表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しましまロック  作者: kamunagi
第二章 バンド活動
13/24

telecastic dinner show

 何か調整していたのだろうか。

 店員さんはぞろぞろと後ろに連なる五人衆には全く気付きもせずに、ギターを触り終わるとそそくさとどこかへ行ってしまった。


 なんとなく皆知られてはいけない気分になったらしく、店員さんが行ってしまったのを確認してから展示されたギターをゆっくりと囲む。


 「あぁ~なるほど!!いいねぇ!!丁度よさそう!!」


 珠子さんが一番に声を上げる。


 「値段もえぇ感じやし、今後ギタボすることを考えてもえぇ具合やろ。」


 細見が続く。深井さんも小林も「うんうん。」と何度も首を縦に振っている。


 俺がピーンと運命の愛を感じたギター、それは「テレキャスタ―」と呼ばれる形状をしたギターであった。


 最も一般的な形状であるストラトキャスタ―の少し変形した型で、四角い形をしている。バッキング(ギター2本の演奏の場合目立つギターの裏で弾くギター)にもリードギターにも幅広く対応し、少しクランチ(枯れた音)気味の味のある音が持ち味のギターだ。


 難点としてはノイズを拾いやすかったりするが、比較的扱いやすい部類のギターといえるらしい。



 メーカーさんは「富士弦」という国産のギターメーカーで細見曰くかなり信用度の高いメーカーさんらしい。(俺には信用度の測り方が全く分からないが……。)


 色は淵が黒、内側にいけばいくほどグラデーションが薄くなり、木目が綺麗に出ているタイプのカラーだ。


 なんだか見れば見るほどに自分がそのギターに魅了されていくのに気付いた。

 気づけば周りの話などそっちのけで「君どっから来たんよ~」などと話しかけてしまっており、完全に笑いの的となってしまった。

 

 (深井さんの高感度ダウンだろうなぁ……笑ってるけど馬鹿にした笑いだもんなぁ……。)


 よっぽど情けない顔をして深井さんを見つめていたのだろう。小林が俺の顔を見て「ざまぁみろ」と言わんばかりの勢いで笑っていた。


 しかしあまりにもツボり過ぎてしまったようで、最後には笑っているのは一人だけになって逆に恥ずかしい思いをしたようだった。しかも周りの目は実に冷ややかだ。物事はほどほどが肝心なようである。ざまぁみろ。


 

 

   □□□□□□□□□□□□□□□□



 なんだかんだ思ったより早く決まりそうな感じだったが、ここで問題が発生した。


 お値段なんと8万2千円。


 みんながみんな「こんなもんだよ」っと口にはするが、俺は生まれてむこう18年これほどまでに高い買い物をしたことはない。

 正直相当に抵抗のある値段だった。お金はないわけではないから買えない訳ではないのだが……。


(うわぁ……こいつめっちゃほしい……そんな目で見んなって、今すぐにでも買いたくなるやん……でもなぁ……さすがに8万は高いよなぁ……あれ?でもよう見たらこいつ元々10万円の商品やん。型落ちでこの値段かぁ……もしかしてこれって買い時?でもなぁ……)


 悩みまくって実に女々しい態度の俺の背中を深井さんが押した。


「やっぱピーンと来たんなら買わなきゃ!!もしかしたらその子今日でいなくなっちゃうかもしれないよ。今度来た時には誰かに買われてるかも知れないよ!!」


(うおおおぉぉぉぉ!!美紗子おおおぉぉぉ!!(勝手に名前を付けました)俺はやっぱりお前がほしいぜ!!だが許してくれ……俺には紫さんという本命がいるんだ……。それでもいいかい?)


 「いいよ」っていう優しい女性の声が聞こえた気がした。俺は意を決して店員さんのもとへ。

 周りは「おっ?決まったか?」といった具合に先ほどと同様に俺の後ろへゾロゾロとくっついてくる。なんかハマってしまったのだろうか。


 俺は店員さんを勢いよく呼びとめた。


 「あの!!美紗子を試奏させてください!!!」


 そして勢い余って恥ずかしいことを言ってしまった。


 俺はあの時のみんなと店員さんの顔を一生忘れないだろう。


 


    □□□□□□□□□□□□□□□□




 お詫びして訂正して言い訳してなんやかんやでテレキャス美紗子を試奏させてもらえることになった。


 店員さんが美紗子をチューニングしてくれている間に「あれ?」っと一つ思いつくことがあった。


(試奏って何するんでしょうか?)


 俺は言ってしまえば一昨日ギターを触ったばっかりの素人と名乗ることさえ憚られるペーペー中のペーペーだ。そんな人間が試奏して一体何を見ようと言うのだろう。


 しかもこんな店内でだ。俺が下手なことはもちろん自覚しているし、今さら思案したところでしょうがないが、あまりにも公開処刑過ぎる。


 とっさに俺は深井さんに試奏では何すればいいか聞いてみた。


「わっかんない!」


(ですよねぇ~~!!深井さんドラムだもんねぇ~~!!ギターもお下がりだしね~~!!でもなんか可愛いからいいです!!美紗子に浮気してごめんなぁ~~!!!やっぱり俺は深井さんが好きだよ~~~!!!)


 っと訳のわからん妄想が終わるころには店員さんがチューニングを終えて美紗子を持って来ていた。


 アンプに繋がれた美紗子を渡される。


「じゃぁいいですよ~。」っと店員さんが言ったので店員さんはどこかに行くのかと思っていたが、じっと俺の方を見ている。


(えぇっ!?!?あなたいるの!?!?やめてよ恥ずかしいよ!!俺はペーペーなんだからどっかに行ってくれ!!こっそり弾くから!!コードAとEの二個しか覚えてないから!!ってかみんなもジッと見ないで!!勘弁してくださいよマジで……。)


 渋々俺は美紗子に手を掛ける。


 俺の右手の振りと同時に美紗子がAコードの音色を奏でた。その音は「ジャーン」と辺りに響き渡る。

 

 俺の恥ずかしさはますますヒートアップしていた。

 細見と小林は何やら、「テレキャスの音って……。」「……でもやっぱ……っすよね。」みたいな具合に会話をしているが全く耳に入らない。

 

 続いて俺は残りのEコードを響かせる。まだぎこちない左手は不格好で、そんな姿を深井親子がじっくりと、店員さんまでもじっくりと見ているということを意識すると俺は恥ずかしさで死んでしまいそうなくらいに追い詰められていた。


(さぁもうなんもなくなったぞ!!俺の知識は早くもそこを付きました。まぁえぇはもう恥ずかしいのはもぅなれたわい!!ついでにもっぺんAかましたるわ!!!)


 もう一度Aのコードを弾く俺。その時、奥の通路に別のお客さんが見えた。


「すいません。これ……買います……。」


 もう恥ずかしさに耐えられない。俺の顔の赤さはピークに達していた。

 こうして俺は無事(?)初めてのギターを買うこととなった。


 何だかよくは分からないが珠子さんが「お祝いだから……」とご飯をおごってくれるらしい。


 (俺がギター買った記念だろうか。深井さんとよく似てるよな……そういうとこ……。)


 そんなことを考えながら夜のライブに向けて少し早目の夕食に向かう俺だった。

「美紗子」は安田美紗子さんを由来にまんまいただいています。


何故かというとアーティストさんで安田美紗子さんが好きな人が多いように感じたからです。


具体的に言うと小林太郎さんとかモーモールルギャバンのゲイリー・ビッチェさんとかですね。


安田美紗子さん宛ての曲まで作ってます。


おもしろい人達ですよね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ