第十二話 今生まれる少女伝説!乙女よ、戦場を駆け抜けろ!!
「ロウサウス皇帝陛下、アネモネ女王陛下がお目見えでございます」
扉を開いた兵が声をあげる。その声には嗚咽が混じっていた。
「拙速だな。王族とはもっと時間を優雅にとらねばならぬ。我らと大衆とでは流れる時間も価値もまるで違う。それをもう少し理解するべきだと思うぞアネモネ女王」
ざわめく文官たちの声も気にせずに、オルト帝国皇帝ロウサウスがそう口にした。突然押し掛けたアネモネの姿にまるでひるんだ様子もない。元より自分が売った喧嘩だ。こうなることは当然予想できていた。
「時間のことなど知らぬ。私は私の望むように行う。群れの長とはそうしたものだ」
扉から悠然と入るアネモネ。王のそばにいる二天将が一歩前に出て剣の柄を握る。そのふたりの威圧にアネモネの足が止まった。そして(……ふむ)と心の中で呟いた。確かに目の前のジルドとシェザーリアはガルーよりも強い。これまでの戦闘経験から、今のアネモネにはそれが理解できる。
そして、そのふたりの強者に守られているからこそロウサウスはアネモネを前にしても強気でいられた。彼は自分の配下のジルドとシェザーリアがアネモネに負けることなど微塵も考えてはいなかった。
「なるほど。まあ道理だな。もっともえらい人間が何故に柵に縛られねばならぬのか。それを私もよく考える」
だからこそロウサウスは国という柵を受けない冒険者ギルドを排除したかった。あの存在が自分たちを縛っている柵となっていると思うが故に。しかし今に至ってもなお国の芯にまで食い込んだその制度を引き抜くことは出来なかった。
「それで何用かな。アネモネ女王?」
「これだ」
ロウサウスの問いにアネモネは空の瓶を取り出した。
「お前にもくれてやろう」
そう言って思いっきり振りかぶり、
「待てっ」
「王を守れっ」
ジルドとシェザーリアが叫ぶが、だが間に合わない。
どちらもが皇帝の前に出る前に、空の瓶がロウサウスの顔面を直撃し爆ぜた。
あまりのことに、その場にいる全員が己の目を疑った。今この一瞬で自分たちの主の頭が消失した事実をそう簡単に受け入れられるわけがなかった。
だが自分の顔にへばりついた髪の毛混じりの肉片をジルドが見て、顎より上がない主の姿をシェザーリアが見て、両名はそれを理解し、咆哮してアネモネへと斬りかかった。
「なるほどな」
アネモネはその二人の剣裁きに見覚えがあった。それはキヒラ流抜剣術と呼ばれるもの。その軌跡をアネモネは知っている。かつてアネモネに対して切りかかってきたふたりがいたことを覚えている。以前の男たちの腕は未熟ではあったが、しかしアネモネにはその経験だけで目の前の攻撃を十分に見切れた。そして振るわれた剣を親指と人差し指だけでつまみ上げ、そのまま互いの喉に突き合わせた。
「「ッ……!!」」
喉元を共に貫かれた二天将たちは、声すらも出せずに驚きの目で互いを見ながら互いを血飛沫で汚して崩れ落ちた。
「ふむ。もう汚れているしな」
そう言って、元より自分の吐いた血で全身が汚れていたアネモネは、両者から吹き出る血を気にせずに浴びながら、顎より上のない、一瞬で絶命した皇帝の前まで歩いていく。そして、
「これぐらいだな」
そういってアネモネはチャリンとかつて食べた昼食のお釣りと同じ小銭を皇帝の死骸に投げた。自分で戦えぬ長に群れを持つ資格もない。であれば、その代価もただ同然だろうと考えたのである。
「こ、皇帝が殺されたぁあああああ!!」
そして氷の中のように静まりかえった王の間で、ついに誰かが叫びだした。それを皮切りに一斉に文官たちが逃げ出していく。
そんななか、アネモネは「しまった」という顔をしていた。
「確か人の世では、長の首を切って手に入れることで倒したことを証明するのだと言っていたな」
だが目の前の死体は顎より上がない。完全に弾け飛んでいる。
「首より上を持って帰れば問題ないのだろうか?」
のんきにそう考えるアネモネだったが、突然下から巨大な爆発音と地響きのような衝撃が起きた。
それがトリスたちの起こしたものだろうと考えたアネモネは、とりあえず皇帝の首を手刀で切り落とし、そして顎から首だけを持って王の間を出た。
そのアネモネが王の間で首を切り取っているのと同じ時間、帝国城の正門が見事に瓦礫の山と化していた。
その場に待機していたオルト帝国兵80名が瞬時に蒸発するような破壊力のある爆発が発生したのである。
「は、ははははは、さすが魔王様の符術。し、死ぬかと思った」
放心しているのはトリスだ。目の前の自分の起こした惨状に驚きおののいている。
「父ちゃん、あの人やばい人?」
「いや違うと俺は思ってたんだがな」
それを見ているのはガルーとその息子。なおガルーの手と愛用のハルバードは血にまみれていた。ここに至るまでにいくつもの戦闘があった。ガルーは子供を人質に取っていた兵たちをその場で皆殺しにした。元々武力では比較にならぬのだ。アネモネから暴力の一切を許されたガルーであるならば子供を人質に取られていようが負けるはずがなかったのである。
だが息子を助けただけでは当然終わらなかった。次から次へと兵が現れ、アネモネ親衛隊も危うく囲まれるところだったのだ。それを救ったのがトリス、いや魔王ヴァンスがトリスに手渡していた火炎符である。
「だけど、それにしたってやり過ぎじゃないですか魔王様」
疲れた顔でトリスが呟いた。これと同じ符がまだ14枚ある。戦争を前提にしていたとしか思えなかった。まあ実際そうなったのだからむしろ慧眼と誉めるべきなのだが。
「さてとアネさんもそろそろ来るはずなんだが」
ガルーが城の上を見る。その視線の先には王の間がある。だがトリスがそんな暢気なガルーを咎めるように声を出す。
「ガルー将軍、何かイヤなものが出て来ましたよ」
ギギギギと金属同士の擦り合う音が響き渡る。それは水堀の中から聞こえてきた。そして水しぶきをあげて黒い巨大な何かが城の掘から上がってくる。
「父ちゃん、黒神像が出てきたよ。逃げないと」
ガルーの息子が騒ぎ立てるが、ガルーはなおも城の方を見ている。
(アネさん、まだですかい)
ガルーとて黒神像のことはよく知っている。このオルトの帝都を守る守護神像。それはイシュタリア大陸の古代文明の遺産である『キカイ』の力を持つメタルゴーレムだ。ナーガラインの交差する魔力集積地であるこの帝都内でならば無尽蔵の魔力を享受し永遠に動き続けることが可能な無敵の鉄巨人。
「これでどうですっ!!」
そう言ってトリスが火炎符を投げて大爆発を起こした。だがトリスたちがたじろぐほどの巨大な爆発が起きたにも関わらず、鉄の巨人は平然とそこに立っていた。
「だめだ。これには魔術は効かねえんだ」
ガルーがそうトリスに忠告するが、トリスは「じゃあどうするんですか?」と返す。だがその質問にはガルーは逃げる以外の選択肢がない。今の時点では。
「ぬぅぅうおおおおおおおお!!!!」
だが別の選択肢が空からやってきた。
それは王の間を越え、バルコニーを飛び、そして両腕の拳を組んで思いっきり黒神像の頭部へと叩きつけた。やがてアネモネハンマーと名付けられるその大技を食らい、黒神像の首がひしゃげてその場で崩れ落ちる。
「アネさんっ!?」
「おれっち、黒神像が倒れるところなんて初めて見たよ!?」
ガルーがアネモネの襲撃に喜びの声をあげ、その息子も驚きの顔で見ている。
「陛下、首尾はどうだったんです?」
そのアネモネにトリスがかけよる。アネモネが無事なことは分かったが、だが現状がどうなっているのかは不明だ。そのトリスの質問に対しアネモネは、持っていたものを投げて渡した。
「えっ、はっ!?」
トリスは一度それを受け取ったが、それがなんなのかが分かると悲鳴を上げて叩き落とした。
「大事に扱え。大将首というものだ」
「というものだって、これ首より上が顎までしかないじゃないですか!?」
トリスがたまらず悲鳴を上げる
「やはりダメか」
やはりということは自分でもそう思っていたのかとつっこみたい気分を抑えつつ、トリスは頭を抱えて言葉を返した。
「そういうのは相手の正体が分かる部位じゃないと。別に身体の一部じゃなくても王冠とか宝剣とかそうものでもいいんですが」
「ふむ。難しいな」
「まあ、どのみち陛下が皇帝を殺したことはすぐに広まるでしょうから大丈夫ですよ。ここまでやり尽くして隠せるとも思えませんし」
「というかアネさん。そんなのんきに話してる場合じゃないでしょう。起きあがってますよ、アレ!?」
ガルーが指さした先に、アネモネが頭をひしゃげさせたままの黒神像が今まさに立ち上がろうとしていた。
「気を付けてください。そいつ、目から光線を撃ちます」
そのガルーの言葉と同時に黒神像の瞳が光る。その速度はまさしく光のごとく。だがアネモネはそれをなんなく避けた。打ち出す方向さえ分かれば、よけることなど容易い。そのまま走り出し、その目玉に向かって正拳を叩きつける。
なにかしらの水晶体が割れ、そして黒神像の頭部が爆発した。
「他愛もない」
アネモネがそう口にするが、だが頭部が破壊されたにも関わらず、その両腕は恐るべき速度でアネモネを両手で潰そうと動いた。バンッと大きな金属音が響き渡る。
「アネさんっ!?」
「陛下っ!?」
ガルーとトリスが同時に叫ぶ。だが心配など無用だ。アネモネは手と手に挟まれた際に比較的もろそうな右の中指の関節を狙って蹴りを放ち破壊していた。そして歯抜けになった右腕から難なく出てきたのだ。
「ふん。確かに岩のよりは早いがやはり骨のないヤツはダメだな」
一応骨っぽいものは入っているのだが、それを指摘できるものはここにはいなかった。そしてアネモネは主に関節部位を狙って殴る蹴るを繰り返すとわずか数分で帝国の守護神を鉄くずへと変えてしまったのである。
それをオルト帝国軍は、人数を集めて包囲しながらも戦々恐々と見ていた。誰も矢に手をかけようとしない。目の前の現実に頭がついていけていない。
基本的に黒神像は帝国を守るための兵器だが、だが攻撃を仕掛けたものにもオートで襲いかかる。なので黒神像が戦うときには手を出さないように彼らは訓練されている。されているのだが、黒神像が倒された場合にはどうするのか?
「か、かかれぇええ!!」
どうやら軍の中にも気骨のある者がいたようである。声を張り上げ自ら走り出した兵士長に、他の兵たちも一様に追いかける。だが、密集して行動したのは完全に失敗だった。
「うわっと!!」
トリスが火炎符を再度投げると、今度はその場にいる兵たちがまとめて吹き飛ばされ、燃やし尽くされる。
「さあ、今の内に逃げましょう」
「逃げる? なぜだ? ここは私のものだが?」
アネモネはトリスの持つ顎と首を見ながら尋ねる。トリスは唸ったが、だが意を決してこう口にした。
「やはり顎だけではダメなんです陛下」
その解答にガルーが吹いた。
「ダメか」
「はい」
アネモネの問いかけにトリスは念入りに肯定する。アネモネならばここに居座り続けることも可能かも知れない。だが、ここで群れを、国を奪うというのは無理な考えだ。せいぜいが帝国城を乗っ取るところまでしかいくまい。その後もアネモネならば籠城できるだろうが、それは国ではなく城を乗っ取っただけということになる。その上でアネモネ王国に女王不在となれば問題がありすぎる。
そうトリスは考え、出任せを口にした。ともかく、今は逃げるときなのだ。
「おいおい、アネさんもトリスも逃げるなら早く逃げようぜ。なんか来ちまったぞ」
ガルーの言葉にアネモネとトリスが振り向く。そこには9体の黒神像が街の様々な方向からこちらに向かってきていた。
「黒神像はこの帝国城に1体。街の中央広場に1体。周辺の8方向の城壁にそれぞれ一体ずつ配置されてやがったからな。集まって光線でも撃たれたら敵わねえぞ」
その言葉にアネモネも「さきほどのか」と口にした。9体からのあれを防ぐことは確かにアネモネでも難しい。ましてや子供も作れぬ輩どもでは戦う意味もなく、群れを守るための闘いでもない。であれば、アネモネにも戦い抜くことにそうこだわりはない。
「では戻るか」
アネモネがそう口にするとトリスもガルーも親衛隊たちも一斉に「はいっ」と返事をした。黒神像は残り9体、だがバラけている今ならば城下町を抜けて何体か相手取るだけでうまく逃げ出せよう。なにせアネモネという存在がいるのだ。一般兵などはそもそもモノの数ではない。そしてアネモネ一行はオルト帝国 帝都ルーイングリームの脱出を決行した。
そして三日が過ぎた。
アネモネ王国とオルト帝国の国境付近。そこにはオルト帝国軍の第一兵団から第八兵団までもがアネモネ王国領の前で陣取っていた。そして対するアネモネ王国軍も遅ればせながらも陣を構えていた。
「それで、どうなってるのかしらね」
ピンク色の甲冑女ジョセフィーナが苛立ちを露わにしてアネモネ王国軍のテントの中にいた。ジョセフィーナ自身に兵役の経験はないが、現状におけるアネモネ王国軍の最大戦力であるウォーキスを率いているのは彼女である。対して不死軍団と呼ばれているデュラハンとスケルトンの混成軍団を率いている魔王ヴァンスはデュラハンに自分の首を持たせてその場にいた。
そのほか、元キリイグの地方軍を率いていた将校もいるのだが、このふたりにはどうあっても逆らえない実力差があった。
そして彼らのテントの外には8メートルの黒いドラゴンが座っている。さすが魔王軍と称されるだけの顔ぶれである。
「恐らくは帝都でアネモネをハメた後に、何かしらの大義名分を持ってこちらに攻め込むつもりなのだろう」
魔王ヴァンスがそう口にした。つまりはアネモネの身に何かが起きている可能性があるという事だが、どちらも心配などしてはいなかった。一緒について行ったトリスとガルーと親衛隊は死んだかもしれないなとは思ったが。
「あれが全部攻めてくるとなると……まあ、こっちは質は高いけど数は少ないからねぇ。少し面倒かしら」
そう言ってジョセフィーナは他の将校たちを見る。
(ウォーキスやこっちの魔王様の軍団が破れるとは思わないけど、せっかく育てたこっちの王国軍の数が減るのはよろしくないわねえ)
だがあの数の総力戦になった場合、ジョセフィーナと魔王の軍団だけでは絶対数が足らず穴が出る。犠牲は出るだろうが、その穴は埋めてもらわねば困るのだ。
などと、アネモネ王国の重鎮たちのテントではそのような話があったのだが、外にいる一般兵にとっては目の前の光景は悪夢でしかなかった。兵数の差は十倍、練度の差だって相当なものだろう。万に一つも勝ち目はないと思っている者がほとんどだった。
そして、その中にはかつてアネモネを案内したニライの弟のカンダもいた。
「あーこれでこの国もお終いかぁ」
そうカンダの口から漏れるのも仕方のないことだった。
アネモネという戦士が現れてからのキリイグ地方は本当にめまぐるしく変化していった。バモラの街でのオルト兵撃退に始まり、アネモネの領主就任に、アネモネ王国の建国、そして王都アネモネシティや黒金の採掘など、本当に変わっていったのだ。恐らくはそのほとんどが良い方向に。
だがそれも終わる。肝心のアネモネはいない。恐らくはオルトの帝都でなにかしらあったのだろう。もう殺されているかもしれない。どれだけ強かろうと所詮は一介の戦士なのだ。国が相手では敵うまい。そんなことを考えていた。
だが思いに耽られたのはそこまでだった。遂に動き出したのだ。オルト帝国軍が。
カンダは思わず天を仰いだ。神よと祈った。だが空に見えたのは黒いドラゴンだった。
『主の帰還だ』
ドラゴンはそう口にすると、真っ先にオルト帝国軍に向かって飛び出した。
それに気付いたウォーキスと不死軍団が追い始めた。祭りへの参加に遅れてなるかと叫びながら。
当然、その状況に周囲がざわめく。何が起きたのだと騒ぎ始める。
だがその理由は明らかだった。突然オルト帝国軍の陣の奥で爆発があった。さらに兵たちが次々と吹き飛ばされているのが遠目からでも見ることが出来た。
「あれはまさかアネモネ陛下!」
「アネさん、アネさんが帰ってきたのか!?」
「親衛隊もいっしょだぞ!」
そう周囲から声が挙がり始める。
カンダもようやく状況が見え始めた。上官たちが戦だと叫んだ。
周囲からは、
「アネモネッ!」「アネモネッ!」「アネモネッ!」「アネモネッ!」「アネモネッ!」「アネモネッ!」「アネモネッ!」「アネモネッ!」「アネモネッ!」「アネモネッ!」「アネモネッ!」「アネモネッ!」
と、絶叫にも近い声が挙がり、全員が戦意に溢れた顔をしながら走り出す。
その先端にはドラゴンが、デュラハンが、スケルトンが、ゾンビが、戦闘集団が次々と敵を打ちのめしていく。そしてオルト帝国軍の最後尾からも、まるで台風のような勢いで兵が飛ばされ、弾かれ、崩れていく。さらに巨大な爆発が起こった。
その爆発のあったオルト帝国軍の後方を走る部隊がいた。
「これで火炎符は最後です。もう打ち止めですよー!」
馬を走らせながらトリスが叫ぶ。
「なかなか派手な花火じゃないか!勝利の凱旋ってのはこう気が利いてなくちゃいけねえよ!」
そのトリスを守りながら馬に乗ってハルバードを振るうガルーとその背中に必死にしがみついているガルーの子供がいた。
さらに彼らの後には、数が三分の二ほどには減っているが戦意に満ちあふれたアネモネ親衛隊の面々がいる。そして彼らの一番前には、
「グォォオオオオオオ!!!!!!」
大絶叫で素足で突き進むアネモネがいた。その声に気圧されてオルトの兵たちはただなすがままになっている。時折その叫びに耐えきった有能な兵士もいたが、アネモネの拳で一撃で吹き飛んだ。
「アネモネッ!」「アネモネッ!」「アネモネッ!」「アネモネッ!」「アネモネッ!」「アネモネッ!」
戦場にアネモネを叫ぶ声が響きわたる。兵が吹き飛ばされ、切りつけられ、竜のブレスで腐食し、オーガスカルに食い殺される。
オルト兵たちはもはや一方的な虐殺となったこの状況に恐怖し逃げまどうが、前からも後ろからも攻められて大混乱に陥っていた。魔王ヴァンスが死んだ兵を片っ端からゾンビにしていくのもタチが悪い。
その日、オルト兵たちは己が何に挑んだのかをはっきりと理解した。
おとぎ話の中にしか出てこない伝説の魔王率いる不死の軍団の復活、それをその身に刻み込んだのである。
こうして突然始まった両国の戦いは、一方的な形でアネモネ王国の勝利となり、その後の戦後交渉により、いくつかの領土をアネモネ王国に移譲をすることをオルト帝国は受け入れた。逆らうだけの力はもはや彼らにはなかった。
さらに、その話を受けてジャカル共和国もアネモネ王国を正式に国と認め、友好関係を結ぶよう動き始める。オルトを蹴散らすような国に自分たちが勝てるはずもないことは理解できているようだった。
そして、戦いが終わりを迎えてから数ヶ月後、アネモネはアネモネ王国から忽然と姿を消していた。
今回の彼氏候補は顔面破裂だった模様。
女子を怒らせるような男子は嫌われます。
そして次話で最終話です。