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しましまロック  作者: kamunagi
第一章 バンド結成
3/24

チャンス

 放課後になってダラダラふざけ合いながらカラオケボックスに向かっているとあっという間に5時になっていた。


 俺の住んでいる地域は街灯などはほとんどなく夏とは言え夜も9時ごろになると真っ暗になってしまう。みんなの家の周辺もそんなもんだ。


「もう5時か……ほなまぁ3時間パックくらいやなぁ。」


 俺がそういうとみんなも同意した。

 正直真っ暗は夜道を一人で歩いて帰るのはかなり怖い。

 幽霊的な意味でも怖いのだが、普通に田んぼに足を突っ込んでしまったりそういった意味でで怖いのだ。


 そうして店員さんに3時間という旨を告げ、先払いだったので先に会計をしていると後ろから聞き覚えのある女の子の声が幾つか近づいてきた。


「あぁー!!木村君たちやーん!!偶然やねぇ―!!」


 といった具合にテンション高く肩を叩いてきたのはクラス委員の四夜 ヨツヤウサギさんだった。いつでもだれでも平等に接するまさに委員長の鑑である。


(しかしまた今日は偉いテンション高いなぁ……。しかも俺だけ名指しかいっ!俺はこのチームのリーダー的存在としてみられてるんやろか……。)


 テンション高い四夜さんにも驚かされたがそれよりもその隣の人物を見て俺は唖然としてしまった。


(深井さん……)


 一瞬心臓が止まるかと思った。あまりにも唐突な女神の降臨は俺にとってはあまりにも輝かし過ぎて、今まで片思いし続けてきた2年間が走馬灯のように振りかえられ、なんかもうそれで十分で、話しかけることすらままならなかった。

 一体俺はどんな顔をしていたのだろう?四夜さんと深井さんの頭の上にはてなマークが点灯したかのような錯覚に陥ったその瞬間、


「ふかいさんやーん!めずらしいなぁー!!」


 俺の妙なリアクションをかき消すが如く、細見が助け船を出してくれた。

 俺は一呼吸おいて会話に入ることができそうだ。ありがとう細見。


「め、めずらしいね。ご両親が厳しくてなかなか遊べないって聞いてたけど……」


 そう、彼女がこういった俗世のはびこる場所に遊びにくるのはかなり珍しいのだ。なんでも両親が厳しいらしく、送り迎えが車だったようにまさに箱入り娘状態にあったのだ。故に彼女に好意を持つ男子がいても遊びに誘うことすらできず、学校では他の男子の目を気にして誰も彼女と付き合うことができないのは現状なのである。まぁ噂の域はでないのだが……。

 

「そんなことないよ。今日はお母さんが仕事で忙しいから時間通りに迎えに来てもらえなくて……。実は結構カラオケ好きなんだ!」


 (深井さんの真骨頂はこのしおらしさとフランクさを兼ね備えた性格の良さにもある。っていうか俺気持ち悪いな。)


 っとかなんとか考えていると……。


「じゃあいっそ一緒の部屋にせえへん?割り勘にしたら安いし!」


 もちろん俺の親友たち三人は、


「そうですね。良かったら深井さんの歌も聞いてみたいしどうですか?」


 俺が深井さんを好きなことは知っている訳で、


「いいわねぇー!私もお金ないし!!っていうか私の歌も聞きたいでしょ中野君!!!」


 何故か四夜さんもノリノリで、


「じゃあ人数分カレー頼むわ!」


 後藤は黙ってろ。




  □□□□□□□□□□□□□□□□





 そんなこんなで総勢六人でカラオケすることになってしまった。


(えらいこっちゃで……何が俺の壊れかけのレディオを聞かしたるや!恥ずかしいて歌われへんやんけ!!)


 俺は平静を装っているがもう水を3杯も飲んでおり、ピッチャーの水を勢いよく減らしていることは見るからに明らかだ。


 親友三人は気を使ったんだろうが全くもっていい迷惑だ。計画性のない企画は失敗の温床でしかない。これは元生徒会副会長兼、元陸上競技部部長の経験による直感である。


 席の配置は明らかに悪意があるとしか思えないほどのものだった。俺のとなりに深井さん、四夜さんと並び、机を挟んで対面して細見、中野、後藤の順に座っている。


(もう勘弁してぇ……)


 俺がそんな目を向けると三人はニヤニヤしながらしてやったり顔をしてくる。完全に気を回すとかそういう類のものではなく、こいつらは俺で遊んでいるようだ。


 もうなんかいろいろやばい。そんなこんなで「心臓バクバク、冷や汗ダラダラ、何が出るかな深井さんとのカラオケ大会」は始まった。



 最初に細見がどうしてもセフィロトが歌いたいと言い出し、そこから反時計回りに順番で歌い出した。どうやら俺は最後になるようだ。一番歌う機会は少ないだろうし、少し気が落ち着く。

 みんな一曲ずつ歌っていく。なかなかどうしてみんな歌が上手い。採点機能を起動しているのでありありと分かるが、90点台のオンパレードだ。そんなものを見せつけられるとだんだん緊張してくるのだが……。


 いよいよ深井さんの番になった。


 録音機材をこれほどまでに持っておきたいと思ったことはなかった。仮に俺が重大犯罪の容疑者になって、俺を無罪放免とするようなテープがあったとして、その上からでも深井さんの歌声を録りたい。そんなことを考えていたときだった。


 まるで地鳴りのような声が聞こえてきた。おまけに鬼のような彼女の形相。女神が一瞬にして閻魔様になってしまいました。

 最初は全く理解できなかったが、どうやら彼女の歌声のようだ。

 所謂デスボイスというやつだろうか。


 ぽけっとして歌詞の出る画面を見るとそこには全く聞き取れないほどの単語が敷き詰められていた。


(なんじゃこりゃ……)


 俺はあっけに取られてしまい、その間に一瞬でこの世のものとは思えない地獄の底から聞こえてくるような音楽は過ぎ去っていった。点数さえ確認できないほどの衝撃だ。

 見ると親友たちも俺と同じような顔をしている。四夜さんだけが爆笑していた。


 曲が終わると深井さんは元の深井さんにもどっていた。「恥ずかしいなこんなところみられちゃって……」みたいなことを言っていて、


(よかったぁ~可愛い深井さんに戻ってるぅ~、まぁ深井さんは深井さんだ。可愛いに決まっている。)


 っと思い俺はこころを持ち直した。

 ついでに言えば、


「すごいねぇー!あんなの俺にはまねできないしかっこいいよ!」


 っとフォローする余裕さえできた。


 俺の選曲に変わりイントロが流れ始め、さっきの深井さんを思い浮かべながら、なんとなく新しい彼女をみたような気分になった俺は、嬉しさやなんやらでリラックスすることができ、無事徳永英明を歌い終えることができた。


 点数は68点。


 俺は一気に顔を赤くし、うつむくしかなかった。 



   □□□□□□□□□□□□□□□□



 帰り道。



 何故か俺は深井さんと二人きりになってしまった。



 思い返すといろいろと心当たりはある。


 

 カラオケ中盤から親友たち三人はケータイをいじりまくるようになった。そして中野がトイレに立ち、それからしばらくして四夜さんもトイレに立ち、中野と四夜さんがニヤニヤして帰って来ていた。


 (もしかして中野のやつ深井さん絡みで変な策を練ってやしないだろうか?四夜さんにまで俺が深井さんの事が好きだってバラして協力させたのか?)


 俺の不安は的中し、その後の展開はあっという間だった。

 

 深井さんのお母さんは何故か迎えに来ず、暗い夜道を女の子一人で歩かせるのは危ないという話になり、中野と後藤は帰る方向が違うからという理由でそのまま帰り、四夜さんはまだ一人で歌うという割とわがままな謎の理由でカラオケに残り、細見に関しては「一人で海が見てぇ……」というこれまた謎の理由で行ってしまった。


 深井さんは「じゃあ一緒に帰ろっ!」っとなんの疑問も持たず俺に送られることを受け入れるし、あまりに都合の良すぎる展開に完全に俺は舞い上がってしまった。



 俺は必死に頑張った。この上なく頑張った。あってないような話題を広げまくった。「今日は星が一杯出てるね」とか、「最近の授業はつまんないね」なんて俺のありとあらえる能力を持って話題を提供した。それはもう豆粒を宇宙の如く広げるような勢いで。


 しかし、女性とお付き合いしたことのない俺には女の子と二人きりという状況はあまりにも難儀だった。


 (もう全然やんけ俺!今後こんなことないかもしれへんのに!告白するつもりくらいの勢いでいかへんとっ!)


 俺の頭を「告白」という二文字がよぎった瞬間、深井さんと目があってしまった。その瞬間俺は言わねばならんのだと、今告白せねばならんのだと自分の中でそれがまるで法律かのような義務感にさいなまれた。


 俺は歩く速度を緩め、肩を並べて歩いていたはずの深井さんの後ろにごくごく自然に回り込み、消え失せそうなほどの小さな声で深井さんの名前を呼んだ。

 

 深井さんは俺の行動を変に思ったのだろうか、俺より二、三歩前に出たところでその美しく長い髪を風になびかせながら振り返り、首をかしげる。


 (いよいよ言うぞ!俺にこんなチャンスは二度とありゃせん!告白するんじゃボケェ!!!)


 っとか考えているうちにも時間は流れる。

 深井さんの頭の上にはたくさんのはてなマークが浮かんでいるようだ。


 こういうとき俺は変に格好付けたセリフを言いたくなる。


(ストレートに『好きです』ってのもかっこえぇけどやっぱ『俺についてこい』とかそんなんの方がえぇんやろうか?それとも『毎朝俺に味噌汁を作ってくれ』とかか?それはプロポーズやろがい!しかも味噌汁てっ!!家は朝はパン食です!!!)


 変に熟慮してしまっていた俺に深井さんの方から話しかけてきた。


「そういえば……その……実は私木村君に言いたいことがあるの……。」

  

(お~っと?なんかよぅわからんけどおかしな展開になってきたぞぉ~)


 何故か深井さんはその白く透き通った頬を赤く染めている。全くもって謎の展開だ。今この時は俺が頬を赤らめる場面だ。それが何故か深井さんが俺が至るはずの状態になっている。俺みたいになっているということは俺と同じような考えに至っているのではないか?

 

 (ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って!!!普通同じ考えやったら空気読んで俺の告白待ってくれてもよくない?俺にカッコつけさせてぇよ!!男に華もたせてぇよ!!さっきまでペラペラしょうもない事ばっか言いよった俺の口動けぇー!!)


 悶絶している俺に深井さんの言葉が閃光の如く走った。



「私とバンド組まない?」




 俺の頭の中でフル回転していた思考は急ブレーキをかけ、スピンしながら彼方へ吹っ飛んでいった。 

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