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しましまロック  作者: kamunagi
第一章 バンド結成
9/24

冷戦

 こいつの印象は最初からずっと悪いままである。


 「小林」をメンバーに誘った時のことだ。

 明らかに俺と細見には嫌な顔をしてどっかに行ってしまおうとしたのに(まぁ確かに意味の分からないことしたのは確かだが)深井さんがやつの視界に入った途端鼻の下を一気に伸ばしやがった。

 

 俺たちには「○○っすか」とかそんな感じのチャラいしゃべり方だったが、深井さんが来てからこっち「○○なんですかー」っときた。


 気に食わない。どうにもこうにも気に食わない。俺にはわかる。どうにもこいつは深井さんに惚れたようだ。深井さんの魅力に惚れるのはもちろんのこと理解できるが、だがしかしこんな不良野郎に深井さんを取られるわけにもいかない。


 向こうも俺のことは気に食わないようだしある意味では実に気が合いそうだ



    □□□□□□□□□□□□□□□□

 



 昨日の時点で夏期講習は終了し、暇を持て余している学生(ホントは小林以外は受験生で忙しいはずなのだが……)である俺たちは深井さんの自宅を訪れていた。


 いきなり男三人を引き連れていくのは深井さんのご両親的にはいかがなものかと思ったが、昼間は仕事に出られているようで(まぁ当たり前か)、そんな心配は必要なかったようだ。

 

 深井さんの部屋に通され、部屋の真ん中に置かれた丸い白の机のまわりに三人してよたよたと座った。女の子の部屋は人生でもそう訪れたことがなく、落ち着かない。他の二人もそのようだ。

 深井さんは「ジュースでもいれてくる!」っと台所の方へいってしまったようだ。



 (……気まずい……。)



 俺と小林は初めて話した瞬間からお互いに合わないことを自覚している。どうやら昨日の深井さんとの会話やこの家至るまでの短い間で小林も俺の深井さんに対する思いを察知したようだ。それによってますます同じ空間にいるだけで互いに嫌悪していることが伝わる。


 まだ表だってあーだこーだってことはないが、もしかすると時間の問題かもしれない。


 本当は俺たちはものすごく似ているのかもしれない。こんな不良野郎に似ているとは微塵も思いたくはないが、時と場所が違ったら仲良くやれたかもしれないなと思う。


 しかしまぁ気まずい事に変わりはない。細見はこの水面下の戦いにあたふたしておりためらいを隠せないようだ。

 この状況で最大の被害者はただバンドしたいだけの細見だ。


 そう考えるとなんとなく申し訳なくなってきた。

 話題を提供して場を和ませよう。細見の精神が持ちそうにない。あまりきのりはしないが助け船を出してやろう。


「なんか女の子の部屋とかはじめてやし緊張するなぁ~。」


「そ、そうっすねぇ~」


 これだ!かなりいい話題を振ったと自分でも思う。お互い興味のあるはずのことだし幾分さきほどよりは空気がなごむだろう。


 それにしてもかなり女の子らしい部屋だ。床には白いふかふかのカーペット、カーテンは黄緑色でさわやかにいろどられており、ベッドも柵は木目でシーツは薄ピンクとしおらしい。

 整理整頓された机の本棚にはいろんなアーティストのスコア(バンドの譜面であるTAB譜がパートごとに収録されている本)が並べられており、コンポの横にはCDがラックにおしゃれに飾られていて、ところどころに音楽への愛情が感じられる。いい部屋だ。


「木村さんは深井さんのこと好きなんすか?」


 安心しきっていた俺に先制パンチをぶち込んできたのは小林だった。


(唐突過ぎだろお前。俺がさっきまで気まわしてたのが水の泡やないか。ほら横の細見見てみろ、めっちゃおどおどしてるよ!!!めっちゃおどおどしながら俺とお前交互に見てるよ!!!ってか深井さん帰ってきたらお前どないするつもりやねん!!!)


「俺は好きっすよ。完全に惚れました。」


 どうやらこいつは武士のようなやつみたいだ。水面下でこそこそではなく、正面からどうどうと勝負がしたいらしい。まぁ確かにこのままダラダラ行くよりはいいだろう。


「俺も好きだ。」


「じゃぁこれからは恨みっこなしで。勝負っすから勝ったもん勝ちっすよ。」


「まぁあんまり物騒なのは好きじゃないし、お互いがお互いのことだけ考えて頑張ろうや。」


(勝ったもん勝ちってなんだよ。当たり前だろ。こいつめちゃくちゃ頭悪いんとちゃうか……。ってか俺なにかっこつけてんねん。恥ずかしいぃ!!!)


 心中穏やかでないのは細見だけのようで、俺たち二人は互いに互いの心中を暴露できてむしろすっきりしていた。


 「嫌いなやつ」ではなく「ライバル」になった。そんな気分になったのは俺だけではあるまい。




  □□□□□□□□□□□□□□□□




 深井さんが帰ってくると本格的に会議が始まった。


 議題は主に三つ。「練習できる日程」「なんのアーティストをコピーするか」「バンド名」である。


 練習日程に関しては週二回月曜日の夜と木曜日の昼に決まった。今日が月曜日なのでコピーの内容が決まったら今週の木曜日から練習することになるだろう。


 しかしここで問題発生。


 全員趣味が全然違う。


「私はマキシマムザホルモンがやりたいの!」


「セフィロト!お願いだからセフィロトやろ!」


「最近のやつはロックロックってロールはどこいったんっすか!」


(高校生にもなってこのまとまりのなさって……みなさん今まで「協調性」とかそういうの勉強してきませんでしたか?はい、してませんね!!!)


 どうやら全員興味のあるジャンルが違いすぎて妥協点が見つからないようだ。

 深井さんはメタル、あるいはミクスチャーやグランジ。

 細見はメロコア、パンク、ポップ。

 小林はロックンロール、ハードロック、ガレージ。(まぁ俺には音楽のジャンル分けなんてわからんのだが……。)


 俺は歌謡曲(もちろん会話に入れない)。

 

 そんな感じで完全に枝分かれしてしまっている。

 このままでは埒があかないので俺が司会能力を発揮しることにする。


「えぇ~っとみなさん。じゃあ幾つか案を出しましょう。一つくじ引きで決める。一つみんながやりたい曲を一曲ずつやる。バンドがよくわからない俺がみんなが出した案の中から選ぶ。どれか選んでくれ。でないと話が前に進まんわ。」


 「確かに……。」っと黙り込む一同。


(なんだか進行には難を極めそうだ。)




  □□□□□□□□□□□□□□□□




 結局やりたい曲をみんなで一曲ずつ出し合うこととなった。バンドとしてまとまりはないがそれが一番無難だろう。誰かの不満を残して進行するよりかは幾分ましだ。

 技量的には小林、深井さん、細見の順(俺は未知数)で差があるらしく、その辺だけはしっかり考慮に入れようということになった。


 リストはこうなった。

 深井さん 「レッドホットチリペッパーズでcan't stop」

細見   「セフィロトでAnother world」

小林   「ロッソで1000のタンバリン」

 俺    「ニルヴァーナでyou know your right」


 深井さんの選択した曲がこの中ではどうも一番難しいらしいがこれでも妥協してもらった。マキシマムザホルモンが一番したいらしいが俺はどうも「デスヴォイス」というやつは出せそうにない。深井さんの期待を裏切ってしまって申し訳ないができないものはできない。


 俺がニルヴァーナを推したのは深井さんに勧められたからだけでは断じてない。そう、断じてそうではない。おそらく一番難易度は低いだろうという話だったからだ。そうだ、深井さんに気に入られようとしている訳では断じてない。


 今週はとりあえずニルヴァーナをやることになり、とりあえずは曲の話は終了した。




  □□□□□□□□□□□□□□□□




 続いてバンド名についてだ。コピーバンドにも名前は必要だ。さきほどの曲決めのようなカオスな状態になるかと思ったが、さすがに学習したのだろう。みんな冷静に考えている。


 とりあえず今から一人一個ずつ自分なりのバンド名を考えてみようという話になり、各々思案し始めた。


 

 数分後。



「じゃぁまず私から発表しまーす。」


 まずは深井さんからだ。

 改めてバンド名を考えてみろといわれると非常に難しくてなかなか出てこないものなのだが、深井さんは4つも考えだしたらしい。さすがは深井さんだ。


「えーっとねぇー……一つ目はギガギルガメッシュです!」


 一同ポカンとしてしまった。


 なんというか……重い。仰々しいし何より中二病感がにじみ出まくっている。


「二つ目はグラヴィティグルーヴスでしょう~……それからぁ……。」


 さすがに深井さんに好意を持っている俺といえども二つ返事に「いいね」とは言えそうもない。小林の方にも視線を送ってみたが、どうやらやつにも賛同の意思はないらしい。


 (お前も後悔しろ~何故こんな変な子を好きになってしまったのか神に疑問を投げかけるがいい!!!あぁ~……なんか考えてて辛くなってきた~。)


 深井さんの案は全て濁点の多い中二病感たっぷりの名前ばかりだった。

 みんな口には出さないものの否定のオーラを隠しきれない。多数決になったとしてもまず彼女の案は上がらないだろう。



 続いて細見の番だ。


「えぇっとですねー……俺はセフィローズが……」


「「お前どんだけセフィロト好きやねん!!!」」


 思わず細見が全部言い切るまでにツッコんでしまった。しかも小林と一緒に……。ってか小林もはや敬語つかってねぇじゃん。


 

 そして小林の番だ。


「俺はノンナンセンスがいいと思います。」


 こいつ以外と緊張しているのか恥ずかしがっているのか、棒読みでさっきのツッコミが嘘のようだ。


 「ノンナンセンス」、つまりは「センスなくはない」っということだろうか。俺はあんまり英語はわからないが、俺は割とセンスあると思った。センスなくはないと言っているのにセンスあるというのも矛盾しているようなしていないようなという感じだが、これが第一候補だろう。


 っと思った矢先、


「ノンナンセンス~!!!おもしろい!!!」


 深井さん謎の爆笑。彼女の笑いのツボはどこにあるのだろうか。小林はかなりへこんでいる。これで深井さんにの票が「ノンナンセンス」入ることはなくなったようだな。ってか深井さん何気にひどいぞ。さっき俺ら笑わなかったじゃん……。


 

 そして最後に俺の番になった。


「俺が考えたバンド名はですねぇ~……」




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