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しましまロック  作者: kamunagi
第二章 バンド活動
15/24

地道が近道

 ライブが終わっても熱の冷めない子どものような大人たちがはしゃぎ回る地下空間から地上へ上ると、すっかり夜も更けていた。


 時刻は10時になろうかというところ、神戸の街は田舎町の淡路島とは違い怪しいネオンの光に包まれていた。

 

 地下から上がっても上がらなくても、その騒がしさは変わらない。

 人々の声が車や電車の走行音に取って代わっただけだ。夜の静けさなどは微塵も感じられない。


 俺はそんな中、一人さっきのステージを静かに思い返していた。


「いやぁすごかったですねぇ~さすがOUT CASTですわ!!まぁぶっちゃけ前で騒ぎ過ぎて技術云々見てなかったっすけど。」


「私もだよぉ!!今度の文化祭で活かそうとか思ってたのにさぁ。」


 そう、皆はライブを「見る」のではなく「楽しむ」を行っていたのだ。

 そこに技術はほとんど関係なく、音楽を「芸術」ではなく「エンターテイメント」としてとらえる演者の姿があったのだ。そしてそれを客も享受し、ライブハウス全体が「エンターテイメント」として確立された存在となっていた。


 だがおそらく、俺だけがその枠から外れていた。


 枠から外れている俺を心配してか、途中話しかけてくれるような親切な人もいたが、俺はそんな人の好意も受け入れること無く、じっくりと演者の立ち振る舞いを、客の表情を、そして技術とその見せ方を、俺は後ろの方から「芸術」として観察していた。


 それは言葉で語るどんな教えよりも俺を成長させてくれたのではないかと思う。


 ライブは「芸術」と「エンターテイメント」の両方を兼ね備えている。


 その奥の深さと、今後自分がそれに向かうにあたってどうしていくのかを、皆の会話を上の空で聞き流しながら頭の中いっぱいに巡らせていた。




   □□□□□□□□□□□□□□□□□



 翌日からの俺はそれまでの深井さんだけに目がいっていた俺とは一味違っていた。


 夏休みの宿題なんて知ったこっちゃない。


 俺は「現在」を生きていたい。


 将来のことなんて今は微塵も考えていられない。


 今までやらされるだけだったバンドが、昨日のライブが俺を能動的行動へと背中を押してくれた。


 大きく変化したことは3つほどある。



 一つは歌の練習をするようになった。


 今までの俺はどこか「歌詞を覚えておけばいいだろう」みたいな、どこかボーカルというものを楽器より簡単で体のいいポジションのパートだと思っていたが、そうではない。


 ボーカルはバンドの華だ。俺のボーカル一つでRIZのイメージが変わると言っても過言ではない。


 そんな重要なポジションにどうでもいいような気持ちで参入することは今の俺は許すことはできなかった。


 何度も何度も音源を聞く。歌い方の表現一つ、呼吸のタイミング一つまで細かく細かく何度も何度も確認する。


 今はインターネットさんという偉大な発明がある。


 こんなちっぽけな淡路島にいてもあらゆる情報を取り入れることができる。


 そこでボイストレーニングについてや、リズム感の養い方など調べまくり、自分に合うものはすぐに取り入れ、腹式呼吸などを必死に練習した。


 

 二つ目はギターの練習を始めたことだ。


 元々はまぁゆるゆるとのんびり趣味程度にやるつもりだったが、少しでも多く音楽に触れていたい、音楽に携わりたいと思い、今回文化祭で披露することなどないとは思うが練習することにした。


 そもそもRIZが文化祭で解散なんてことにはならないはずだ。

 もし文化祭の次があるならば、俺は是非ともギターを手にして歌いたい。


 インターネットには動画で基礎的な練習を講義してくれるような動画がうじゃうじゃ転がっている。


 徹底的にあらって、指を広げ、動かせるようになる練習をした。


 同時にコードも積極的に覚えていく。これは細見に貰ったコード表に全てと言っていいほど載っていた。


 

 三つ目は音楽を今までの比ではないほどに聞くようになった。


 1960年代の古い物から最近の物まで、ハードな物からポップな物までありとあらゆる音楽を聴くようにした。


 正直好みはあるし、全ての曲に魅力を感じるわけではない。

 しかし、プロとしてCDを出している以上はそこにプロならではの認められるポイントが散りばめられているはずだ。

 そこから少しでもヒントを得たい。技術的に真似できないことは多くても意識的に真似できることならすぐに実践できる。


 インターネットさんはホントに便利だ。


 今まで寝る前に本を読んでいた約2時間をぶっ通しで音を聞き続ける時間に代替した。



 俺の生活は一気に音楽一色に染められた。


 突然の息子の変貌に愛子はずいぶんと驚いていたようだった。

 しかし元々放任主義気味の母親であり、また同時に俺のことを理解しつくしている母親だ。

 俺が一つのことに熱心になったら止まらないたちだと知っている。

 彼女は俺の熱心な趣味については何も言及しなかった。


 受験勉強なんてしろといったところで無駄だと諦めているのだろうか。


 いや、むしろ今まで完全に空気の抜けた生活を送っていた俺に活力が加わったことを喜んでいるような感じさえあった。


 一変した俺の生活は充実しているとしかいいようがない。外に出て太陽の光を浴びることはほとんどなく、島民としてはあるまじき実に不健康極まりない行動だが、俺の心は音楽という栄養を得て、今までの何倍も何十倍もその花を開かせようと熱を滾らせているのがわかる。


 ここまで自分変貌するとは夢にも思っていなかった。

 今度稔さんや仁さんにあったらお礼を言うべきかもしれない。


 俺の中でゆっくりと時を刻んでいた秒針が、急加速してその残像さへ見えなくなっていくようだった。

なんだかエラくシビアになってしまいました。


ジャンルの「コメディ」部分を完全に無視してしまいました。


今日は結構重要なシーンだったので許してください。


次からはちょっとギャグ入れていけるようにがんばります。

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