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しましまロック  作者: kamunagi
第二章 バンド活動
14/24

 時刻は6時30分を指そうかというところ。


 地下へと向かう階段の前には20人ほどの人が列を成していた。


 その中には俺たち5人も含まれる。


 ついにライブ会場へやって来たのだ。


 俺は入場前のドキドキわくわく感と共に、「お客さんの数ってこんなもんなの?」っと若干冷めた感覚を持ち合わせつつ、その列の最後尾に並んでいた。


 今日出るバンドは5つほどあるらしい。俺はライブというやつは所謂「ワンマン」が当たり前なのだと思っていたが、イベントの際は基本的に幾つかのバンドと共に「対バン」するのが一般的らしい。ワンマンライブをするには思った以上に実力が必要なようだ。


 稔さんたちのバンドは5バンド目、つまりはトリだ。そう考えるとかなりうまいのではないのだろうか。さらに言えば知名度も高いのではないかと思われる。


 あれこれと思考の止まらない俺だったが、時間が戸惑う俺を待ってくれるはずもなく、徐々に列が動き始めるのであった。 



   □□□□□□□□□□□□□□□□



 地下への階段を降りて行ったさき、ライブハウス初体験の俺には目新しいものばかりの世界が広がっていた。


 横15メートル、縦10メートルくらいの横長のライブ会場、別室にオシャレなバーと休憩用の椅子やテーブル、ほとんどの壁に黒い塗装がされていて、落ち着かない雰囲気のダークな空間がそこにはあった。


(なんかアメリカのスラム街みてぇ……。)


 お客さんのん中には見たこともない髪の色をした女の人や、これでもかってくらいにピアスを付けている男の人もいる。正直こんな方々は淡路島ではめったにお会いしない人ばっかりだ。

 耐性のない俺は正直言ってビビっていた。


「あれ?武君じゃない?おひさしぶりだね!!」


 俺が完全にビビっていたピアスの人に深井さんが話しかけに行った。


(マジッすか!?あれ深井さんのお友達っすか!?マジッすか!?)


 精一杯動揺を隠しながら、皆で深井さんへとついていった。


「あぁ!お久しぶりっす!今日はなんか珍しく多人数っすね!」


「そうなの!私バンド組んだんだ!そのメンバーとお母さん!は知ってるよね。」


「武君久しぶり。元気そうで何よりだわぁ。」


(お母さんまで知り合いなんすか!?小林に次ぐライバル登場ですか!?深井さんが可愛いだけに覚悟はしとったけど……いや!俺はバンドメンバーや!!全然アドバンテージ!!)


 とりあえずおどおどしながらも紹介されたので皆で軽く会釈する。


「俺山口 ヤマグチタケシっす!!OUT CASTのファンで対バンさせてもらったりとか、こうやってライブ見に来たりとかちょくちょくやってるんっす。フリーターで25歳でダメダメ野郎っすけど今後とも是非によろしく!!」


 そういって晴れ晴れと自らを毒づきながら笑った彼は、しゃべり方こそチャラい感じはするが、年下の俺たちにも敬語を使ってくれるし、実に謙虚で見た目ほど派手な人ではなさそうだ。っというかむしろいい人そうだ。


 見た目で人間を判断することはよくないことだと分かってはいる。しかし人間見た目が9割なんていう人もいる。きっとほとんどの人が見た目で無意識のうちに見た目で人を判断する癖のようなものを身につけているのだろう。


 俺もこの人をさっき見た目で判断した。生徒会根性が、優等生気質が身についてしまっているのかもしれない。だが話してみるとなんてフレンドリーな人なんだろう。よくよく考えれば小林だって体裁は不良だが、話してみれば武士みたいな格好いいやつだ。

 

 今後バンドをやっていく中で、格好のはじけた人はきっといっぱい見ることになるのだろう。だけど今日みたいなことはもうないはずだと自然とそう思えた。


 そんなこんな少し自分に反省したりしていると人の群れが休憩所から会場へ徐々に流れていき始めていた。



   □□□□□□□□□□□□□□□□



 とうとうライブが始まった。


 1バンド持ち時間が40分。間のトークも合わせておそらく5曲か6曲くらいだろう。

 俺はかなり短いように感じたが、結構一般的な数字らしい。


 よくよく考えれば俺たちだってたったの4曲でライブをしようと言っているのだ。全然短くはない。おそらく俺の頭にあるのはプロの人達がワンマンで2時間近くやるライブだからだろう。それだけプロというのはすごいのだろう。しかしイマイチそのすごさ具体さ加減がわからないが……。


 1バンド目は俺たちと同じ高校生らしい。


 あたりは正直ガラガラだ。「ライブって結構シビアなんだな」なんて考えていると辺りのライトが消えて暗くなる。


 今までかかっていたのとは全く別の、大きく響く音でSE(入場曲みたいなもの)が流れ出した。


 

 

 正直言って高校生たちのライブはかなり拙いものだった。


 素人以下の俺でもその拙さがわかるほどのもだ。


 目の肥えた客たちにはさぞかし退屈なものだったのだろう。


 俺のイメージしていた縦乗りバリバリなお客さんは全くと言っていいほどいなかった。


 身内の人だろうか、ところどころで手拍子をしたり、トークの時に助け船を出したりしていたが、ライブというよりは発表会に近いようなそんなライブだった。


「リズム隊がもうちょっとしっかりしてくるとだいぶごまかしが効くんやけどねぇ。」


「そうっすか?まぁわからんでもないっすけど普通に下手でしたけど。」


 一旦休憩室に戻った一行。椅子に座るなり細見と小林が結構辛口なコメントをしている。


 (こえぇぇぇえええ!!!俺だったら裏でこんなコメントされてたら泣くわぁ!!ライブ怖いライブ怖いライブ怖いライブ怖い!!)


 深井さんも苦笑いしか返せない様子だった。


「まぁ高校生のオリジナルであそこまでやれたら上等やないかなぁ。」


 珠子さんが助け舟を出すが細見や小林はあまり納得していない様子だった。


「すいません!!さっき出てたものですが今からアンケート配りますのでよかったら次の開始までによろしくお願いします!!」


 さっきの高校生たちが四人並んでいる。ライブってこんなこともやるんだと実に感心した。


 俺の中でのライブは破天荒な人が「俺の歌を聞けぇぇぇえええ!!」と言わんばかりに唯我独尊に行うものばかりだと思っていたが、アンケートなんてまじめなことまでやるなんてなんだかライブの裏を見たような気分だった。



   □□□□□□□□□□□□□□□□



 その後もバンドは続く。正直俺は退屈な気分だった。


 やはり知らないバンドの曲をいきなり聞いてもなかなか乗れるものではない。


 おまけに客もどことなく冷めきった目で見ている。


 本当にこの人たちは金を払ってまでライブを見に来ている意味があるんだろうか。


 深井さんたちも割とじっくりまじめに見ているという印象だ。


 俺は自分の中で思い描いていたライブと現実に行われているライブに摩擦を感じられずにはいられなかった。


 しらけている自分をよそにどんどんライブは進み、いよいよOUT CASTの番になった。


 先ほどまでと同様に辺りが暗くなる。


(なんか疲れてきたぁ~立ちっぱで足きついしもうちょっと帰りてぇ……。)


 そんなことを考えながらSEを聞いていた瞬間だった。


 今までとは全く違う熱のある声がそこら一体に広がった。


 センターにギタボの稔さんが現れたからだ。


(ぎょえぇぇぇえええ!!!完全にリーゼントじゃないっすか!?深井さんと似てなさすぎでしょお父さん!!!いや、さっき見た目で人を判断しないと決めたはず!!クールダウンクールダウン……。)


 それにしてもにしてもこの客の突然の上がり方はなんなのだろう。みんなOUT CASTを見に来たのだろうか。あたりを見直してみるとお客さんが最初よりかなり増えていることに気がついた。


 それからメンバーが入場してくるたびに歓声が起こる。深井さんや珠子さんもそろって黄色い声を上げていた。


(マジか!?みんな表裏ハッキリしすぎだろ!!さっきまでの人ら完全に前座やんけ!!マジライブ怖いライブ怖いライブ怖い!!!)


 メンバーが出終わるとすぐに演奏が始まった。


 イントロが始まった瞬間、客が奇声にもにた声を上げる。


 曲中も全員で飛び跳ね、全員で最前の奪い合いとなった。


 皆もその猛者たちが戦う最前線に突入していったが、俺はそんな人たちに一歩引いてしまい、少し後ろの方から演奏を眺める。



 正直OUT CASTはかなり上手かった。


 ジャンルはよくわからないがパンクロックというやつだと思う。

 

 技術的なことは全然わからないが、「キメ」というんだろうか、演奏が止まる時はキッチリと止まって実に締まって聞こえる。バンドで息が合っているという証拠だろう。

 またサビ部分が実にキャッチーで覚えやすく、曲の二番には俺でも誰でも一緒に歌えるんじゃないかというくらい分かりやすい曲だった。

 しかし声も渋くて誰にも真似できないような個性あるしゃがれた声で味があり、パフォーマンスも打ち合わせしていたように皆足並みがそろっていた。


 トークも手慣れたものだった。


「おーい!皆乗ってるか!?さっき控室でモニターから様子見とったけどどんだけ湿気た面してんねん!!他のバンドでも乗ったらな!!せっかく来てるんやから勿体ないやろ!?まぁ俺ら見に来たんやったらしゃぁないかも知れんけどなぁ!!!」


 っとまぁ今までの緊張しきった今までのバンドのトークとは異なり、実にフランクでキャラクターのあるトークだった。あおられて客も「イエ―イ!!」とか「フー!!」叫びまくっている。

 かなり俺の思い描いていたライブのイメージにかなり近かった。


 あと仁さんはめちゃくちゃイケメンだ。

 深井さんと目鼻立ちが似ていて、色白だが、肉付きや骨格は実に男らしく、肩に届かないくらいの少し長い髪は深井さんと一緒で綺麗な漆黒をしていて、ギターが実に絵になる。


 仁さんの前では女の子が黄色い声を終始高らかに上げていた。



 俺は完全に圧倒されていた。バンドってこんなにも上手い下手が顕著に出るものなのかと。


 そして圧倒されると同時に俺の中でくすぶっていたものがはじけた気がした。



「俺の目指すもんはこれや。」



 誰にも聞こえないような声で俺は一人つぶやいていた。

 

 上手い下手が顕著に出る。客もそれに敏感で、反応も演者による。正直思ってたより全然厳しい世界じゃないか。


 だがこんな逆境を目の前に俺はなんだか嬉しいような、いや、高揚していると言った方が正しいだろう。


(やってやろうじゃねぇか!!文化祭での俺たちのライブはこんなもん軽く超えるレベルでやってやる!!ライブ怖いとか思っとったけど、おもしれぇやん。こんな盛り上がるライブの中心に俺がおったら、絶対楽しいに決まってるやん。)


 俺は決意することができた。


 今までなんだかんだ深井さんが好きだからという軟弱な理由でここまでなあなあに流されるがままやって来ていたが、俺に明確な目標ができたことで大きくそのスタンスは変わった。


 これまでにもいろんなことに挑戦し続けてきた。勉強、スポーツ、生徒会。


 だがそのどれにも似つかない感覚、快感がそこにはあるのだと、このライブを見て確信できた。


 そんな秘かな思いを抱いた夜だった。

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