なものも大したことない。なによりも時期として都合が良いことに来週あるオリエンテーリングの日が儀式の条件と合致していた。


         ●


 悪魔の鍋を出ると、夜が深まっていた。

 学院街としてもそろそろ夜の静けさを得て、眠りに入りたい時間帯だ。とはいえ、まだまだ騒いでいる輩もいる。

 ジェイドたちは学院街を抜けて、学生寮へと続く道をゆっくりと歩いていた。

「あー、すっかり遅くなったねー」

 カルファがグッと身体を伸ばす。

「でも、私は楽しかったです。ありがとう、カルファ」

 深々と頭を下げたシャスに、カルファが慌てて手を振った。

「いいって、いいって。カルファもシャスちんと話せて楽しかったよー。シャスちんはもっととっつきにくいと思ってたよ」

「そうですか?」

「うん」

「そうじゃの……」

「ほらほら。シャスちんは魔王様がお父さんだし、魔族も天使族とかも声かけにくいというか、畏れ多いのかな……」

 魔界を統べる王の娘であるシャスは、クラレス学院という場がなければ、出会うことない存在だ。天使であれ、魔族であれ、もちろん人間族であれ、彼女は遙か雲の上の存在なのだ。

「あとは雰囲気かのう、なあ、ジェイド?」

 ラルドルがジェイドに同意を求めてきた。

「僕に振るのか……。なんだろう、シャスは、私に関わらないで! っていう感じなのかな」

「そんなつもりはないんですけどね……」

「周りからすると、一線引かれてる感じかな」

「そうですか……」

 ジェイドの言葉を受けて、シャスが一瞬寂しそうな表情(かお)をした。その僅かな表情の変化に気が付いたのか、

「でも、シャスちんにそういうつもりがなかったら、これから変えていけばいいんじゃないかな。一人じゃ無理だったらカルファもいるしさ」

「……はい」

 シャスは小さく頷いた。

「あー、いけない。わすれてたー」

 突然、カルファが棒読みのように声をあげた。誰がどう聞いてもわざとらしさが前面に出ているのがわかる。ジェイドとラルドルが見合わせて、

「どうしたのじゃ?」

「買うものがあったんだー、ラルドルちょっとついてきてー」

「買い忘れなど、明日で……」

 ラルドルが言いかけると、カルファは必死にウィンクをしてラルドルに何かを訴えかけているようだった。

「あー、それはいかんなー。まだ間に合うかもしれんから、すぐに学院街に戻るかのー」

 二人が揃いも揃ってわざとらしいやり取りを繰り広げ始めたので、仕方なくジェイドが割って入ることにした。

「二人ともさ、演技するならもう少しまともに――」

「買い忘れですか? それなら急いだ方がいいと思います」

 シャスの反応に、ジェイドは思わずコケそうになった。あの二人のバレバレの演技をシャスは真に受けたらしく、本当に心配している。

「じゃあ、そうするね。いくよー、ラルドルー」

「了解じゃ」

 夢魔と竜人は踵を返して、学院街へと向かっていった。残された魔王の娘と勇者の息子は、顔を見合わせて、

「帰ろうか」

「そうですね」

 学生寮までの道は一本道で、街灯が規則正しく配置されている。

「シャスはさ……どうして、今日きたの?」

「カルファが誘ってくれたからです」

「それはそうだけど、なんというか、意外だったからさ……」

 カルファたちと話しているときにも言ったように、ジェイドからすればシャスは周囲に一線を置いているように思えていた。だから、今日、カルファがシャスを食事に誘えたことが驚きだった。学院での彼女は常に一人でいたし、朝も昼も夜もジェイドが知っている限り、ヴァン以外の誰かといたところをみたことがない。

「どうしてかなと思って」

「……に興味が……からです」

「え?」

 聞き返すと、今度はハッキリとして声で答えてくれた。

「あなたに興味があったからです。この学院で唯一の人間族であり、お父様を倒した勇者の息子であるあなたがどんな人なのか、興味があったんです」

「そっか」

 まさかあのシャスにそんな風に思われているとは思ってもいなかった。

「僕もだよ。君がどんな人か気になっていたかな」

 わずかな沈黙だった。

「「あはは」」

 二人で声を揃えて笑った。

 魔王と勇者の子供である自分たちが、お互いがお互いを意識していたなんて、どうにもおかしくて仕方ない。

「じゃあ、ゆっくりお互いのこと知っていこう」

「ええ。でも、魔王になるのは私ですよ?」

「僕だよ」

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