表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/14

第零話 少女吼ゆる!兄よ、私を抱きたくば拳を握れ!!

 オーガという種族がある。


 身長は3メートルを超え、その怪力は岩をも砕き、繰り出す蹴りは人間を一撃で絶命させ、叫び声ひとつであらゆる生命を恐怖の虜とする。そんな生物界のヒエラルキーでも上位に位置する狂暴な巨人族がオーガという種族だが、その生態系は実に興味深いものとなっている。


 まず産まれる男女の比率だが、男性が産まれることが極端に多い。対して女性が生まれる確率は100体に1体だ。出産も一度に産まれる子供の数は1体だけ。双子が生まれることもあるが、これは人族と同様に稀なケースである。

 結論から言えば、オーガはオーガという種の枠組みだけで完結させてしまうと数を維持していくことは出来ない種族なのだ。そのため、オーガは他種族の女性体を捕獲し子供を産ませる習慣がある。

 ここで言う他種族とは人族、ゴブリン族、オーク族などの二足歩行の哺乳類の女性体を指している。伝承に寄れば、かつてドラゴンを孕ませたオーガが存在したというも言われているが、昨今の研究ではドラゴンは卵から産まれるので虚偽であろうというのが定説である。


 捕獲された他種族の女性体はオーガの集落に連れていかれ丸一日オーガの精を注ぎ込まれるとそこで拘束される。オーガの子種は生命力が高く、たった一度で着床することがほとんどであるため、子供を産むためだけならば二度三度の性交は必要とはしない。彼らの性交は快楽を目的としたものではなく、以降は手を出すこともない。そして子を孕んだ女性体の世話するのは数少ないオーガの女性だ。

 なお意外であると思われるかもしれないが、オーガは一度孕ませた母体に対しては基本的に丁重に接する習慣がある。これは産ませるまでの間に母体を傷つけては元も子もないためだろうと思われるが、この習慣に触発されるためか、子を産み解放された母体はオーガに対し悪感情以外のモノを持っていることが多い。自ら群れに残ることもあるし、解放されても歓楽街で飼われているそうした用途のオーガに通い詰めたり、下手をすると宗教的な行動に出た例も存在している。場合によってはオーガの群れの中で人族とゴブリン族とオーク族の女性が仲良く暮らしているケースも存在している。

 なお他種族より産まれた子は標準的なオーガとして育っていくのだが、対してオーガのメスから産まれた子は通常のオーガよりも大きく、強い個体であることが多い。

 そのまま成長していけば将来的には群れのボスやその側近として種族の上に立つ器となることが有望視されるため、オーガのメスは率先して子を産むように求められる傾向にある。

 またオーガの成長は早い。女性体は生まれて7年も経てば肉体的に子を産む機能も備わり、オスたちと交わることが可能だ。


 そしてここ、フィロン大陸の北にあるオルト帝国。その僻地の山奥にあるオーガの集落でも、ちょうど七の年を越えて成熟したメスのオーガが一体存在していた。



「我の子を産むのが嫌だと抜かすか、妹よ」

 それは日中、集落の中心で群れのボスであるオーガが、乳房の張った小さなオーガに問いかけたところから物語は始まる。


「嫌だ……とは言わぬ」


 その群れのボスであるオーガは平均的な身長である3メートルよりも若干大きく、また筋肉が異常に盛り上がっていた。そして、なによりも特徴的なのは額の巨大な角である。それは他のオーガたちの角に比べて三倍以上は大きい。オーガの男たちならば誰もが羨むほどに立派な角を有していた。

 そんな群れのボスに相応しい姿の兄に対して、妹のオーガの身長はせいぜい2.5メートルほど。その姿はオーガのメスとしても若干小さく、角も額から若干出っ張っている程度だ。顔立ちも人のそれに近く、西に多くいる鬼人族という種族に似ていた。

 そのメスのオーガは、その兄の凝視にもまるで動じずその場に腕を組んで立っていた。そしてメスのオーガは兄に対し、こう告げた。

「私とてオーガの女、いずれ群れの頂点に立つ男を孕むことは誉れではあり、それを拒絶する理由はない」

 妹の言葉に兄は目を細めて、その言葉を聞いている。

「しかし、兄よ。私は今、私の産む子があなたの子で本当に良いのだろうかと疑念を抱いているのだ」

「ふむ」

 群れのボスであり兄でもあるこのオーガは妹の言葉に「やはり」と感じた。兄もここ一ヶ月の妹の態度がおかしいことには気付いていた。それはこの前の人間との争いに起因していることだろうとも理解していた。


 実は先月までこのオーガの群れは、今よりも南にもっと大きな集落を作って暮らしていた。だがオーガたちは人里に近付きすぎた。そして人間を襲いすぎた。オルト帝国は日々増加し続けるオーガ被害に業を煮やし、遂には約1000の数の兵士たちを差し向けたのだ。

 対してオーガたちは逃げも隠れもしなかった。攻め込む人間たちに果敢に挑み、闘いを繰り広げて多くの兵の命を奪ったが、だが人間たちの数はオーガのそれを遙かに上回った。そして群れの仲間は半分以上殺され、集落にまで攻め込まれて、もうじき産まれるはずだった赤子も母体諸共虐殺された。母体は同じ人間だったが、オーガの子を孕んでいるということだけで不浄として焼き殺されたようだった。

 住む場所を奪われてしまっては仕方がない。オーガたちは屈辱を噛みしめながら、こんな奥地にまで下がらざるを得なかった。

「貴様はあの女どもを大層大事にしておったからな」

 兄は妹が、世話をしていた人間の女たちのことを守らずに逃げたことに対して反抗をしているのではと考えた。だが妹は首を横に振る。

「大事にしていたことを否定はせぬ。されど、それは良い。強者が弱者を散らすはただの摂理。私が懸念をするのはそれを止められなかった兄、あなた自身の力だ」

 周囲がざわめく。群れの長の言葉は絶対だ。それに逆らったのだから周囲の空気が変わるのも当然だが、しかし兄オーガが手を挙げると、それは収まった。

「なるほど、道理だ」

 兄オーガが頷く。つまりは妹オーガの主張を認めたと言うことだ。

「だが、その懸念を払拭するにはどうすれば良い? 再び人間どもの里を襲い、殺せば良いのか?」

 その兄の問に妹は再び首を横に振る

「否。私が望むのは雄としての力。自らの精を私の子宮に注ぎ込むだけの力を示せよ兄よ。我を組み伏せ、荒々しく私を抱け。それこそがオーガの本分であろう」

 その妹の提案に兄であり長であるオーガが馬鹿馬鹿しいとばかりに笑う。

「我に女子供をいたぶれと」

「ソレすら出来ぬ『種無し』に長でいる資格なし。他者の目を気にするか? 奪いたければ奪い、食らいたければ食らえ。それが我々であろう。たかだか血の繋がり程度でその本能を殺すというのか、オーガの長よ」

 妹の猛りの声に兄の目が細まる。

「なるほど、それも道理ではあるな。だがそう抜かすからには覚悟は必要だ」

 兄が獰猛な笑みで妹を見た。それは決して肉親に向けるものではない、獲物を見る肉食獣の目だ。

「そこまで言うのであれば致し方在るまい。確かにお前の言う通り、我は甘かったかもしれぬ。だが、それを払拭して見せよというのだ。その意味をお前は分かっているのだろうな?」

 兄の問いに妹はこくりと頷いた。

「よかろう。ならば組み伏せた後はその四肢を切り裂き、生意気を抜かす舌を噛み千切り、長の子を産むだけの道具として我が袂に飾ってやる」

 その言葉に、しかし妹はそれこそ我が意を得たりと笑みを浮かべた。

「それでこそ我が兄よ。それでこそオーガよ。それでこそ我が愛おしき人よ」

 妹は兄の前で拳を握る。そして兄は妹の意を受け、背負っていた巨大な棍棒を抜いた。

「行くぞ兄よ」

 妹は全力で挑もうとする兄を誇りに思い、そして自身も前へと一歩を踏み出した。



  **********



 その日、オルト帝国の兵の1人が奇妙な光景を目撃した。

 先月討伐を行ったオーガの群れのその後の調査を命じられていた兵士は、その潜伏先と見られる場所で奇妙な状況と遭遇していた。そこは確かにオーガの集落であったようなのだが、しかし辺りは血の海で、オーガと見られる巨人たちは全て殺されていたのだ。

「ふむ。お前、人間か?」

 いや一体だけ生きているオーガがいた。そのオーガは折れた棍棒を握って立っていた。身長は2.5メートルほどのオーガとしては小さな身体で、全身が血で赤く染まっていた。そして、よくよく見ればその胸には撓わな乳房がついていた。

「オーガがしゃべった?」

 だがそれ以上に兵士は驚いた。喋るオーガなど聞いたこともない。オーガは言葉も持たない野蛮な種だと兵士は教わっていた。そしてそれ自体は事実である。目の前のオーガが特殊なだけなのだ。

「母が人間でな。言葉は母より教わった。まあ先月死んでしまったが」

 そのオーガは兵士の言葉に、そう返した。兵士は先月の襲撃を思い浮かべて顔をひきつらせる。もしかすると自分が手に掛けた中にその人間がいたかもしれないのではと考え、それに気付かれれば殺されると考えたからだ。まあ実際には腹上死であったので関係はないのだが。

「じゃ、じゃあ言葉が通じるなら尋ねるが、なぜこのオーガどもは皆死んでいるんだ?」

 勇気を振り絞って尋ねた兵士にオーガの女は「そうだな」と言って口を開く。

「我が兄は我が子の父となるには弱かった。なので私が勝利した。他の男どもも同じように弱かった。そして私だけが残った。それだけのことだ」

 そこまで言ってオーガの女は兵士に尋ねる。

「ひ弱そうな人間よ。貴様は知らぬか? 我が子宮に相応しい強き男の存在を?」

 そう言われて兵士は唸った。あまりにも異常な光景に思わずここまで来てしまったが、自分一人ではこの小さなオーガにも勝てぬだろうと考える。いや、このオーガの言葉が事実なら、例え自分の所属する部隊総出でも勝てるはずもない相手と向かい合っていることになる。そしてその言葉が嘘か否かは目の前の光景を見れば明らかだ。

 兵士は自らの脳をフル回転させて、オーガの問いに答えた。

「います。人間でもよろしければ、強い相手などいくらでも」

 

 その言葉に小柄なオーガはニイィッと笑顔を浮かべた。もっとも、それが恋に恋する少女の笑みであったとはさすがにこの兵士も気付けなかった。

もうひとつ連載しているまのわが真面目な話になってたので、ラブコメをぶち込むことで己の精神バランスをとってみた。

また続きの第一話は明日あたり更新しますが毎週一話更新ぐらいのペースの予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ