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しましまロック  作者: kamunagi
第一章 バンド結成
8/24

小林 緑

 俺の名前は小林緑。ミドリとか読み間違えるやつはぶっ殺す。しかし一度目でロクと読める人も少ないだろう。名前の由来はロックとかけているらしい。緑色でロックなんてまた合わないチョイスをしたものだ。今日流行りのキラキラネームだかドキュンネームだかその先駆けだろうか。全くこんなダサイ名前を付けられて親は満足したのかも知れんが俺は迷惑千万だ。


 俺はそんな名前のせいかどうかわからないが所謂「バンド」と縁の深い人生を歩んできた。親がそもそもロックンロールが好きで付けた名前だ。その親がロック好きなのは当たり前で、物心ついたころから楽器を触っている。最初はギターをしていたが、心地よい重低音にあこがれてベースに転向した。それが小学校高学年の頃だ、彼これベースとは6、7年の付き合いになる。


 中学のころはその手腕を活かしてバンドを組んでいた。メンバーは全員似通った趣味をしていて、ミッシェルやブランキー、ブルーハーツやロッカーズ、二ートビ―ツに50回転ズなど男らしい音楽を聞きまくってコピー(プロのバンドを再現する行為)したもんだ。バカばっかりで全員何かしらの問題を抱えてツッパってたやつらだったが、音楽には真剣なやつばっかりで、勉強は嫌いで学校はさぼっても練習は毎日ぬかりなくやるやつらばっかりだった。


 だがまぁ結局は馬鹿ばかりの集団だったのだろう。俺たちの結束は一瞬で砕け散った。俺たちが練習に練習を重ね、初めて開催したライブの時だった。


 こんな田舎島のちっぽけな街にはもちろんライブハウスなどなく、ライブ場所に困って結局公民館を借りることととなったのだ。しかしそもそもライブハウスがないのはバンドに興味がない人間が大半を占めるからだ。客はほぼ集まらず、身内ばかりがちらほら集まるだけだった。


 10人ほどは来ただろうか。小学校からの同級生にまで声をかけるほど必死に人を集めたが、集まったのはそんなもの。俺たちはライブが始まっても悔しさや苛立ちを隠せなかった。


 「こんなに必死になったのに」、「こんなにうまくなったのに」、練習に必死に取り組んでいた分その反動は大きかった。7曲ほどの曲をコピーでやり、最後に一曲だけオリジナル曲をやった。それが終わった瞬間だった。


 ささやかな拍手の中に嘲笑のような笑いと「ダセェ」という否定的な声が聞こえた。



 その後のことはよく覚えていない。


 どうやら俺はあろうことか客を殴ってしまったらしい。

 


 「ダサい」「ダサくない」は人それぞれある感性だ。

 特に今日の音楽シーンにおいてはその解釈も様々で、演者としては気にすべきポイントではないと知っている。しかし俺はその時その瞬間俺たちの真剣さを馬鹿にしたその客がどうしても許せなかったのだ。

 

 俺たちは所謂不良だ。頭は悪いし、教員連中には目を付けられ、学校でも周りから変な目で見られるそんな連中ばかりの集まりだ。


 そんなはぐれっぱなしの人生でいろんなことを「めんどくせぇ」と捨ててきた俺たちが唯一真剣になれたものを馬鹿にされて黙っていられるはずがない。

 メンバーももちろんそんな俺に同意してくれると思っていた。



 結果的には俺が原因でバンドは解散した。


 最初は俺に賛同する人間とその他に分かれ、賛同してくれたやつとも意見がわかれ、全員で話し合いの末その結論が出された。


 音楽を辞めちまったやつもいる。俺のせいだ。


 高校に上がってますます素行が悪くなり学校をやめたやつもいる。俺のせいだ。

 

 俺があの時客を殴らなかったら、メンバー全員で悔しいなりにまたバンドをやれたかもしれない。

 そんなあいつらの未来を俺は一発の拳で台無しにしてしまった。やはり俺のせいだ。


 最近ではベースもそろそろ手放そうかと思っている。

 俺だけが未練たらしく音楽を続けるのにはそろそろ限界かもしれない。


 この煙草を吸い終わったらもう帰ろう。暇な日はこの海辺でウォークマンから流れる音楽を聞きながら耳コピ(楽譜を見ずに耳だけで音階を聞きとりおこなうコピー)をするのが習慣になっていたがそろそろ潮時かもしれない。


 丁度ミッシェルの「トカゲ」が最後のサビに入りかかった時だった。




   □□□□□□□□□□□□□□□□




「こんなとこでひとり何やってるん?」


 ここに来るようになってからだいぶ経つが、ここで人に話しかけられるのは初めてだったのでかなり驚いた。

 すぐ後ろには見たことのない俺と同じ学生服を着た男が並んで立っている。

 いや、一人は見たことがあるような気がする。少し前に引退した生徒会副会長ではないだろうか。


 俺の頭を「生徒会」という言葉が過った途端に右手に持っていたものをテトラポットに押し付ける。同時に左手でイヤホンを外した。


「なんもしてないっすけど……なんかようっすか?」


(何が生徒会や。こんな年になってまで自分から生徒会に入るやなんてただの中二病とちゃうか?生徒会にどんな妄想抱いとんねん。そりゃアニメとか小説なら学校権力の第一人者みたいに描かれてるけど実際のところ教師が余した雑務をやるだけのコマやんけ。そんなやつが何ようですか?不良君に説教でも垂れに来たか?ってかとなりのニコチャンマークみたいな顔のやつは誰やねん。この手のやつ好かんわぁ。)


 そんな俺の警戒しきった空気を察したのか、ワックスで整えているのであろう短髪をいじりながら元生徒会副会長さんはその温厚そうな犬顔を歪める。ニコチャンマークのやつはなんかニタニタ笑ってやがる。


「まぁそんなにツンケンしなや。あの夕陽が見えるか?」


 なんだかわけのわからないことを言い出すニコチャンマーク。

 「はぁ。」としか相槌の打ちようがない。


「そんな夕陽に向かって俺たちと一緒に走らないか?」


 なんでこの人は生徒会副会長に信任されたんだろうか。やっぱり中二病だ。

 次はもう相槌さへ打たない。「もう無視してさっさと帰ろうかな」っと思いヘルメットに手をかけた瞬間だった。


「青春に飢えているならバンドをやりませんか!そして共にあの夕陽の下を目指そう!高校生活という時間の許す限り!」


 二人の三枚目野郎の間から見たこともないようなベッピンさんが、アホみたいなことを言いつつ、キラキラとしたかわいらしいクリクリおめめで俺を凝視している。


 その瞬間俺を今まで覆っていた負のオーラはどこかへすっとんでいった。


(なんて可愛い人や。いや、もうこれは可愛いとかそんな範疇にない。きれい、いや、美しいという言葉しかこの人にはあてはまらんやろう。そんなレベルや。ゴッホかゲーテか知らんけどその辺の有名芸術家が作った芸術品に息を吹き込んで動き出したような、こうしてなんでもなく話しかけられるひと時ですら奇跡と思えるような、そんな風格をもった美しさ。もはや俺の持ちうる言語ではどうやら説明のしようもないくらいにベッピンさんやんけ。)


 「ハイ!!!やります!!!やらせていただきます!!!」


 さっきまで俺は音楽をやめようかどうかと悩んでいたというの我ながらなんてわかりやすいやつなんだろうか。

 今の今まで申し訳なさとか、後悔とかで一杯だった感情はどこへやら。二つ返事でバンドへの加入をOKしてしまった。


(拓、義彦、哲郎〔元バンドメンバー〕ごめんな。俺もう一回バンドやるわ。)


 旧友たちに思いを馳せながらも、あっという間に過去の罪を忘れ去ってしまう俺。


 理由は言うまでもない。この名前も知らないベッピンさんに惚れてしまったからだ。


 言うまでもない。


 こうして俺は過去との葛藤は完全に捨て去り、目の前の欲に溺れていった。

 

 俺はめちゃくちゃ単純で馬鹿なやつだ。

 

 言うまでもない。

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