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しましまロック  作者: kamunagi
第二章 バンド活動
19/24

偽物と似せ物

ちょっと短くなってしまいましたが……。


GWは何かと忙しくて更新も遅れてます。


まぁ今日からしばらくは暇になりそうなので頑張ります。

「なんかやっぱイメージと違うんだよねぇ……。もっとこう『Kyo』の声はクリーンな感じっていうか……。」


 いつもニコニコ笑顔が張り付いている細見の顔が今日は終始曇りっぱなしである。不満を隠しきれないようだ。


「ものまねじゃないんっすから俺はこれでえぇと思いますけど。」


 小林がめずらしく俺のフォローをする。バンドの問題だからだろうか。俺という個人に関する意見というより、音楽に対する一個人としての見解といった感じだ。


 今日からは新しい曲の練習が始まった。細見の推していたメロディックパンクバンド、セフィロトの曲である。細見としては俺の歌が気にくわないらしく、一旦演奏を中止、現在はそれについて会議中というわけである。


 あいつにとってはバンドを始めることになったきっかけになったようなバンドだ。コピーに対して他の曲とは異なるモチベーションがあるのだろう。だからこそ自分の中のイメージに妥協できないらしい。


 それ自体に関しては問題ない。むしろお互いが文句を言いあえる環境というのはバンドにとって理想的である。言いたいことがあるのに溜めこむようなメンバーではお互いにストレスがたまって仕方がない。


 しかし問題があるのは指摘のポイントである。

 細見は俺の声がセフィロトのボーカルである「Kyo」と似ていないという点に文句があるらしく、自然な俺自身の声を基本ベースとして抑揚や表現だけをコピーする方法ではなく、もっと声自体から似せていくべきだとしているのである。


「俺はKyoさんやないんやからモノマネみたいなことはしたくない。あくまでコピーは『真似』るんじゃなくて『カバー』やねんから俺たちなりのオリジナリティは出すべきやろう。」


「楽器隊は音色とか本物に近い物にするんやから声だってちゃんとクリーンにすべきやろ。いくら『カバー』くらいの気持ちでやるにしても、ミッシェルがスピッツコピーするみたいなバンドは誰も見たくないやろ。」


 俺たちはお互いにイライラし始めているのを感じ始めていた。細見はイライラしていると眉毛がヒクヒクと上下する。幼いころからの付き合いからだからこそわかる反応だ。


 各言う俺も苛立ちを隠しきれない。自分でも眉間にしわが寄っているのをどうしようも緩められない。

 根本の見解が異なっているために折り合いが付かないのは目に見えているのだが、ここまでお互いに言い放ってしまったがために、いい落とし所を見つけないとお互いにもやもやしたままになりそうだ。


「私としては確かにクリーンな声の方がいいと思うんだよねぇ……。その……声質を少し変えるのも表現の一つって考えていいんじゃないかなぁ?」


(深井さんが向こうサイドに行っちゃったー……マジかぁ……深井さん……意見ちょっと変えてぇ……っていやいやバンドのことだから!!簡単には折れないから!!)


 これで完全に2対2だ。これじゃぁさらに落とし所が付けにくい。


 争点になっているのは俺が声を「真似る」べきなのか、あくまで俺の声を押し通し「似せる」べきなのかという点である。似ているようで大きく違う問題だ。


 俺はその「真似る」という行為が俺自身を否定されている気がしてかなりプライドが気づ付く。


 カラオケで「似てる」と褒められても嬉しくないが、「うまいね」と言われるのはやはり嬉しい。そこには俺自身を褒められたことに悦があると思うからだ。「似てるね」というのはあくまでおおもととなるアーティストを褒めているのであって、そこに俺自身はない。


 議論が出尽くしてしまい妙な空気が流れる。沈黙と静寂。理解してもらうことのできない沸々とした苛立ちがその場を埋め尽くしていた。



   □□□□□□□□□□□□□□□□



 別に喧嘩したわけではないのだが、重い空気のまま練習は終了。


 悶々としたまま帰宅した。


(そんなに似てるとか似てないとか重要なんか?幼馴染とはいえそういう変なこだわりようわからんやつやわぁ……でも深井さんもかぁ……深井さんも細見派なんかぁ……へこむわぁ……あぁ!!もう知るか!!)


 考え出すと余計にイライラしてくる、思い出すと腹が立ってくる。

 俺は正直もうどうしようとかそんなことを考える段階を越え、放棄してしまっていた。


 そこな少々自棄になりかけたころ、突然俺のケータイがメールが来たことを告げる。


 かなり荒々しくケータイを開き、流すようにメールを読んだ。

 驚かざるを得ないその内容にもう一度じっくりと読み直す。

 

 俺はケータイを放り投げ、ベッドに突っ伏した。


(なんでそうなんねん。そんなんやったら一歩も前に進まれへんやんけ……。)


 "今日はなんかすまんかった。僕はちょっと我がままやったかも知れん。でもまぁもうすこし時間持って考えたいから次の練習はROSSOの曲やらへんか?以上です。"


 これがメールの内容だった。全員に一斉送信されている。


 俺は怒りにも似た感情を持て余し疲れてしまったのだろうか、日課のギターも触ることなく、気づけばまどろんでしまっていた。



   □□□□□□□□□□□□□□□□



 何故あのようなことにこだわってしまったのだろうか。


 僕には自分で自分のことがいまいち理解できない。


 木村の歌は完璧といって相違なかった。


 ピッチもあっていた。一つ一つのコブシ、ひねりもかなりクオリティの高いものだった。おそらく10人に9人が拍手と称賛を持って賛辞するだろう。


 しかし僕は納得できなかった。もしかしたら僻みかもしれない。だが結局のところは彼を素直に称賛できない10人中の1人だったのだ。


 自分のギターはまだまだだ。おそらく技量に点数を付けることができたならバンドの中で一番しただろう。


 尊敬するセフィロトをコピーするということで自分への採点はなおのこと厳しい物となった。


 おそらく僕はセフィロトになりたいのだ。セフィロトへの意識は尊敬や目標を越えて、崇拝とすら言える。彼らとはバンドマンとしての頂点へのアプローチの仕方がかなり違うのだ。


 自分でもその感情、方法は異常だと分かっている。

 だが、妥協できない。僕はその気持ちを持て余し、彼らにろくな意見もできず黙ってしまったのであった。


 帰宅した僕には冷静に判断できるが、らしくないことに当初の僕はアツくなってしまっていたらしい。大人げないというか情けない話だ。


 バンドの雰囲気を悪くした責任に自己嫌悪に陥っていると気づけばメンバーにメールを送っていた。


 我ながらなんと我儘なないようだろう。


 それでますます自己嫌悪に陥る。


 自分の伝えたい気持ちとそれを言語化できない無能さに板ばさみにされ、僕は苦悩することしかできなかった。

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